オレンジ
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俺には、お前の前髪が少し短くなったとか気がつけるような繊細さなんて持ち合わせていねぇし、そんなことはどうでもいい。
そんなことよりも、
目の前に沈む夕陽がすごく綺麗で、それを眺めるお前の顔がキラキラ眩しいことばかりが気になってしかたがなかった。
ああ、時が止まれ、なんて、本当に祈る日が来るとは思わなかった。
「卒業しちゃったなー早かったね、三年間」
「…あぁ、そうだな」
相変わらず雨の日には調子が悪くなる単車を押しながらいつもの帰り道を歩く。
朝から降っていた雨は夕方になってやっとあがり、さあ単車で帰ろうとした矢先、プスンという慎ましい音を最後にエンジンは目を覚まさず、というわけだ。
それでもらいむは「まあいいじゃん、これも思い出ってことでさ」って言いながら、雨は上がったというのに傘をさしながら楽しそうに歩く。買ったばかりだというお気に入りの傘はビニール地の所々に動物や花や植物がプリントされていて、光が当たると地面にそれらの影が映る。
朝は別々に登校していたから、その傘を知らなかった俺にわざわざ見せてくれてるらしい。
相変わらず世話がやけるというか構ってほしがりというか、昔からコイツとルカには手を焼いている、なんて思っていたのだが、
「明日で最後なんだからさ、素直になれば、お兄ちゃん」
昨日の夜の話だ、
WestBeachでいつものようにホットケーキをつつきながら、こともなげにルカは言う。
「あ??」
「んな怖い顔すんなって」
「うるせぇ、生まれてからずっとこの顔だ」
ホットケーキを食べるのにとっくに飽きた俺は、コーヒーを飲みながら続きを促した。
「で、なんだよ」
「ん?」
「素直にって、」
「あ〜〜」
自分が始めた話題にすぐに興味が無くなるのはコイツの悪いところで、察しの悪い俺はいつもワンテンポ遅れて事の重大さなんかに気がつく。
今日もまた会話1つで振り回されるんだから兄弟ってのも面倒なものだ。
「らいむちゃんに好きって言いなよ」
「なっっ」
なんで知ってんだよ!とか、なんでお前にそんなこと言われなきゃならないんだ!とかって言葉よりさきに、
飲んでいたコーヒーが宙を舞ったもんだから、熱いしバカルカは爆笑するしでもういっぱいいっぱいもいいところだ。
「おまっ、何言ってーー」
「あれ?違った??なら俺が言っちゃおうかなー」
いたずらが成功したように笑いながらジッと見つめられたらお手上げだ。
「ったく、余計なお世話だっつーの」
「ふふ、頑張れお兄ちゃん」
「うるせぇ、黙って食ってろ」
お兄ちゃん、なんてカケラも思われてない事はわかっている。血も繋がってないんだから兄弟だっていう方が無理があるのかもしれない。
俺はコイツみたいに嘘なんてつけねぇし頭も悪いからなんでも筒抜けなんだろう。
ガキの頃から俺のそばにはずっとコイツがいた、だから俺の考えてることなんて丸見えなんだろうなって。そう考えたら隠そうとしてたこと、隠し通せると思ってたこと自体が馬鹿馬鹿しい。
「…お兄ちゃん頑張るわ」
「え、何それ、キモ」
「うるせぇ」
いつも3人で歩いた帰り道を、今日は2人きりで歩く。
「女の子たちが卒業祝いで奢ってくれるっていうから、今日は2人で帰ってね」なんてみえみえの嘘のメールをらいむは鵜呑みにして「ルカちゃんさすがモテるねー!」と笑いながら「ほら、コウ、帰ろ」って、なんでもない顔で手招きをしてくる。
そういう顔を、当たり前のように見られる距離まできたんだ。
それだけで十分だと思ってた。
ガキの頃みたいにまた3人で遊んでバカやって笑ってって過ごせれば、それだけで悪くねぇ高校生活だと思ってたんだ。
でも、もっと欲しいと思うようになってしまった。
本当は気がついてたんだ、
前髪が少し短くなったってことも、
つまんねぇ卒業式で泣いたようでちょっとだけ化粧が崩れてることも。
ずっと見てたから、ずっと自分のものにしたいって、ずっと隣にいたいって思ってたから。
このまま時が止まれば、それはそれで幸せなんだと思う。ルカとらいむと俺と3人で、いつまでもずっといられれば。
お前らがそれで楽しければ、それで。
夕陽が綺麗だった、地平線に姿を隠す直前のあのオレンジ色がとても好きだ
「……なあ、らいむ」
でも、
「んー?」
俺も少し、
「こっち、みろ」
わがままを言ってもいいだろうか。
終
20190721
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