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期間限定ネバーランド

「ぼくが生まれた事で、母さんはカンドウされたんでしょう? 向こうのお家で散々と聞かされました。それなら本来引き取りたくなかったっていうのも当然だし、ぼくとしても、ガマンしてまであそこに住む意味ないかなって。勝手だとは思いますが、どうかぼくをここにおいてくれませんか」
 
たった十歳でここまで淡々と、かつ冷静に己の置かれた状況を考えられるものなのだろうか。全ての顛末を私に聞かせた後に、真っ直ぐ私を見て要はそう言った。ああ、これだから子供の目は怖いんだよなぁ、と私も真面目な顔を取り繕いながら心内で嘆息する。こう全力投球みたいな事をされたら、こちとら仕事の後で疲れてんだおねーさんもうシャワー入って歯磨きして寝たいから続きは明日の朝にしない? とか言えないじゃないか。
顔が綺麗なのもいけない。一人称が私好みの「ぼく」のまま育ってしまったのもよくない。何より。

彼女をまるで少年にしたような、その造りそのものがよろしくなかった。

憧れで、何より大事だった親友。聞かされたばかりでまるで現実味が無いけれど、彼女は最早この世にいなくて、残されたのは生き写しのこの子だけ。
そんなの、後回しに出来る筈が無いのだ。ずるい。
「とりあえず、いくつか聞きたい事あるんだけど良い? 私は君の事覚えてるけど、正直言って、君は私の事覚えてる? いやさ、普通に不安じゃない? 親戚でもないよく知らない人と一緒に寝るとか」
「……正直に言うと、少ししか。顔はほとんど覚えてないけど、ちっちゃい時に母さんではない女の人がよく遊んでくれた事は覚えているので、きっとそれが赤音さんかなって。だったらきんちょうはするけど、不安はないです」
「……それは逆に私以外の方が不安になるやつだわ。あの人、他に友達いなかったから」
 それからいくつか確認を続けた。祖父母はここにいるのを知っているのか。知らないけれど心配しないから問題ない。学校はどうするつもりなのか。早起きすればここから通えない事も無い。等々。かなり本気で考え抜いて来たようで、私がする程度の質問には全てしっかりとした答えが返って来た。そんなに嫌だったの……だろう。親友自身、この子が出来る以前から、家での待遇はあまり良くないようだったから。
だから、次の質問で私も腹を括る事にした。
「最後に一つ。お父さんとお母さんがいなくなって、君はきちんと悲しめた?」
 
途端に顔をくしゃりと歪めて嗚咽を漏らし泣き出したので、私もようやく泣く事が出来た。今夜だけは煩わしい事全部抜きで、彼女を存分に悼むのだ。
明日から、二人でやっていく為に。

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