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期間限定ネバーランド

 親にも勘当されてしまった親友は、情けばかりの手切れ金で今までの人生とは縁遠い場所に安アパートを借りて慎ましやかに暮らしていた。私はそんな彼女と子供が心配だったので、アルバイトで金を貯めては土日や長期休暇はなるべく彼女の家を訪れ、子の世話を手伝った。要と名付けられたその子が三つになるまでの三年間、その人生の半分とは言わないまでも、三分の一くらいは私が面倒を見たのではないだろうか。
その甲斐あってか、親友はその後どこからか現れた品行方正そうな男と結婚した。どうやって捕まえたのかは知らないが、大手企業に勤めていて、子持ちでも構わないと言ってくれたらしいその男。その男が現れた時、私は「大学」という今までとシステムが全く異なる学校生活が始まった所だったので、正直肩の荷がストンと下りた心地だった。これで経済面でも精神面でも、彼女を大きく支えてくれる存在が出来た。私はお役御免と勝手に感じて、彼女とは少し離れる事にした。第一新婚家庭に入り浸って、彼女の邪魔になるのが怖かった。
嫉妬や執着してしまうかもしれないという可能性が、ひたすらに恐ろしかった。

 年数回会っていたのが年に一回、そして年に一度も会うかどうかになった頃。
 鬱だった会社勤めも順調に心が死にゆく事によって慣れと誤解し、感覚麻痺して転職すらも億劫になる毎日を過ごす私は、その日も夕飯を抜いて寝酒をして一日を終えるものだと思っていた。
 のに。

 家の前に、ランドセルを背負った少年が立っていた。

近所の子供だろうか。あのー、家間違えてるよ。の「あ」だけ紡いで言葉が消えた。さらさらの黒い髪。涼やかだけれど彼女より大きな瞳を携えた猫目。病的に白い肌に、少し冷えたのか頬には軽く紅が差していて。何より。
こちらを見透かすような視線。
まるで硝子の破片のような。
「か、なめ、くん……?」
「赤音さん、お久し振りです」
 紛う事無きその少年は、声音すらも母親そっくりに成長していた。

 とりあえず家にあげてどうして夜更けに一人で訪ねて来たのか聞いた。
聞かなければ良かったと後悔した。
数か月前、親友夫婦は事故で死に、要は親友の両親の下に引き取られたがネグレクトされ、幼少の記憶を頼りに私の事を思い出し、母の遺品から私の居場所を突き止めて、ここにやって来たらしかった。

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