ep.1 はじまり
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撮影から一週間が過ぎレッスン室に一番乗りで乗り込むとまた彼は先にいてゆっくりきれいに掃除を済ませてる彼が目に映る。
もう見慣れた光景になったこれも一つ朝の決まったルーティンのような感じで
「おはようございます」
「おはようございます」
と2人でお辞儀をして私は隅に寄ってイヤホンをつける。
今日からは歌のレッスンも新曲の分が入るため歌詞入れのためにデモテープを聴きながらのんびりと聴いていると続々とメンバーがやって来ては手を止めて挨拶をする彼にまとわりつくように話しかけるメンバーたち。
少し気にせず見ていたがどうしても気になってしまって目をやると少し手が動かせないレベルになっていてイヤホンを外す。
「こら、みんなー掃除して準備してくれてるから邪魔しなーい。」
「「すみません」」
謝って蜘蛛の子散らすように離れる奥で彼が手を合わせてこちらにペコっと頭を下げる。
それに会釈で返すと横に咲月がやってくる。
「私も申し訳ないです……副キャプテンになったのに……。」
珍しく下がり眉で申し訳なさそうにする彼女の頭を撫でる。
「よしよし、大丈夫。
代表で謝りに来たんだね咲月。」
「いえ、申し訳ないです……。」
この子を見てると私タイプは違うかもしれないけど昔を思い出す。
先輩がまだいたころ、間にも何人も先輩がいて最上級生の真夏さんから告げられた「美波が副キャプテンしよっか!」と言うセリフに眠れない日は続いた。
上の人にどう伝えればいい?どうすればギクシャクしない?
とか変なことを考えながら自分で自分を苦しめた。
でもその苦労もあって今私もキャプテンをやれてるし、みんなのことをもっと深く知れた、そして何よりグループへの愛着も人一倍強くなった。
きっと咲月は咲月なりの副キャプテン像を持ってるし、彼女はいつもみんなの前では強い姿を見せる。
そりゃあ……和たちから「訳のわからないギャグを言うからなんとかしてくれー」とか「朝イチから咲月がうるさいです……」とか聞くけど、いつだって5期生の輪の中には咲月がいてそこから笑顔が広がる。
硬い空気も、重い緊張感も笑い飛ばす彼女は私と違うタイプだけど間違いなくいい副キャプテンだ。
「ほら咲月新曲覚えた?」
「はい、ある程度形にはなってきてます!」
「今日から歌練も始まるからね、頑張ろ。」
「はい!」
大きな返事と共にこれが若さかと思うほどの元気な姿でみんなの輪に帰っていく。
(まったく現金な子なんだから……。)
笑みをこぼしながら後ろ姿を見守る。
気づけばもう少しで始まる時間になってイヤホンをしまうと後ろから大きな影が出てきて思わず振り向く。
「梅澤さん。」
「は、はい!」
「今日の昼休憩の時間、昨日のスタッフさんから送られてきた写真のデータ届くそうなのですが。」
「そうなんですね……あ、そうか。
大丈夫ですよ!連絡先は多分グループにあるので追加してもらって!」
「わかりました。」
そう返事をすると定位置の隅に戻り携帯で何かを打ちながら彼はノートを反対の手で取り出す。
まさか律儀に連絡先の追加をしていいかの確認までして来るとは思わなくて少し笑みが溢れる。
「気遣い細かいなぁ……ほんと気を遣ってくれてるんだろうな。」
誰より朝が早く、誰より夜が遅くても一週間必ず彼は顔を出して準備をして片付けをして。
昨日の撮影の日は監視としても送迎としても色々気にしてくれてる。
これなら他のメンバーともいつか打ち解けてくれる。
そう思いながら私はゆっくりイヤホンをしまう。
「今日から歌の方も練習入るからねー、みんな3曲ずつミニコンサート用のやつ覚えてる?」
声をかけながらみんなの目を集めてレッスンを始める。
私は私なりのキャプテンを、背中で咲月にも見せてあげたいから。
きっといつか繋がる未来のために私は今日も気合を入れ直しレッスンが始まる。
1時間の朝のレッスンを終わらせると横にいた理々杏がぼーっとつぶやいた。
「あーあ……今日の3限目、小テスト嫌だなぁ。」
……え?
記憶を掘り返してみてもそんなことを言ってたか思い出せない。
慌てて蓮加を見るとすでに彼女は諦めたようにニコニコしながらバツ印を作っている。
「え!?マジで言ってる!?」
「え?言ってたよね?」
「うん、美波もしかして……。」
「……あはは。」
昨日誰か教えてくれても良かったじゃないか!とも思ったけどそういえば私昨日は曲入れしたくてすぐに帰ったのを思い出して頭を抱える。
「史緒里と楓は!?」
「え?私はまあ大丈夫。」
「私?私はいつも通りやればできるかなー。」
この2人は一応勉強ができる組、慌てて教えてもらおうとした瞬間理々杏は駆け出して彼の元へ走る。
「稲葉さん、僕に小テストの範囲教えて!」
「え?なんで……?」
「ごめん!ぶっちゃけ先週寝てて聞いてない!」
「いや……まあ……うん、いいですよ。」
「よっしゃー!僕先生ゲットー!」
「……私も。」
「中村さんも?いいよ、お昼休憩の間に詰め込む形になるけどいい?」
「はい……舞台忙しいからあまり来れてなかったから。」
「そうだよね。
じゃあ講義の資料コピーして用意しとく。」
「助かります。」
麗乃と理々杏は彼に教えてもらう気らしいけど、そもそも彼がどこまで勉強できるか知ってるのだろうか?
「稲葉さん、多分頭いいよ。」
不思議そうにしてる私に楓が話しかけ、タオルで汗を拭きながら彼女は話を続ける。
「講義で理々杏と私横で受けてるでしょ?
ノート綺麗だし読みやすいよ、麗乃がこの先週の舞台の稽古で休んだ分のノートのコピー見たけどわかりやすかったし。
それに私たちが仕事で抜けても大丈夫なように成績は良い方をキープできるように日村コーチから言われてるってさ。」
「マジか……助かるねぇそれ。」
「確かにテスト対策になれるくらいには」とか言ってくれてはいたけどそんなにガッツリ勉強ができる組だったとは……。
最初に来て居残り練が終わって帰るはずの彼に負けてるのは少し癪。
……でもなぁ、勉強に関しては勝てない。
残念ながら
麗乃、蓮加に続けば多分私がおバカ組……もう辞めてった子の中に私よりおバカはいたけどもう今じゃ下から3人のおバカ組だ。
「教えてもらえばー?私は「かえでー!!たすけてぇええ!!」はいはい……正直蓮加1人で手一杯。」
飛び込む蓮加を受け止めた楓が苦笑いをして頭を撫でる。
どうやら楓も無理となると頼るしかないようで申し訳なさそうに見ると頷いて
「じゃあ2限終わり、そのまま教室でやりましょうか。
みんなお弁当はありますか?」
「みんなあるよー今日史緒里が作ってくれてる。」
「なら大丈夫ですね。」
そう言うと彼は掃除に戻っていき、私たちは更衣室で着替える。
早速小テストとなるとそこまで難しいわけではないだろうけど、私たちはどうしても抜けることが出て来る。
そうなると必然的に小テストやレポートがメインの点数になって進級に失敗しようものならアイドル活動は終了。
そう思うと少しでもなんとかしないといけない。
「頑張らないとなぁ。」
小さく呟いてロッカーを閉める。
少し重い足取りのまま私は講義室へ向かうのだった。