ep.1 はじまり
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「稲葉龍馬……マネージャー業務兼雑用です。
年は18の大学一年、学科は一応芸能科です。
よろしくお願いします。」
朝見かけた時とまるで別人で思わず声が漏れそうになる。
暗かった姿は何処へやら、髪をあげて耳にはピアスをつけたスーツ姿の彼は暗い雰囲気なんて微塵も感じさせないような様変わりを見せている。
「ってなわけで、1,2期生がこの前最後の1人も卒業したから新体制として……梅澤がキャプテンになるわけだけど、なんか異論ある?」
「「ないでーす!」」
「じゃあ稲葉、最初は基本梅澤と行動して色々学びな?
あの子がうちのグループのトップだから。」
「はい、わかりました。」
そう言って日村コーチに頭を下げると彼は私の目の前に立つ。
改めて見るとかなり大きい。
私も170はあるから並大抵の男の人だと見上げることも少ないのだけれどこの人は少し顎が浮くと言うか少し見上げることになる。
「改めまして……稲葉です。」
「あ、はい……梅澤です……。」
まさかここまで丸投げにされるとは思っていなかったけれどこれはこれでいい機会だ。
誰か他のメンバーが嫌な思いをする前に私が関わって人となりを知っておけば警戒した方がいいところも含め伝えられるはず。
そう思えば悪くはないけれど、いかんせん今更なにを話せばいいのだろうか?
男の人と話すなんて仕事くらいしかない私としてはどうしたらいいか困っているとそのまま彼はゆっくり周りを見渡した後
「隅で、見てます。
名簿もらったので、顔合わせとはいかないですけど、みんなの顔と名前……覚えないとなんで。」
「そ、そうですね……それがいいかと。」
「では。」
そう言ってゆっくり部屋の隅に行くとノートを出してしゃがみ込む彼、警戒しすぎている気がするけれども警戒し過ぎるに越したことはない。
女性だけのグループである以上異性の目には慣れていても異性には慣れていない。
まして年上ばかりしかいない環境に私たちと同い年、後輩からしても身近な年齢のメンバーともなればその危険度は群を抜いて高い。
あれよあれよと彼に絆されてしまうメンバーがいては先輩たちの築いた文化に傷をつけてしまいかねないことを自覚してより一層気を引き締める。
「よーし、レッスン始めるぞーー!」
手を叩いてみんなの注目を集めトレーナーの方に向き直り頭を下げる。
「よろしくお願いします!!」
「「よろしくお願いします!!」」
全員で一礼をして挨拶をすると部屋の隅で日村コーチと彼が話し始める。
なにやら不思議そうに彼と話すコーチを見ているとどうやら知り合いのようで余計に謎が深まる。
一体なにを目的に連れてきたのだろう?
ストレッチを終え曲が流れてコーチが戻ってきても彼はノートを見ながらじーっとみんなを観察している。
それはファンからは感じないような視線でみんなも少し調子が狂うのか今日はいまいち集中しきれていない。
「遠藤!池田!五百城!集中しろー。
あと矢久保!遠藤ばかり見てズレてる!」
「み、見てません!!ちょっとしか!!」
美緒の言葉に周りが笑いをこぼす。
そこからは少しずつみんなリズムを取り戻してきたようで音があっていく。
靴のなる音、服の擦れる音、リズムよく小気味よく音がだんだん一つになって大きくなっていく。
この感覚を体に染み込ませて初めて外で誰かに見せれるものになる。
「よーし、15分休憩ね!」
コーチからそう言われると隅にいたはずの彼はすでにおらずメンバーも不思議そうに周りを見渡しているとスッと扉が開き床をモップ掛けし始める。
乾いたモップと濡れたモップの二つを持ってきてそれを硬く絞るとゆっくりモップをかけていく。
いつもは5期生が交代で担当しているが、彼はなにも言わずにスッとかけ始める。
それはいつものことのように自然すぎて思わず後輩も反応ができない。
「か、変わります!!」
慌てて和が声をかけにいくが身長差も相まって何故か脅されているような雰囲気を感じて萎縮してしまう。
慌てて駆け出そうとすると彼は目元を緩ませて
「大丈夫ですよ、これマネージャーがやってみんなが休む方がいいですから。
特に見習いですし僕も。」
そう言って彼女に触れることもなく追い返す。
嫌味ったらしさもなく自然に断られた和はトコトコと戻って咲月の横に座る。
「え、大丈夫?」
「いや……うん。
なんか思ったより怖くなくて。」
「え?側から見たら童話で連れ去られる小人みたいだったよ?」
「いや、どっちかと言うと……うーん難しい。」
咲月と和の話声に一気に周りの話題は彼一色に広がっていく。
第一印象から私としては掃除のイメージ、そしてマメ。
今も濡れたままの箇所がないか何度も見返しながら見つけては拭き取っていく。
細かく丁寧に、慎重に……性格の現れる掃除を見ながら隣の楓がボソッと呟く。
「なんか、丁寧だね。」
「うん、悪い人ではない……のかも?」
別に最初から悪人認定をしてたわけじゃないし、何より警戒しすぎたのだろうか。
最初の緊張感はゆっくり解けていき次第にいつもの空気に戻っていくレッスン室を締まった空気にしたくて手を2度叩く。
「はい、みんなマネージャーさんにお礼ちゃんと言うよー。
私たちの代わりに掃除してくれるんだから!」
「「ありがとうございます!」」
みんなで頭を下げると彼もこちらにぺこりとお辞儀をして掃除道具を片付けに廊下へとまた消えていく。
その背を見送りながらまた私はひとつ気合を入れ直す。
新しく来たスタッフ、新しい人の目。
これからだっていくらでもやってくるこの環境を受け止めるために心を引き締めるのだった。
年は18の大学一年、学科は一応芸能科です。
よろしくお願いします。」
朝見かけた時とまるで別人で思わず声が漏れそうになる。
暗かった姿は何処へやら、髪をあげて耳にはピアスをつけたスーツ姿の彼は暗い雰囲気なんて微塵も感じさせないような様変わりを見せている。
「ってなわけで、1,2期生がこの前最後の1人も卒業したから新体制として……梅澤がキャプテンになるわけだけど、なんか異論ある?」
「「ないでーす!」」
「じゃあ稲葉、最初は基本梅澤と行動して色々学びな?
あの子がうちのグループのトップだから。」
「はい、わかりました。」
そう言って日村コーチに頭を下げると彼は私の目の前に立つ。
改めて見るとかなり大きい。
私も170はあるから並大抵の男の人だと見上げることも少ないのだけれどこの人は少し顎が浮くと言うか少し見上げることになる。
「改めまして……稲葉です。」
「あ、はい……梅澤です……。」
まさかここまで丸投げにされるとは思っていなかったけれどこれはこれでいい機会だ。
誰か他のメンバーが嫌な思いをする前に私が関わって人となりを知っておけば警戒した方がいいところも含め伝えられるはず。
そう思えば悪くはないけれど、いかんせん今更なにを話せばいいのだろうか?
男の人と話すなんて仕事くらいしかない私としてはどうしたらいいか困っているとそのまま彼はゆっくり周りを見渡した後
「隅で、見てます。
名簿もらったので、顔合わせとはいかないですけど、みんなの顔と名前……覚えないとなんで。」
「そ、そうですね……それがいいかと。」
「では。」
そう言ってゆっくり部屋の隅に行くとノートを出してしゃがみ込む彼、警戒しすぎている気がするけれども警戒し過ぎるに越したことはない。
女性だけのグループである以上異性の目には慣れていても異性には慣れていない。
まして年上ばかりしかいない環境に私たちと同い年、後輩からしても身近な年齢のメンバーともなればその危険度は群を抜いて高い。
あれよあれよと彼に絆されてしまうメンバーがいては先輩たちの築いた文化に傷をつけてしまいかねないことを自覚してより一層気を引き締める。
「よーし、レッスン始めるぞーー!」
手を叩いてみんなの注目を集めトレーナーの方に向き直り頭を下げる。
「よろしくお願いします!!」
「「よろしくお願いします!!」」
全員で一礼をして挨拶をすると部屋の隅で日村コーチと彼が話し始める。
なにやら不思議そうに彼と話すコーチを見ているとどうやら知り合いのようで余計に謎が深まる。
一体なにを目的に連れてきたのだろう?
ストレッチを終え曲が流れてコーチが戻ってきても彼はノートを見ながらじーっとみんなを観察している。
それはファンからは感じないような視線でみんなも少し調子が狂うのか今日はいまいち集中しきれていない。
「遠藤!池田!五百城!集中しろー。
あと矢久保!遠藤ばかり見てズレてる!」
「み、見てません!!ちょっとしか!!」
美緒の言葉に周りが笑いをこぼす。
そこからは少しずつみんなリズムを取り戻してきたようで音があっていく。
靴のなる音、服の擦れる音、リズムよく小気味よく音がだんだん一つになって大きくなっていく。
この感覚を体に染み込ませて初めて外で誰かに見せれるものになる。
「よーし、15分休憩ね!」
コーチからそう言われると隅にいたはずの彼はすでにおらずメンバーも不思議そうに周りを見渡しているとスッと扉が開き床をモップ掛けし始める。
乾いたモップと濡れたモップの二つを持ってきてそれを硬く絞るとゆっくりモップをかけていく。
いつもは5期生が交代で担当しているが、彼はなにも言わずにスッとかけ始める。
それはいつものことのように自然すぎて思わず後輩も反応ができない。
「か、変わります!!」
慌てて和が声をかけにいくが身長差も相まって何故か脅されているような雰囲気を感じて萎縮してしまう。
慌てて駆け出そうとすると彼は目元を緩ませて
「大丈夫ですよ、これマネージャーがやってみんなが休む方がいいですから。
特に見習いですし僕も。」
そう言って彼女に触れることもなく追い返す。
嫌味ったらしさもなく自然に断られた和はトコトコと戻って咲月の横に座る。
「え、大丈夫?」
「いや……うん。
なんか思ったより怖くなくて。」
「え?側から見たら童話で連れ去られる小人みたいだったよ?」
「いや、どっちかと言うと……うーん難しい。」
咲月と和の話声に一気に周りの話題は彼一色に広がっていく。
第一印象から私としては掃除のイメージ、そしてマメ。
今も濡れたままの箇所がないか何度も見返しながら見つけては拭き取っていく。
細かく丁寧に、慎重に……性格の現れる掃除を見ながら隣の楓がボソッと呟く。
「なんか、丁寧だね。」
「うん、悪い人ではない……のかも?」
別に最初から悪人認定をしてたわけじゃないし、何より警戒しすぎたのだろうか。
最初の緊張感はゆっくり解けていき次第にいつもの空気に戻っていくレッスン室を締まった空気にしたくて手を2度叩く。
「はい、みんなマネージャーさんにお礼ちゃんと言うよー。
私たちの代わりに掃除してくれるんだから!」
「「ありがとうございます!」」
みんなで頭を下げると彼もこちらにぺこりとお辞儀をして掃除道具を片付けに廊下へとまた消えていく。
その背を見送りながらまた私はひとつ気合を入れ直す。
新しく来たスタッフ、新しい人の目。
これからだっていくらでもやってくるこの環境を受け止めるために心を引き締めるのだった。