ep.4 僕が手を叩く方へ
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「ところで、龍馬さんって歌のコーチしてますけど……歌ったところ見たことないです。」
「え?だって歌う必要ないし……。」
「でもでも、一回くらい聴いてみたいです!」
カラオケ大会中の史緒里の一言に不思議に思っていたメンバーがじーっと彼を見つめる。
その視線から逃げるようにスーッと後ろに下がっていく彼をスッと更に後ろから出てきた祐希が捕まえる。
「逃がさない。」
「い、いつの間に。」
「ふふっ、逃げる気がした。」
ニヤリと笑う祐希に呼応するように楓と史緒里が腕を取ってテレビの方へ連れていく。
観念したように大人しく渡されたマイクを握る。
「いやほんとプロの前で歌うほどじゃないけど。」
「いやいや、いいんですいいんです……あわよくば下手で笑いたいとか思ってません!」
「おーい、本音出てるぞ。」
史緒里の一言に頭をかき苦笑いしながら適当に渡されたタブレットで曲を入れ始める。
流れ始めた曲は私たちが入る前の乃木坂の曲で、多分ライブでもほとんどしてなかった。
と言うか不可侵領域の曲。
「あんま盛り上がらないけど……いいでしょこれで。」
そう呟いた後、ゆっくり歌い始める。
それはバラードでしっかりとした実力がわかるし、何より音程がブレることなく真っ直ぐ……それでいて抑揚はしっかりつく。
これは確かに……上手い。
笑いながらみんなで聴き始めたのに歌い始めるとシーンっと黙って聴き入るように見ている。
4分にも満たない時間で歌い終えるとマイクを前にいた理々杏に渡して後ろに戻る彼に誰も言え何も言えなくなる。
「なんだよ……なんの羞恥プレイだよこれ。」
恥ずかしそうにしながら廊下へ消えていく彼を目で追ったあと、理々杏が話し始める。
「ねえ、みんな黙ってるけど……うまかった……よね?」
「うん、上手いよね。」
「史緒里とどっちが上手い?」
「えぇ……ちょっと比べられると困るかも。」
口々に話しながらこれなら確かにヴォーカルコーチの方に入るのもわかるけど、流石にこれだけ歌えるならマネージャーじゃなくて歌手方面にでも進めばいいのにとも思う。
流石に誰もそこまで踏み込めなくて自然と沈黙が続いたけれど、しばらく帰ってこないので話しながら待っているが一向に戻らない彼を探しに廊下に出ると廊下の奥から真剣な顔で誰かと電話をしているのが聞こえてくる。
「……だから、大丈夫だって。」
廊下の奥で聞こえた声にバレないように隠れて息を潜める。
別に隠れる必要はない、なんなら隠れてしまえば後でバレたら後ろめたい気持ちになるのに隠れてしまったものは仕方がないのでそのまま息を潜め続ける。
「うん……いい。
俺今みんなとこうしてるの楽しいよ。
もうできないこともあるけどさ、ああやって誰かに笑顔をあげれる仕事の手助けできてるし……俺もマネージャー業務するための練習もさせてもらえてる……うん。……ありがとうおじさん、統さんにも伝えてくれない?
また……生き甲斐もらえたって。」
重たい言葉の中に少しだけ照れ臭そうな少し喜びを含んだ声が聞こえて私はそのまま二階への階段を忍足で上がる。
忘れられないようなその言葉が彼の何を表すのかはわからない、でも易々と踏み込めないその話し方に私はなんて返せばいいのだろうか?
きっとこれ以上話してもらえない、聞いたことも誰にも言えない。
そんなちょっぴり重たい秘密を知った私は天井を眺めていると階段から声が聞こえてくる。
「美波さーん?みんな探してるよ?」
「あ、うん!」
階段の下からいつもの通りの声が聞こえて慌てて返事をして降りると不思議そうに彼が見ている。
「あれ?なんか取りに行ったんじゃないの?」
「いや、ちょっと部屋に忘れたものあったから取りに行ったんだけど……見つからなかったからロッカーかも。」
「あー……どんまい?」
笑いながらそう言う彼を見ながら一瞬さっきの顔を思い出して聞きたくなるが今は諦めて口を閉じる。
いつか聴ける日が来たらいいなと思いながら私たちは2人でリビングに戻るのだった。
--続く--
「え?だって歌う必要ないし……。」
「でもでも、一回くらい聴いてみたいです!」
カラオケ大会中の史緒里の一言に不思議に思っていたメンバーがじーっと彼を見つめる。
その視線から逃げるようにスーッと後ろに下がっていく彼をスッと更に後ろから出てきた祐希が捕まえる。
「逃がさない。」
「い、いつの間に。」
「ふふっ、逃げる気がした。」
ニヤリと笑う祐希に呼応するように楓と史緒里が腕を取ってテレビの方へ連れていく。
観念したように大人しく渡されたマイクを握る。
「いやほんとプロの前で歌うほどじゃないけど。」
「いやいや、いいんですいいんです……あわよくば下手で笑いたいとか思ってません!」
「おーい、本音出てるぞ。」
史緒里の一言に頭をかき苦笑いしながら適当に渡されたタブレットで曲を入れ始める。
流れ始めた曲は私たちが入る前の乃木坂の曲で、多分ライブでもほとんどしてなかった。
と言うか不可侵領域の曲。
「あんま盛り上がらないけど……いいでしょこれで。」
そう呟いた後、ゆっくり歌い始める。
それはバラードでしっかりとした実力がわかるし、何より音程がブレることなく真っ直ぐ……それでいて抑揚はしっかりつく。
これは確かに……上手い。
笑いながらみんなで聴き始めたのに歌い始めるとシーンっと黙って聴き入るように見ている。
4分にも満たない時間で歌い終えるとマイクを前にいた理々杏に渡して後ろに戻る彼に誰も言え何も言えなくなる。
「なんだよ……なんの羞恥プレイだよこれ。」
恥ずかしそうにしながら廊下へ消えていく彼を目で追ったあと、理々杏が話し始める。
「ねえ、みんな黙ってるけど……うまかった……よね?」
「うん、上手いよね。」
「史緒里とどっちが上手い?」
「えぇ……ちょっと比べられると困るかも。」
口々に話しながらこれなら確かにヴォーカルコーチの方に入るのもわかるけど、流石にこれだけ歌えるならマネージャーじゃなくて歌手方面にでも進めばいいのにとも思う。
流石に誰もそこまで踏み込めなくて自然と沈黙が続いたけれど、しばらく帰ってこないので話しながら待っているが一向に戻らない彼を探しに廊下に出ると廊下の奥から真剣な顔で誰かと電話をしているのが聞こえてくる。
「……だから、大丈夫だって。」
廊下の奥で聞こえた声にバレないように隠れて息を潜める。
別に隠れる必要はない、なんなら隠れてしまえば後でバレたら後ろめたい気持ちになるのに隠れてしまったものは仕方がないのでそのまま息を潜め続ける。
「うん……いい。
俺今みんなとこうしてるの楽しいよ。
もうできないこともあるけどさ、ああやって誰かに笑顔をあげれる仕事の手助けできてるし……俺もマネージャー業務するための練習もさせてもらえてる……うん。……ありがとうおじさん、統さんにも伝えてくれない?
また……生き甲斐もらえたって。」
重たい言葉の中に少しだけ照れ臭そうな少し喜びを含んだ声が聞こえて私はそのまま二階への階段を忍足で上がる。
忘れられないようなその言葉が彼の何を表すのかはわからない、でも易々と踏み込めないその話し方に私はなんて返せばいいのだろうか?
きっとこれ以上話してもらえない、聞いたことも誰にも言えない。
そんなちょっぴり重たい秘密を知った私は天井を眺めていると階段から声が聞こえてくる。
「美波さーん?みんな探してるよ?」
「あ、うん!」
階段の下からいつもの通りの声が聞こえて慌てて返事をして降りると不思議そうに彼が見ている。
「あれ?なんか取りに行ったんじゃないの?」
「いや、ちょっと部屋に忘れたものあったから取りに行ったんだけど……見つからなかったからロッカーかも。」
「あー……どんまい?」
笑いながらそう言う彼を見ながら一瞬さっきの顔を思い出して聞きたくなるが今は諦めて口を閉じる。
いつか聴ける日が来たらいいなと思いながら私たちは2人でリビングに戻るのだった。
--続く--
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