ep.4 僕が手を叩く方へ
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「ねー理々杏ー。」
「んー?」
「これさーどうする?」
「んー、このままでいいんじゃない?」
一昨日終わった5期生ライブを実は私たちは隅っこで観ていた。
彼女達らしく明るく元気でこれからの希望を感じさせるようなライブは私たちの心に火をつけた。
もちろん明るくがむしゃらにはやるつもりだけど、どこか一つ余裕を持てているのは今回はやりたいことを前々から私たちで話し合ってきたから。
先輩達は大学2年3年と残っていたけど、その頃にはもう二、三人ずつくらいしかいなかった。
私たちも高校一年の冬に合格と同時に編入してきて最初は12人で3期生だった。
それが1人抜け、2人抜け3人抜け4人抜け……気づけば8人になっていた。
みんなそれぞれドラマだったり色んなところで活躍してる姿を観れるのが幸せなのと同時にやっぱりちょっと寂しい時もある。
だから私たちのコンセプトは「今、私たちができること。」っていうことで決めている。
人数が多かった昔より手の込んだ事はできなくなっていくけれど、今できる精一杯と目一杯を見せる場にしようというのが結論だ。
「でも史緒里センターだし僕が手を叩く方へはやりたいよね。」
「だよねぇー……んーでもなんかちょっぴり寂しいね。」
「初めてやった時は11人だったっけ……だいぶ輪が小さくなっちゃうね。」
綾乃と麗乃が少し寂しそうに呟くとみんなシーンっと黙ってしまう。
キャプテンになった今はみんながみんな大切な乃木坂のメンバーだって強く思うようになってきた。
それは後輩達が増えていくにつれて私たちがしてもらったことを彼女達に返していきたいっていうほんの少しの先輩らしさで、5期生のみんななんて特に彼女達は乃木坂の未来だなって思ってる。
でも期別ライブだけは別。
私たちの代で私たちだけのライブなんて他にもうないし、きっと夏を越えれば誰かがまたここから去っていく日がやってくるかもしれない。
そうすればどんどんみんないなくなって、あの輪が次第に四角形や三角形……最後には線になっちゃうのかなって思うと怖い。
私にとって3期生っていうのは大切な……大切な親友だから。
誰かがここから欠ける日はもちろんやってくるし、そんなみんなを見送ってから私はここを去りたいと思っている。
だからこそ今回のライブは最高のものにしたいと強く思っている。
そんな重い空気の中で史緒里が手を叩いてニコッと笑う。
「ほーら!しんみりしないしない!
3期生お姉さん達の背中見せてあげて!いいバトンを4期生に渡すんでしょ!」
そう言って前に立ちながら史緒里が言うとみんなが納得したように頷く。
別に去って行ったメンバーには何の罪もない。
それぞれがそれぞれの道を進むための最初の一歩と環境でしかアイドルはないって誰かが言っていた。
居心地が良くても、ずっと居たいと思っててもそれでもいつかは終わりがやってくる。
これまでの人生だって変わりやしないその事実はここにいてもやってくるだけのこと。
実際去年まで制服を着てた私たちが私服で大学に通ってるのも高校生という時代が終わって、大学生という時代がやってきただけのことで、多分生きてる限り死ぬ時まではずっと何かが終わっては何かが始まるの繰り返しでしかない。
「とりあえず今週麗乃が水木いないんだっけ?」
「うん、舞台の顔合わせと台本読み合わせがある。」
「でんは?」
「木曜日は収録がある。」
「理々杏は?」
「綾乃と蓮加と乃木tubeの撮影!」
「ねー!3人でゲーム収録予定!」
「久しぶり!作ったPC使って遊ぶぞー!」
「祐希は?」
「私は別に公欠とるのが明日明後日あるだけだから、終わったら参加するよ。」
「梅は?」
「私はえっと……あ、水曜日だけ仕事じゃないけど夜は外せない用事があるから18時に終わったらすぐ出るかな。」
「全体は金土の2日か……各自仕上げてかないとね!」
そう言ってワクワクしたように足取り軽く史緒里が去っていく。
申し訳ないが水曜日は……一つ予定がある。
それはみんなには申し訳ないけれど和とのデートの約束がある。
みんなに言うのも何違う気がして隠してるけど別にやましいことがあるわけじゃない。
単に史緒里が出る映画を観に行くって本人に言うのはちょっと恥ずかしいだけ。
「じゃあ今日も頑張りましょー!龍馬さんもお願いします!」
「ん?あ、はーい。」
ヘッドホンを外してこちらを向くと手を振る彼が居て今日も私たちは歌練習から始まる。
そして半分ローテが終わればスタジオでダンスと曲入れをする。
設楽コーチも「3期はリストみたけどいいよ、稲葉がやっとけ。」ってしみじみ頷いて、今はスタジオ側で練習する後輩を見守っている。
「……まあとりあえず、いつも通りやりましょっか。」
ヘッドホンを外すといつも通りノートを持って彼が何かを書き始める。
それを見ながら私たちはレッスンを始めるのだった。