ep.3 始まり
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「奈央さーん、振り付け集中しすぎ。」
「はいぃ。」
「川﨑さんやっつけにしない。」
「す、すみません!!」
無事セットリストも決まり本番一週間前になると優しかった彼はどこへやら厳しい一面が目立つようになってきた。
もちろんのことだけれど私たちはまだ歌も踊りも全然慣れちゃいないし、どちらかに集中してどちらかが蔑ろになってしまうところもある。
それゆえにとことん彼に指導されてるというか、注意を受けてる。
あと3日というところまできた、明日からは会場でのリハーサルが始まるからみんな気合を入れてるけれど、やる気も相まって空回りが続く。
「ダンスは日村コーチの領分だし、歌も設楽コーチの領分だからあんまり強くは言えないし、2人のコーチの指導が入ってるなら言ってくれたらいいけど、全体的にまとまってるけど余裕がないですよ。」
休憩中に水分補給のボトルを渡しながら彼が話し始める。
普段なら気の強い子たちがムッとするかもしれないけど、正直全員そこまでの余裕がない。
肩で息をしながらみんなで話を聞きながら自分の反省点を振り返る。
私も正直歌はいいとしてもダンスはまだまだ付け焼き刃な部分が目立つ。
かといって残念ながらダンスに集中してしまうと歌が少し不安定になるからうまく力配分をしなきゃ行けないんだけれど、どうしても気負いからかうまくまとまらない。
「では、僕用事あるので。」
そう言ってレッスン室を出る彼の後ろ姿を見送るとボソッと誰かがつぶやいた。
「余裕なんて言われても難しいよね。」
疲れた頭では誰かわからない、でもその一言は正直わかる。
今の私たちにできることができてるけど、余裕なんて言われてもどうしたって目の前のことをこなすので精一杯。
そんなことを考えてると茉央が前に立ってダンスを再開する。
「ねぇ、茉央?」
「ん?何?」
「流石に休みなよ……。」
いろはに声をかけられても目を向けずに茉央はダンスをしながら答える。
「だって、うちらってまだまだやから頑張ってんねやろ?
で……頑張ってるところを……頑張ったところをお客さんに見せるんやろ?
後悔残したくないねん。」
そう言って流れる汗を拭うことなくひたすらに短いところをなん度も繰り返して染み込ませるように繰り返す。
別に誰も責めるわけじゃない、自分でだってわかってる。
それでもその一歩を踏み出したのが私じゃないことが少し悔しい。
そんなことを考えても仕方ないから私も立ち上がって少し離れたところで確認を始めると自然とみんなも順々に立ち上がって確認をするように踊り始める。
誰かに強制されてない一歩を踏み出せた中で一つずつみんなの熱が燃え散らかっていた事に気づく。
全員が同じ方向を向いてるようで気づいたのは向いてる方向は同じようで少しずつ違うって事。
足を止めてみんなの方に向き直ると改めてみんなの顔が見える。
焦り、不安、緊張の色の中必死にもがく皆んなに改めて気付かされた課題。
「ちょっといいかな?」
真摯に向き合おう。
自分たちの課題に。
そしてだから今できることをやろう。
きっと今ならみんなすっと耳に入ってくるはずだから。
茉央が作ったこの空気の中で私はゆっくり話し始めた。
「正直、先輩たちに追いつくのは無理。
だって場数も違うし、何よりかけてきた時間が違う。
だから……私たちは一人一人の持ち味を全力で出せるようにしっかり整えるところは整えていこう。
で、余裕って多分……顔……だと思う。」
「顔?私たちの?」
咲月が不思議そうに汗を拭いながら尋ねてくる。
でも最初に言われたことが多分私たちには今足りていないものの気がして、うまくまとまらないかもしれないけど話し始めてしまったからには全部吐き出そうと決め再度口を開く。
「そう。
日村コーチにも言われてるけど、あくまで私たちはアイドルってポジションにいるわけで、今みんなの顔見て思ったのは緊張とか焦りが強いなーって。」
「でも仕方なくない?私、歌うだけならまだ自信持てるけど……ダンスとってなるとどうしても焦ったり緊張するよ。」
「アルノの言ってることもわかるよ。
私たち、ちょっと完璧求めすぎじゃないかなって。」
「そうかなぁ?でも先輩たち見てたら焦るよ……。」
「そうそれ。なんで私たちは先輩と競ってるの?」
そこだ。
全員がそうだとは思わないけれど、どうしても私たちの中には
「先輩が作ったこの場所を」
「先輩たちに追いつきたい」
「先輩たちに恥をかかせたくない」
そんな気持ちがどこかに隠れてしまってる。
だからレッスンもがむしゃらにやれてるし、苦手なことを克服するために頑張れてる。
でもそれって本当に見ないといけない目的から少し逸れてしまってる気がする。
「はぁはぁ……まあようするに、アイドルって先輩の背中を追うんじゃなくてあくまでもファンがいて成り立つってことでいいです?」
瑛紗が死にかけの顔で返してくる言葉に頷く。
「私たち5期生のライブに来てくれる人たちって、私たちを観にきてるんだから、一人一人自分たちのできることをやるしかないと思う。
緊張するのもわかるし私も心臓うるさいよ?
でも……できること以上はできないってことも事実として受け止めるべきだと思う。」
ダンスの精度も歌の精度も今から上げられることは限られてる。
焦って詰め込んで無茶しても硬い顔のままの私たちじゃファンの皆さんが楽しめるものも楽しめなくなる。
必要なのは私たちは私たちのやれることしかできないってこと。
大きく気負う必要も、過度にプレッシャーを感じる必要もない。
だって私たちはまだまだひよっこなんだから。
しばらく静寂が続いたあと1人、また1人とダンスの振りの確認に戻る。
その顔はさっきより少し……ほんの少しだけ明るくなったのだった。
「はいぃ。」
「川﨑さんやっつけにしない。」
「す、すみません!!」
無事セットリストも決まり本番一週間前になると優しかった彼はどこへやら厳しい一面が目立つようになってきた。
もちろんのことだけれど私たちはまだ歌も踊りも全然慣れちゃいないし、どちらかに集中してどちらかが蔑ろになってしまうところもある。
それゆえにとことん彼に指導されてるというか、注意を受けてる。
あと3日というところまできた、明日からは会場でのリハーサルが始まるからみんな気合を入れてるけれど、やる気も相まって空回りが続く。
「ダンスは日村コーチの領分だし、歌も設楽コーチの領分だからあんまり強くは言えないし、2人のコーチの指導が入ってるなら言ってくれたらいいけど、全体的にまとまってるけど余裕がないですよ。」
休憩中に水分補給のボトルを渡しながら彼が話し始める。
普段なら気の強い子たちがムッとするかもしれないけど、正直全員そこまでの余裕がない。
肩で息をしながらみんなで話を聞きながら自分の反省点を振り返る。
私も正直歌はいいとしてもダンスはまだまだ付け焼き刃な部分が目立つ。
かといって残念ながらダンスに集中してしまうと歌が少し不安定になるからうまく力配分をしなきゃ行けないんだけれど、どうしても気負いからかうまくまとまらない。
「では、僕用事あるので。」
そう言ってレッスン室を出る彼の後ろ姿を見送るとボソッと誰かがつぶやいた。
「余裕なんて言われても難しいよね。」
疲れた頭では誰かわからない、でもその一言は正直わかる。
今の私たちにできることができてるけど、余裕なんて言われてもどうしたって目の前のことをこなすので精一杯。
そんなことを考えてると茉央が前に立ってダンスを再開する。
「ねぇ、茉央?」
「ん?何?」
「流石に休みなよ……。」
いろはに声をかけられても目を向けずに茉央はダンスをしながら答える。
「だって、うちらってまだまだやから頑張ってんねやろ?
で……頑張ってるところを……頑張ったところをお客さんに見せるんやろ?
後悔残したくないねん。」
そう言って流れる汗を拭うことなくひたすらに短いところをなん度も繰り返して染み込ませるように繰り返す。
別に誰も責めるわけじゃない、自分でだってわかってる。
それでもその一歩を踏み出したのが私じゃないことが少し悔しい。
そんなことを考えても仕方ないから私も立ち上がって少し離れたところで確認を始めると自然とみんなも順々に立ち上がって確認をするように踊り始める。
誰かに強制されてない一歩を踏み出せた中で一つずつみんなの熱が燃え散らかっていた事に気づく。
全員が同じ方向を向いてるようで気づいたのは向いてる方向は同じようで少しずつ違うって事。
足を止めてみんなの方に向き直ると改めてみんなの顔が見える。
焦り、不安、緊張の色の中必死にもがく皆んなに改めて気付かされた課題。
「ちょっといいかな?」
真摯に向き合おう。
自分たちの課題に。
そしてだから今できることをやろう。
きっと今ならみんなすっと耳に入ってくるはずだから。
茉央が作ったこの空気の中で私はゆっくり話し始めた。
「正直、先輩たちに追いつくのは無理。
だって場数も違うし、何よりかけてきた時間が違う。
だから……私たちは一人一人の持ち味を全力で出せるようにしっかり整えるところは整えていこう。
で、余裕って多分……顔……だと思う。」
「顔?私たちの?」
咲月が不思議そうに汗を拭いながら尋ねてくる。
でも最初に言われたことが多分私たちには今足りていないものの気がして、うまくまとまらないかもしれないけど話し始めてしまったからには全部吐き出そうと決め再度口を開く。
「そう。
日村コーチにも言われてるけど、あくまで私たちはアイドルってポジションにいるわけで、今みんなの顔見て思ったのは緊張とか焦りが強いなーって。」
「でも仕方なくない?私、歌うだけならまだ自信持てるけど……ダンスとってなるとどうしても焦ったり緊張するよ。」
「アルノの言ってることもわかるよ。
私たち、ちょっと完璧求めすぎじゃないかなって。」
「そうかなぁ?でも先輩たち見てたら焦るよ……。」
「そうそれ。なんで私たちは先輩と競ってるの?」
そこだ。
全員がそうだとは思わないけれど、どうしても私たちの中には
「先輩が作ったこの場所を」
「先輩たちに追いつきたい」
「先輩たちに恥をかかせたくない」
そんな気持ちがどこかに隠れてしまってる。
だからレッスンもがむしゃらにやれてるし、苦手なことを克服するために頑張れてる。
でもそれって本当に見ないといけない目的から少し逸れてしまってる気がする。
「はぁはぁ……まあようするに、アイドルって先輩の背中を追うんじゃなくてあくまでもファンがいて成り立つってことでいいです?」
瑛紗が死にかけの顔で返してくる言葉に頷く。
「私たち5期生のライブに来てくれる人たちって、私たちを観にきてるんだから、一人一人自分たちのできることをやるしかないと思う。
緊張するのもわかるし私も心臓うるさいよ?
でも……できること以上はできないってことも事実として受け止めるべきだと思う。」
ダンスの精度も歌の精度も今から上げられることは限られてる。
焦って詰め込んで無茶しても硬い顔のままの私たちじゃファンの皆さんが楽しめるものも楽しめなくなる。
必要なのは私たちは私たちのやれることしかできないってこと。
大きく気負う必要も、過度にプレッシャーを感じる必要もない。
だって私たちはまだまだひよっこなんだから。
しばらく静寂が続いたあと1人、また1人とダンスの振りの確認に戻る。
その顔はさっきより少し……ほんの少しだけ明るくなったのだった。