ep.2 勘違いと誠実さ
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別にやましいことがあるわけじゃない。
ただほかのメンバーには知られたくないことが私にだってあるし、隠れてサプライズ!というのも案外悪くない。
されて嬉しかったことを誰かに返したいというごく自然なことを叶えるには寮生の私にはまだ色々と足りないものが多い。
かといってひとしきり揃えようと思えば荷物は増えるし、他のメンバーに頼めば内容がばれてしまいサプライズにならない。
そうして出した結論が彼を誘うことだった。
昨日の撮影終わりに瑛紗が席を外した際に誘うとあっさりOKをもらって、翌朝寮のそばの公園で待ち合わせをして今は渋谷にいる。
「で、どこから周ろうか?」
いつもよりゆるっとした雰囲気の彼はカーキのチノパンに白のTシャツにカーディガンと「ザ・大学生」といったような装い。
すごく私服のセンスがダサかったらどうしようかとも思ったがまあそんなはずもなく、少しがっかりしながら二人で歩き始める。
「とりあえず見たいものはお弁当箱ですね。」
「なるほど。」
「というわけで雑貨屋さんから周ろうと思います!」
「はーい。」
下調べのメモを携帯で開きながらゆっくり歩く。
20㎝も違う身長差のため気楽にはける厚底の靴が久しぶりに日の目を浴びれて嬉しい。
別にそんなに高いわけじゃない私の身長だけれど、5期生の中では茉央と奈央以外は実は結構どんぐりの背比べで、高い靴は実はちょっと気を遣う。
なんか頭一つ出てるのも嫌だなあって思うからいつもはしまったままのこの靴を履けるのが楽しくて足取りは軽い。
「かわいい靴ですねそれ。」
「ほんとですか?」
「そりゃもちろん。
靴以外も素敵ですよ、さすがモデルさん。」
「ちょっと馬鹿にしてません?」
「ちょっとだけ?」
いたずらっぽく笑う彼の笑みにこちらも笑みがこぼれる。
そんな楽しい空気の中急に背後が気になって振り返る。
「……んん?」
「どうしました?」
「いや、今……気のせいですかね……?」
「そうですか?」
やけに背後に視線が刺さった気がしたが振り返っても別に目が合うわけでも見知った顔があるわけでもない。
もしや5期生の誰かにばれたか?
とはいっても別にやましいことをしているわけでもないから声をかけてくれればいいし、むしろ勘繰られるほうが居心地が悪い。
とはいえ、そんなことをしていてはきりがないので気にせず歩き始める。
少し通りから外れた道にあるこの店は私のお気に入りの和風なものが置いてあると聞いて行ってみたかったのだ。
「おお、壮観だね。」
「案外こうやって【和】って雰囲気って意識しないと出会わないですよね。」
「たしかに。」
ぐるっと見回した店内には服やカバンでさえ和柄テイストのものしかなく目移りしてしまうが残念ながらそんなにゆっくりとしていては今日中の欲しいものが手に入らないかもしれない。
もう一度見渡してみつけた食器類のコーナーに置かれたお弁当箱に近寄って手に取る。
まげわっぱ風のお弁当箱は私らしいし、本物のまげわっぱは高くて買えないけれどこれなら雰囲気だけは味わえる。
「どっちにしよ……。」
並んだ二色をまじまじと見つめる。
片方は本来の木の色のような薄い茶色、もう片方は漆塗りにしたような黒っぽい色に二の淵だけ赤く塗装された高級感のある感じ。
どちらも魅力的だが、個人的には薄い方だけど誰かに作っていくなら黒い方も捨てがたい。
思わず彼のことを忘れて真剣に考えこむ。
「誰に作りたいかで考えたらいいんじゃない?」
不意に彼に声をかけられて顔を向けると彼は彼で近くにあった箸置きを見ている。
別にこちらを見ることもなく
「和さんが作ってあげたい人に合う方でいいんじゃないかな、多分どっちも魅力的だからそれくらいしか決め手がないと思うよ。」
そういいながら真剣に箸置きを見て2つほど持ったままこっちを向き「それかどっちも買っちゃうかだね。」と言って笑いながら後ろをするりと通り抜ける。
私が作りたい人……そう言われて一番初めに思い付いたのは憧れの先輩の姿。
その人に作るなら……そう考えると自然に薄い色のほうに決まった。
だってさくらさんならこっちのほうが似合うと思うから。
「こっちにします!!」
「いいねえ、どっちも可愛かったから迷うよね。」
「ですね、でも作りたい人に合うのはこっちかなーって。」
「ならそれで正解だと思うよ。」
そう言いながら別々に会計を済ませると店を出て次々と回っていく。
そのまま2人で話しながら服屋で次のライブ遠征用の服を買いに行ったり、今度作ってみたかったものに足りなかった調理器具を買い足したり、また見つけた雑貨屋さんにふらっと立ち寄ったり気ままに過ごす。
別に意識してないわけじゃないけど、彼は彼で自然と時折敬語が抜けていたりするのが心地よく感じる。
そもそもスタッフさんとは言え同じ系列の学校の先輩後輩、敬語を使われても恐れ多いところはあった。
そのまま敬語が抜けてくれないかと思いながら歩いているとふと目に止まったのは先輩が出てる映画の広告だった。
「あ、久保さんが出てるやつだ。」
「おー、本当だ……すごいなぁ身近な人がこうやって出てるの見ると。」
ポスターの中に先輩がいる。
普段一緒に歌って踊っておしゃべりする人たちも一個二個上の人たちはもう雲の上のような存在とでも言えばいいのか、全然意識してないわけでもないけれど、こういうのを見ると5期生はまだまだなのだと思い知らされる。
「……。」
「せっかくだから観ていく?」
「え?」
そう言って横を見ると真剣そうにポスターを見ながら彼は指をさしている。
「俺も同級生がどんな活躍してるのか見たいし、和さんもいつかこうやってやることもあるかもでしょ。」
「いやいや、私にはまだ早いです……。」
そんな恐れ多いことは考えられないけど、でも確かにいつかそう言う日が来たっておかしくはない。
いつか、いつの日かそういった仕事をいただいた際の勉強にはなるかと思いながら少し考える。
(男の人と2人で映画って……うーん、あんまり良くない?)
申し訳ないが無警戒とは私もいかない。
先輩方の迷惑になるような行動を避けるべき身でもあるし、何よりちょっと2人でって言うのはハードルが高い。
それを迷っていると彼はじーっとポスターを眺めた後に私の方を見ずに声をかけてくる。
「さっきからついてきてる人いるね。」
「え!?」
「そっち見たらダメだよ。」
振り向きそうになったが彼の声に背筋が伸びる。
まずい、思ったばかりのことが起きるかもしれないと思うと背中に冷たい汗が滑り落ちて緊張感が強くなる。
どうしたらいいかわからない中で心臓の音だけがうるさい。
「中入って。」
「え?!でも。」
「いいから。」
彼がスーッと入っていく。
ここにいてもどうしたらいいかわからなくて慌てて後ろをついていくと彼は入り口のすぐ左の角に曲がって壁に背中をつける。
「入ってきたら捕まえて話聞くから。
なんかあったら警察ね、ストーカーの可能性もあるから。」
「え、でも危ないじゃないですか!」
「んー……まあ多分何とかなると思いますよ。」
そう言って1人サングラスとマスクに帽子の女の人が入ってきた瞬間彼が目の前に立ち塞がる。
「逃がさないですよ……ってあれ?」
彼の不思議そうな声と共に私もようやく気づく。
顔は隠れてる、でもあの私服は見覚えがあって慌てて私も駆け寄る。
「……っ!!」
その瞬間綺麗に一閃。
鳩尾に入った正拳突きにくの字に体を折りながら膝をつく。
これは多分……まずい事になった。
そう思いながら私は慌てて駆け寄るのだった。
ただほかのメンバーには知られたくないことが私にだってあるし、隠れてサプライズ!というのも案外悪くない。
されて嬉しかったことを誰かに返したいというごく自然なことを叶えるには寮生の私にはまだ色々と足りないものが多い。
かといってひとしきり揃えようと思えば荷物は増えるし、他のメンバーに頼めば内容がばれてしまいサプライズにならない。
そうして出した結論が彼を誘うことだった。
昨日の撮影終わりに瑛紗が席を外した際に誘うとあっさりOKをもらって、翌朝寮のそばの公園で待ち合わせをして今は渋谷にいる。
「で、どこから周ろうか?」
いつもよりゆるっとした雰囲気の彼はカーキのチノパンに白のTシャツにカーディガンと「ザ・大学生」といったような装い。
すごく私服のセンスがダサかったらどうしようかとも思ったがまあそんなはずもなく、少しがっかりしながら二人で歩き始める。
「とりあえず見たいものはお弁当箱ですね。」
「なるほど。」
「というわけで雑貨屋さんから周ろうと思います!」
「はーい。」
下調べのメモを携帯で開きながらゆっくり歩く。
20㎝も違う身長差のため気楽にはける厚底の靴が久しぶりに日の目を浴びれて嬉しい。
別にそんなに高いわけじゃない私の身長だけれど、5期生の中では茉央と奈央以外は実は結構どんぐりの背比べで、高い靴は実はちょっと気を遣う。
なんか頭一つ出てるのも嫌だなあって思うからいつもはしまったままのこの靴を履けるのが楽しくて足取りは軽い。
「かわいい靴ですねそれ。」
「ほんとですか?」
「そりゃもちろん。
靴以外も素敵ですよ、さすがモデルさん。」
「ちょっと馬鹿にしてません?」
「ちょっとだけ?」
いたずらっぽく笑う彼の笑みにこちらも笑みがこぼれる。
そんな楽しい空気の中急に背後が気になって振り返る。
「……んん?」
「どうしました?」
「いや、今……気のせいですかね……?」
「そうですか?」
やけに背後に視線が刺さった気がしたが振り返っても別に目が合うわけでも見知った顔があるわけでもない。
もしや5期生の誰かにばれたか?
とはいっても別にやましいことをしているわけでもないから声をかけてくれればいいし、むしろ勘繰られるほうが居心地が悪い。
とはいえ、そんなことをしていてはきりがないので気にせず歩き始める。
少し通りから外れた道にあるこの店は私のお気に入りの和風なものが置いてあると聞いて行ってみたかったのだ。
「おお、壮観だね。」
「案外こうやって【和】って雰囲気って意識しないと出会わないですよね。」
「たしかに。」
ぐるっと見回した店内には服やカバンでさえ和柄テイストのものしかなく目移りしてしまうが残念ながらそんなにゆっくりとしていては今日中の欲しいものが手に入らないかもしれない。
もう一度見渡してみつけた食器類のコーナーに置かれたお弁当箱に近寄って手に取る。
まげわっぱ風のお弁当箱は私らしいし、本物のまげわっぱは高くて買えないけれどこれなら雰囲気だけは味わえる。
「どっちにしよ……。」
並んだ二色をまじまじと見つめる。
片方は本来の木の色のような薄い茶色、もう片方は漆塗りにしたような黒っぽい色に二の淵だけ赤く塗装された高級感のある感じ。
どちらも魅力的だが、個人的には薄い方だけど誰かに作っていくなら黒い方も捨てがたい。
思わず彼のことを忘れて真剣に考えこむ。
「誰に作りたいかで考えたらいいんじゃない?」
不意に彼に声をかけられて顔を向けると彼は彼で近くにあった箸置きを見ている。
別にこちらを見ることもなく
「和さんが作ってあげたい人に合う方でいいんじゃないかな、多分どっちも魅力的だからそれくらいしか決め手がないと思うよ。」
そういいながら真剣に箸置きを見て2つほど持ったままこっちを向き「それかどっちも買っちゃうかだね。」と言って笑いながら後ろをするりと通り抜ける。
私が作りたい人……そう言われて一番初めに思い付いたのは憧れの先輩の姿。
その人に作るなら……そう考えると自然に薄い色のほうに決まった。
だってさくらさんならこっちのほうが似合うと思うから。
「こっちにします!!」
「いいねえ、どっちも可愛かったから迷うよね。」
「ですね、でも作りたい人に合うのはこっちかなーって。」
「ならそれで正解だと思うよ。」
そう言いながら別々に会計を済ませると店を出て次々と回っていく。
そのまま2人で話しながら服屋で次のライブ遠征用の服を買いに行ったり、今度作ってみたかったものに足りなかった調理器具を買い足したり、また見つけた雑貨屋さんにふらっと立ち寄ったり気ままに過ごす。
別に意識してないわけじゃないけど、彼は彼で自然と時折敬語が抜けていたりするのが心地よく感じる。
そもそもスタッフさんとは言え同じ系列の学校の先輩後輩、敬語を使われても恐れ多いところはあった。
そのまま敬語が抜けてくれないかと思いながら歩いているとふと目に止まったのは先輩が出てる映画の広告だった。
「あ、久保さんが出てるやつだ。」
「おー、本当だ……すごいなぁ身近な人がこうやって出てるの見ると。」
ポスターの中に先輩がいる。
普段一緒に歌って踊っておしゃべりする人たちも一個二個上の人たちはもう雲の上のような存在とでも言えばいいのか、全然意識してないわけでもないけれど、こういうのを見ると5期生はまだまだなのだと思い知らされる。
「……。」
「せっかくだから観ていく?」
「え?」
そう言って横を見ると真剣そうにポスターを見ながら彼は指をさしている。
「俺も同級生がどんな活躍してるのか見たいし、和さんもいつかこうやってやることもあるかもでしょ。」
「いやいや、私にはまだ早いです……。」
そんな恐れ多いことは考えられないけど、でも確かにいつかそう言う日が来たっておかしくはない。
いつか、いつの日かそういった仕事をいただいた際の勉強にはなるかと思いながら少し考える。
(男の人と2人で映画って……うーん、あんまり良くない?)
申し訳ないが無警戒とは私もいかない。
先輩方の迷惑になるような行動を避けるべき身でもあるし、何よりちょっと2人でって言うのはハードルが高い。
それを迷っていると彼はじーっとポスターを眺めた後に私の方を見ずに声をかけてくる。
「さっきからついてきてる人いるね。」
「え!?」
「そっち見たらダメだよ。」
振り向きそうになったが彼の声に背筋が伸びる。
まずい、思ったばかりのことが起きるかもしれないと思うと背中に冷たい汗が滑り落ちて緊張感が強くなる。
どうしたらいいかわからない中で心臓の音だけがうるさい。
「中入って。」
「え?!でも。」
「いいから。」
彼がスーッと入っていく。
ここにいてもどうしたらいいかわからなくて慌てて後ろをついていくと彼は入り口のすぐ左の角に曲がって壁に背中をつける。
「入ってきたら捕まえて話聞くから。
なんかあったら警察ね、ストーカーの可能性もあるから。」
「え、でも危ないじゃないですか!」
「んー……まあ多分何とかなると思いますよ。」
そう言って1人サングラスとマスクに帽子の女の人が入ってきた瞬間彼が目の前に立ち塞がる。
「逃がさないですよ……ってあれ?」
彼の不思議そうな声と共に私もようやく気づく。
顔は隠れてる、でもあの私服は見覚えがあって慌てて私も駆け寄る。
「……っ!!」
その瞬間綺麗に一閃。
鳩尾に入った正拳突きにくの字に体を折りながら膝をつく。
これは多分……まずい事になった。
そう思いながら私は慌てて駆け寄るのだった。