El sol
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「わたしは、アンジュ。弟がいつもお世話になってます」
アシンメトリースカートの白い長袖ワンピースに、藍色のローブを纏った姉を、ルフィは紹介した。
「おれの姉ちゃんなんだ!副船長にする!!」
「副船長は無理よ、ルフィ。わたし、そんなに強くないもの」
「そうか~?まー、おれはアンジュが船に乗ってくれるんだったら何でもいいけどなっ」
嬉しそうな弟を見て、アンジュは思った。
「ルフィ、身長のびた?」
「おう!もうおれの方が高いんだぞ!!」
「本当ね。わたし達がコルボ山を出た頃は、まだわたしより小さかったのに」
大きくなったのね、と自分より高い位置にある頭を撫でるが、ルフィは嫌がらなかった。
寧ろ、にししと笑っている。
「ねぇ、アンジュも〝
そう言ったのは、エースから貰った紙を、麦わら帽子のリボンの裏に縫い付けていたナミだった。
「ダメだ!!!」
すると、上機嫌だったルフィが突如、眦を決した。
「アンジュはエースの船に乗ってたんだぞ。エースが冒険してきた事を真似したって、意味がねェ!おれはおれの冒険がしたいんだ!!」
「わかってるわ、ルフィ。わたしは、あまり口を出さないようにする。どうしても必要な時だけ手を貸すわ」
「ああ、そうしてくれよな!」
「ごめんなさいね。こういう子なの」
アンジュは、困ったような笑みと言葉を、ナミに向ける。
昔であればアンジュに頼むであろう作業を、ルフィは彼女に頼んだ。
大切な麦わら帽子を預ける程、信頼している証拠だ。
ルフィには、ルフィの仲間がいて、ルフィの冒険がある。
アンジュが出しゃばるわけにはいかない。
「うん、そうだったわ。知ってた」
ナミは嘆息しながらも、ビブルカードを縫い付け終わった麦わら帽子を、船長に渡した。
アンジュが白ひげ海賊団ではナースだった事を伝えると、とりあえずはここでも看護師をする事になった。
「チョッパー先生」
「せ、先生?……おれ、先生!?」
「ええ、だってお医者さんでなんしょう?トナカイなのにドクターだなんて、チョッパー先生はすごいのね」
「そ……そんなにほめられても、嬉しくねェよ!コノヤロがっ」
「チョッパー先生は冬毛だから、より暑いんだと思うの。だからね…」
砂漠での休息中、アンジュがブラッシングをすると、チョッパーは気持ち良さそうに顔を緩ませた。
「ああ~~……アンジュはハーブの匂いがするな」
「そう?『ナノハナ』の香水かしら。匂いキツイ?」
「薬の原料にもなるやつだ。おれこれなら平気だ~」
つい、コタツにするような感覚で
接してしまう。相手は船医だというのに。
「なんかスッキリしたぞ!ありがとう!」
「ふふふ、よかった」
B・Wとの戦いの後は、麦わらの一味だけではなく、多くの負傷者の看護をして回った。
なかなか目覚めないルフィを始め、船員達は満身創痍だ。
なるべく安静にしていて貰わなければ。
「ありがとう、アンジュさん。1人でも多くの国民を救いたかったから、あなたが救護を手伝ってくれて助かったわ」
「わたしには、こういった事くらいしかできないもの。戦闘ではあまりお役に立てないし」
「それは私も……」
「いいえ。あなたは強かったわ、王女さま」
愛する国の為に、決して諦めず、強大な敵と闘い続けたビビ。
だからこそ、ルフィ達も彼女の為に、こんなになるまで戦った。
「早く起きてね、ルフィ。みんな待ってるわ」
アンジュは、未だ眠っている弟の頭を撫でた。
麦わらの一味の冒険の中、アンジュは看護の他、船番や見張り、掃除や洗濯の手伝いなど雑用もしながらルフィ達のサポートをしていた。
ある日、洗濯物を取り込み終えると、甲板でトレーニングをしていたゾロの包帯が無くなっているのに気付く。
「トレーニングするなとは言わないけれど、包帯は取らないでくれないかしら。せっかく化膿止め塗ったのにって、チョッパー先生が困ってるわ」
「動きにくいんだよ」
包帯を巻き直すアンジュに、ゾロは短く返す。
「動きにくい中で戦うのも、修行の一環だと思って、ね?」
「まァ……考えとく」
巻き終わった包帯を見て、ゾロは立ち上がった。
「てめェ、クソマリモ!!何だその態度は!?」
そっけないゾロの態度が気に入らないらしく、キッチンから出て来たサンジが怒鳴る。
「アァ!?」と、ゾロは睥睨した。
「こいつは、船長の兄貴から預かった客分みてェなもんじゃねェか。うちの船員と同じ扱いができるか!」
「だからこそ丁重にして差し上げるべきだろうが!大事な妹さんであり、お姉様だぞ!!」
「えっと、そこまで特別扱いして貰わなくても…」
「おれだって……おれだってなァ…………アンジュさんに包帯巻いて貰いてェんだぞッ!!!」
「知るか!!エロコック!!!」
以前、アンジュがサンジの怪我の手当てをしようとした時、「本物の白衣の天使!!おれを癒してェ~~!!!」と興奮してしまい治療にならなかったので、チョッパーに言われ彼の事は任せていた。
そもそもこの船では看護服を着ていないのだが、アンジュの服は白系が多い為か(今日も白のブラウスに生成色のジャンパースカート、焦茶のコルセットベルトだ)、サンジにはそう見えるらしい。
「はっ!マリモなんか相手にしてる場合じゃねェ!アンジュさん、おやつはいかがでしょう?特製ガトーショコラのチョコレートパフェです」
「あら、ありがとう」
「ナミさんのは、みかんシャーベットのフルーツパフェ!ロビンちゃんのは、甘さ控えめのコーヒーゼリーパフェだよ~」
「ありがと、サンジ君」
「いただくわ」
ナミとロビンとテーブルを囲み、それぞれに用意されたスイーツを口にする。
「看護師さんは、チョコレートが好きなのかしら?」
「チョッパーも好きよね。ほら、来たわ」
「サンジ、おれも食いたいぞ!」
「待ってろよ。おめェらのは今用意してやっから」
待ちきれないというような表情のチョッパーを横目に、アンジュはフォークでガトーショコラを一切れ刺した。
食べる?と彼の方へ差し出そうとした、その時……後ろからルフィの首が伸びてきて、ぱくりと口に入れる。
「ルフィ」
「んめェ~!!」
「おい、ルフィ!何やってんだ!?」
ウソップの制止の声も聞かず、今度は腕が伸びてきた。
「アンジュ、これうめェぞ!」
背後から抱き付くような姿勢で、アンジュの顔を覗き込み笑うルフィ。
野郎共のおやつを持ってきたサンジが、炯眼を向けた。
「おいクソゴム!アンジュさんの分を食うんじゃねェ!てめェこの前もお姉様から肉奪ってただろ!!」
「おまえ失敬だな!あれはアンジュがくれたんだ!!」
「おまえが、もっと肉が食いたいって言うからだろ…」と、ウソップは呆れ顔だ。
「まぁ、確かに?アンジュはルフィに甘いと思うわ」
「そう?」
ナミの言葉に、アンジュは首を傾ける。
ロビンは「仲が良いのね」と微笑んでいた。
「ルフィは、かわいい弟だもの。〝お姉ちゃん〟ってそういうものでしょう?」
「アンジュ~!!」
頭を擦り寄せるようにアンジュを抱き締めるルフィに、「甘えんな!!!」と数人が突っ込んだ。
「何だよ!!おれの姉ちゃんだぞ!!!」
しかし、弟は、船長だった。
ウォーターセブンでの、ウソップとの決闘。
修理不可能と言われた、ゴーイングメリー号を巡っての……。
「メリー号はお前の好きにしろよ。新しい船を手に入れて…この先の海へ、おれ達は進む!!!」
じゃあな………ウソップ。今まで…楽しかった。
ルフィは、重い決断をしなければならなかった。
「ルフィ……」
麦わら帽子で顔を隠し、泣いていた弟を、アンジュは抱き締めた。
暫くそうしていた後、ルフィは、自分から離れていったのだ。
「ダメだ……今、アンジュに甘えたら、おれは船長じゃなくなる……ッ」
様々な冒険を経て、ルフィは、成長していた。
その後、エニエス・ロビーからロビンを奪還。
フランキーが一味に加入し、ウソップとも和解。
ゴーイングメリー号とはお別れして、新たな船――サウザンドサニー号でウォーターセブンを出航した。
スリラーバークではブルックも加入し、麦わらの一味の仲間は増えていった。
そんな時――
ルフィがエースから貰ったビブルカードが、焦げて小さくなっていた。
仲間達は心配し、寄り道してもいいと言ったが、ルフィは「いいんだ、気にすんな」と、それを断った。
「万が一本当にピンチでも、いちいちおれに心配されたくねェだろうし。エースは弱ェとこ見せんの大っ嫌いだしな!」
行ったっておれがどやされるだけ、エースにはエースの冒険があるのだと。
船長がそう判断したのならと、皆は納得した様子だった。
「だよな、アンジュ?」
「ええ。そうね、ルフィ」
エースに逢いたい気持ちはある。
けれど、そのエースに言われているのだ。
アンジュはルフィの船に乗り、姉として弟を見守る。
それが、アンジュに課せられた務め。