El sol
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そして、事件は起きた。
二番隊のマーシャル・D・ティーチが、悪魔の実を奪う為にサッチを殺害したのだ。
「あいつは仲間を殺して逃げたんだぞ!!何十年もあんたに世話になっといて、その顔にドロを塗って逃げたんだ!!」
仲間殺しは大罪だ。
エースは憤慨し、白ひげや仲間達の制止を振り切り、ティーチを追って海へ出た。
親の名をキズつけられて黙ってられるか、おれがケジメをつけると。
同じ時、モビーディック号の医療室には、ひとつの看護帽が残されていた。
ストライカーに乗り、〝
以前、赤髪海賊団が宴をしていたユキリュウ島の洞窟に似た場所で、ふたりは並んで座っていた。
ティーチ率いる黒ひげ海賊団が何処かの冬島に上陸し、たった5人でその国を滅ぼしたという情報を得て訪れたのだが、どうやらこの島では無かったようだ。
メラメラの能力で火をおこし、狩りの獲物を食材に夕食を済ませた後、エースは眠った。
彼は「おれが見張ってるから、アンジュは寝ろよ」と言ったのだが、移動中は眠れないのだからと先に休んで貰ったのだ。
ここは比較的安全な場所だが、油断はできない。
どちらかが眠っている間、もうひとりは見張りの役目を担う事になる。
エースのストライカーは、メラメラの実による炎を動力に、エースがコントロールする船なのだ。
アンジュは、できれば彼の睡眠を優先しておきたかった。
不意に、座ったまま寝ていたエースの頭が、ぐらりと揺れた。
「っ――??」
エースが目を覚ました時、自身の体勢が眠りについた時とは違っている事を不思議に思った。
「……あ…?」
「エース、起きたの?」
隣にいた筈のアンジュの顔が真上に見えて、エースはやっと、自分が仰向けに寝ていたのだと気が付いた。
だが、ゴツゴツした地面に横たわっているわりに、頭は痛くない。
寝ている間に、リュックでも枕にしたのだろうか……。
――……って、違う!!
エースは飛び起きると、アンジュに謝った。
「すまねェ、アンジュ。重たかっただろ?」
いつの間にか、アンジュの膝を枕に眠っていた。
気持ちよく眠れはしたが、アンジュは動けなくて大変だっただろう。
「大丈夫よ?エースはあたたかいから」
「そっか。……じゃあ」
エースは自身のマントを広げると、包み込むように、アンジュの肩を抱いた。
「今度はおまえが眠る番だな」
「エース…」
「おやすみ、アンジュ」
「うん。おやすみなさい」
エースがいるからか、外の吹雪は止んでいた。
とても、静かだった。
〝
黒ひげが襲ったのはこの国だとわかったので来たのだが、とっくに去ったとロベールの町で聞いた。
もうひとつ、麦わら帽子をかぶった海賊の事も聞いたが知らないと言うので、エースは弟ルフィの手配書を見せ、伝言を頼んだ。
『 おれは10日間だけアラバスタでお前を待つ 』
サンディ
隣接する『カトレア』にはオアシスがある為、活気に満ちている。
そこへ逗留して数日、ルフィは未だ、現れない。
黒ひげを追わなければならないのであまり長居はできないが、エースはルフィに渡しておきたいものがあった。
自身の、ビブルカードだ。
「ルフィ…ドラムでの伝言、聞いてくれたかしら」
港近くの宿で、アンジュはルフィの船が訪れるのを待ちながら、窓から見える海を眺めていた。
「会えるといいんだけどなァ」
町を散策し、ルフィを見かけた者がいないか聞いて回っていたエースが戻って来た。
「おかえりなさい、エース」
「おう、ただいま。やっぱルフィを見たって奴はいねェな。まだ来てねェか」
「それらしい船も、まだ見当たらないわ」
聞き込みがてら食べ歩きもしていたであろうエースは、その上また食料を買い込んできていた。
もちろんアンジュの分もあるが、自分で食べる為でもある。
「お、そうだ。これはおまえに」
エースがハーフパンツのポケットから取り出したのは、小さな瓶だった。
「この町は香水が有名らしいぜ」
差し出された小瓶を、アンジュは受け取った。
蓋を開けると、清らかでほろ甘い花の香りの奥に、微かに感じるスパイシーな芳香。
「いい香り。ありがとう、エース」
アンジュは早速、髪に少しだけつけてみた。
髪飾りの花から、香るようにと。
嬉しそうに笑うアンジュを眺めながら、エースは、ある決意を固めていた。
アンジュが海軍の船を発見したのは、その翌日の事だった。
今日も町を散策していたエースだったが、海軍大佐のスモーカーと対峙、そこへルフィが飛び込んできた。
ルフィと仲間達を逃がす為、エースはスモーカー率いる海軍の追跡
を妨害。
弟達を先に出航させた。
アンジュは、ストライカーを隠していた場所に先行していた。
海軍に見つからないよう、辺りを警戒しながら離岸の準備をする。
エースが到着、乗船すると同時に、ストライカーは波の上を滑るように走り出した。
「――アンジュ」
ルフィ達の船を追いながら、エースは云った。
「おまえ、ルフィの船に乗ってやってくんねェか?」
「え…?」
アンジュの頬に手を添えると、顔を近付け、目を合わせる。
「いいか、アンジュ。これだけは言っとくぜ。おれはおまえを嫌いになったりしねェし、要らなくなったわけでもない。おまえはおれの妹だけど、ルフィの姉貴でもあるんだ。あいつは、おまえに自分の船に乗って貰いたがってた。ここで会えたのも何かの縁だ。ここからは、ルフィと一緒に行け」
真剣に告げたエースに、アンジュは穏やかに微笑み、そして答えた。
「わかったわ」
エースのテンガロンハットが、背中に落ちた。
ぎゅっと、アンジュの身体を抱き締める。
痛くないよう、苦しくないよう、優しい強さで。
離れたくない、とアンジュは思った。
本当はずっとここにいたいけれど、エースの言葉を拒絶する術を、アンジュは持たない。
「アンジュ……おれの、かわいい妹……」
名残惜しそうに、アンジュの頭を撫で、エースは離れる。
もう一度、目が合った。笑っていた。
「ルフィの面倒、よろしく頼むな」
「ええ。わたし、お姉さんだもの」
帽子を被り直したエースは、ゴーイング・メリー号に飛び乗り、ルフィにビブルカードを渡し、彼の仲間に挨拶をして……。
アンジュを残し、ひとり、ストライカーに乗った。
黒ひげは危険だ。
エースは、アンジュと離れる決心をしたのだ。
――もう、おれの後ろをついて回るだけの昔のルフィじゃなかった。あいつにはもう、頼もしい仲間達がいた。
「来いよ〝高み〟へ――ルフィ!!!」
安心した。何があっても大丈夫だと。
だから、アンジュを託してもいいと思った。
「アンジュ」
花みたいに笑った顔が好きだ。
おれを映すきれいな瞳が好きだ。
エース、と名を呼ぶ澄んだ声が好きだ。
怪我の手当てをする、温順な手が好きだ。
仲間達からいろんな事を学ぶ姿も、ルフィの前では優しい姉の顔になるところも好きだ。
帰還した時、「おかえりなさい」と迎えてくれる嬉しそうな表情が好きだ。
「少しの間、お預けだな……」