Tierra
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「サボ君、説明して」
バルディゴ大学 東の海キャンパスのカフェテリアで、サボは大学の先輩であり職場の同僚でもあるコアラに尋問を受けていた。
(因みに今日は休日の筈だったが、昨日はサボが授業はおろか仕事も放っぽり出した為、休日出勤だ。)
「妹が、おれの義姉ちゃんになるかもしれねェ……」
「はあ?」
「生まれた時からよく知る男に……つまり、エースだ!あいつに掻っ攫われた!!」
「だからどういう事よ!?意味わかんない!!」
詳しく語らないサボに、目をつり上げて怒るコアラ。
だが、彼の複雑そうな表情を見て、次の言葉を待った。
「距離があった筈だ……。アンジュはおれのこと、兄貴として接してたんだから。アンジュはエースが大好きなだけで、おれに懐いてないわけじゃなかった」
何故エースと自分ではアンジュの接し方に差があるのか、サボは漸く理解したのだ。
「ちょっと待って?じゃあ、妹ちゃんはエース君をお兄さんだと思ってないって事?」
兄妹なのにいいの?と、コアラが言外に滲ませる。
昨日はその事で一悶着あったに違いないと、サボの胸中を推し量るように。
「あ、アンジュは養女なんだ。言ってなかったか?」
「聞いてないよ!」
「結局のところ、あいつら両思いだったんだ。エースがぐだぐだ悩んで家に帰って来なくなったり、それでアンジュが不安になったりして大変だったんだけどな。ま、これでアンジュを嫁に出さなくてよくなったわけだから、おれ達にとっちゃ良かったわけだが」
「なら何で深刻な顔してるの?サボ君」
「そりゃ、いろいろ複雑だろ。養女とはいえ、アンジュはおれの妹だぞ?エースと結婚するなら、おれはアンジュの義弟になるのか?いや、おれとエースは双子だし、おれが兄貴のままでいいよな?」
「そんな事で悩んでるの……というか、もう結婚の話まで出てるわけ?」
「出てねェけど、するだろ?遊びで付き合うなんておれが許さねェよ!アンジュは大事な妹なんだぞ?もし捨てたりしたら……エースの頭蓋骨粉砕してやる」
「サボ君って、シスコンだったんだね……」
いつもルフィ君の事ばっかりだから、ブラコンだと思ってた。
コアラのその言葉に、サボは「あーっ!!」と大声をあげた。
「ちょっと、何なの!?」
「しまった!ルフィに説明すんの忘れてた!!」
家ん中ではイチャイチャすんなよ、ルフィの教育に悪い。
サボはふたりに、そう忠告していた。
エースの肩に手を置き、ありったけの力を込め、「婚前交渉は許さねェからな」とも。
故にか昨日は、以前と変わらぬ一家団欒を過ごしてしまったのである。
兄弟での暮らしが戻って、ルフィも安心していた。
だからこそ、話すタイミングを逃してしまった。
今までとは、違うのだと。
「そんでなー、ビビがなー」
その頃、ルフィはアンジュの膝の上に座り、ご機嫌で学校や放課後クラブの話をしていた。
「ルフィ?ビビちゃんって、新しいお友達?」
「ああ!ビビは今、ナミんとこに住んでんだ!ほーむ…すてい?ってヤツなんだってよ」
ナミの家はココヤシ農園という果樹園を営んでおり、柑橘を始めとした様々な果物を栽培、加工や販売もしている。
母親のベルメールは、多くの従業員を抱えるやり手の女社長。ナミと姉のノジコは、農園の美少女姉妹としてホームページやパンフレットに写真が載っていた。
「そういえば、グランドラインアカデミーから留学生が来るって、お便りに書いてあったかも」
「グランドラインアカデミーって、サボが行かされたとこだろ」
コルクボードに留めてあったイースト小からのプリントを、エースが持ってくる。
膝抱っこ状態のルフィが退かないので、アンジュが動けないのだ。
「ネフェルタリ・ビビ……アラバスタの令嬢じゃねェか!」
広大な農地を持つ化学製品メーカー〝アラバスタ〟は、植物由来の衛生用品や化粧品を製造している企業であり、砂漠の緑化事業にも力を入れている。
「ナミは香水もらったって喜んでた!おれ達も入浴剤もらったんだ!」
しししっと笑ったルフィが、ぎゅっとアンジュに抱き付く。
「アンジュが好きそうなヤツだぞ!今日はいっしょに風呂入ろう」
「ちょっ……待て待て待て!!!」
その発言に、エースはプリントを放り出してルフィに手をのばす。
「ルフィ、お前もう10歳だろ!?姉ちゃんと風呂入るような歳じゃねェだろうが!!」
「何でだよー?いいだろ別に?」
「よくねェよ!!!」
弟に、他意は無いのはわかっている。
一人で風呂に入れないわけではないが、今でもエースやサボと一緒に入る事が多く(昨日は久しぶりのエースとの入浴にはしゃいでいた)、それと同じような感覚で言っているのだと。
「……っつーかお前、さっきからアンジュに甘え過ぎなんだよ!いつまで乗っかってんだ!!」
「エース、ルフィ…っ」
「離れろ!」と引き剥がそうとするエースと、「やめろよー!」としがみつくルフィに、困ったように二人の名を呼ぶアンジュ。
「何だよ!エースはずっとアンジュのこと独り占めしてたじゃねーか!ずるいぞ、エースばっかり!!」
「はっ……?」
「ルフィ……」
確かに、ここ数日アンジュはずっとエースの看病をしていて、ルフィにはあまり構ってやる余裕がなかった。
もちろんその辺りはサボがフォローしていたし、ルフィもエースを心配して同じ部屋で寝たりしていたのだが。
こんな風に膝抱っこで甘えてくるのは、かなり久しぶりというか、珍しい。
「ごめんね、ルフィ。最近、あんまり…ルフィの話を聞いてあげられてなかったね」
アンジュが優しく頭を撫でてやると、ルフィは嬉しそうに頭を預けてきた。
「エースは兄ちゃんだけどよ、アンジュはおれの姉ちゃんなんだからな!」
その時、ルフィの腹が鳴った。
そろそろ昼時だ。
「ふふ、お腹空いた?お昼ごはんは、お姉ちゃんがルフィの好きなもの作ってあげる」
「本当か!?肉がいい!!」
「お前そればっかじゃねェか」とエースが笑う。
「じゃあな~、オムライス!!!と、ステーキも!!」
「うん、頑張って作るね」
アンジュがダイニングキッチンに向かうと、おれも手伝うとエースが来てくれたので、ステーキの方は彼に任せ、アンジュはオムライス作りに専念した。ルフィとエースの腹を満たす為には、特大サイズでなければならない。
ルフィも何かしたいと言うので、サラダに使うレタスをちぎって貰った。
ついでに、ポタジェからミニトマトを収穫してきてくれるよう頼むと、庭に出た瞬間、あっと声を上げた。
「エース!アンジュ!木に実がなってる!!!ちっせェけど!」
元々この家の庭に植えられていた、背の高い一本の樹。桜に似た白い花を咲かせていたが、去年は実などならなかったというのに。
「え?」
「お!本当だ」
一旦調理を止めて庭を見に行けば、確かに木は実をつけていた。葉に隠れていてわかりにくいが、林檎のような形の、小さな小さな実が。
「おれ、登ってとってくる!」
「待て、ルフィ!まだ熟してねェかもしれねーだろ」
「そうね……まだ青いし、固そう」
ルフィは「えー」と残念そうだが、緑色の果実はあまり美味しそうには見えないし、何より小さ過ぎる。
「デカくなるの待った方がいいんじゃねェか?食える実なのかもわからねェしな」
「ルフィ、先にごはんにしましょう?ミニトマトなら、赤いのは食べられるから。ね、とってきて?」
「おう、わかった!」
アンジュがポタジェの方へと促すと、ルフィは良い返事をしてミニトマトをとりに行く。
調理を再開する為キッチンに戻ろうとしたアンジュだったが、エースに腕を掴まれ、抱き寄せられた。
「エース?」
「なんか、嬉しくなっちまって」
エースはそう言い、アンジュの唇にキスを落とす。
ほんの一瞬の出来事だった。
「内緒な」
悪戯っぽい笑みで髪を撫でられ、アンジュは頬に朱を刷き、こくんと頷いた。
「やだ!!!」
その日の夜、帰宅したサボから話を聞いたルフィ。
「だって、アンジュがエースの妹じゃなくなるって事は、おれの姉ちゃんでもなくなるって事じゃねェか!!そんなの、おれは嫌だ!!!」
「安心しろ、ルフィ。エースとアンジュは兄妹じゃなくなるけど、ふたりが結婚すれば、アンジュはルフィの姉ちゃんだ」
「本当か?」
「ああ!今までと何も変わらねェよ」
「そっか、ならいい!!」
最初こそ拒否反応を示していたが、アンジュが姉のままだとわかると途端に機嫌を直し、破顔した。
「だからな、ルフィ。もしエースがアンジュを泣かすような事があったら、ぶん殴ってやれ」
「おう!」
「おれはアンジュの兄貴で、ルフィはアンジュの弟なんだ。アンジュは、おれ達の手で守るぞ」
「当たり前だ!!」
「もう泣かさねェよ!何の話してんだよ!!」
何故か蚊帳の外に置かれたエースは、その会話内容に反発するのだった。
「みんな、どうしたの…?」
そして、入浴中だったアンジュが、アラバスタジャスミンの香りになって出てくるまで、三兄弟の小競り合いは続いた。
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