Tierra
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「すんげェ~!イルカだ~~!!」
海中を泳ぐイルカ達を眺め、ルフィは目を輝かせた。
「こんなにたくさん……まるで、歓迎してくれてるみたい」
アンジュも、嬉しそうに綻ぶ。
弟妹の反応に、エースとサボは満足げに顔を見合せた。
今年のルフィの誕生日は、ふうしゃ食堂でお祝いした。
エースの誕生日は(エースのみブートジョロキア)ペペロンチーノ、サボの誕生日にはラーメンと、好物を食べに行ったのを羨ましがったルフィが、「おれも誕生日に行く特別な店がほしい!」と言ったのだ。
何処がいいのかと聞いたところ、「マキノんとこ!」と答えた為に、ふうしゃ食堂となった。
誕生日でなくても普段から行っているのだが、その日はマキノの特製スペシャル肉ケーキに大興奮していた。
その頃サボは未だ仕事が落ち着かず、ルフィの誕生日に費やす時間が取れない事を悔しがっていた。
誕生日の当日にふうしゃ食堂に駆け付ける事はできたが、本当は昨年のようにもっとあれこれ準備をしたかった……と。
漸く一区切りついたところで、四人で出掛ける計画を立て、こうしてやって来たのである。
ここ、海の中の水族館に。
「サボ!エース!早く来いよ~!!もうすぐチョッパーマンが来るんだぞ!」
「おい、ルフィ!先行くなって」
「チョッパーマンとコラボした、セイウチやアシカのショーがあるみたいなの。ね?ルフィ」
「おう!!」
「わかったからアンジュを引っ張るな!」
兄達は、アンジュの手を引いて走り出すルフィを追いかけた。
アンジュが着ているのは、手作りのサーキュラーワンピースだ。
バニラホワイトの生地に大きめのチェック柄の上品な配色で、ロング丈のフレアスカートがひらりと揺れてきれいだった。
様々な魚やクラゲ、ワニなどを眺め、シロイルカのパフォーマンスを楽しみ、昼食はバイキングレストランでお腹いっぱい食べた。
「なんかやわらけェ。ぷにぷにだ!」
「メロンっていうらしいぞ」
「メロン!?うまそー」
「果物のメロンじゃねェからな?」
飼育トレーナーのガイドにより、シロイルカの額に触ったり。
「おいで。そう、いい子ね」
「すげェ、回った!」
「嬉しい。とっても上手」
「賢いなァ、こいつ」
トレーナーに教わった通り合図を出すと、回ったり泳いだり。
「ありがとう。バイバイ」
「はは!手振ってる!!」
此方が手を振ると、シロイルカも手(ヒレ)を振り返し見送ってくれた。
「あっ、チョッパーマン!」
土産物を物色していると、チョッパーマンのコラボグッズがあったので、ルフィが駆け寄っていく。
その時、同じように近付いて来た一人の少年と、軽くぶつかった。
「あーっ、トラ男!」
「麦わら屋……」
互いに反応したところを見ると、知り合いらしい。
「ルフィ、お友達?」と、アンジュが訊ねる。
「おう!ノース小のトラ男だ」
ノース小とは、北の海小学校の通称である。
「トラ男じゃねェ。トラファルガー・ローだ。友達でもねェ」
「何でだよー。前に一緒に遊んだだろ?」
ルフィが言うには、以前放課後クラブの仲間達と、冒険だァ~と自転車――ガープからの誕生日プレゼントの赤いキッズクロスバイク。命名ミニメリー号――でいつもより遠い公園まで遊びに行き、他校の児童達に出会ったらしい。
ローも同じ小学校の仲間達と遊びに来ていて、一緒に海賊ごっこをしたそうだ。
いつもの公園に余所者が来たので、ナワバリ争いをしただけ……というのが、ローの言い分だったが。
「トラ男もチョッパーマン買いに来たのか?おれはこのワニのやつにする!」
話を聞かないルフィは、ワニ乗りチョッパーマンのぬいぐるみを選び持ち上げた。
「チョッパーマンなんてガキくせェ。おれはポーラーベポ派だ」
ローが手に取ったのは、隣のコーナーに陳列されていた、オレンジのつなぎを着たシロクマのぬいぐるみだった。
児童小説ながら、大人から子供まで幅広い人気がある〝ポーラーベポ〟シリーズ。
グッズも多く、ここの水族館でも限定コラボ商品を販売していた。
「ロー!こんな所にいたのか」
「コラさん」
アンジュが二人のじゃれあい(?)を見守っていると、ローの保護者らしき金髪で大柄の男がやって来た。
「突然消えたから、迷子になったかと思ったぞ」
「いや、迷子はコラさんだろ?」
そして、唐突に転んだ。それはもう盛大に、すてーんと。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……いつもの事だ。気にしないでくれ」
「本当ドジだよな、コラさんは」
軽く挨拶をした後、彼らは会計の為にレジへと向かう。
「またな~、トラ男ー」と、御機嫌で手を振るルフィ。
「トラ男くん、ルフィと遊んでくれてありがとう」
「だから違うって……」
入れ違いに、ルフィのリクエストで大量の土産物(主に食べ物。ルフィが食べたい物と、仲間達へのお土産)を購入した兄達が戻って来た。
「何だ?ルフィの友達か?」
「ええ。ノース小の子だって」
「あっ、エース!サボ!このチョッパーマンも買ってくれ」
「ああ、いいぞ!」
気前よく頷くサボに、いくら誕生日の代わりだからって買い過ぎだろ……と、もう既にたくさんの土産物を抱えているエースは思った。
「アンジュは?」
何か欲しいもんあるか?と、エースとサボの声が重なる。
「でも、今日はルフィの……」
「おれ達はアンジュにも楽しんでほしくて来たんだぞ」
三者面談の件はエースからサボに伝わっており、いつも頑張っているアンジュを遊びに連れて行ってやりたいという兄達の気持ちも、今回の遠出には含まれていた。
「じゃあ……これ」
アンジュが手にしたのは、シロイルカのぬいぐるみだった。
「小さいのでいいのか?」
「もっとデケェのにしろよ!」
そう言ってエースが渡して来たぬいぐるみは、アンジュが両手で抱える程の特大サイズだった。
「シロイルカ、気に入ってただろ?」
「こんなに大きいの、本当にいいの?」
「勿論だ!あ、そっちも買ってやるから、モーダへの土産にするか?」
「うん。ありがとう」
「なー、マキノにも土産やりてェ!」
「そうだな!ルフィの誕生日に世話になったしな」
たくさんの土産物を車に詰め、帰路に就く。
チョッパーマンのぬいぐるみを抱えたルフィは、今回も後部座席で爆睡していた。
そんなルフィに膝を貸してやっていたアンジュも、シロイルカのぬいぐるみを傍らに、いつの間にか眠ってしまったようだ。
「二人共、楽しかったみたいで良かったよ」
「だな!」
運転席のサボと助手席のエースは、そんな二人を見ては笑い合う。
兄弟で共に暮らし、こうして四人で遊びに出掛ける事ができる幸せを、噛み締めながら。
自宅に着くと、サボがまずルフィを抱っこして家に入り、屋根裏部屋へと。
エースはアンジュを起こそうとしたが、安心しきった寝顔を見ると憚られ、その身を抱き上げサボに続いた。
アンジュの部屋へと運び、優しくベッドに寝かせる。
大事そうに抱いている、シロイルカのぬいぐるみと一緒に。
「小さな白鯨、か」
水族館で、シロイルカは実はクジラなのだと教わった時、アンジュが言った。
『 じゃあ、シロイルカは小さな白鯨なのね 』
その、喜色の溢れるような笑顔は、エースに向けられていた。
白鯨は、白ひげ工房の象徴だ。
だから、エースにそう言ったのだろう。
「アンジュ……」
エースはいとおしげに、アンジュの頬を撫でた。
――可愛い……
花みたいに笑った顔が好きだ。
おれを映すきれいな瞳が好きだ。
エース、と名を呼ぶ澄んだ声が好きだ。
ストライカーに乗る時に掴まる、温順な手が好きだ。
勉強や家事を頑張る姿も、ルフィの前では優しい姉の顔になるところも好きだ。
帰宅した時、「おかえりなさい」と迎えてくれる嬉しそうな表情が好きだ。
きれいな寝顔に、思わず、吸い寄せられるように顔を近付ける。
アンジュの唇に、己のそれを重ねて。
何処にも行かなくていい。
ずっと家にいればいい
進学も就職もしなくたっていい。
アンジュを、何処へもやりたくない。
おれは、おまえを……――
「――っ」
自分のしている事に気付き、エースは弾かれるように身を起こした。
「……おれ、何して……ッ」
――こんなの、兄貴のする事じゃねェだろ……!!
「エース、荷物降ろすの手伝ってくれ」
逃げるようにアンジュの部屋を出ると、ルフィを寝かせて降りて来たサボに声をかけられた。
「サボ……っ」
「どうした?」
その質問には、答えられなかった。
アンジュに何をしたか、言えるわけがない。
「いや……何でもねェ」
サボの車から土産物を家に運び込みながら、エースは自分を責めていた。
――アンジュは、大事な妹なのに……おれは、アンジュの兄貴なのに。
ふと、庭に立つ白花の木が目に入った。
桜の後を追うように咲き誇っていた花が、その花弁を散らしていた。
頭を過ったのは、アンジュの泣き顔。
あの、夢の中の……。
「駄目だ……このままじゃ、おれは……」