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「マキノ!」「助けてくれ!!」
「どうしたの?二人して」
ふうしゃ食堂を営むマキノは、常連の青年達に唐突に助けを求められ、目を丸くした。
「十代の女の子が喜ぶプレゼントって何だ!?」
「Sweet16とか、何すりゃいいのか全然わかんねェ!!」
その言葉を聞き、マキノは理解する。
彼らは、妹へのプレゼントで悩んでいるのだ。
「アンジュへのプレゼント?」
「そうなんだ!もうすぐ誕生日なんだけどよ」
「目一杯祝ってやるって約束したのに、何にも思い付かねェんだよ」
「あなた達から貰えるプレゼントなら、何でも喜ぶと思うけど?」
「そりゃ、そうかもしれねェけどッ……!離れて暮らしてた間は何もしてやれなかったし、盛大に祝ってやりてェんだ!アンジュの欲しいもんをプレゼントしてやりてェ!!」
「けど、あれこれねだるタイプじゃねェし。何が欲しいか聞いても、思い付かないって言うしよ……!」
「そうねぇ」
兄弟の役に立ちたいと、アンジュは家事を頑張り、料理を勉強したり、ポタジェを作ったりもしている。
身近にいる女性として、マキノが相談にのる事も少なくない。
「前にね、アンジュが言ってたの。住む家も、着るものも食べるものも、生活に必要な物は全部お兄ちゃん達が用意してくれてる。だから、自分もできる事をしたいって」
アンジュの欲しいもの、アンジュの望みは、彼らとの暮らしがずっと続く事なのだ。
「あなた達やルフィと一緒に暮らせる今の生活が、本当に嬉しいのよ。それ以上に望む事なんて、無いのかもしれないわね」
マキノの清廉な笑みに、アンジュの姿が重なる。
二人は思わず赤面した。
「アンジュ~……!」
「なんていい子なんだ……!!」
しかし、それではプレゼントを決める事ができない。
再び悩み始めると、マキノが更に助言した。
「せっかく家族でお祝いするんだもの。思い出に残る誕生日になるといいわね」
「家族」
「思い出」
エースとサボは、噛み締めるように言葉を紡いだ。
誕生日当日、アンジュはこれを着るようにと贈られた服に着替えた。
綺麗なレースの五分袖、ウエストにはリボン、ふわりと広がるスカート……オフホワイトとラベンダーのバイカラードレスだ。
アイボリーのコートも着て、パンプスを履くと、サボの車に乗せられ、ヘアサロン『バラティエ』へ。
長く伸びた髪を整え、ドレスに合うヘアアレンジをとお願いし、サボは一旦店を出た。
アンジュが、今付けている髪留めは外したくない事を伝えると、担当してくれたオーナー美容師は、カチューシャ風に編み込んだ三つ編みの端に留めてくれた。
迎えに来たサボの車に再び乗り、到着したのは港だった。
車から降りようとシートベルトを外すと、サボが素早くやって来てドアを開き、恭しく手を差し伸べる。
「お手をどうぞ」
「サボ……?」
一連の言動や状況を不思議に思いながらも、アンジュはその手を取って外へ出た。
そのまま、停泊してある小型のクルーザーにエスコートされる。
そこには、エースが待っていた。
白シャツにオレンジのベスト、黒のジャケットとパンツいう格好で。
「エース……!」
「お待ちしておりました」
芝居がかった口調で一礼すると、アンジュの手を掴んだ。
気を付けろよ、と。すぐにいつものエースに戻って、アンジュを乗船させる。
「アンジュ~!待ってたぞ!!」
「ルフィ!」
暖かな船室に入ると、ルフィが抱き付いてきた。
深紅のシャツに、サスペンダー付きの黒のハーフパンツ姿だ。
車から、ふうしゃ食堂からテイクアウトしてきたパーティー料理を運び込むサボ。
コートを脱げば、水色のシャツに青いベストと、黒のパンツ。彼だけ、首にスカーフを巻いている。
アンジュの装いに合わせたのか、三人共おしゃれをしていた。
サボがアンジュのコートを預り、自分のコートと共にハンガーに掛ける。
「うおっ、可愛い……!!」
アンジュの格好を見たエースが、声を上げた。
「な、やっぱこのドレスにして正解だった」と、サボ。
「エースとサボな、アンジュに似合うのは白だ、青紫だってケンカしたんだぞ。おれが、だったら両方の色にすればいいだろって言ったら、これになった!!」
誕生日だからな、今日はお姫様だ。
革張りのソファに座らされ、アンジュはそう告げられた。
「エース、サボ、ルフィ……」
色鮮やかな花々が飾られたゆったりとした船室で、綺麗なドレスを纏い、テーブルにはたくさんの料理。
中央に鎮座するバースデーケーキは、豪華なフルーツチョコレートタルト。人気のチョコレートブランド「メモメモショコラ」が展開する洋菓子店〝メモリーズフィル〟のものだ。
「出航ォ~!!!!」
船が、動き出した。
「このクルーザー、ガープのジジイが借りてくれたんだ。操船も任せろってさ」
「アンジュには、長い間寂しい思いさせたからってよ」
エースがグラスを渡し、サボが飲み物を注ぐ。
アンジュを囲み、四人で乾杯だ。
「アンジュ、誕生日おめでとう!!!」
「ありがとう、みんな」
宴が進むにつれ、兄弟はシャツのボタンをいくつか外したり、袖を捲ったり。エースは早々にジャケットを脱いでいた。
環境故に、堅苦しい服を着る機会があったサボですら着崩しているのだ。エースとルフィにとっては、余計に窮屈だったに違いない。
それなのに、アンジュの為にときちんとした格好で迎えてくれた事が嬉しい。
「お~い!鯛が釣れたぞォ!!」
「ジジイ!いつの間に?」
「そういや、船止まってるな」
操船していた筈のガープが、鯛を捌いて持って来た。
大きな鯛のお造りが、テーブルにドンと置かれる。
「おおォ~!すっげェ~!!」
「わっはっはっ!アンジュのお祝いだ!食え!!!」
ガープはアンジュを見据えると、真剣な顔付きになった。
「美しい娘さんになったのう。再会した頃より、ずっと綺麗になった」
「おじいちゃん……」
「男所帯に女一人、ちと心配じゃったが……。顔を見りゃわかる。幸せそうで何よりじゃ」
武骨な手が、アンジュの頭をぽんっと撫でていった。
「今更になるが、すまんかったのうアンジュ。お前さんを引き取った親戚共は、養女だと知っておるものじゃと……。まさか、実子ではない事を理由に手放すとは」
苦渋の面持ちで発したガープの言葉に、兄弟達は「ん?」という表情になる。
「血の繋がりなんぞ無くても、ルフィと一緒に引き取るべきじゃった。しかし、お前なんぞに女の子を育てられるものかと言われりゃあ、強くは出れんでな。その所為で何年も辛抱させる事になってしもうて、本当に、すまなかっ……」
「えェーーっ!!?アンジュって養女だったのかァ~!!!?」
兄弟三人のそっくりなびっくり顔を見て、アンジュも静かに驚いていた。
アンジュは自身が養女だという事をなんとなくしか理解しておらず、「血縁が無いなんて聞いてない!騙された!」と、最初に引き取られた家を追い出された時に初めて強く自覚したのだが、自分以外の兄弟達は知っているものだと思っていた。
「は?知らんかったのか?いや、ルフィはともかく、エースとサボ!貴様らが知らん筈ないじゃろ」
「うるせェ!今の今まで忘れてたんだよ!!」
「ああ、今思い出した!!それより、ルフィにバラすなよこんなタイミングで!!」
「アンジュは、おれの姉ちゃんじゃなかった……のか……?」
「ほら見ろ!ショック受けてんじゃねェか!責任とれよジジイ!!」
「じゃ、今のナシ」
「ナシになるかァ!!大丈夫だぞ、ルフィ!アンジュはお前の姉ちゃんだし、おれ達の妹だ。血縁なんか関係ねェ!!」
ガープに怒ったりルフィを宥めたりと忙しいエースとサボ。
アンジュは、ルフィの側へ移動すると、彼の頭を撫でた。
「ルフィ、私ね……養女になったのは、一歳の頃らしいの。だから、血の繋がった親の事は、何も知らない。私のお父さんとお母さんは、ルフィ達のお父さんとお母さんなの。それ以外、いないの……」
「そうなのか……」
「本当のお姉ちゃんじゃないけど、一緒にいてもいい?」
「大丈夫だぞ、アンジュ!アンジュはおれの姉ちゃんだし、エースとサボの妹だ!!おれ、アンジュのこと大好きだからな!!!」
先程のサボと同じような台詞で、それ以上に真っ直ぐな気持ちをぶつけてくるルフィ。
心強い弟の言葉に、アンジュは相好をくずした。
「ありがとう。私もルフィが大好きよ」
そう言って抱き寄せると、しししっと嬉しそうに笑い、向かい合わせにアンジュの膝に乗って、より強い力で抱き締め返してくる。
大好きな、かわいい弟。
「よし!じゃあ、じいちゃんの鯛食おう。アンジュのお祝いなんだぞ!」
「うん」
それから、改めてガープに話を聞いた。
アンジュは推定1歳の頃に、港に置き去りにされていた子だった事。
近くで遊んでいたエースとサボが見付け、両親に知らせた事。
両親が警察に連れて行ったが実の親がわからず、乳児院を経て養女となった事を。
必要な手続き等は両親が行ったので、当時まだ幼かったエースとサボは詳細を知らない。
故に、真実を忘れていたのだろう。
宴の後は、デッキに出た。
空は快晴、風も穏やかで、太陽の日射しのおかげで、冬だというのにぽかぽかしていた。
「父ちゃーん、母ちゃーん!おれは元気だぞ~!!」
ガープが漁に連れて行ったりした影響か、ルフィは海を恐れていない。
寧ろ、海には父ちゃんと母ちゃんがいるんだと、両親に会いに行く感覚で船に乗る。
「あ、間違えた。おれ達は元気だぞ~!!!」
「船上パーティーだなんてびっくりしたけど、こういう事だったのね」
「ああ。家族みんなで、祝ってやりたかったからな」
「父さんと母さんにも、見せてやりたかったんだ。アンジュの成長した姿を」
「ありがとう」
色とりどりの花々を、海へと捧げた。
大丈夫。幸せだよ。そんな気持ちを込めて。
「それじゃあ、エースとサボのお祝いもしなきゃ。真ん中バースデー、おめでとう」
暫く海を眺めていたアンジュが、振り返るなり、そう言った。
「忘れてた!おめでとうな、エース!サボ!!」
続いてルフィにも同じ事を言われ、兄二人は瞠目する。
「エースとサボは双子なのに、誕生日が違うでしょう?だから、真ん中バースデーしてたじゃない」
二人のお祝いをする日に、アンジュの誕生日がわからないという話になり、それならアンジュの誕生日も同じ日にしようという事になったのだ。
エースの誕生日には、彼の好物のペペロンチーノを、サボの誕生日には彼の好物のラーメンを食べに行くのが家族の恒例行事となっていたのだが、ケーキを作ったりして家でお祝いするのは、二人の誕生日の真ん中にあたる日に行っていた。
双子の真ん中バースデー、だと。
「「――――そうだったァ!!」」
エースとサボは、アンジュの誕生日にばかり意識がいってしまい、自分達の事など頭からすっぽ抜けていたようだ。
先のエースの誕生日にはもちろんペペロンチーノを食べに行ったので、お祝いし終わった感覚もあって。
「これ、ルフィに手伝ってもらって作ったの」
アンジュは、羽織っていたコートのポケットから、二つの包みを取り出した。
そして、片方をルフィに渡す。
「おれはなー、バター混ぜて型抜きして味見したぞ!」
プレゼントは、手作りクッキーだ。
弟と妹から、兄達に贈られる。
「お前ら……」
「おれ達の為に……」
二人は歓喜に震えながら、それを受け取った。
「いつも、私達の為に頑張ってくれてありがとう」
「おれ達、エースとサボが迎えに来てくれて、一緒にいられて、すっげェうれしいんだ!」
一頻り感動した後、先に動いたのは、サボだった。
「おれの方こそ!ありがとう!!」
ルフィとアンジュ、二人を一辺に抱き締めたのだ。
「こんなかわいい弟と妹を持って、兄ちゃん幸せだ!」
「てめッ……ずりぃぞサボ!!」
エースはサボを引き離そうとするが、容易ではなかった。
ならばと先にラッピングを解き、クッキーを口にする。
「うまっ」
「なッ……エースお前!おれも食う!!」
「味もうめェけど、なんか良い匂いするよな?」
スパイシーな芳香の奥に、清らかでほろ甘い花の香り。
「シナモンジンジャークッキーと、ジャスミンティーを入れたクッキーよ。疲れがとれたり、癒し効果のあるスパイスやハーブを調べたの」
「本当だうめェ!その上、おれ達の体の事も考えてくれるなんて、アンジュは優しいな」
「二人共、夜遅くまでお仕事やお勉強したりして、大変だから……」
アンジュ……と、再び手をのばそうとしたサボを押し退け、エースがアンジュを抱き寄せる。
「エース」
「ありがとうな」
片手ではルフィの頭を撫でており、ルフィは「ああ!」と笑顔で返事をした。
その小さな身体を、サボが奪い取るように抱き上げる。
「ぶわっはっはっ!なァにをやっとるんじゃお前達は!」
操船席のある二階のフライブリッジから、ガープが笑っていた。
「船を出すぞォー!!!」
そして、クルーザーが動き出す。
花が浮かぶ海面を一周し、港への航路へ。
「また、来ような」
エースが言い、三人は頷いた。
「なー、おれもクッキー食いてェ」
「いいぞ。一緒に食おう」
プレゼントした筈のクッキーを欲しがるルフィに、サボは気前よく分けてやった。
「全部食っちまうの勿体ねェなって思ってたが、そういうのもいいか」
エースは楽しげにクッキーを眺めた後、アンジュの前に一枚差し出した。
みんなで食おう、という意味だと理解したアンジュは、それを口に入れた。
「――おいしい」