Tierra
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「妹がおれに懐かないんだが」
バルディゴ大学 東の海キャンパスのカフェテリアで昼食をとりながら、サボは大学の先輩であり職場の同僚でもあるコアラを相手に語っていた。
「妹ちゃんって、家の補修手伝った時に、差し入れとか持って来てくれてた子だよね?」
「ああ」
「ん~?サボ君、嫌われちゃってるんだ?」
「嫌われてねェよ!今朝も一緒にメシ作ったし!!」
からかうように言ったコアラに、目をつり上げて怒るサボ。
だが、続く言葉にはその勢いが無かった。
「ただ、ちょっと距離があるというか……。エースにはめちゃくちゃ懐いてるんだよな。いや、エースが甘やかしてんだと思う。過保護なんだよあいつ」
自分のルフィへの溺愛ぶりを棚に上げ、サボはエースの所為にする。
「仕方ないんじゃない?6年も離れてたんでしょ?」
「そりゃ、そうなんだけど」
サボもアンジュのことは妹として大事に思っているが、ルフィを相手にするのと同じ接し方は流石にできない。
アンジュはもう高校生、年頃の女の子だ。小さな子供ではないのだから。
とはいえ……。
「兄貴としては寂しい!!」
「もお!わかったよ。じゃあ、コレあげる」
「へ?」
コアラが鞄から取り出したのは、動物公園の割引券だった。
「一緒にお出かけでもして、楽しんで来たら?」
「いいのか?貰っちまって」
「前にね、そこで取材を兼ねたボランティアしたの。今の時期はお花もいっぱい咲いてるし、妹ちゃん喜ぶと思うよ」
そういえば、同居してから自分もエースも忙しく、未だ遠出をした事はない。遊び場といえば、近くの山や川くらいだ。
これは、良い機会なのでは。
「ありがとな、コアラ!」
「浮かれて午後の会議遅刻しないでよ?ハックだって取材先からリモートで参加するんだからね」
「動物公園ならルフィも喜ぶ!早速エースに相談だ!!」
「ちょっと、聞いてるサボ君!?」
次の休日、四人で出掛ける事になった。
動物と触れあうのが好きなルフィは大喜びで、アンジュが「お弁当、たくさん作るね」と微笑むので、ますます上機嫌だ。
サボは買い出しの為に車を出してやり、当日の弁当作りも手伝った。
「しゅっぱ~つ!!!」
サボの運転で、動物公園へ向かう。
ルフィは基本的に前の席に乗りたがるので、エースとアンジュが後部座席に座った。
「ルフィ。はしゃぐのはいいけど、窓から顔出し過ぎるなよ」
「わかってるよ!ししし、おれは嬉しいんだ!!」
満面の笑みの弟。一方、妹は静かだった。
「アンジュ、眠いのか?早起きしたもんな。少し寝とくか?」と、エース。
「ううん、平気よ」
「おれの事なら気にすんなよ、アンジュ。着くまで寝てていいぞ」
サボも運転席から声をかけた。
「でも…」
サボも早く起きて一緒に弁当を作り、運転もしている。エースだって、昨夜は帰宅が遅かったのに。
そう言いたそうなアンジュをエースが抱き寄せ、自分の肩に凭せ掛ける。
「着いたら起こしてやる。まァ、ルフィの声で起きちまうだろうけどな」
「うん……ありがとう」
アンジュはそのまま、目を閉じた。
そして、目覚ましはやはり、「着いたぞォ~~!!動物公園~~!!!」というルフィの大声だった。
「きれい……」
アンジュは、思わず呟いた。
入場エリアを抜けた先はフラワーガーデンになっており、メインストリートの両サイドは花畑だった。
「すっげェ~!海みてェだなァ~~!!」
ルフィがそう言ったのは、一面の青いネモフィラだった。
場所によって薄紫や白が混じっていて、それがまた美しい。
その向こうには、白からピンク、そして濃いピンクのグラデーションが鮮やかな芝桜が。
「アンジュ、喜んでるよな?エース」
「ああ。ルフィまで夢中だぜ」
アンジュは、カットワーク刺繍入りのホワイトコットンワンピースを着ていた。
その上から淡い青紫色のデニムジャケットを着て、動きやすいようレギンスとスニーカーを履いている。
麦わら帽子を被った弟に手を引かれ、あちこち眺めながら笑い合う。
そんな二人の姿に、サボはというと。
「かわいい…」
「あはは、今更だろ」
奥にはチューリップの森があり、様々な品種が色とりどりの花を咲かせていた。
森を抜けると、動物園エリアだ。
こちらも花や緑が豊かだった。
「腹へった!メシ!!」
「もうかよ!?」
「まだ動物園に入ったばっかだぞ?」
「いいじゃねェかよ~。先に弁当食おう!」
なーアンジュ、と同意を求めるルフィ。
アンジュは、やわらかな笑みを返した。
「景色もきれいだし、いいかもね」
辺りには休憩スペースもあり、テーブルやベンチが並んでいる。
その中のひとつで、弁当を広げた。
「うんめェ~!!!」
「ふふふ、よかった」
丸ごとバゲットサンドに肉巻きおにぎり、様々なおかずやフルーツは、あっという間に無くなった。
「でっけェな~!!」
ゾウやキリンを見上げ、感嘆するルフィ。
ライオンと一緒に「ガオー!」と吠えてみたり、サルに対抗して「ウキー!」と叫んでみたりしながら、いろいろな動物を見て回った。
「赤ちゃんがいる。抱っこされててかわいい」
「お、あっちにもいるぞ」
「ちょうどベビーラッシュなんだな。ヤギとかウサギなら、触らせて貰えるみてェだ」
〝ふれあい動物広場〟と書かれた看板を指差し、「行くか?」とサボが訊ねる。
アンジュが頷くと、エースがルフィを呼んだ。
「ルフィ、行くぞ!」
「おう!」
にしししっと笑ったかと思うと、ルフィは兄の背中に飛び付いた。
子ヤギと戯れたり、子羊やウサギと触れ合った後は、フードショップでおやつを買った。
ルフィは、ライオンと羊の顔の形の肉まんとカスタードまんを両手に。
サボとエースは、クマせんという熊の顔の大きな煎餅を。
動物パンも可愛らしく、家で食べる用にと買い込んだ。
「ほら、アンジュ」
アンジュには、ベリーチョコクレープを。ここの敷地内には、様々な品種のベリー農園もあるらしい。
「ありがとう、エース」
破顔したアンジュの頭を、エースが撫でる。
昼食時は兄弟ほど食べなかったアンジュを気遣い、これなら食べるだろうと思うデザートを選んだのだ。
「なァ、あっち池だろ?食ったらボート乗りてェ!」と、ルフィ。
ツツジに囲まれた池の向こうには、アスレチックや遊具施設がある。
そこまで行ける手漕ぎボートは、二人乗りだった。
ルフィの発案で、競争する事になったのだが……。
サボは妹との距離を縮めたいが、アンジュはエースと一緒に乗りたいのではと思っていた。
エースはそんなサボの心情を汲み、アンジュと乗れるようにしてやるつもりだったが、兄二人で譲り合っているうちに、ルフィがアンジュを連れてボートに乗り込もうとしていた。
「エース、サボ!早く乗れよ!先行っちまうぞ~」
「ルフィ、いつの間に!?」
「おい、待て!ルフィ!!」
流石にルフィにボートを漕がせるのは不安な為、エースとアンジュ・サボとルフィで分乗し、競争となった。
「エース、がんばって。もう少しよ」
「負けんな、サボ!もっと漕げ!」
2隻は、ほぼ同着で船着き場に辿り着いた。
「なっはっはっはっ!!おもしろかった!!!」
ジャンプしてボートを降り、哄笑するルフィ。
6年前の海難事故の影響か、カナヅチな弟だが、海や水を怖がらないのが救いだ。
「ルフィ!待てって危ねェから」
それはそれで危なっかしくて、心配な場合もあるのだが。
「ルフィが楽しそうで良かった」
「ああ、そうだな。アンジュも楽しいか?」
「うん。とっても」
アンジュの笑顔に、エースも安堵の笑みを浮かべた。そして、頭にポンと手を置くと……。
「それ、サボにも言ってやれよ?」
遊具エリアには、アスレチックの他にもメリーゴーラウンドや観覧車などもあり、四人は思う存分遊んだ。
帰りの車中、ルフィは爆睡。後部座席で、アンジュの膝を枕にして。
「ルフィったら、はしゃぎ疲れちゃったのね」
アンジュは、優しくルフィの頭を撫でている。
運転席と助手席には、兄二人。
「結局、ルフィが全部持ってった気がする」と、サボ。
観覧車でも、ルフィはアンジュを隣に乗せていた。
「弟って得だな」
エースは、困ったように笑っていた。
家に着き、ルフィがエースに回収されて行くと、自身も車を降りたアンジュが、サボに向かって言った。
「動物公園、楽しかった。連れてってくれてありがとう」
「アンジュ……」
照れたように微笑み、荷物を手にエースの後に続くアンジュ。
サボはハンドルに突っ伏すと、独りごちた。
「かわいすぎだろ」
後日、土産の紅茶スコーンを渡し、コアラに話したところ、「サボ君、年頃の娘との距離を測りかねてるお父さんみたいだよ」と言われるのだった。