Conceal
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それから――
「こんにちは、曲者です」
「あ~、夕凪さん。こんにちはぁ」
今日は、忍者の仕事は休み。
夕凪(女装私服バージョン)は事務員の小松田に挨拶をし、入門表にサインして忍術学園を訪問した。
「夕凪さん!来てくれたんすねっ」
「お久しぶりね」
「男と女の二つの顔を使い分け、きり丸も認めた元敏腕アルバイター…」
「そして今では、フリーのプロ忍者の夕凪さん!」
「御紹介ありがとう。でもその説明必要?」
乱太郎・しんべヱと共に、きり丸のアルバイトを手伝っていると……。
「……ちょっと待て」
「あ、土井先生。お邪魔しております」
半助が現れ、一旦作業の手を止め立ち上がった夕凪は、礼儀正しく挨拶をする。
「ああ、これはどうも御丁寧に……って、そうじゃない!きり丸!!何で夕凪君に洗濯のアルバイトなんか手伝わせてるんだ!?」
大量の洗濯物を洗っている夕凪を見て、きり丸に強い口調で問う半助。売り子等のバイトの時に手伝ってもらうという話ではなかったのかと。
「え~?だって今日のバイトがこれなんすもん。夕凪さん、明日からはまた忍者の仕事があるっていうし…。夕方から犬の散歩のバイトもあるけど、そっちやってもらった方がいいですか?」
「あのなぁ…」
「あの…わたしは構いません。こういうのも、女中を装って潜入する時とかに役に立ちますし」
「う~ん」
半助は腕組みをして暫く悩んだ後、きり丸に視線を戻した。
「きり丸!乱太郎にしんべヱも!夕凪君がやってくれるからと言って、あれもこれもと頼むんじゃないぞ!」
「「「はーい」」」
乱きりしんの三人は、よい子のお返事。
「夕凪君、あまりきり丸を甘やかさないように」
続いて夕凪にも、半助は教師の顔でそう言った。
「は、はいっ」
なんだか自分も生徒になったような気分になって、返事をする夕凪。
「うん。無理はしないようにな」
その後向けられた優しい笑みに、胸がときめく。
赤く染まった顔を隠すように、夕凪は洗濯に没頭した。
それを見ていた忍者が一人。
「あれは、夕凪…!?」
タソガレドキ忍者隊組頭 雑渡昆奈門の側近にして、夕凪とは少年期を共に過ごした、諸泉尊奈門である。
半助にチョークケースと出席簿で負けて以来、何度も挑んでは返り討ちにあっており、今日こそは恨みを晴らそうとやって来たようだ。
「何故こんな所で洗濯など…しかもあんなに大量に!まさか、あいつもあの土井半助に敗北し、捕まって下働きなんぞをやらされているのか?」
尊奈門のイメージの中の悪半助が降臨し、夕凪をこき使い始めた。
『ほら、洗濯物はまだまだあるぞ!早く手を動かすんだ!』
『ああっ…すみません、お許しくださいませ…!』
『お前は私に負けたんだ!一生此処で働いてもらうからな!』
『そんなぁ…誰か、助けて~…』
「おのれ土井半助ぇ!!」
有り得ない想像をしつつ、塀を乗り越えようとした尊奈門だったが……。
「あのぅ、入門表にサインを~」
「あーもうッ!!」
何処からともなく小松田が現れ、尊奈門は書き殴るようにサインした。
「よーし、やっと全部干せたぜ~!」
「ぼく、お腹空いちゃったぁ~」
「もう、しんべヱったら」
「そうだ。わたし、お饅頭持ってきたの」
夕凪は自身の荷物から包みを取り出す。
「バイト頑張ってる子に差し入れ。皆で食べましょう?」
「「「やったぁ~」」」
「ちょうど良かった。休憩にしないか」
縁側に、半助が再び顔を出した。
お盆にお茶を乗せて。
「土井先生…!」
「御苦労さま、夕凪君。助かったよ。きり丸はすぐ洗濯のバイトためるから…」
「い、いえ…そんなっ」
ありがとうございますとお茶を受け取り、半助の前では乙女モードな夕凪だったが、その眼が突然忍者モードに変わった。
静かに湯飲みを下ろしたかと思うと、お盆を手に取りぶん投げる。
「痛ッ!!何をするんだ夕凪!?」
頭に直撃し、姿を現したのは尊奈門。
「え…尊くん?」
「やはりお前か」
お互いが同時に発した言葉に、夕凪と半助は顔を見合わせた。
「あれ…?夕凪さんと尊奈門さんは、お知り合いなんですか?」
乱太郎が質問する。
「あ…わたし孤児だったので、フリーの忍者になるまでは、タソガレドキの忍び組頭の元で御厄介になってたの。本当は部下になりたかったんだけど、断られちゃって…」
「そうか。それで彼とも面識があるわけだ」
半助は、夕凪と雑渡の関係を伝蔵が学園長に報告する際、共に聞いていた。
夕凪がタソガレドキに居たのなら、尊奈門と会っていてもおかしくはないと、納得している様子。
「夕凪さん、タソガレドキ城でもバイトしてたんすかぁ?」と、きり丸。
「いや、バイトってわけじゃ…。確かに、尊くんと一緒に身の回りのお世話したりしてたけど」
タソガレドキ時代の事を詳しく話すのは憚られるが、何も話さないのも警戒されるだろう。
特に、半助にはどう思われているか。
敵対されやしないかと、夕凪は恐る恐る様子を窺う。
しかし、彼の反応はほのぼのとしたもので。
「それじゃあ、仲良しなんだな」
柔和な表情で、そう言った。
「ふんッ…元婚約者だ!」
「違います。嫁ぎ先候補の一人だっただけです」
何故か格好つけて宣言した尊奈門の言葉を、夕凪は冷静に訂正する。
「私が第一候補だっただろう!」
「それは、歳が近いからそうなってただけで…。高坂さんでもいいって言われましたし」
「と、とにかく!いいか、土井半助!今日こそ私はお前を倒す!そして、捕まって強制労働させられている夕凪も、解放してもらうからなッ!!」
「えっ」
そう発した夕凪と同じように、縁側で饅頭を食べていた乱きりしんも「えっ」という表情。
「尊くん、何言って…」
「ああ。わかった」
夕凪の言葉を遮り、半助が前に出る。
「土井先生?」
「まだ、夕凪君を帰すわけにはいかないからな」
君も乱太郎達と座っていなさい。
半助がそう言うので、彼らの隣に腰を下ろすと、お茶を渡される。
「ねぇ、何でこんな事になってるの?」
「実は、かくかくしかじかで~」
乱太郎が、半助と尊奈門の(一方的な)因縁を解説してくれる。
「きり丸、どこ行くの~?」
しんべヱが聞いた。
「二人が対決するなら、チケット売らなきゃ!」
「売らんでいい!!」
きり丸の銭儲けを止めた後、半助は尊奈門に向き直る。
「行くぞ…土井半助!!」
尊奈門が襲い掛かって来るが、半助は軽々と身を躱し、攻撃を避けていた。
そして取り出したのは……。
「くそぉ…またそれか~!!」
チョークが飛んで来て、尊奈門は苛立った。
また文房具を使うのかと。
「だからッ…ちゃんとした、武器を……痛たたっ!!」
「次は、これだぁ!」
懐から出て来たのは、お決まりの出席簿。
「このッ…馬鹿にするな~!!」
尊奈門が次々と手裏剣や苦無を放ち、半助が出席簿で防ぐ。
弾かれたうちの一つが、運悪く乱太郎の方に向かったので、夕凪が手で捉えた。
「びっくりした…。ありがとうございます、夕凪さん」
「どういたしまして」
その時、尊奈門がある物に気付いた。
「そっちがその気なら……こっちも乱定剣だー!!」
「何ッ?」
予期せぬ物が飛んで来て、咄嗟に飛び退く半助。
それは先程、夕凪が尊奈門に投げつけたお盆だったのだが、絶妙にカーブし、乱きりしんを避けて板敷きに突っ込んだ。
其処には、夕凪が持って来た饅頭が……。
「あ~!お饅頭~!!」
しんべヱが叫び、空中に散った饅頭をいくつか口でキャッチしたが、残りは地面にぶちまけられた。
「あ…」
半助が、「しまった」という顔をする。
尊奈門は構わず攻撃を続けようとしたが、あらぬ方向から苦無が飛んで来て、叶わなかった。
「うわあッ!!」
ギリギリで躱す事は出来たものの、物凄い殺気を感じて身構える。
「なッ…夕凪!?お前、どっちの味方なんだ!!」
「せっかく…作ったのに…」
「へ…?」
「土井先生にも、食べてもらいたかったのに……」
顔を上げた夕凪は涙目だったが、次の瞬間には苦無の連続攻撃が始まった。
「尊奈門の……莫迦ぁーーー!!」
「な、何でぇーーッ!?」
堪らず逃げ出し、塀を乗り越える尊奈門。
続いて、彼を追いかけて行く小松田の声が聞こえた。
「あ~あ…もったいない」
絞り出したように、きり丸が呟く。
無残に散らばる饅頭を見て、悄然とする夕凪。
「すまん。夕凪君…」
「先生の所為じゃありません…」
くの一が作ったものだし、どうせ食べもらえなかったかもしれないし。
胸中でそんな風に言い聞かせながら拾い集めていると、不意に頭を撫でられた。
「中にも一つ落ちてた」
そう言って、土が付くのを免れた饅頭を、半助が口にする。
「うん、うまい」
「せんせ…」
「ご馳走さま、夕凪君」
――その後の尊奈門くん With組頭――
「まったく!何で私がこんな目に遭わなくてはならないんだッ」
「そりゃあ、お前…。せっかくの休日を邪魔したら、夕凪だって怒るよ」
「組頭!?いらしてたんですか?」
「ちょっと医務室にね」
「また保健委員にちょっかい出してたんですか…」
「お前こそ、また土井先生にちょっかいかけてたんだろう?」
「私は、今日こそは土井半助に勝つつもりで…!」
「で、また負けたわけだ」
「なッ…負けてません!何故か、夕凪が私に攻撃を…」
「夕凪、今日は一年は組のきり丸のアルバイトを手伝ってた筈だけど」
「えッ?」
「あの子はバイト頑張ってるし、おいしいお饅頭作って差し入れしようかなって。乱太郎やしんべヱも居るかもしれないから、たくさん作って…もしかしたら土井先生にも食べてもらえるかもって、楽しみにしてたのになぁ」
「な、何ですかそれは!?」
「この間、夕凪がおいしいわらび餅を届けてくれた時に聞いたけど」
「ちょッ…ちょっと待ってくださいよ!どうして夕凪が、奴等とそんなに馴染んで…!というか、何故土井にまで食べてもらう必要があるんですか…!?」
「…わからないのか?」
「へ?……そうか、毒入り饅頭だ!きっと、土井半助の暗殺の依頼があって!」
「お前……それ夕凪の前で言ったら、今度こそ殺されるよ?」
「どうしてですかッ!?」
「尊奈門、お前鈍いな」
「……え、まさか…夕凪は、奴のことを…!?そんな、よりによって…土井半助だとぉーーーッ!!!」
――その後の土井先生ときり丸くん――
「土井先生。何でさっき、夕凪さんを帰すわけにはいかないって言ったんですか?」
「ん?バイトを手伝ってもらっておいて、きちんとお礼もしないまま帰せないじゃないか。まだお茶も飲んでいなかったしな」
「何だー。尊奈門さんが元婚約者だとか言うから、夕凪さんを賭けて勝負するのかと思っちゃいました。その方が興行として盛り上がったのにぃ」
「きり丸、おまえな~…」
「でも、夕凪さん凄かったっすね。一人で尊奈門さん追い払っちゃうなんて」
「そりゃ、プロの忍者だからなぁ。利吉君も、かなり警戒していたし」
「土井先生は、警戒しないんですね」
「本来ならするべきだったんだろうが…。夕凪君と話していると、どうも生徒を相手にしているような……もしくは妹を相手にしているような感覚になってしまってな。我々への敵意も、全く感じないし」
「先生、妹さんいるんすか?」
「いや…。もし居たら、あんな感じかなって事さ」
「おれも、思いましたよ。夕凪さんのこと、兄ちゃんみたいだなって。まぁ、姉ちゃんだったんすけど…。怪我の手当てしてくれて、おぶって送ってくれたり、一緒にバイトしたり……兄姉がいたらこんなかなって、ちょっと嬉しかったんです」
「おまえ、それであんなに懐いてたのか」
「えっ?」
「自覚が無いとは……。さて、洗濯物は畳み終わったな。夕凪君が乱太郎しんべヱと犬の散歩から帰って来たら、食堂で夕飯を食べていってもらいなさい。今日のお礼だ」
「はぁい!じゃあ、洗濯物返して来まーすッ」