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「組頭、お届け物です」
尊奈門が持って来た包みには、夕凪からの手紙と、団子が入っていた。
近況を綴った手紙に、雑渡は目を細める。
「私を怖がってもう連絡して来ないかと思ったが、土産まであるとはね…」
食べやすいよう餡は団子の中に入れました。口布を汚しませんように。
そんな言葉に口角を上げ、早速一本、口にする。
美味しい餡団子だと思っていると、その後の文章には目を眇める事となった。
「どれか一つはカラシ入りのハズレです…?ふーん、面白いじゃないか」
側に控えていた尊奈門、そして山本と高坂も呼び、一本ずつ団子を持たせた。
最後の一本は、もちろん自分で。
どれがカラシ入りか判らず表情を強張らせている彼らに、雑渡は食べるように命じる。
結果は…………誰の団子も餡入りであった。
「や~、うまかったね」
雑渡だけは、平然と団子を食べきった。
「あの…誰がカラシ入りだったんですか?」
「私のは違った」
「私も餡団子で…」
三人の視線が、悠々とお茶を啜っている雑渡に集まる。
「ん?夕凪がカラシなんて仕込むわけないだろう。私に当たるかもしれないのに。カラシが入っていると書く事で、我々をびくびくはらはらさせるのが狙いだったんだよ。こないだの仕返しのつもりかな、可愛い悪戯だ」
隻眼を三日月にして楽しそうに笑う組頭に、部下三名は同時にずっこけた。
休日の昼下がり、きり丸は小銭が落ちていないか探しながら歩いていた。
「あ、小銭みっけ!アヒャアヒャアヒャ」
「こーら、きり丸。早くしないか。もう待ってるかもしれないんだぞ」
先を歩く、半助が呼ぶ。
「はーい」
よい子のお返事をして、半助の後を追うきり丸。
二人が訪れたのは、町外れに新しく出来たお汁粉屋さん。
以前、利吉が忍たま達の協力を得て、伝蔵を奥方と逢わせる為に呼び出した場所である。
「あの時は伝子さんになってて驚きましたね~」
「山田先生の驚く顔を見てみたかったんだがな…」
話しながら暖簾を潜ると、奥の席で待つ娘が一人。
二人の姿を見て、花の
いただきます、と三人でお汁粉を味わう。
「……でぇ、みんなでここのおいしいお汁粉食べたんすよー」
件の話を、きり丸が夕凪に語って聞かせながら。
「本当、おいしい」
「でしょお?」
半助は、そんな二人を慈しむような眼差しで見守っていた。
あれから……半助と夕凪は、仕事の合間を縫っては、こうしてたまに逢うようになった。
必ずきり丸を伴って。
逢瀬と言って良いのかは疑問だし、結婚はまだしないという考えも互いに変わってはいない。
ただ、三人でゆっくりとした時間を過ごす。
きり丸のバイトの手伝いをする事もあるが、それもまた楽しい。
一緒に居られるだけで、今は……。
「ねぇ、夕凪さん。今日は家に来てくれるんですよね?夕飯、何作ってくれるんすか?」
「そうねぇ…おでんにしましょうか?」
「やったー!おでんッ!!」
「ちょ、ちょっと夕凪君ッ…冗談だよね?」
「お豆腐と大根とこんにゃくと、あと卵も入れた特製おでんにしますね」
要は、練り物抜きのおでんという事だ。
半助は胸を撫で下ろした。
「じゃあ、おれはバイト行ってきまーす!」
町長屋が近くなると、きり丸がそう言った。
「きり丸、おまえ今日はバイト入れてなかったんじゃ…」
「いや~、急にところてん売りの仕事頼まれちゃったんすよね。バイト代もいいし」
「きりちゃん、お手伝いしようか?」
「大丈夫っす!夕飯までには帰って来ますから」
にこぉ、と。八重歯を見せて笑い、駆けて行く。
「あいつ……」
気を利かせたつもりか、と半助は思った。
「きりちゃん、きっとお腹空かせて帰って来ますよね。頑張っておいしいもの作らないと」
「とりあえず、買い物に行こうか?」
「はいっ」
二人でおでんの材料を買い、さあ我が家にという段階で、夕凪は漸く気付いた。
「せ、先生!」
「ん?どうした?」
「わたし、男装してません…っ」
半助の家を訪ねる時は、男装して行くと決めていたのに。
お汁粉屋からそのまま、ご近所で買い物までしてしまった。
しかも、今はきり丸が一緒じゃない。
「どうしよう。途中でちゃんと、姿を変えるつもりだったのに…」
「……いいんじゃないか。別に」
「でも…」
土井先生にご迷惑が……と、消え入りそうな声で言う。
「夕凪君」
そんな夕凪を、半助の優しくも真摯な双眸が捉えた。
「きり丸が、何で一人でバイトに行ったと思う?」
「え?」
「君が困るなら、男の格好をしていてくれて構わないよ。今からでもね」
「お……おでん作るんですよね?」
「ああ、練り物抜きのな」
きり丸が帰って来る頃には、おでんの良い匂いがしていた。
「ただいま~」
「おかえり、きり丸」
「おかえりなさい、きりちゃん」
バイトに行く前と変わらない夕凪の姿を見て、へへっと笑みを湛えるきり丸。
「おでん、うまそー」
「たくさん作ったから、お隣のおばちゃんや大家さんにもお裾分けしたの」
「え…」
きり丸が半助の様子を窺うと、溜息混じりに説明した。
「隣のおばちゃん、夕凪丸君が遊びに来てると思って、干し柿を持って来てくれたんだ。あからさまにがっかりされたから、夕凪君が気を遣って、お返しにな。そうしたら、話を聞いた大家さんまで来ちゃって」
「夕凪丸の姉のお夕ですって、言っておいたけど……」
複雑そうに微笑う夕凪に、きり丸は「せっかく二人にしたのに」と内心でもどかしく思った。
いや、だけど……。
「干し柿、貰ったんすか!?」
貰い物の方も気になるのだ。
「ああ、ごはんの後でいただこう」
「夕凪さん……やっぱりずっとここん家に居てください!」
「ずっと、は……無理かな」
苦笑しながら、夕凪は器を並べる。
半助と一緒に作ったおでん。
じっくりと煮込み、味がよく染みているはず。
『土井先生、お味見お願いします』
『うん、良い味だ。流石は夕凪君だな』
『食堂のおばちゃんに、いろいろ教わりましたから。あとは、このまま煮込めば…』
『お茶でも、飲むかい?』
『あ、先生。わたしが』
『その「先生」って呼び方…』
『え…?』
『何だろうな。生徒以外にも呼ばれている筈なのに…。君にそう呼ばれると、悪い事してるような気になってくる』
『ど…どうしてですか?』
『生徒に手を出す悪徳教師みたいじゃないか…?』
『……そ、そんな事ッ!』
『いつもはきり丸が一緒だから、気にならないんだがな』
『では、何とお呼びすれば…………は、半助さん……?』
『ッ……!!?』
『ごごごめんなさい!失礼ですよね、急にこんな……っ』
『いや……。やっぱり暫くは今まで通りでいい、かな』
『はい。土井先生』
『(可愛すぎて理性が保てないなんて、言えないよな……)』
その会話は、二人だけの秘密。
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