PetitAnge
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「なぁ」
試合の翌日、貴大はオフを利用し、茉結と逢っていた。
「なんや、怒ってへん?」
「怒ってません」
「怒っとるやん」
スポーツ公園の入口で待ち合わせた茉結の表情は、いつもの花が綻ぶような笑顔ではなく、曇っている。
貴大の問いにも、堅い敬語で返して来た。
「俺が子どもに怪我させたからか?そら幸にはほんま悪い事したと思うとるけど…」
「だから、怒ってないって言ってるでしょう?」
「嘘言いなや。俺とまともに目ぇ合わせへんやんか!なぁ、ほんま頼むわ。せっかく逢えたんやし、そんな顔せんといてくれ」
未だ視線を上げずにいる茉結に、貴大が覗き込むように顔を近付ける。
「言いたい事あるんやったら、言うてや?」
伏せられていた睫毛が、震えた。
「……んで?」
「ん?」
「何で、何にも言ってくれなかったの?」
漸く、目が合う。
茉結のその泣きそうな表情に、貴大は瞠目した。
「また…何かあったのかと思った…。貴大くん、また何か事件に巻き込まれたんじゃないかって…っ」
茉結は、何の事情も知らされていなかった。
試合を観戦していて、貴大が利き足とは逆の右足でのみボールを蹴っている事には、すぐに気付いた。
だがその理由に心当たりなど無く、思うようにプレイ出来ないでいる貴大を、観ている事しか出来なかった。コナンが謎を解いてくれるまで、ずっと、不安だった。
「茉結、おまえ…」
「貴大くんは、また何かに縛られて、ピッチに立ってて…。それなのに、私はまた、見てる事しか出来ない…」
あの爆破事件と同じ、国立競技場で、貴大はまた、本来のサッカーをしていなかった。
理由もわからず、茉結はただ、混乱していたのだ。
「不安、だった…怖かった…」
貴大は顔を歪めると、茉結の頬に手をやった。目元に滲む、雫を拭う。
「すまん。堪忍な」
そして、茉結の頭を胸元に引き寄せ、ゆっくりと、髪を撫でる。
「言わへんかったんは、心配かけたなかったからや。結果右だけやと上手くいかんかったし。あの約束は、俺なりのけじめでもあったしな」
「わかってる。貴大くんが、幸君の為にした事だって、ちゃんとわかってる…。でも…私には、ちゃんと言って欲しかった…っ」
「ああ。ほんまに、ごめんな…堪忍やで」
震える肩に手を回し、ぎゅっと抱き寄せた。
胸が、痛い。
「なぁ、どないしたら許してくれる?もう、おまえ泣かせたないんや」
「……貴大くんが、楽しくサッカーしてるのが観たい」
「へ…?」
茉結は顔を上げ、貴大を見つめた。
「もう、何の事情も抱えずに、自分の為に、サッカーして欲しい。貴大くんの、サッカーを…」
「茉結…」
「それで、今度は決めてね…?ゴールの左隅」
「ああ、今度こそ絶対にな!」
おでこをコツンと合わせ、貴大は笑う。
茉結も漸く、笑顔を取り戻した。
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