PetitAnge

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「俺はサブとちゃう!スーパーサブや!覚えとけっ」

子ども達を威圧するように言った貴大は、その後、飄々と赤木にライバル宣言をした。
子ども相手のサッカー教室など興味は無く、やる気なさげ。他の選手達が子ども等と交流していようとも、その輪に入って来る事はなかった。

ふと視線を感じ、貴大が振り向く。

連れが他の選手達と話している中、ただ一人こちらを見ていた、高校生くらいの少女 工藤 茉結が目に留まった。

「何や?…何か言いたい事がありそうやな?」

「え…?」

「文句があるなら早よ言えや」

きつい物言いに、一瞬怯むも、茉結は、徐に口を開いた。

「あの…スパイクは、ちゃんと履いた方がいいと思います。怪我したりしたら、危ないですよ?」

「…っ!」

それは控えめな声だったが、思いのほか言葉がはっきりと聞こえて来た。

「余計なお世話や!」

確かに貴大は、スパイクの踵を潰して履いていた。
サッカー教室に気が乗らない故の行動だったが、敢えて指摘されると腹が立つものだ。
貴大とて、このままピッチに立つつもりはない。

「貴大」

先輩の比護がやって来て、貴大を窘める。

「彼女の言う事は尤もだと思うぞ。心配して貰ったのに、怒るんじゃない」

「せやかて…っ」

「あれ?君は…」

ふてくされる貴大を余所に、比護がまじまじと茉結の顔を見た。

「あの、すみません…。兄もサッカーをやっているので、気になってしまって…」

茉結が、肩を窄める。

「何や比護さん、こんなガキくさいのがタイプなんすか?」

「こら、失礼だぞ。そういうんじゃない。なぁ、君…もしかして工藤の?」

「あ、はい。工藤新一の妹で、茉結といいます」

「あのっ、ボク達親戚なんだ!ね~?茉結姉ちゃんっ」

「う、うん」

妹が絡まれていると思ったのか、見た目はコナンな新一が駆け寄って来て、助け舟を出した。

「へぇ、そうか。君もコナン君のように、工藤にサッカーを教えて貰っているのかい?」

「いえ、今はそんなに。小さい時は、一緒に遊んだりしてましたけど」

「そうなのか?勿体無いな。コナン君のプレイを見てると、彼は教えるのも上手いようだから」

茉結とコナンが顔を見合わせる。
「だって本人ですから」とは言えず、お互いに苦笑を漏らした。

「比護さん。その工藤って、そないに凄い選手なんすか?」

「ああ。お前さっきのコナン君見てなかったからなぁ」

「ふーん…」

よく知らぬ工藤新一という男を、チームの先輩が絶賛する。貴大は、なんだかあまり良い気がしなかった。

「おい自分」

「え…私ですか?」

「この俺が特別にサッカー教えたる。来いや」

貴大が指名したのは、コナンではなく茉結だった。

「でも、今日は子どもサッカー教室で、私は付き添いで来ただけですし……」

「ちょっとぐらいええやろ。そのごっつい工藤とかいうヤツの妹なら、少しは蹴れるんやろ?」

「おい貴大!」

挑発する貴大を、比護が咎める。
しかし、貴大はスパイクを履き直し、ピッチに入った。

茉結…」

コナンが、新一として心配している。
茉結はそんな兄を見ると、決意したように微笑んだ。

そして、待っている貴大に視線を移す。

「わかりました。お願いします」

そう言って、ピッチへと歩いて行った。

蘭や園子、少年探偵団等…周りの視線が、二人に集まる。

「ボールはお前からや」

トンッと、貴大は茉結の足元にボールを転がした。

「俺を抜いてシュートしてみろや。簡単やろ?」

「…はい」

茉結は真剣な眼差しでボールを蹴った。

「…あっ!」

しかし、すぐに貴大がボールを奪ってしまう。

「あかんな。もう一度や」

貴大が茉結にボールを返した。
茉結は再びドリブルで貴大を抜こうとするが、また貴大に阻まれてしまい、どうしてもシュートが打てない。

「何や、大した事ないなぁ。お前の兄貴も、そんなもんなんか?」

何度目かにボールを奪った時、貴大が意地悪く笑った。
茉結が悔しそうに唇を引き結ぶのを見て、ご満悦だ。

「ちょっとー、少しくらい手加減しなさいよ!女の子相手にひどぉーい!」

園子が野次を飛ばしたが、貴大は意に介さなかった。

茉結ちゃん、頑張って~!」

茉結お姉さーん!!!」

蘭や子ども達の声援も届く。

「俺の茉結ちゃんを虐めやがって…何なんだアイツは!?」

「おっちゃんのじゃねーし」

有希子似の茉結を気に入っている小五郎は、貴大に敵対心を燃やしている。
そんな小五郎に突っ込み的呟きを漏らしながらも、コナンは茉結を目で追った。

「ちょっと。いいの?お兄さん。可愛い妹がかわいそうな事になってるじゃない」

「わーってるよっ!けど、茉結のヤツ意外と頑固だからな。俺がやめろっつったって…」

「何か教えてあげた事ないわけ?必殺技とか」

「ガキの遊びでやってただけだぞ?必殺技なんて…っ!」

哀の言葉に、コナンが何かを思い付く。
しかし、他人の目がある為、新一としてではなく、コナンとして伝えなくてはならない。

茉結姉ちゃあーーーん!!」

一際大きな声援で、茉結の耳を傾けさせる。

「リフティング得意でしょー!?見せてぇ~~~!!」

小学1年生の甘えた声に乗せながら、アドバイスを伝える。

「は?リフティング?」

対峙していた貴大が、クエスチョンマークを浮かべていると、茉結はドリブルを止め、ボールを軽く蹴り上げた。

トン…っと、貴大の胸元辺りに軽くボールがぶつかり、跳ね返る。

茉結が、笑みを取り戻した。

跳ね返ったボールを、先程コナンがやっていたように、脚、膝、踵、頭などで、リフティングを始める。

「何やてっ?」

貴大がボールを奪いに来るが、器用にボールの軌道を変え、それを阻止する。

「ハッ!いくらリフティングが上手くても、ボール運べへんかったら意味ないで!」

貴大が言うと、茉結はドリブルの体勢に入った。――が、ボールは芝生を転がらない。
茉結はリフティングの容量で、前方に蹴ったボールを足で弾きながら、ゴールへと向かって行った。

「お前…生意気や!」

ゴール前、茉結がボールを蹴る瞬間を狙い、インターセプトを試みる貴大。
茉結はそれを見越して、寸前で蹴る方向を変えた。

ボールは、貴大が出した足とは反対に飛んで行く。
茉結は、それを追った。

「なっ!?」

絶好のポジションで、茉結はシュートを狙う。
歓声が起きた。

「ぁ――っ」

ところが、茉結はボールを蹴る寸前で、足を滑らせて体勢を崩した。

思わずぎゅっと、目を瞑る。

「……大丈夫か?!」

気が付くと、貴大に身体を支えられていた。

ボールは、何処か別の方向へ転がってしまっている。

「ぁ……私…?」

「シュートくらいちゃんと決めろやボケ!…まぁ、その靴やったらやりにくいわな。……すまん」

茉結を立ち上がらせながら、貴大は外方を向いて、小さくそう言った。


「ダメですよぉ真田選手。今日は子どもサッカー教室なんですから」

「あ、すみませんっ」

運営スタッフから注意を受け、反射的に謝る茉結
すると、スタッフが茉結の足下に目を留めた。

「君、ローファーじゃないか。よくその靴であそこまで…。怪我は無いかい?」

「はい、大丈夫です。本当に、すみませんでした…」

茉結は頬を赤らめ、再度謝罪する。
しかし、貴大の方は、悪びれる様子も無い。

「別にええやないですか。こいつかてまだ15~6でしょ。じゅーぶん子どもっすよ」

「お前もな、貴大!」

比護に頭を押さえつけられ、「ぐわぁ!」っと声を上げる。

「すみません、ウチの真田が。後でちゃんと説教しときますんで。ほら貴大お前も謝れ!」

「………すんませんでした」

ピッチから出ると、比護は改めて茉結を呼び止めた。

「君もすまなかったな。コイツ、君が可愛いから、ちょっとからかってやりたかっただけなんだ」

「なっ!?そんなんちゃいます!比護さんが工藤工藤うるさいから…っ!」

「だからその妹に意地悪してからかったんだろ?お子様なんだよお前は!」

わしゃわしゃと比護に頭をかき混ぜられ、貴大が呻く。
茉結は慌てて止めた。

「あのっ…私も、楽しかったですから!ありがとうございました。真田さん」

微笑んでお礼を言った茉結に、二人は攻防を中止した。

「しかし、君のリフティング、凄いね」

「小さい頃、兄に憧れて、リフティングだけはいっぱい練習したんです」

後方で、コナンが満足げに笑った。

「ホントホント!茉結お姉さん、かっこよかったよ~!」

「真田選手相手に、すごかったですっ」

「サッカー選手になれるんじゃねーか!?」

歩美・光彦・元太も、茉結の周りにやって来た。

現役サッカー選手の自分より、茉結ばかり一方的に賞賛する子ども達に、貴大は僅かに眉を寄せる。

「ありがとう。でも、真田選手は、かなり手加減してくれたのよ?」

「え~?そうかぁ?」

「だって、真田選手は本来フォワード。ストライカーだもの。でも、最初から私にボールを持たせて、守備をしてたでしょ?」

「あっ、そっかぁ!」

「スーパーサブ!ですもんねっ」

「うん。真田選手は、きっと実力の半分も出してないわ」

茉結の言葉で、子ども達は貴大に尊敬の眼差しを向ける。
貴大は当然とばかりに笑ってみせた後、茉結に視線を移した。

比護が茉結に、質問を重ねる。

「でも、何でリフティングだけなんだい?サッカーを続けていれば、きっと上手くなれたのに」

「それは…」

茉結ははにかみながら、その後を続けた。

「サッカーしてるお兄ちゃんが格好良かったから、一緒にやるより、見ていたかったんです」

「このブラコンが」と、園子が呟く。蘭が苦笑し、「園子」と宥めた。
自慢げに笑うコナンには、哀が呆れた視線を向けていた。

「ほ~お」

貴大が前に出て、茉結を見据える。

「お前の兄貴が凄いんはよう解った。けどな、俺の方がもっと凄い!」

「貴大…お前なぁ」

「せやから、今度の試合観に来いや!俺がどんなにカッコええか見せたるっ」

「えっ…?」



茉結はその日、帰り際半ば押し付けられるようにして、ビッグ大阪vs東京スピリッツの観戦チケットを、貴大に渡された。

「絶対来いや」

「は、はいっ。あの、ありがとうございます」

「ええか!?逃げんなよ!!」


当日、そのスタジアムで何が起きるかも知らずに……。



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