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満月の夜には犯罪が増えるとまことしやかに言われているが、その夜も、街には悪さをする者の姿があった。

閉店後の飲食店から売上金を奪おうと、鍵を壊して浸入した窃盗犯のグループだ。

「おい、早くしろ!さっさとずらかるぞ」

「待ってよぉ。何をそんなに焦ってんの?」

「聞いた事あんだろ。満月の夜にだけ現れる、金色の魔女の話」

「悪さしてるヤツを取っ捕まえて懲らしめるっていう、あれか?」

「何でも空飛んでるらしいぜ」

「魔女って、そんなのいるわけ……」


「そういう事しちゃいけないんだよ」


外に出た瞬間に聞こえた、その澄んだ声に、三人組の窃盗犯は、ひきつった悲鳴をあげた。

いつの間にか現れた、黒いワンピース姿の女が、宙に浮いていた。
月の光に照らされた金髪と、紫がかった銀色の瞳が、怪しく煌めいている。

「で、出たぁあああァァ!!」

魔女に向かって銃を乱射する窃盗犯達。
だが、その銃弾は魔女の手前でぴたりと静止した後、全てが地面に落下した。

「うっ……うわあぁああぁあ!!!」

金の入った袋を持ち、逃走用の車両に乗り込む窃盗団だったが、その車が走り出す事はなかった。

「逃がしません」

車ごと持ち上げられ、浮かんでいた。

「ひ、ひぃッ」

「どうなってんだよォ~!!?」

魔女はそのまま飛んで行くと、警察署の前に、ぽいっと投げ捨てる。

「ばいばーい」

無垢な笑顔で手を振り、〝金色の魔女〟は姿を消した。

ひっくり返り潰れた車の中に閉じ込められた窃盗団は、署内から出て来た警察官達に助けを求め、魔女の話と共に自分達の悪事も喋ってしまい、逮捕された。




「どう思いますか?ピッコロさん」

その頃、ピッコロは天界にいた。
相談したい事があると、デンデに呼ばれたのだ。

先代の地球の神と融合したピッコロは、デンデと同じく天界から下界を見通す事ができる。
その術を用いて見ていたのは、〝金色の魔女〟と呼ばれる人物。

「彼女は悪人を退治しているだけで、悪い事はしていないんですが、少しやり過ぎかなと思う時もあったりします。それに、あの独特の気……地球の者ではないような。かといって、邪悪な気配は感じません。寧ろ、無邪気といいますか……」

「ああ、気が凪いでいる。オレも此処から見ていなければ、存在を知る事もなかっただろう」

「現れるのは、満月の夜にだけ。場所は毎回違っていて、何処に姿を現すのかはわかりません。瞬間移動しているのか、いつの間にか別の街にいるなんて事も……」

 一体、何者なのか?

ピッコロが持つ、神だった頃の記憶の中にも、そんな者は存在しない。
ミスター・ポポも、解らないという。

脅威だとは思わない。だが、この胸騒ぎは何だ。

「次に現れるのは、また一月後か……」






「……お腹すいた」

朝、目を覚ました栞音は、寝巻きのワンピース越しに、腹部を撫でた。


栞音ちゃん、今朝はよく食べるだなー」

「ぁ……ごめんなさい、わたし…」

「謝る事ねぇだよ。いつもは少食だから、たくさん食ってくれて嬉しいべ。栞音も悟天も成長期なんだ。どんどん食べてけろな!」

サイヤ人特有の、〝ずっと小さくて、ある時から急に大きくなる〟成長をした悟天と栞音

たまにではあるものの、栞音の食事量が増えたのはその成長の影響だろうと、チチは嬉しそうに追加の料理を取りに行った。

「おかあさん、また作りすぎちゃったんだね。おとうさん居ないのに」

「うん……。おとうさん、まだビルス様のところにいるのかな?」

「ベジータさんも一緒だし、当分は帰って来ないかもね」

悟空が修業で家をあけるのは珍しくなく、家族は慣れている。
だからといって、全く寂しくないというわけではない。

悟天と栞音はチチを喜ばせようと、朝食を食べられるだけ食べ、デザートの杏仁豆腐まで平らげて登校した。

悟天と共に筋斗雲に乗った栞音の、左右に分けた三つ編みには、今日も紫色のリボンが編み込まれていた。









 そして、次の満月の夜――

邸宅に押し入って住人を襲い、金品を強奪していた強盗犯達が、〝金色の魔女〟に遭遇した。

「何でそんな事するの?」

上段蹴りを喰らい、一人は失神。
車に逃げ込む残りのメンバーを見て、魔女は両手を頭上に翳した。すると、銀色に光る三日月状の刃が現れる。
放たれた刃は、逃走車を真っ二つにし、爆発を引き起こした。

「いけない事するおじさん達は、やっつけなくちゃ」

再び作り出された三日月の刃は、倒れ伏す彼らを直接狙っていた。

「よせ!死んでしまうぞ!!」

それを制止したのは、ピッコロだった。
デンデが天界から魔女の姿を探し、場所を伝えたのだ。

「あはっ」

魔女は、嬉しそうな笑みを浮かべた。嫣然と。

「こんばんは。ピッコロさん」

自身の名を呼ばれた時、ピッコロは確信した。

気の種類も、顔つきも、何もかもが違っていて、対面するまではわからなかったが、〝ピッコロさん〟と紡ぐこの声だけは間違いようがない。

「夜遊びとは感心しないな……栞音

パトカーと救急車のサイレンが、近付いてくる。
先程の爆発で、この場所に向かっているようだ。怪我人達は任せるとして、移動した方が良いだろう。

「付いて来い!説教はそれからだ」

ピッコロはマントを翻し、高速で飛んでいく。

「鬼ごっこ?やる!」

栞音は楽しげな表情を見せると、すぐにピッコロの後を追い飛び去った。


荒野まで飛んで来ると、ピッコロは宙に浮いたまま振り返る。……と、栞音が勢いよく突っ込んで来た。

「うおッ!?」

「ピッコロさん、つかまえたっ」

否、抱き付いてきたというべきか。

普段とは違う栞音に、ピッコロは動揺し、困惑していた。

栞音……おまえ、超サイヤ人になったのか?」

そう言いながらも、こちらは確信が持てなかった。

碧眼ではなく、紫銀の瞳の鋭い目付き。煌めく金糸の髪は、逆立つというよりもふわふわと柔く流れて浮かんでいる。
月の光を思わせる静かで美しい月白のオーラは、気を放出しているというよりも、揺蕩う水を纏っているかのようだ。

今まで見てきた超サイヤ人とは、明らかに違う。

「あのね、ピッコロさん!わたしね、強くなったよ」

そして、神秘的で大人びた見た目に反し、いとけない言動。
体は小さくとも礼儀正しく、控えめだった栞音とは真逆だ。

「だから、遊ぼ?」

栞音はピッコロから距離をとると、胸の前で手のひらを向かい合わせ、気を集中させた。

薄い気の膜で作られた、シャボン玉のような小さな球体がいくつも現れ、栞音が手を左右に広げれば、ピッコロの周りをふわふわと漂う。

「これは、あの時の……?」

ピッコロは、瞠目した。
まだ赤ん坊だったパンをあやす為に、栞音が作り出したものと同じだと。

だが、栞音が手のひらを握り込むと、球体はひとつひとつがくっついてリング状になり、ピッコロの体を締め付けた。

「何……ッ!?」

そして、再度、その手を開いた時……

「ばぁん」

爆発が起こった。

「あははっ」

「ぐっ………栞音……!?」

「わたし、強いでしょ?役に立つでしょ?ねぇ、ピッコロさん!」

栞音の蹴りが、拳が、立て続けにピッコロを襲う。


――何だこれは!?今までの栞音の攻撃とは、レベルが違い過ぎる!!


今の栞音は、攻撃を――相手を傷付ける事を恐れてはいない。

無垢なのだ。まるで、対決ごっこやヒーローごっこをして遊ぶ幼子のように。

「はあっ!」

飛び蹴りを喰らい、ピッコロは岩山に叩き付けられた。

栞音は浮かびながら、不満げな顔で見下ろしている。

「ピッコロさん、何で反撃してくれないの?」

「ふん……この程度、オレが手を出すまでもない……」

「そっかぁ……それなら」

栞音は、両手を額に翳した。
悟飯の魔閃光の構えに似ているが、少し違う。

気が溜まっていくのを見ながら、ピッコロは焦燥した。
先程はああ言ったが、本音ではない。

ただ、栞音に攻撃したくない。それだけだった。


――まずいぞ。あれを喰らったら……!


気が溜まってできた球体から、気功波が放たれた。

それは岩山を貫通し大穴をあけたが、ピッコロが居た場所に残されていたのは、ターバンとマントだけだった。

「上?」

上空にのがれたピッコロの気を感じ、栞音は振り仰いだ。

稽古をつけて貰っていた時には見た事が無かった、触角を露にしたピッコロの姿がある。

ピッコロは自身の腕を伸ばし、栞音の体に巻き付け拘束した。

「もう終わりだ、栞音。家に帰れ」

「やだっ」

「我が儘を言うんじゃない!帰るんだ!!」

好機であるにもかかわらず、ピッコロは未だ反撃のそぶりを見せない。
ただ、栞音を捕まえているだけだ。

「どうして……っ」

栞音の、揺蕩う水のような月白のオーラが結び合わさり、分厚い膜を形成していく。
ピッコロの腕を押し返すように、膨らんで。

「くうう……!」

ピッコロには、覚えがあった。
栞音に重傷を負わせたあの日……ほんの一瞬だけ感じた、静かで、それでいて、研ぎ澄まされた気。

その気が爆発、弾けた瞬間、ピッコロの腕が千切れ飛んだ。

「ぐああーー!!」

辛うじて着地したものの、苦悶の表情で膝をつくピッコロ。
腕は半分無くなり、紫色の血が噴き出している。

失った腕は生やす事ができるが、かなりの体力を消耗する。
ピッコロは息を乱しながら、新しい腕を一撫でした。

「これでおあいこだね」

言いながら、栞音も傍らに降りてきた。
着地はせず、浮かんだまま。

「どういう…意味だ?」

「だってピッコロさん、わたしに怪我させた事、気にしてるんでしょ?これでお互い様だもん。もう気にしなくていいよね」

栞音、オレは……」

「また、修業つけてくれる?」

ピッコロの顔を見つめる栞音
その懇願するような瞳を見ていられず、ピッコロは苦しげに目を逸らした。

「すまん……前にも言った通り、オレには無理だ」

栞音は、また闘い始めるだろうか。

サイヤ人は、瀕死の状態から回復すると大幅に力が増すという。
今の栞音の状態――他のサイヤ人達とは異なる特殊な変化――が、自分が瀕死の重傷を負わせた事に起因しているのなら、責任をもって全て受け止めよう。

そう覚悟していたピッコロだったが、その耳は微かな嗚咽を聞き取った。

「ッ……栞音?」

真珠のような大粒の涙を零す栞音に、驚愕する。

「うえ~ん!!」

「!!!?」

泣くのを堪えたり、悲しげな表情を見せる事はあったが、栞音がピッコロに涙を見せたのは初めてだった。
まして、幼子のように声をあげて泣くなど。

「お、おい……っ」

どうしたら良いかわからず、あわてふためくピッコロ。
悟飯も悟天も幼い頃はよく泣いていたので慣れているが、栞音の場合は勝手が違う。

まさか首の骨をへし折るぞとも言えず、狼狽えるばかりだ。

「何で?何でわたしはダメなの?おにいちゃんやパンちゃんばっかりずるいよぉ」

「そ、それは……」

「わたしが弱いからいけないの?いっぱい手加減しないと、すぐ死んじゃうから?わたし、強くなったもん。もう怪我なんかしないからぁ……」

だから、そんな事言わないで。
泣きながら、縋るように身を寄せてくる栞音

ピッコロは、その身体を抱きかかえる形で座り込んだ。

栞音、聞いてくれ」

涙で溶けてしまいそうな瞳と、目を合わせる。

「おまえを殺しかけた時、血の気が引いた。もう二度と、こんな目にはあわせたくないと思った。修業とはいえ、オレはもうおまえを相手に攻撃などできん。おまえを、傷つけたくない……」

「やっぱり……わたしが、弱いから」

「それは違う」

「違わないよ!わたしがもっと強くて、超サイヤ人にもなれて、おとうさんやおにいちゃんみたいだったら、ピッコロさんと一緒に修業できたのに。悟天ちゃんやパンちゃんみたいに、小さな頃から素質があったら、ピッコロさんに修業をつけてもらえた。わたしだけ、わたしだけが、ピッコロさんに認めてもらえない……っ」

栞音……!」

「何でなの…?わたしだって、半分はサイヤ人なのに……!!」

滂沱と流れる涙は、止まらなかった。
今まで抑え込んでいた気持ちと共に。

地球人としての自分と、サイヤ人としての自分の葛藤。
それこそが、栞音に特異な変身をさせたのだろう。

月が真円を描く時こそが、サイヤ人の本領を発揮できる時。それは尻尾を持つサイヤ人の場合であり、満月を見ると大猿になるというものだった。
栞音には尻尾が無いので、本来ならこれは摘用されないが、異なる形での変化をもらたしたのだ。

「わたし、もっとピッコロさんと一緒にいたい……傍にいたいの。もっと、わたしを見てほしいの。もう、何もできない自分はいや。わたし、わたし……」


 ピッコロさんが好きなの


「――知っていた」

ピッコロは耳が良い。栞音の発した声がどれだけ小さくとも聞き取れるし、言葉にせずとも伝わってくる。

「オレは、恋愛というものが理解できん。おまえがオレに向ける感情は、悟飯と同じようなものだと思っていた。故に……いつかは悟飯にとってのビーデルのような人間が現れ、そいつと結婚するのだろうと」

「違う……違うよ、ピッコロさん。わたし、ピッコロさんしか好きじゃない。他の人と結婚したりしないっ」

「わからんだろう。これから事は」

「わかるもん!ずっと、好きだったんだよ。これからもずっと、ピッコロさんが好き」

栞音……」

「ピッコロさん、だいすき」

普段の栞音なら、絶対にしないであろう告白と抱擁。

〝金色の魔女〟状態になると、感情ままに行動したり、言葉にする事ができるようだ。

「……オレは、ナメック星人だ。地球人やサイヤ人とは、何もかもが違う」

「わかってる……だから、今まで言えなかったの。ピッコロさんが、困るから」

「確かに困っている。オレは、一体、どうすればいいんだ……」


――こんな気持ちになる筈がないのに。


ピッコロは、栞音の髪をそっと撫でた。

「おまえの事を考えると、いつものオレではいられなくなる。悟飯にも、パンにも、こんな風にはならんのだ。栞音にだけ……おかしいだろう」

「……ピッコロさん……?」

「オレは、おまえに幸せになってほしい。元魔族など、やめておけ」

「やだ。ピッコロさんがいい。ピッコロさんが好き」

栞音の抱擁が、更に強くなる。
ぎゅうっと、決して離れまいとするように。

「……こんなに聞き分けのないおまえは、初めてだな」

「お願い、ピッコロさん……ピッコロさん……」

ピッコロの腕の中で、栞音が身を捩る。
涙に濡れた顔を上げ、至近距離で目が合ったかと思うと、瞼が落ちた。

栞音……んッ」

やわらかな花びらに触れたような、しかし、あたたかな感触だった。

それが、栞音の唇であると認識した瞬間、ピッコロの腕は空をきった。

「な……ッ?」

今、確かに抱いていたのに。
そこにあった筈のぬくもりが、消えていた。

栞音……?何処だ?何処にいる!?栞音!!!」

立ち上がり、辺りを見回し、気を探るが、栞音の気が感じられない。
どれだけ遠くまで探っても見付けられず、ピッコロの心臓は早鐘を打っていた。


――まさか、そんなバカな……っ!!


《 ピッコロさん! 》

天界から声が届き、ピッコロは飛行しながら《 デンデか!? 》と返した。

栞音さんは、家に戻っています。瞬間移動したみたいで…… 》

《 本当か!? 》

《 もうすぐ夜明けだからでしょうか……姿も元に戻っていて、眠っているようです。 》

《 そうか…… 》

ピッコロは、安堵の息を漏らした。
普段の栞音と〝金色の魔女〟では、気の種類が違う。
ピッコロは、今まで側にいた金色の方の気を探っていたので、感知する事ができなかったのだ。

《 ピッコロさん、とりあえず回復を。神殿に来てください。 》

《 わかった…… 》





神殿でピッコロを治癒しながら、デンデは語った。

「これまでの移動の様子から考えると、栞音さんは悟空さんほど……瞬間移動を使いこなせていないような気がします。明確な目的地があるわけではなく、場所を転々としていた印象だったので」

「悟空の瞬間移動なら、あいつが触れていた奴も、一緒に移動している筈だ。だが、栞音の場合は……オレに触れていたにもかかわらず、移動したのは栞音だけだった……」

「明け方近くなると姿を消すのは、変身が解ける前に家に戻っていたんですね。地球の生物に備わっている、帰巣本能というものでしょうか……?」

「家には悟天がいるからな。生まれた時から一緒にいる慣れ親しんだ気が、目印となっているのかもしれん」

回復したピッコロは、デンデに礼を言うと、ターバンとマントを身に纏う。

「あの、ピッコロさん……」

「何だ」

「ぼくもナメック星人ですから、恋とか愛とか、よくわかりません。でも、この地球の神になって、地球人の暮らしや、どうやって家族になって、子孫を残していくのかを学びました」

先代の神との融合で、記憶をまるごと引き継いだピッコロ。
ナメック星からやって来て、地球の事など何もわからないデンデに、後見人として知識を授けた。

幼くしてひとり故郷の仲間達と離れたデンデにとって、ネイルと同化したピッコロの存在は大きい。

「確かに地球人は、ぼく達とは何もかもが違います。でも……誰かのことを想ったり、誰かの傍にいたいという気持ちは、わかる気がするんです。ぼくだって、悟飯さんやクリリンさんに会いたくて、ナメック星を離れて……地球に来たから……」

「その悟飯やクリリンも、伴侶を得て子を授かった。やはり、オレ達とは違う」

「それは、わかってます。でも……ピッコロさんが、栞音さんを傷つけたくない、幸せになってほしいと思うのは……栞音さんのことが、大切だからじゃないんですか?悟飯さん達に対する気持ちとは別の感情が、少しだけでもあったんじゃないんですか?」

天界から〝金色の魔女〟を監視していたデンデには、先程のやり取りも筒抜けだ。
その事に気付いたピッコロは、観念したように目を閉じた。



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