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「なんかいい匂いするー」
悟天が、勉強を終え部屋から出て来た。
「あ、悟天ちゃん。桃饅頭作ったんだけど、食べる?」
今日の分を早々に終らせた栞音は、キッチンに立ちおやつ作り。
もう舞空術で浮かなくても、調理台に届くようになっていた。
「やった!食べる食べるっ」
目を輝かせた悟天に、栞音は蒸しあがった桃饅頭を持っていく。
リビングのソファに、並んで座った。
「んーっ、おいしい!」
「本当?よかった」
笑顔で頬張る悟天を見て、栞音も安堵の笑みを浮かべた。
「ごちそうさまー」
あっという間に食べ終えた悟天は、栞音の膝を枕に横になった。
まるで、そうするのが当然であるかのように。
甘えたがりな傾向がある双子の弟は、よくこういう事をする。
幼い頃は、両親や兄はもちろんピッコロにまでしていたが、今は栞音が相手の時くらいだ。
「あーあ、栞音が彼女ならよかったのに」
「何かあったの?」
「良い人だけど、友達としか思えないんだって……ボク」
「悟天ちゃん、かわいいのに」
「それが問題なんだよ!ボクはかっこいいって言われたいの!」
そう言って体を起こしかけた悟天だったが、すぐにまた元の体勢戻った。ふてくされたような表情で。
「ボクだって男なんだからさ、もう『かわいい』は卒業したいんだよね」
「そうなの?悟天ちゃん」
「ついでに言うと、その『悟天ちゃん』ってのも。ボクもう子供じゃないんだよ?」
「ごめんなさい。つい……」
母が「悟天ちゃん」と呼んでいた事もあり、気づけば栞音もそう呼んでいた。小さな頃からの癖だ。
「まー、栞音に呼ばれるのは嫌いじゃないけど。学校とか、クラスメイトの前だと、ちょっと照れくさいかなって」
「うん。気を付けるね」
優しくそう返した栞音の顔を、悟天がじっと見つめた。
「栞音は、彼氏ほしいとか思わないの?デートとかしたくない?」
「わたしは、別に……」
一瞬、頭を過ったひとがいた。
しかし、彼にはそういう事を求められない、求めてはいけないと、栞音はよく解っている。
「デートって何するか、よくわからないし」
「おいしいもの食べたり、映画を観たり、買い物したり、一緒に楽しめれば何でもいいと思うよ。手を繋いだり、腕組んだり、いつかは……キスとかしちゃったり、するのかな?」
悟天は、思春期の男の子だ。
ブルーハルハイスクールに通うようになり、男女問わず友達は多いが、未だ恋人ができた事はなく、(親友のトランクスがマイに夢中という事もあり)デートというものに憧れていた。
一方栞音は、控え目な性格故に男友達はほとんどいない。
まともに話すのはトランクスくらいで、そのトランクスの存在が、周囲の男子達をより近付きにくくさせていた。
カプセルコーポレーションの御曹司である幼馴染みと、双子の弟の鉄壁のガードを突破できる強者は未だいない。
「わたしには……まだ、早いかも」
そっか~と答える悟天は、何処か嬉しそうだった。
「じゃあ、いつかそういう人ができた時は、ボクにすぐ教えてね」
起き上がり、栞音の隣に座る。
「え?」
「だって、栞音を大事してくれる人じゃなきゃ、ボク許せないもん。もし悪いヤツだったら、ぶっ飛ばしちゃうかも」
笑顔でそんな事を言う双子の弟に、栞音はどう返せば良いかわからずに戸惑った。
「栞音に彼氏ができるまでは、ボクとデートごっこしよう?練習ってことで」
「練習?」
「そう!……っていっても、ボクが栞音と遊びたいだけなんだけどね」
行こう、と手を引かれれば、栞音は自然と手を繋ぎ返していた。
『 いこうよ、栞音! 』
初めて舞空術で空を飛べた時も、悟天と手を繋いでいた。
悟飯に教わり、すぐに飛べるようになった悟天と、浮くだけで精一杯だった栞音。
悟天は、そんな栞音の手を握り、空へと連れていってくれた。
「おとうさ~ん、おかあさ~ん!栞音と遊びに行ってくるー!!」
「勉強は終わっただかー!?」
「終わったよー」
「これ、おやつ作ったの。おとうさんとおかあさんもどうぞ」
「おーっ、ありがとな!ちょうど腹へってたんだ」
「上手にできただなぁ」
畑にいる悟空とチチに桃饅頭の入った包みを渡し、二人は「いってきまーす」と飛び去って行った。
緑色のチャイナ服に黒いズボンの悟天と、杏色のチャイナ風ワンピース姿の栞音は、ふたりで街を歩いていた。
「栞音って、いつもこのリボン付けてるよね。お気に入りなの?」
「うん……似合わない?」
「そんな事ないよ!今日の髪型も可愛いし」
サイドの一部を三つ編みにし、紫色のリボンも一緒に編み込んだ栞音の髪を、悟天が興味深げに見やる。
「いいなー、栞音は。髪型自由に変えられて。ボクなんて無理矢理変えなきゃ、ずっとあのままだったんだよ」
「おとうさんと同じ髪型、嫌だった?」
「嫌ってわけじゃないけど、みんなボクとおとうさんを間違えるんだもん。紛らわしいしさ、ボクだって他の髪型にしてみたかったんだよ」
今度は自分の髪を、一房摘まんでみせた。
「栞音はおかあさん似だけど、ボクとおとうさんみたいに瓜二つってわけじゃないもんね。おかあさんと間違えられたりしないでしょ?」
「おとうさんは、見た目が若いままだから……」
「おかあさんの若い頃の写真見た事あるけど、栞音と見間違える程そっくりじゃなかったよ。可愛かったけどね」
仲良く映画を鑑賞し、次は何処に行こうかなどと話しながらシアターを出ると、よく知る二人の姿を見付けた。
「あ、にいちゃんとビーデルさん」
「ん?悟天と栞音じゃないか」
「ふたりで買い物?デートだ!」
「ふたりは一緒に遊んでるのか?」
「うん!」
手を繋ぐ双子の姿に、「大きくなっても仲が良いのね」とビーデルが笑みを浮かべた。
「おにいちゃん、パンちゃんは?」
兄夫婦が幼い娘と一緒でない事から、栞音は深く考えずに質問をした。
聞かなければ良かったと、後悔する事になるとも知らずに。
「パンならピッコロさんが子守りしてくれてるよ」
「パンったら、ピッコロさんに面倒みて貰う事が多いから、懐いちゃって」
「ピッコロさん、パンがあんまりせがむんで、稽古つけてくれるようになったんだ」
「まだ小さいから基礎的なトレーニングだけなんでしょうけど、『ピッコロさんはいつも腕組みしたままで、手は使ってくれないの』なんて言ってね」
悟飯とビーデルは和やかに話すが、栞音の心中は複雑だった。
――いいなぁ、パンちゃん。
ピッコロとは、あれから会っていない。
家は知っているのだから逢いに行く事はできるが、栞音自身が、気後れしていた。
ピッコロが孫家を訪れる事もなく、師事する前よりも、距離ができてしまった。
「あ~、クレープ屋さんがある!にいちゃんおごって?」
「しょうがないなぁ、悟天は。体は成長しても、甘えん坊は変わらないんだから」
「いいじゃない、悟飯くん。せっかく会ったんだし」
「ボクねー、イチゴチョコ生クリームがいいなぁ」
「わかったよ。栞音は何にする?確か、ブルーベリーカスタードが好きだったかな?」
「え、わたしの分も……?」
「いいじゃん、買ってもらおうよ!食べきれなかったらボクが食べてあげるからっ」
そう言い、にかっと笑った悟天が、急に手を離した。
「引ったくりだ~!捕まえてくれ~!!」
此方に走って来た男が、悟天の前で突然くずおれた。
周囲の人々は何が起こったのかわからないでいるが、栞音には見えていた。
悟天が、軽~く一発殴ったのだ。
常人には見えない程度の速さで。
「栞音、大丈夫だった?」
「う、うん。ありがとう、悟天ちゃん」
男は人質にでも取ろうとしたのか、栞音の方に手を伸ばしていた。
その手が到達する前に、悟天に失神させられたのだが。
そのうち、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
先頭のエアバイクの警察官は、クリリンだ。
「あ、クリリンさん!こっちこっち」
「うわ、何だこれ?悟天がやったのか?」
「違うよ~。目の前で勝手に転んだの」
「ま、そういう事にしといてやるよ。ご協力、感謝します!」
クリリンは敬礼し、男をパトカーに連行していった。
「クリリンさんお疲れ様です」と見送りながら、クレープを持った悟飯とビーデルが戻って来た。
「流石だなぁ、悟天」
「悟飯くんの出番、無かったわね」
「あははっ」
――どうして……?悟天ちゃんはわたしを守ってくれたのに。何で、こんな気持ちになるの……?
わたし、じぶんで、たおせたのに。