Innocent
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そして、次の修業の日、栞音は紫色のリボンを付けて臨んだ。
「気で自身を覆い、防護壁とするのは悪くない。だが、おまえの場合、まだ強度が足りん。人造人間でもないおまえが、長時間バリヤーを持続する事も不可能だ」
ならば、どうする?
ピッコロは、栞音に答えを促した。
「攻撃を受ける時、瞬間的に、必要な範囲に必要な分の気を集中する……?」
「そうだな。より細やかな気のコントロールが重要になってくるが……やれるか?」
「頑張ります!」
目下の課題は防護壁の強化と、形状や範囲などの変化と対応ができるだけの技術の向上。
防御力を鍛え上げる事で、攻撃を防ぐだけでなく弾き返したり、迎撃に繋げられるように。
攻撃力の劣る栞音には、向いている筈だ。
「行くぞ、栞音」
「はい、ピッコロさん!!」
畑仕事をする悟空の元に、チチがやって来た。
「悟空さ~!弁当持って来たべ~!」
「やった!昼飯だ~」
たくさんのおかずやおにぎりが入った大きな重箱が、いくつも並ぶ。
「うまそー、いただきま~す!」
「おらも一緒に食べるだ」
チチは悟空の傍らに座ると、自分もいくつかおかずを取った。
「今日は悟天ちゃんも栞音ちゃんもいねぇし、夫婦ふたりだけだな」
「ん~?あいつらどっか行ったんか?」
「悟天はトランクスと遊びに、栞音はピッコロさの所だ」
「はっ?」
悟天がトランクスと遊ぶのはいつもの事だ。だが、栞音の行き先がピッコロの所と聞き、悟空は首を捻った。
「ピッコロに、何か用でもあんのか?」
「最近、学校が休みの日によく通ってるだよ。気のコントロールを教えて貰ってる、とか言ってたべ」
それって、修業って事か?
悟空はチチの顔色を窺ったが、怒っている様子はない。
「よく許したなぁ。チチ、栞音はそういう事しなくていいって言ってたじゃねぇか」
昔よりは寛容になったとはいえ、チチは今でも子供達には、武道より勉強を優先させている。
組み手など自ら指南する事もあったが、勉学の妨げにならない程度にとどまっていた。
実際に、今日も二人は午前中に勉強をし、昼食を済ませてからの外出だ。
「栞音な……ピッコロさに会いに行く時、とっても嬉しそうなんだ」
一旦箸を置き、チチは紡いだ。
「前より表情が明るくなったし、帰って来ると、普段より夕飯よく食べるだ。まぁ、悟空さや悟天に比べたら、まだまだ少ない方だけどな」
相変わらず大食漢の悟空を見て、笑みを浮かべる。
「栞音は優しい子だ。いっつもおらのこと気にかけてくれてよ。悟空さ達が修業や戦いで居なくなったりする分、自分だけはおらの傍にって、家の手伝いしたり、勉強もたくさんして、おらに心配かけねぇようにって……」
「……そっか」
「いい子過ぎてよ、甘えたり泣いたり……できなくなっちまったんじゃねぇかって思うだ」
これ以上強くなる必要はねぇ。修業だの戦いだの行かずに、傍にいてくれたらいいだよ――
母親の気持ちを推し量るあまり、栞音が自分の感情を上手く表せないのではないかと、チチは思うようになっていた。
「だからよ、ピッコロさの所に行くの、止められねぇべ。栞音が初めて、お願いしてきたんだ。勉強はちゃんとするから、どうしても行きてぇって。今まで、そんな事一度も言わなかったのに」
「チチ……」
「ダメなんて、言えるわけねぇべ」
寂しそうなチチの笑顔を見て、悟空は明るく言った。
「ピッコロには、悟飯も悟天も世話んなったしな!オラよりも適任かもしれねぇぞ?」
「それ、どっちも悟空さが死んでた時だべ?」
「はははっ、そうだったな~」
今は、悟空が生きている。
しかし、栞音に何か教えた事はない。
「まだ、悟天と栞音が生まれる前によ……オラ、チチをぶっ飛ばしちまった事あっただろ?オラは軽くはたいただけのつもりだったけど、チチに怪我させちまった。あの時の事を思い出しちまって、栞音とは組み手もできねぇんだ。加減を間違って殺しちまったら……ってよ」
栞音はチチ似だから、余計にだ。
「やっぱり、ピッコロが適任だ。栞音の事は任せようぜ」
「んだな。悟空さよりは安心だべ!」
夫婦は笑い合うと、仲良く昼食をとった。
トレーニングを終え、栞音は、暫く休んで息をととのえた後、持って来ていた保冷バッグからデザートケースを取り出した。
「この前のお礼です。ピッコロさんに」
「何の事だ?」
「このリボン……くれたの、ピッコロさんですよね?」
髪に結んだリボンに、指で触れる。
「ほどけかかっていたから、代わりを出してやっただけだ」
「でも、嬉しかったんです。だから、その……口に合うといいんですけど」
蓋を開ければ、手作りのゼリーがきらきらと。
「ピッコロさん、どんなものが好きかわからなかったから……」
ナメック星人であるピッコロは、水さえ摂取していれば生きていられる。
食べられないわけではないので、機会があれば食べ物を口にする事もあるが、好きなものはと聞かれれば「水」と答える。
水自体は、この周辺に豊富にあるのだ。
故に、栞音は水ゼリーを作った。
「ほう……」
ピッコロは、その中の一つを、指先で摘まみ上げた。
瑞々しく艶やかで、どこまでも透明な球体を眺め、やがて、口に入れる。
「あのっ……果汁が入ったのもあるんです。でも……もし、好きじゃなかったら……無理しないでください」
説明しながらも、だんだんと声が小さくなっていく栞音。
だが、耳の良いピッコロにはちゃんと聴こえていた。
「おまえは、何故そんなに自信が無いんだ。こんなにも綺麗なものが作れるというのに」
「……え?」
「美味いな。気に入った」
そう言って、栞音の頭を撫でる。
「あ……」
その声、表情、仕草に、確かな優しさを感じ、栞音は胸が熱くなった。
――嬉しい……ピッコロさん、だいすき。
ピッコロはケースを受け取ると、残りのゼリーも口にした。
それを見つめる栞音の瞳は、喜色に蕩けていた。