Innocent
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栞音はピッコロに師事し、修業を始めた。
学業優先である為、週に1~2度のお稽古事の域を出なかったが、その内容は厳しく濃密なものだった。
「うしろだ!気を探るのが遅い!」
「は、はい……っ」
「防御があまい!いちいち怯えるな、狙い打ちにされるぞ!!」
「はい…!」
「何だそれは?それが攻撃か!?もっと気を集中しろ!!」
「はい!」
ピッコロの動きを察知し、攻撃を防ぎ、自らも攻撃を仕掛ける。
チチと組み手をしていたとはいえ、それらを気のコントロールをしながら行うのは、栞音には難しかった。
己が傷付く事や、他者が傷付く事への恐怖心故に、特に攻撃の際は防御の時よりも気の乱れが顕著だった。
「おまえなんぞの戦闘力では、このオレに傷一つ付けられん。躊躇うな、打ち込む一点に気を最大限に集中させろ!!」
「はっ!!」
「よし、そうだ」
栞音の蹴りを腕でガードしながら、ピッコロは不敵な笑みを浮かべた。
その言葉が嬉しくて、栞音は頬を緩めてしまう。
同時に、気も。
「――!?」
瞬間、ピッコロに足を掴まれたかと思うと、放り投げられた。
物凄い勢いで飛ばされ、岩に叩き付けられる。
砕けた岩肌が、栞音の身体と共に崩れ落ちた。
傍まで飛んで来たピッコロが、浮かんだまま様子を窺う。
すると、身体の周囲を気の膜で覆った栞音が、破片の中から飛び出した。
「フン……やはり防御の方が上達が早いか」
――しかし、バリヤーとは……予想以上だ……!!
栞音に怪我は無い。
だが、バリヤーを持続するには気の消費が激しく、体力は消耗し、息が上がっていた。
「ハァ……ハァ……ッ……」
「よくやった。今日はここまでだ」
ふらふらと浮いていた栞音は、ピッコロの言葉に仄かに笑むと、気を失った。
その身体を、ピッコロが抱き留める。
地に降り立つと、自身は胡座を組んで座り、栞音を横抱きにして休ませた。
チチが心配するといけないので、修業の後は栞音の道着をきれいに復元してやるのが日課となっていた。
栞音は、「おかあさんには、ちゃんと、ピッコロさんの所へ行くって言ってあります」と言うが、具体的にどんな事をしているかまでは、話していないだろう。
時にはチチに荷物持ちを頼まれたり、用事を手伝ったりもするピッコロだ。
栞音が彼に懐いている事自体は、悪く思ってはいないらしいが、「夕飯の時間までには帰って来る事。遅くなるなら送って貰うだぞ」という条件付きである。
――かすり傷程度ならともかく、大怪我でもさせたら二度と会わせんだろうな。
そんな事を考えながら栞音の顔を眺めていると、髪の一部がほどけかかっているのに気付いた。
「……ぶっ倒れるほど頑張ったからな。サービスだ」
ピッコロは、栞音の頭をそっと撫で、指を光らせた。
暫くして、目を覚ました栞音。
自分の置かれている状況を把握すると、頬を染め、身を起こした。
「あの、ごめんなさい……わたし……っ」
「回復したか」
「は、はい。ありがとうございます、ピッコロさん……」
栞音が休んでいる間に、日は傾き空は暗くなりかけていた。
舞空術で飛んで帰ったが、ピッコロは家の側まで送り届けてくれた。
「ただいま」
「おかえり、栞音ちゃん。お腹空いてるべ?もう夕飯できるからな」
「あ……お手伝いできなくてごめんなさい」
「謝る事ねぇだよ。いつも手伝ってくれてんだ。栞音だってたまには好きな事しねぇとな」
さ、悟空さと悟天ちゃん呼んでけろ。
そう言いながら、改めて栞音の顔を見たチチが、少し驚いた表情になる。
「そのリボン、どうしただ?」
「え?」
「可愛いな~。よく似合ってるべ」
家を出る時、栞音はリボンなど付けていなかった。
不思議に思い、手を洗うついでに鏡を見ると、きつめに編んだツインシニヨンの結び目が、綺麗な紫色のリボンに変わっていた。
「これ……ピッコロさん?」
栞音が気を失っている間に、道着は新しくなっていた。
おそらくは、その時に……。
――ピッコロさんの服の色に似てる。
栞音は喜悦を禁じ得ないまま、悟空と悟天を呼びに行った。
数日後、キッチンで調理をする栞音の姿を見て、悟天が横から覗き込んだ。
「何作ってるの~?」
チチの手伝いではなく、栞音が一人で何かを作る時は、大抵おやつだ。
故に、悟天は興味津々。
「ゼリーよ。悟天ちゃんも食べる?」
「やった~!食べたい食べたいっ」
「最初に作ったのが、そろそろ固まったと思うから」
栞音は冷蔵庫からゼリー型を出して来て、中身を皿に移す。
ころり、ころりんと、真ん丸なゼリーが出来上がった。
「わぁ~」
つやつやと透き通ったものから、淡い色がついたもの、色とりどりのゼリーは、まるで宝石だ。
「よかった。綺麗にできたみたい」
「このオレンジ色のやつ、ちっちゃいドラゴンボールみたい!」
「それは、杏子の果汁を入れてみたの。こっちは桃と、ブルーベリーも……」
「ねぇねぇ、食べていい?」
「うん。感想聞かせて」
「いただきま~すっ」
杏子の果汁入りゼリーを口に入れ、咀嚼する悟天。
「おいし~い!」
「本当?」
「うん!とってもおいしいよ。どんどん食べられちゃう」
にこにことゼリーを頬張る悟天に、栞音は嬉しくなり、自身も味見をしてみた。
果汁の入っていない、透明な水ゼリーを。
清冽な水の味が口の中で弾け、ほんのりと甘く、つるりとした喉越しが爽やかだ。
――おいしい。あのひとも、食べてくれるかな……?
「栞音さー」
次のゼリー液を型に流し入れ、後片付けを始めた栞音を眺めながら、悟天が尋ねる。
「それって、舞空術の修業?」
栞音の身長では、キッチンの調理台が高く、以前は踏み台を使用していた。
今は舞空術で、ちょうどいい高さに浮かびながら作業をする事ができる。
同じ高さを長くキープし、尚且つ手元に集中するのは簡単ではなかったが、高速で飛び続ける時ほど大変ではない。
これも鍛練だと、栞音は踏み台を使わないという選択をしていた。
「うん。普段から使ってた方が、慣れるかなと思って」
「そうなんだ。ボクはあんまり意識して使ってなかったからなぁ」
悟天は、舞空術を習ってすぐに自在に飛べるようになった為、栞音のように考えた事はない。
「今作ってたゼリー……もしかして、ピッコロさんに持ってくの?」
「えっ……!?」
思わず、頬に朱を滲ませる栞音。
「ピッコロさん、すぐ怒るけど優しいもんね。ボクも好き」
無邪気に破顔する悟天に、栞音は面映ゆげに頷いた。