Innocent
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ミスター・サタン所有の山、独り滝の傍で瞑想をしていたピッコロは、小さな気が近付いて来るのがわかり、目を開けた。
その気配は、少し距離をおいて浮かんだまま、なかなか此方までやって来ない。
声をかけようとして、躊躇っているようだ。
「栞音」
振り返る事なく名を呼ぶと、少女はびくりと反応した後、緊張した面持ちで降り立つ。
「こ……こんにちは、ピッコロさん」
ピッコロは地に足を着けると、栞音を見下ろした。
「瞑想の邪魔をしてしまって、ごめんなさい」
「構わんが……どうした?」
気のコントロールを教えてほしい、と栞音は言った。
チチが過去に天下一武道会で着ていたようなデザイン、色違いの菫色の道着姿で。
「以前よりはマシになったようだが」
「飛ぶ事以外も、できるようになりたいんです」
「悟飯には舞空術しか教わらなかったのか」
「おにいちゃん、ビーデルさんにも教えてたし……。天下一武道会に備えて修業してた時だったから、邪魔しちゃいけないと思って……」
ピッコロの慧眼から逃れるように、伏し目がちに語る栞音。
先程の様子もそうだが、この少女は何をそんなに遠慮する事があるのだろう。双子の悟天や同じ年頃のトランクスは、あんなにもやんちゃで好奇心旺盛だというのに。
「おとうさん達と同じように、戦いたいわけじゃないんです。ただ、わたしも半分はサイヤ人なのに、このままでいいのかな……って」
5つの正しい心を持つサイヤ人が手を携え、もう一人の正しいサイヤ人に心を注ぎ込めば、サイヤ人の神となる――――
破壊神ビルスに地球を破壊されぬよう、悟空が超サイヤ人ゴッドになろうとした時、悟飯・悟天・ベジータ・トランクスの他にもう一人のサイヤ人が必要だった。
「一人足りねぇ?そうだ、栞音がいるじゃねぇか!」
「あの子供もサイヤ人だったのか?全くそんな感じしなかったけどなぁ」
パフスリーブの花柄ワンピースを着た栞音は、ビルスに注視されると、怯えた表情を見せた。祖父である牛魔王の巨体の陰に隠れ、弱々しく首を横に振って。
これまでの栞音の扱いは、地球人のそれと同じだった。こんな時だけサイヤ人だと言われても、戸惑った事だろう。
同時に、怖れていた。もし、悟空が超サイヤ人ゴッドになれなかったら、ビルスに地球を破壊されてしまう。
栞音では駄目だったんだ、栞音はサイヤ人じゃないと、失望されるのが怖かったのだ。
胎内に子を宿したビーデルが名乗り出た事で、栞音は安堵した。その反面、新たな恐怖の種が植え付けられた。
この世に生まれ出る前から、「正しい心を持つサイヤ人」である悟飯の子。
それに比べて、自分は……?
「わたしなんかが修業しても、たいして強くなれないのはわかってるんですけど……」
「おまえは確かに強くはないが、おまえなりのやり方で破壊神をもてなしただろう。土産を渡してな」
超サイヤ人ゴッドとなった悟空とビルスが闘っている間に、栞音は船の厨房を借りて、事の発端であるプリンを作っていた。
悟空に勝利し、地球を破壊しようとしたところで、突然眠ってしまったビルス。
寝言で「プリン……」と呟いた彼に、出来上がったプリンを持って行こうとした栞音だったが、ブルマが「プールいっぱい用意してあげる」と言っているのを聞き、逡巡した。
自分が手作りしたものより、ブルマが用意する高級なプリンの方が絶対においしいと。
しかし、栞音の小さな体では、両手で持った金魚鉢サイズの大きなプリンは隠しようがなく……。
気付いたウイスが、「もしかしてあなた、ビルス様のためにプリンを作ってくださったのですか?」と問いかけたので、頷いた。
実はビルスは起きており、自分の星へと帰る移動中にそのプリンを平らげていた事を、栞音は知らない。
「でも、ビルス様のお口に合ったかどうか」
「まずければ怒って地球を破壊しに来る筈だ」
来ないという事は、気に入られたと思っていい。
ピッコロは、栞音の前にしゃがみ、視線を合わせた。
「気というのは攻撃だけに使うものではない。気を集中する事で防御力を上げたり、他者の気を感じて場所や動きを察知したり、扱い方は様々だ。おまえは器用そうだから、気を練り上げて形を作ったりするのは向いているかもしれんな」
「わたし、器用ですか?」
「料理や、植物を使った工作……この髪も、自分で編んだんじゃないのか?」
栞音の頭に、ピッコロの手が乗せられる。
「あ……」
栞音の髪は、母親譲りの癖の無いロングヘアだ。
小さな頃はチチがいろんな髪型に結ってくれていたが、今では毎朝自分でしている。
今日は、編み込みおさげを低めに丸めたツインシニヨン。
動きの妨げにならないよう、きつく編んでまとめた鍛練用の髪型だ。
「例えば、そうだな……ゴテンクスは、気でゴーストだのドーナツだのを作り出して攻撃や拘束に使っていた」
所詮は子供の考えた技だが、子供ならではの柔軟な発想力で、多種多様な技が生まれるのだろう。
ピッコロは散々振り回された過去を思い出し、苦い顔をしながら立ち上がった。
「わたしにも、できるでしょうか……?」
「あいつらの真似をしろとは言わんがな。地球人でもクリリンなんかは、パワーはそれほどでもないが、気のコントロールが上手いから多彩な技がある」
「そっか……。クリリンさん、地球人だけどとっても強いですもんね!」
少し前向きになった栞音は、改めてピッコロに教えを乞う。
「お願いします、ピッコロさん。わたしに稽古をつけてください」
自分を見上げる無垢な瞳が、愛弟子の幼少期を思い起こさせ、ピッコロは口角を上げた。
「いいだろう。ただし、泣き言は許さんぞ」
「はいっ」