Innocent
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復活したフリーザとの戦いを終え、カプセルコーポレーションにて祝勝パーティーが行われていた。
ビルスとウイスへの御馳走と、フリーザ軍と戦った者達への労いに、たくさんの料理が用意された。
ブルマの雇った料理人達のほか、チチやサタンも腕を振るい、栞音もチチを手伝った。
「ん?あれは、プリンの娘じゃないか」
「ええ。以前ビルス様が地球を訪れた時に、お土産に大きなプリンをくださった子ですね」
出来上がった料理を運んでいると、ウイスと一緒にかき揚げや天ぷらを食べていたビルスに声をかけられた。
「おい、悟空の娘!」
「は、はいっ」
破壊神に直接呼ばれるというかつてない事態に、栞音は緊張した面持ちで彼らに近付いた。
「そんなに怯えるな。取って食ったり破壊したりしない」
びくびくしている栞音の様子に、ウイスがフォローに回る。
「ビルス様は、前にあなたが作ってくださったプリンを大変気に入りましてね、今日はどんなおいしいものを作ったのかと期待しているのですよ」
にっこりと笑いかける彼にも、期待が滲んでいるのが見てとれた。
栞音は、ますます緊張するばかりだ。
「わたし、今日は、おかあさんのお手伝いをしただけで……。あ、プリンではないんですけど、エッグタルトなら……材料が近い、甘いお菓子です」
「ほう、ではそれを持って来るんだ」
「はい……!」
エッグタルトは栞音が、そして同じの皿に乗っている胡麻団子は、チチに教わりながら一緒に作ったものだ。
「ふーん……確かに、香りは似ているな」
ビルスは、エッグタルトを手に取り一口齧る。
「うんまーい!!」
一つ目をあっという間に食べきって、二つ目に手をのばした。
「プリンを焼いたような、とろ~り濃厚な味!周りのサクサクとした生地もいい!!」
「ビルス様、こちらのゴマダンゴなる食べ物もおいしいですよ!外側は香ばしく、中はもちっと、甘い味が広がります。見た目も丸くて可愛らしい」
「何!?ボクにもよこせ!」
「エッグタルトも、きれいな黄色に焼き目がついていて、食欲をそそります。ん~、美味ですねぇ」
どうやら二人の満足する味だったらしく、栞音は胸を撫で下ろした。
「ウイス、こいつ連れて帰ろう」
「えっ…?」
「いけませんよ、ビルス様。まだ子供ではないですか」
諌めるウイスに、ほっとしたのも束の間……。
「これからもっとたくさんの地球の料理を極めていただき、大人になってからの方がよろしいかと」
「う~ん、それもそうか」
「えっ……えぇ!?」
断ったら、破壊されてしまうのだろうか。
「ダメ!」
戸惑っている栞音を庇うように、悟天が割って入った。
「栞音を連れてっちゃダメだよ!」
「栞音、こっちだ!」
かと思えば、トランクスが栞音の手を取り引っ張って行く。
「ピッコロさ~ん!!」
「ん?……お、おい!何だ!?」
悟飯と話していたピッコロの元へ連れて行かれると、二人は栞音を彼のマントの中に押し込んだ。
「栞音のこと隠して!前にオレ達にしてくれたみたいにっ」
「ビルス様に連れてかれちゃうよ!」
「え?どういう事!?悟天、トランクス……っ」
再びビルスの元へ走って行く二人を、悟飯が追いかける。
反射的にマントで栞音を覆っていたピッコロだったが、こちらも「どういう事だ?」と声をかけた。
「ごめんなさい……」と、栞音がマントの隙間から顔を出した。
栞音は、ビルスやウイスとの一連のやり取りを、ピッコロに説明した。
その間、悟天とトランクスが抗議したり、悟飯が何とか取り成そうとしているが、ビルスとウイスは食事に夢中なため軽くあしらわれている。
「まさか、本気じゃないとは思うが……」
一応、隅の方へと移動して、彼らから距離をとった。
「食うか?」
栞音をベンチに座らせて、持っていたタコ焼きを差し出すピッコロ。
「……いいんですか?」
「こういう、丸っこい物が好きなのかと思ってな」
「ありがとうございます。ピッコロさん」
嬉しそうにタコ焼きを食べる栞音を、ピッコロは暫く眺めていたが、やがて口を開いた。
彼が栞音を気にかけるのは、ビルスの件以外にも理由があった。
「お前、わかっていたな?」
フリーザ軍が、地球に襲来した事を。
「……はい」
ピッコロに鍛えられている栞音が、あれほどの気を感知できないわけがない。
「気付いてました。すごく、強い人が来てるって事。たくさんの人達と、おにいちゃんやピッコロさん達が戦ってるのも、わかってた。おとうさんとベジータさんが戻って来る前、おにいちゃんの気が……減っていくのも……」
栞音は、視線を落としたまま、そう語った。
小さな肩を震わせながら。
「ピッコロさんの気を、感じなくなった時……とても、怖かった」
「……っ」
フリーザ軍との戦いの最中、ピッコロは死んだのだ。悟飯を、庇って。
今ここにいるのは、ナメック星のドラゴンボールで蘇ったから。
「でも、だからこそ、おかあさんの傍を、離れられなくて……っ」
自分が駆け付けたところで、戦力にならない事はわかっていた。
悟天やトランクスでさえ、神殿に避難させられたのだから。
「すまん……」
ピッコロの手が、栞音の頭に降りてくる。
「心配をかけた」
栞音は、ピッコロを見上げ、囁くように紡いだ。
「ピッコロさん……生き返ってよかった」
実は、地球の消滅とともに栞音も死んでいたのだが、ウイスが時を戻し、悟空がフリーザを倒した為に無かった事になっていた。
「――それで、だな」
ピッコロは腕組みをすると、先程の悟飯との会話を栞音に伝える。
長く戦いから離れていた悟飯が、今回の事で再び修業をする気になった。鍛え直してやるつもりだと。
「オレは、暫く悟飯の修業に集中する」
それは、栞音の修業の中断を意味していた。
「はい。わかりました」
ピッコロの申し出に、栞音はそれだけ返すと、ベンチから立ち上がった。
「あの、わたし、今日もゼリー作ったんです。もう固まった頃だと思うから、取ってきますね」
「あ、ああ」
ピッコロをその場に残し、屋内へと消えていく栞音。
――そんなの、当たり前の事なのに。ピッコロさんは、おにいちゃんの師匠なんだから。
ピッコロがいなくても、トレーニングはちゃんとしよう。自分でできる範囲で、鍛練は続けよう。
栞音は、そう思っていた。
でも、本当は……。
「それ、何かな?」
できあがったゼリーを持って戻る途中に、その声は聞こえた。
「っ……ビルス様!?」
ビルスは、ガラスの器の中のきらきらとした球体を、興味深そうに眺めている。
「これは、水ゼリーです。色がついているのは、果汁が入っていて……。でも、あの、これは……っ」
ピッコロさんに食べてほしくて作ったんです。破壊神の前で、それは言えなかった。
「何も全部食べたりしないよ。どっかのバカじゃあるまいし」
そんな栞音の秘めた思いを知ってか知らずか、ビルスは一つだけ摘まんで口に入れた。
美味しそうな表情を見せた後、再びその慧眼を栞音に向ける。
「君、前に見た時とちょっと違うね」
「え?」
「あの時は、サイヤ人かどうかもわからないくらいだったのに」
「それって、どういう……」
「栞音!」
ビルスの言葉の真意を訊ねようとした時、名を呼ぶ者がいた。
「ピッコロさん……!」
「ふーん」
ビルスはその姿を認めると、何か納得したような仕草をした後、栞音に言った。
「ま、精々頑張って鍛えてよ。そしたら、ボクの専属料理人にしてあげる」
そして、ゼリーをもう一つ摘まみ上げると、あ~んと口に放り込んだ。
「うん。やっぱりうまい。ウイスには内緒にしとこ。抜け駆けしておいしいもの食べてた罰だ」
上機嫌で去っていくビルスを見送り立ち尽くす栞音の元に、焦燥したピッコロがやって来る。
「栞音、大丈夫か?」
「よかった……」
「ん……?」
「……ピッコロさんの分、残しておいてくれました」
ビルスの発言にいろいろ思うところはあったが、今栞音の中で最も重要なのはそれだった。
破壊神を相手にどうやって守ればいいのかと、戦々恐々としていたのだから。