Relieved
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あ、セーレさんだ。久しぶりだね」
「お久しぶりです、バラム先生」
「カルエゴくんに用事かな?」なーでなで
「はい、届け物を……。先生の
「わかってるわかってる。……ところで、頭部の耳と、尾は?」なーでなーで
「仕事中は収納しています」
「バビルスに入学した頃は隠してなかったのになぁ」よしよしよ~し
「恥ずかしながら、耳と尾は『粛に』できませんので」
「シチロウ!!」
「あ、カルエゴくん」ナーデナーデ
「いつまで撫でている!触り過ぎだ!」
二人の間に割って入ったカルエゴが、ルィエを背に庇うようにして、バラムから引き離した。
「ごめんね。セーレさんは僕のこと怖がらないし、犬耳とか出てこないかな~と思って、つい……」
「ついじゃない!ルィエ、お前も少しは抵抗しろ」
「申し訳ありません。バラム先生はカルエゴ卿と仲良くされている悪魔ですし、在学中もお世話になりましたので、頭を撫でられる程度でしたらと……」
「お前達……」
外見も中身も何もかもが違う筈なのに、どことなく似ているように思えるのは何故だろうか。
カルエゴは、自身の頭に手を当てた。
「はい、カルエゴくん」
空想生物学の準備室。バラムはお茶をいれ、カルエゴに渡した。
自身も椅子に座り、ストローで啜った後、口を開く。
「カルエゴくんさぁ、まだ認めてあげてないの?セーレさんはSDになりたかったんだよね?」
「番犬に番犬は必要ない」
「セーレさんが学生だった頃にも、そうやって突き放して泣かせたよね。あの時だけだったなぁ。あの子が泣いてるところ見たの」
「オイ、何が言いたい……?」
「僕だってどうしようかと思って焦ったんだよ、凄く!スージー先生が連れて来てさ。カルエゴ先生の事ならバラム先生に~って」
「まぁ……あの時は流石にな、少し焦った」
カルエゴが思い描くのは、頭部の犬耳は伏せられ、尾も垂れ下がり、捨てられた子犬のように震えていたルィエの姿。
「嘘はよくないよ。セーレさんに嫌われたんじゃないかって、何日かまともに寝てなかったでしょ?」
「ぐッ……」
「今にして思うと、あれがきっかけだったのかなぁ?あの子が、犬耳と尾を常に収納しておくようになったのは。それでも頭撫でたりすると、ぴょこって出てきちゃったりしてたんだけどね~。今はもう全然……」
「今でも時折、見るが」
「え!?そうなの?どんな時?」
「…………褒めてやると」
「いいなぁ~」
成績も良く、自身の向上の為に学びを乞い、
将来どんなに誇り高い悪魔になるだろうかと、教師達に期待されていた。
もちろん、カルエゴにも。
「私は、
ルィエは、カルエゴに自分の野望を伝えた。
『お前なんぞに務まるか。もっと位階を上げてから言え』……そんな風に叱られるかもしれない。だが、そうであっても、野望の為にはどうするべきか、カルエゴは厳粛に導いてくれるであろうと。
それが、どんなに難解な課題でも、どんなに過酷な修行であっても、ルィエは己の野望の為に挑み続ける覚悟だった。
「――身の程を知れ」
しかし、返ってきた言葉は、もっとずっと辛辣だった。
「俺はバビルスの番犬だ。番犬に番犬は必要ない」
怒りを湛えた、カルエゴの双眸。
背筋が凍りつき、ルィエは竦み上がった。
「二度と口にするなよ。次に同じ言葉を吐いたら、貴様の首を噛みちぎる」
彼の背後で威嚇するケルベロスよりも、カルエゴ自身が、黒く、大きな、恐ろしい獣に見えて……今にも食いちぎられるような、そんな、圧倒的な畏怖に襲われた。
「ふいっ」
数日後、魔植物師団の活動中に、ストラス・スージーに声をかけられた。
「お耳はぺたんで尻尾はしおしお。クワンックワンッで咲かせた花も泣いてますよぉ。どうしちゃったの?」
「スージー先生……」
「悲しい気持ちでお世話するとね、魔植物もしょんぼりしちゃうの。ほら、元気がないでしょう?」
「ごめんなさい……私……っ…カルエゴ先生を、酷く怒らせてしまって……」
「あら~」
どうしたらいいかわからないと憔悴しているルィエを、スージーはバラムの準備室へ連れて行った。
託されたバラムは、おろおろしながらもルィエを招き入れ、椅子に座らせ、お茶を出した。
「温かいうちに飲むといいよ。少しは落ち着くから」
「すみません、バラム先生。ありがとうございます……」
「本当にどうしたの?セーレさんがカルエゴくんに怒られるなんて、珍しいじゃない」
ルィエはお茶を飲むなり、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。
ぎょっとしたバラムは、狼狽しつつもルィエの頭を撫でる。
「っ……私が……悪いんですッ……身の程を、弁えず……カルエゴ先生に……嫌われ……ッ」
泣きながら話すルィエから事情を聞き、バラムは思った。
わかりにくいよカルエゴくん!!
「嫌いになんてならないよ。カルエゴくん、君みたいな貪欲で探究心のある生徒は、指導のし甲斐があって好ましく思ってるよ」
「でも、本気で怒っているようでした……あんなカルエゴ先生、見た事なかった……」
陰湿だの意地悪だのと言われているが、カルエゴは生徒を導く為に厳しくしているのだ。
ルィエはその厳粛さに応えようと、今まで頑張ってきた。
それが、あの日から変わってしまった。
「宿題も、みんなと同じ量しか出してくれなくなって……」
「いや、それが普通なんだけどね」
未だルィエは泣き止まない。
どうやって伝えればいいだろう。バラムは暫し考えると、バビルス教師の伝統ある口上を述べた。
我らが愛しき学仔たちを守るが至上、命の盟約。宝を狙う敵には凄惨たる〝教育〟を――
「守るべき生徒に、自分の盾になるような立場になってほしくなかったんじゃないかな」
主人の命を守るのはもちろん、風評・格式・身だしなみに至るまでその一切を守り、支え、己の全てを捧げるのがSDだ。
カルエゴくんの中では、あの悪魔の印象が強すぎるのもあるんだろうなぁ。
「オペラ先輩です」と、理事長のSDがバラムの頭を過る。
愛しき学仔がオペラのようになったら、カルエゴにとっては悪夢だろう。
「一度きつく言って物凄く怖い思いさせれば、もうSDになりたいなんて言わないだろうって考えたのかもね」
「私が、未熟な悪魔だから……?」
「君が、大事な教え子だからだ」
翌日、カルエゴの机に、一鉢のサボテンが置かれていた。
『ごめんなさい』と綴られたメッセージカードと共に。
「ふいっ。セーレさんが育てたサボテン、綺麗な花が咲きましたねぇ」
そんなスージーの言葉を聞かずとも、誰からのものかなど明白だった。
小さく控えめだが、仄かな安らぎを感じさせる花……。
「馬鹿め……」
それから、カルエゴの厳粛な教育の下、ルィエはますます研鑽を積み、優秀な成績でバビルスを卒業した。
卒業後の進路は、ナベリウス本家での行儀見習い。
兄の元ならばと、カルエゴも反対はしなかった。
だが、使いに行った分家で叔父に気に入られうちに欲しいと言われたり、尊敬する兄といえど彼に従属するルィエの姿に、何とも形容し難い感情が湧き起こり……。
「魔植物の世話をしてくれたのか。ルィエは、よく頑張っているな」
「いえ、そんな……恐れ入ります」
「流石はカルエゴの教え子だ」
ナルニアに頭を撫でられていたルィエを見た瞬間、カルエゴは凄まじい衝撃を受けた。
兄に褒められ、頬に朱を滲ませるルィエ。頭部には犬耳が飛び出し、尾も揺れていた。
「何だ、あれは……ッ!!」
そもそもカルエゴは、在学中にも頭など撫でてやった事はない。教鞭で頭をぽんとしてやる程度だった。
それでもルィエは、嬉しそうにしていたが。
「ナルニア卿。お勤め、いってらっしゃいませ」
この感情が、兄に向けられたものなのか、ルィエに向けられたものなのかはわからない。
しかし、一度湧き上がったものは、その後も消える事なくカルエゴを苛んだ。
そして、ついに……。
「勘違いするなよ。私はお前をSDとは認めんからな。配下としてこき使ってやるだけだ」
「はい!カルエゴ卿が日々の暮らしを心穏やかに過ごせるよう、生活の場を整えるのが私の役目です」
カルエゴは、ルィエを己の側に置く事を決めた。
バラムを始め事情を知る教師達は、この結果をルィエの粘り勝ちだと語る。
流石は貪欲で探究心……そして〝探求心〟のある悪魔だと。
「あれだけ思い通りに教育しちゃったんだから仕方ないですよ~。調教してるのかと思いましたよ?」
「な……ッ!?」
「まぁねー、気持ちはわかりますよ。自分を慕って一生懸命頑張って、期待に応えようと
ダリはそう言い、意味深に笑った。
本来ならば、忠告してやるべきだった。そんな指導の仕方じゃ、生徒の視野を狭めるよと。
だが、面白かったので黙っていた。ルィエが何処まで喰らい付いてくるのか……それを受けカルエゴがどう応えるのか、興味があったのだ。
「そんな子が他の悪魔に尻尾振ってたら、良い気がしないのは当たり前でしょう。カルエゴ先生」
ダリの言葉に、カルエゴは反駁する術を持たなかった。
「あ~、もしかして本気にしちゃった?ああいう真面目タイプは、たまに会ってからかうのがちょうどいいんじゃん。だいたいあの子、俺の言う事きかないでしょう。カルエゴちゃんの教え子だよ?」
ルィエを欲しいと言っていた筈の叔父は、悪びれもせず、そう言った。
「カルエゴちゃんさ~、あれだけ自分好みに育てておいて、ちょお~っと無責任なんじゃない?それとも何、尊敬する兄上に捧げる為に教育したの?貢ぎ物って事?」
「そんな訳ないでしょう!!」
「なら、ちゃんと大事に仕舞っとかないと。宝を狙ってたのは、俺だけじゃないかもしれないよ~」
「は……?」
叔父はそれ以上言及しなかったが、その後もルィエと顔を合わせる機会があると、「カルエゴちゃんに虐められてない?嫌になったらうちにおいで」と勧誘するジョークが続いている。
ルィエは毎回律儀に断るのだが、カルエゴはそのやり取りを見ては眉間の皺を増やすのだった。
「そういえば、届け物って何だったの?」
バラムが、ルィエの持ってきた荷物に視線を移す。
「ああ、暫く学校に泊まり込みになりそうなんでな。必要な物を持って来させた」
「お泊まりセット?」
「その言い方はやめろ」
カルエゴは荷物を開け、中身を確認した。
お泊まりセット一式とは別に、仕事の合間に手軽に食べられそうな軽食と、補食と思われる焼き菓子が入っている。
『お忙しいとは思いますが、お食事はとってくださいね』というメッセージと共に。
「君、忙しいとごはん食べない時あるからねぇ。あ……それ、カルエゴくん用甘さデビ控えめクッキー」
「何でお前が知ってるんだ」
「作り方、教えたの僕だし」
「は?」
「だってよく聞かれたから。お茶のいれ方とか、パンやお菓子のレシピとかね。でも、彼女なりにいろいろ考えてアレンジしてるみたいだよ。食べやすさとか、栄養も考慮してるんだろうね」
野菜やドライフルーツを使ったり、ナッツやスパイスを加えたり、基本的に砂糖を入れずに作るルィエの焼き菓子は、甘い物が苦手なカルエゴでも食べやすい。
「……帰ったら、耳と尾を出させて慌てさせてやる」
そう言い、クッキーを口にするカルエゴに、「うん。いっぱい褒めてあげてね」と思うバラムだった。