Relieved
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「カルエゴ卿!」
「ルィエ……何故此処に!?」
「私の使い魔から報告がありまして。カルエゴ卿がまた召喚され、使い魔になってしまわれたと」
ルィエの使い魔、クー・シー。
駿足で、足音や羽音を察知されずに移動できる為、探索や追跡が得意だ。ルィエの手足となり、時に目となり耳となる。
「君々、ダメじゃないか。授業中に乱入しちゃ~」
「私はバビルスの卒業生、セーレ・ルィエと申します。母校が懐かしくなり見学に来ました」
「うわ~卒業生の見学かぁ!いいよいいよ!是非見ていって」
新任教師のロビンを丸め込むと、ルィエは早速カルエゴの元へ。
「ご安心ください。不便な事や不本意な事は、カルエゴ卿に代わり全て私が請け負います。たとえどんなお姿になられようとも、私の貴方様への忠義は変わりません」
「ルィエ、お前……。(このような屈辱的な姿を見られようとは……出来れば、ルィエにだけは見られたくなかった…!!)」
「さあ、何でもお申し付けください。(それにしても、意外とずっしり重いのですね。うっかり落とすような事の無いよう、丁重に保護して差し上げねば)」
「あ、ああ……。(何故俺はルィエに抱き上げられているのだ。こんな威厳も何も無い姿を見ても、幻滅しないのか…?)」
「その子はイルマくんの使い魔だからね。返してあげて」
ロビンの言葉にカルエゴが炯眼を向けるが、ただの使い魔だと思っている彼はペースを崩さない。
ルィエは静かに、カルエゴから聞かされていた理事長の孫の特待生――鈴木入間の前に立つ。
「あなたが、イルマですね」
「はっ、はい!」
「どうか、丁重に……大切にお願い致します」
「わ……わかりました!!」
そっと、使い魔姿のカルエゴを渡すと、ロビンが言った。
「そうだ!せっかく卒業生が来てくれたんだから、お手本になって貰おうか!」
「え?」
「使い魔との信頼関係を、見せて貰おう。みんな、よく見ててね」
成り行きで、生徒達の手本を務める事になったルィエ。
彼らの前で、クー・シーを召喚してみせた。
「あら、可愛い使い魔さん」
「小さいでござる」
「美しい女性に相応しい愛らしさです!」
人間界の子犬みたいだ――と入間は思ったが、もちろん口には出さなかった。
「見た目で判断してはいけませんよ。使い魔の中には、こうして……」
子犬サイズだった躯が、姿を変えてゆく。
「本来の姿をしていないものもおりますので」
「グルルル……」
暗緑色の毛並みに、収納していた羽を広げたクー・シーは、かなりの巨体だった。
「お~っ!でっかくなった~!!」
「こわっ!!」
「己とケルビーと変わらぬ大きさ!」
「なるほど、変化するタイプとは」
「おいで」
その巨体と狼のような獰猛さを見せながら、ルィエの呼び掛けには素直に従う。
それどころか、ルィエの傍に大人しく座り、撫でられていた。
「すごいすごい!かっこいいな~!!」
ロビンが、目を輝かせて近付いて来る。
「ね!触ってもいい!?」
「どうぞ」
「おお~」
彼や生徒達の興味を引く事で、カルエゴが不本意な状況から脱する事ができれば……。
ルィエはそう思っていたのだが、ふと見ると戦慄いているモフエゴ……否、カルエゴが。
「くッ……私はこんな姿だというのに……ッッ!!」
どうやら主のプライドを刺激してしまったらしく、ルィエはクー・シーに子犬サイズになるよう命じた。
「あ、また小さくなった!」
「ロビン先生、まずは何を?」
「それじゃあね~」
ディスクにダンスに追いかけっこ……何をやらせても主人に従順な使い魔に、流石は卒業生だと感心するロビン。
「フンッ……当然だ。私の教え子だぞ」
「え?カルエゴ先生の?」
だがそのお蔭で、カルエゴも入間の使い魔として、同じ事を(授業の為に仕方なく)やらされるハメになってしまったが……。
そんな精神的疲労の中でも、カルエゴはルィエの行動を評価していた。
使い魔は、主人が調教を怠れば脅威になる魔獣だ。ルィエの使い魔はよく調教されており、周囲に危害を及ぼす事もない。
主人に似て、カルエゴにも敬意を払う程だ。
「本来ならば、あんな新任の授業など参加させるに値しない。バビルス時代に厳しく教育し、徹底的に鍛えたのだからな。今では有能な側近だ」
「自慢の生徒さんなんですね」と、入間は相好をくずした。
「贔屓だー」
「特例を良しとせず、じゃなかったのかよ」
先程からルィエばかりを褒めるカルエゴに、一部の生徒――リードとジャズが、からかうように言った。
「セーレを贔屓してやった事など一度として無い。よく課題をこなすので、寧ろ増やしてやったぐらいだ。何なら貴様等も同じように増やしてやろうか?」
酷薄な笑みを浮かべ告げるカルエゴ……だったが、今はふわもこな使い魔姿なのであった。
「この度は、お役に立てず申し訳ありません」
その日、カルエゴは帰宅と同時に、ルィエから謝罪を受けた。
「カルエゴ卿が使い魔として扱われる事のないようにと、私の使い魔に代わりを務めさせようと思ったのですが、カルエゴ卿にも同じ事をさせてしまうという結果になり……」
使い魔のクー・シーまでもが律儀に頭を垂れ、一緒に謝っていた。
「教師の立場としては、生徒を厳粛に評価する場を整える必要がある。もう使い魔の授業には来なくていい」
「仰せの通りに」
ルィエの気持ちを代弁するかのように、「クゥン」と悲しげに鳴いて姿を消す使い魔。
「今日は疲れた。魔茶をいれろ」
「承知しました」
「食事もする気になれんな」
「では、軽く召し上がれるものを少々」
丁寧に一礼し、ルィエが踵を返す。
「ルィエ」
その背に、カルエゴは呼び掛けた。
「はい」
振り返ったルィエの頭に、ぽんと手を乗せる。
「今日の使い魔授業は及第点だ。アホ新任を『降手』で踏ん付けてやるくらいの事はしても良かったがな」
「カルエゴ…先生」
カルエゴの手の両側に、犬耳が現れた。
「あッ……私、魔茶の用意をして参りますっ」
頭部のそれを隠そうと、急いで厨へと向かうルィエだったが、尾が上を向き激しく振れているのが見え、カルエゴは全身で笑いを噛み殺した。