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1年生最終
A組の演目は、歌朗読に決まった。
魔界にまつわる逸話を歌詞に、歌で物語を伝えるのだ。
しかし、生徒会の聞き取り調査に訪れたロノウェ(withナフラ)に地味だと言われ、華やかで注目される舞台をと、歌に芝居や殺陣も交えた朗読劇へと変更した。
その美声を買われ、オロバスが主役に抜擢された。
レーラは精霊役のひとりだが、歌ではなく竪琴――伴奏者として参加する。
ふわふわ浮かぶのって、精霊っぽいよね。そんな誰かの呟きをきっかけに、浮遊しながら演奏する事になった。
声で風船くらい割ったらどうだ、小物も加えて空中には薔薇……などと好き勝手宣い、嵐のように去って行ったロノウェに影響され、皆で考えた演出の一部である。
「やっぱり……難しい」
家系能力とはいえ、魔術を使い続けながら竪琴を弾くのは、とてつもない集中力が必要だった。
ただ浮いていればいいわけではなく、場面転換の度に移動を繰り返すので、時折、伴奏と移動のどちらかがおそろかになってしまう事があった。
「ごめんね、オロバスくん。何回も……」
クラスでの練習の後、自主練をするレーラに付き合い、オロバスも学校に残っていた。
「気にする事はない。私も歌の練習になる」
「オロバスくん、歌も上手なんだね」
「君の伴奏も、良い音色だ」
オロバスの言葉に、レーラは頬に朱を滲ませる。
「そんな……私なんか、ミスしてばかりで……」
「ずっと浮遊し通しでは疲れるだろう。一旦休憩しないか?」
「う、うん………っ!!?」
何度も練習を重ね魔力と体力を消耗した上、集中力が途切れた事で、レーラは能力を切ってしまった。
ゆるやかに着地する筈が、落下してしまう。
「レーラ!」
羽を出す隙もなく落ちたレーラは、ぎゅっと竪琴を胸に抱えたまま、硬直していた。
おそるおそる目を開けると、オロバスの腕に抱きかかえられていて……。
「危なかった」
至近距離で聞こえた重低音ボイスに、心が激しく波立った。
「あッ……あ、ありが…と…」
丁寧な手付きで降ろされて、今度は耳まで真っ赤にしながらも、何とか感謝の意を伝える。
「い、いや……こちらこそ、咄嗟に……すまない」
面映ゆい気持ちは、互いに同じだったようだ。
「ううん。オロバスくんのおかげで、落ちなくて済んだの。本当にありがとう」
改めて礼を言うと、オロバスの面差しがやわらぐ。
意志の強そうな太い眉と、鋭い目付きに、生真面目な気質。いつも眉間に皺を寄せ難しい顔をしていたオロバスが、収穫祭後は穏やかな表情を見せるようになった。
――嬉しいな。クラスのみんなとも、仲良くなったもんね。
「……今日はもう、この辺にしておいた方が良いかもしれないな」
レーラを気遣い、オロバスはそう告げた。
だが、呆れられたと思ったレーラは、表情を曇らせる。
「先程、君の伴奏を良い音色だと言った件だが……」
それを見て、オロバスは言葉を続けた。
「君の奏でる音色は、深く透明で、身体全体を包み込むように響く。聴いていると心がやすらぐし、心地よく歌える伴奏だ」
「オロバスくん…」
「最後にもう一度、合わせてくれないか?魔術は使わず、伴奏だけで」
「!……はいっ」
低く美しいオロバスの歌声に、レーラが爪弾く音色が重なる。
――なんて素敵な声……。私が伴奏なんて、荷が重いと思ってたけど……今は、とっても幸せ。
主役である彼が輝くように、最高の伴奏を……。
音楽祭当日、A組は組別対抗音合戦のトップバッターを飾った。
控えめな伴奏の中、オロバスの迫力ある一声で、幕が開く。
演目1番
A組 朗読劇 ~妖駆伝~
騙され位を追われたひとりの王子が、精霊の国で心を得て、報復の術を授かり、精霊達と国を築く逸話だ。
主役の少年、精霊達……クラスが一丸となって創りあげる
〝私にすべてをよこすのだ!!〟
物語はクライマックスを迎え、オロバスが叫ぶように歌いあげた瞬間、吊るし飾られていた全ての提灯がバァンと割れ、中から花弁が舞い落ちた。
……否、花弁は落ちる事はなく、花吹雪のよう浮遊し、舞い踊る。
まるで、竪琴の音色に呼応するかのように。
花弁が舞う中、物語は大団円で終わり、会場を盛り上げた。
ミスなく伴奏を務められた事に安堵し力の抜けたレーラに、オロバスが手を差しのべ、着地を手伝ってくれる。
優しい眼差しと、労うような手のあたたかさに、レーラの瞳は、喜色に蕩けていた。
――オロバスくん……私、できたよ。
大歓声が止まぬまま、審査の結果が発表される。
キュパ、5点。メーメー、4点。アムドゥスキアス、3点――合計12点。
厳しい評価に司会のロビンが物申すが、アムドゥスキアスは正当な評価だと主張した。
更には、歌詞の間違い、歌の入りの遅れ、音程のガタつきを個別に指摘。喉が荒れている子も何人かいると言い当てた。
元13冠である音魔の耳は、ごまかせないのだ。
辛口の批評に、空気が張りつめる。
そして、オロバスにも……。
「主役のお馬ちゃんはハリのある良い声だけど、ちょっと走りすぎね。強引なのもキライじゃないけどヒトリ遊びはさみしいじゃないの」
だが、アムドゥスキアスは「まだまだ若い音ね。でも、スジはいいから精進なさいな?」と付け足し、片目を瞑ってみせた。
「っ…はい!!」
力強く返事をするオロバスを見上げ、レーラは自分自身の事のように嬉しく思っていた。
「それと、伴奏の竪琴ちゃん」
すると、レーラにも声がかかった。
何を言われるのかと、緊張で顔が強張る。
「なめらかな指運びで音程は完璧だったけど、主役を引き立てようとしすぎ。もっとお馬ちゃんの手綱を引っ張るくらいでなきゃ!」
「え…ッ!?」
「けど、降ってきた花弁を舞い踊らせたのは貴女の音色ね。最後に、喜びの音がちゃんと届いたわ」
「あ……ありがとうございますっ」
レーラは、竪琴を胸に抱きしめ、頭を垂れた。
「やっぱり
「666点とか、勝てるわけねーよな」
「しかも、全員「4」に昇級とは……」
「イルマさんは「5」です!凄すぎます!流石イルマさん!!もうかっこよすぎて、私……っ!!」
「エイコ、興奮するとまた倒れるわよ…」
問題児クラスの演目、
そのステージは、審査員のみならず会場の全ての悪魔の心を掴み、誰もが納得の優勝となった。
〝
前代未聞の偉業を成し遂げた。
残された者達で閉会式をした後、今はそれぞれのクラスで打ち上げをしているところだ。
級友にカラオケ魔イクを渡されたオロバスも、先刻まで美声を披露していた。
「でもさ、俺達だって頑張ったよな」
「3位だもんね!」
「ココくんの歌は大迫力だったよ。アムドゥスキアス様も、スジがいいって!」
「ハリのある良い声だもんな!」
「よしてくれ…。強引で走りすぎとも仰っていた」
照れながらも、アムドゥスキアスからの批評を胸に刻んでいたオロバス。
その視線は、ガーコと一緒にエイコを気遣っていたレーラに注がれる。
「ああ、伴奏も誉められてたよな。セァルさーん、こっち座んなよ」
「え?」
訳知り顔のワルブに呼ばれ、レーラは今まで彼が居た場所に座らされた。
「レーラさん」
そこはつまり、オロバスの隣である。
「今日は、申し訳なかった。私が、ひとりで走りすぎてしまったようで…」
「そんな…オロバスくんが主役なんだし、私は、引き立て役のつもりだったから……」
もっとお馬ちゃんの手綱を引っ張るくらいでなきゃ!
アムドゥスキアスに言われた言葉が思い出され、互いに意識してしまう。
「オロバスくんの歌声、とっても素敵だったよ。私、一緒に演奏できて…すごく嬉しかった」
「私もだ。君の音色は、本当に素晴らしい。また、聴かせてくれないか?」
「えっ……わ、私で良ければ、いつでも!」
何だか前にも似たようなやり取りがあった気がして、思わず頬が緩んだ。
級友達が、あいつら良い雰囲気だよなー……などと見守っている事は、まだ知らない。
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