if 魔フィア
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この俺が…ッ
マスコット…だと…ッ!?
「カルエゴさん、お見舞いに来ました」
「ルィエ…」
「ずっと寝込んだままだと、バラム先生から聞いて、心配で……」
【バビル】の新しい
その裏で、イルマに【バビル】のマスコットキャラにされたカルエゴは、ショックで数日間寝込んでいたのだ。
「……シャワー浴びてくる」
「はい。台所お借りしますね」
ルィエは、持参した薬膳スープを温め始めた。
「…クソッ……意識が………」
数年前、怪我を負ったカルエゴは、バラムの診療所に向かったが、あと少しというところで倒れてしまった。
「あの、大丈夫ですか?」
そんな彼を見つけ、声をかけたのは、一人の少女。
「大変……すぐにバラム先生を呼んで来ます」
カルエゴは神など信仰してはいなかったが、気を失う直前、彼の目には……。
「聖女、か……?」
「ああっ…しっかりしてください!バラム先生、急患です!」
「はぁ~い……あ、カルエゴくん」
その後、カルエゴはバラムにより運ばれ、治療を受けた。
少女はバラムを手伝い、献身的に看護した。
「傷の方は大した事なくて安心したよ。倒れちゃったのは、怪我よりも睡眠不足が原因かな。お疲れさまだね」
翌日、目を覚ましたカルエゴに、バラムはそう告げた。
「……シチロウ」
渡された薬草茶を飲みながら、カルエゴが尋ねる。
「いつから看護師なんて雇ったんだ?」
「ああ、少し前にね」
小貴族の娘だったルィエは、両親を早くに亡くし家が没落した為、孤児を養育する修道院で育った。
その修道院が閉鎖され、仕事を求めていたところ、騙され身売りさせられそうになり、見咎めたバラムに保護された。
「『この辺りは【バビル】の縄張りだから、勝手に商売するのは良くないよ』って言っただけなんだけど、連れてた人が逃げちゃって」
「フッ……お前が怖かったんだな」
「僕は医者なのになぁ……。それで、まぁ、薬香草の扱い方とか基礎的な医療知識はあるみたいでさ。教えた事はすぐに覚えるし、ちょうどいいからいろいろ手伝ってもらってるんだ」
昨日もお使いに行ってくれてたんだよと言われ、その帰りに自分を見つけたのかとカルエゴは納得しかけた。
「……オイ、待て。一人で使いに出したのか?」
「習い事程度だけど、護身術を嗜んでいたらしくて。急所を的確に狙えるよう少しコツを教えたら、その辺のチンピラぐらいなら撃退できるようになったよ」
どうやら、医学共々バラム仕込みの喧嘩法も学んだらしい。
没落したとはいえ、良い家柄の娘だっただろうにと、今はカルエゴのスーツをダーニングで修繕中のルィエに目をやる。
「それで?このまま、ここで養ってやるつもりなのか?」
「う~ん……他に引き取り手を探す事も考えたんだけど、今のところは学習意欲もあるみたいだし、一生懸命働いてくれて、僕も助かってるんだよね。将来的には、もっと良い環境で独り立ちさせてあげなくちゃって思ってるんだけど…」
ここは流石に手狭だし、住むところ世話してあげてくれないかなぁカルエゴくん。
バラムにそう頼まれ、カルエゴは自身のツテで部屋を借りてやった。家賃は診療所で働いた給料から天引きし、バラムからカルエゴに支払われる事になっている。
一人暮らしを始めたルィエは、お礼にと二人にアマレッティを作った。
焼き菓子やジャムは修道院でもよく作っていたので、得意なのだという。
カルエゴはそれを気に入り、以降、生活に必要なものを揃えてやる対価として、度々ルィエに菓子を作らせている。
元々バラムとは親しい間柄だった事もあり、治療の必要がなくてもふらっと訪れる場所ではあったが、来院する楽しみがひとつ増えた。
「もう、煙草は我慢してくださいって言ってるのに……」
ルィエの作る菓子は美味いが、カルエゴのヘビースモーカーぶりを心配し、煙草の本数にはうるさかった。
「もう火を点けた。勿体ないだろう」
「なら……私が吸います」
「お前が?吸えるのか?」
「吸えますよ。もう大人ですから」
ルィエはカルエゴの煙草を取り上げると、口に銜えた。
しかし、すぐに煙を吐き出す。
「所詮は喫煙ごっこだな。ガキのくせに無理をするな」
「子供じゃありません。ちゃんと…吸えてるでしょう?」
その表情はどう見ても「不味い」と言っていて、カルエゴは喉の奥で笑いを押し殺す。
「コーヒーだって、お砂糖無しでも飲めるんですからね」
「お前が飲めるのはカフェラテだろう?」
「あっ」
煙草を取り返し銜え直せば、ルィエは頬に朱を刷き文句を言った。
「もう……そんなに苦いのが好きなら、今焼いてるフィナンシェも、焦がして苦くしちゃいますよ?」
「フン…お前も食えなくなるぞ」
ルィエがそんな事をするわけがないとわかっているカルエゴは、意地の悪い笑みを浮かべながら紫煙を燻らせた。
「あんのクソ猫め……着ぐるみなんぞ……よりによってあんな姿に……ッ」ブツブツ
スープを平らげ、ハイカカオチョコレートで作ったルィエ手製のデビルズケーキを食べつつ、砂糖を4つ入れたコーヒーを飲み終えたカルエゴは、ソファで横になった。ルィエの膝を、枕にして。
ルィエは、彼の眼鏡をそっと外し、テーブルに置いた。
「記事を読みました。大変なお仕事だったんですね」
「……お前には、見られたくなかった」
顔を背けるカルエゴの髪を、整えるように撫でる。
出会った頃には一つに括っていたが、今では短くなっていた。
「でも、カルエゴさんのおかげで、御商売が上手くいったんでしょう?即日完売だとか」
「まぁな……だが、あんな事はもう二度と御免だ」
「少し、残念です」
「あ"?」と、カルエゴがルィエを睨む。
「あ、いえっ…着ぐるみの事ではなくて……モフエゴくん、私も欲しかったので」
「あんなものが好きだったのか?」
少女だったルィエも、既に大人になっていた。
もう何処ででも生きていけるとバラムからもお墨付きを貰っているのだが、未だに勤務先を変えないのは、ルィエ自身の希望である。
「だって…カルエゴさんがモデルなんですよね?だから、その……また入荷したみたいですし、買いに行ってもいいですか?」
「駄目だ」
冷たく言い放ち身を起こしたカルエゴに、怒らせてしまったと思い悄然とするルィエ。
「そもそも、あれを買ってどうするつもりだったんだ」
「それは……抱っこして、ぎゅってしたり、とか……」
「本物がここにいるのにか?」
「あ…」
カルエゴの膝の上に乗せられ、抱き寄せられて、これでは逆だと思いながらも、ルィエは大人しく身を委ねた。
「あんなもの、要らんだろう?ルィエ」
「でも、モフモフ……」
「粛に」
カルエゴは、己の唇で、ルィエの口を塞いだ。
甘くて苦いくちづけに、ルィエは震える吐息を漏らす。
「…ッ……カルエゴさん…」
「ぬいぐるみには、こんな事はできんだろうな」
「ずるいです……こんなの」
真っ赤になった顔を隠すように、頭を擦り寄せた。
「カルエゴさんが来ない日は、モフエゴくんを抱きしめて我慢しようって、思ったのに……」
カルエゴは、多忙だ。
バビルの金庫番兼イルマの教育係であり、集金に回ったり授業をしたり、何故か着ぐるみの中に入ったりと、様々な仕事をしている。
そうした疲れを癒す為に、彼はバラムの診療所を訪れるのだが、ルィエはそれを心待ちにしていた。
しかし、それは同時に、カルエゴの疲労を望んでしまう事となるのではないかと、ルィエは口に出す事はできなかった。
もっと、カルエゴさんに会いたい。
でも、それは望んだらいけない。
――カルエゴさんは、バビルに必要な人なんだから。
「ルィエ、よく聞け」
この数年で伸びたルィエの髪を、カルエゴが撫でる。
「俺は常々、さっさと組織を抜けて、貯めた金で平穏な日々を過ごしたいと思っている」
「そんな事、できるんですか?」
「なかなか思う通りにはならんがな……それまで、待てるか?」
「え…?」
「その時が来たら、お前も一緒に連れて行く。もう、シチロウにも話をつけてある」
「カルエゴさん…」
「セーレ・ルィエ――」
耳元で、低く響く声。
俺のものになれ
愛しいカルエゴに抱かれながら、ルィエは、この上なく甘美な笑みを浮かべた。
後日、ルィエの部屋にプレゼントが届いた。
中身は、両手で抱きかかえるにはちょうどいいサイズの、モフエゴくんのぬいぐるみ。
モフモフなそれをぎゅっと抱きしめ、ルィエは「カルエゴさん、大好き」と囁いた。
カルエゴに似た不機嫌そうな顔が、「相手が違うだろう、馬鹿者」と言っているような気がした。