はちみつれもん



でも、それから夢莉のことが頭から離れなかった。




初めて会う、夢乃にでさえ変わらないあの優しい笑顔が…やっぱり好きやった。



夢乃の寝顔を見ながらも、思い出してしまうけど…この子も楽しそうやったから



あれが本当にダメなのか考えてしまう。



夢莉に恋人がいる可能性の方が高いのにね…














子育てをしてるとそればっかりを考えられるわけやないけど。


『あ、夢乃…スプーンちゃんと使ってよ?』





「おぃちぃ。」



「ええやん、手でもしっかり食べてたらさ。」



『あかんって、もう2歳来るんやから!』



「まだ、1歳なったばっかや。せかせかしたらあかんよ?なぁ夢乃ちゃん。」



「おぃちぃ〜!」



「ほら美味しいって、ピリピリせんの。」



『してへんもん。』




親やから?夢乃に対して厳しくしてしまう時がある。

山田は優しく包み込んであげる感じ…バランスは取れてるやろうけど、私やって優しくしてあげたいのに。



ーーーー






あれから1週間が過ぎたけど、1度も会えてない。




避けられてるんやろうなって…なんとなく思ってた。

でも、会えたのが嬉しくて嬉しくて。



休憩時間になると気づいたらここの公園にいる。













「あーちょーぼ!」



「あっ、夢乃ちゃん。」



ぼーっとしてたら、まさに今考えてた人が現れた。





「君が夢莉くんか。」



「あれ、今日は彩さんは…」


「ごめんな?期待外れちゃって。」


「いや、そんな…思ってません。」



「ふーん。まぁ、それはええんやけど…私は山田菜々です。彩の親友やねん、一緒に暮らしててこの親子を手伝ってるんや。」


菜々さんはニヤッとしながら説明してくれた。


「そうやったんですね、僕は…」




「知ってる知ってる。太田夢莉くんやな?」



「えっ。」



なんで知ってるんやろ…

確かに名前言ってたな。


「彩が高3の時、毎日惚気話し聞かされてたからな?」




「あ、そうやったんですね…恥ずかしい。」



「そうそう、まぁ恥ずかしいなんて今更やけどな。」




「すみません、えっと…彩さんは今日は仕事ですか?」




あっさりした感じで少し怖い?って思ったけど、そんなことはなかった。親しみやすいの間違いや。





「ううん、体調崩して寝てるねん。やから代わりに子守や。」



「えっ、大丈夫なんですか?!」



「大丈夫や、よくあるねん。付き合ってる時もあったやろ?」




「ま、まぁ…そうですけど。」



「ふふっ、まだ好きなんやな?」



菜々さんはなんかすごく僕たちのことを知ってて、何もかも見抜かれてる気がした。



初めて会ったよな?




「…それは、そうですね。」



「じゃあなんで別れたん?」




「彩さんが、僕より好きな人ができみたいやったから…大学も楽しそうやし。邪魔したくなかったんで。」





「そっか…そう移ってんねんな。」



「どういうことですか?」




「あの子、大学に入るくらいに父親が蒸発してん…母親は浮気相手と逃げて。学費稼ぐのに必死やったんや。夢莉くんが一緒の大学に行きたいって言ってくれたから、頑張らなって。」




「えっ、そんなの初めて知りました。」



「やろ?まぁ、もともとは彩が本当のことを言わんし相談もせんかったから勘違いしたんやもんな。」




「…実は別れ話した後にやっぱりそんなの無理やって戻ったんです。走って。」




「そうやったん?!」



「でも、もう居なくて…そこから連絡する勇気もなく…このままやったんです。」




「もう、2人揃ってなんでそんなに不器用なん?あほや。」




「すみません…」



「あちょぶの!!!」



僕たちが話してると、夢乃ちゃんがとうとう痺れを切らして怒った。




そんな表情も拗ねてる時の彩さんそっくりで思わず笑った。




「あははっ、ほんまにお母さんにそっくりやね?」



「やろ?そっくりやねん。可愛いよ。」



「いつ結婚したんですか?」



「結婚はしてないで、彩はシングルや。だから手伝ってんねん。」



「そ、そうやったんですね。」



「うん、でも私は2人の間には入らんからな?ちゃんと話ししてみたらええやん。お互い答え合わせして、間違い探ししたら整理できると思うけどな…」




「でも、流石に嫌われてるから…避けてるやないですか?ぼくのこと。」


「んー、避けてるっていうか…彩も嫌われてると思ってる。」




「えっ、どうして?」



「そりゃ、約束破るばっかりしたからな?怒ってるって言ってたで。」




「確かにその時は事情知らないから怒ってたけど…そんな怒りすぐに無くなったから追いかけたんやし。」




「そのことは彩は知らんねん。」




夢乃ちゃんはボールを僕に渡してくるから少し投げてあげて遊びながら菜々さんとの話を続けた。




「そうですね…でも、話してくれるかな。」



「分からん、あの子ほんまに頑固やからなぁ…私が言ったところで聞かんねん。」



「あははっ、そんなに頑固でしたっけ?」



「んー、昔はそんなことなかったかな?」



「ですよね…」


「君と別れてからや。変わったのは。」



「すみません…」




「ふふっ、謝ることやないで?それほど大好きで真剣やったんやろ。」



「そうなんですかね。」




話しを聞けば聞くほど、あの時ちゃんと探して追いかけてたら…彩さんを苦しめなかったのかなって思う。




「まぁ、何が幸せか分からんし。今は夢乃がおるからね?」




「ちゃんぷ〜!ちゃんぷ〜!」



「ふふっ、ジャンプな?」



こんな真剣な話しをしてても、笑顔でずっとぴょんぴょんしてる夢乃ちゃんに癒された。



「彩さんに、会えたら…またちゃんと話してみます。」


「うん、それがええよ?だいぶ経ってるけど、まだ遅くないと思う。」



「ありがとうございます。」





それから夢乃ちゃんと遊んで、仕事に戻った。





それから少し経って、連絡先は変わってるしどうしたら会えるか…いつ会えるか、そわそわして待ってた。















1ヶ月後…





「にぃたん!」



「あ、夢乃ちゃん久しぶりやね?」



僕も仕事が忙しかったから、あんまり公園に来られなくて…久しぶりに来てた。






『ちょっと夢乃!帰るよ!』




「やぁだぁ!!」




「彩さん…」




『夢乃!!いい加減にしなさい!!』




遊びたがる夢乃ちゃんに彩さんはイライラしてて、怒鳴った。




「うわぁあ〜ん!!」



「あ、あのさ…ちょっとも遊んだらだめ?」



『なんでゆーりと遊ぶねん、おかしいやろ。』



「まぁ、そうやけど…少しくらいええやん。泣いてるんやし。」





『もう知らん…』




彩さんはこの間あった時はもう少し余裕があったのに、なんでこんなにピリピリしてるんやろって思った。





「どうしたの?大丈夫?」



『別に。』



「うわぁあ〜ん、、、」




「あぁ、よしよし夢乃ちゃん…大丈夫だよ。」



夢乃ちゃんをそっと抱きしめて頭を撫でてあげた。



『山田に甘やかされ過ぎてんねん。夢乃は…』




「そんなことないでしょ、のびのびしてるのは良いことやと思うけどな…」






『ゆーりには、分からんねん…』




「まぁ、そうなんやけど…彩さんどうしたの?なんかあった?」



『なんもない。』



「そっか…」






しばらく沈黙が続いた、なんて声をかけたら良いか分からんで。





「あちょぶ、にーたん!」




少しすると夢乃ちゃんは復活し、笑顔で言ってきた。




「うん、いいよ!遊ぼうか!」




ボールを渡してくれたから、またいつもの遊びを始めた。




前より少し話せるようになってて、僕のことを呼んでくれるようになって嬉しかった。





「彩さん、僕ね…あの日別れた後にまた追いかけたんだ。」





急に話しを始めた。




『え?いつの話やねんそれ…』




「別れた時だよ。」




『知ってるけど…』




彩さんは一瞬だけ僕の方を見て俯いた。



「戻ったけど、彩さんはもう居なくて…ずっとずっと後悔してる。なんでもっと話しを聞かんかったんやろって。」




『いまさらそんなこと…』




「うん、そうだよね。でも…ずっと思ってた、それに謝りたかった。本当にごめんね。」




『ゆーり…』




「なんであんなこと言ったんやろうって、後悔しかない。」




『私やって、、本当はサークルなんか入ってなくて…大学の費用払ってくれる人いないからゆーりが同じ大学行きたいって言ってくれて嬉しくて必死でバイトしててん。それを言ってないから、ゆーりを怒らせてん…仕方ないと思ってたよ。』



話しながらポロポロと涙を流して始めたのに、僕の胸は締め付けられた。



「ごめん、今さらやけど…なんにも気づけなくて。」




『ううん、ゆーりは悪くないよ…こっちこそごめんね、、』





彩さんは泣きながら最後は笑った。




それがとても切なくて、和解した?けど…もうあの頃には戻れないのかなって思った。





「ううん…彩さんは謝らなくて良いんだよ。夢乃ちゃんってさ、いま何歳?」



あの時、たくさ謝らせてしまったことも、事情聞いて余計に反省してる。



『1歳になったばっかりやで?』



「そうなんやぁ、ほんまに彩さんそっくりで可愛い。」




『でも、大変やで…可愛いけど、子育てって産むのより何倍もしんどい。』




「うん、そうなんだろうな…僕はこうやって遊ぶだけやからさ。」



『怒るばっかりしちゃう、愛してるのにね。』



「お母さんはみんなそうなんやない?僕は子育てしたことないけど、自分のお母さんとかそうやったんやろうなって思う。」




『ふふっ、そうなんや?ゆーりもそう思うんや。』





「にいたん、あっちあっち!」



『あ、こら。お兄ちゃんはお仕事やねんから…夢乃の遊び相手やないんやで。』



「やーだぁ!やーだぁ!」



「あははっ、これまた可愛くて困ったなぁ…」




「あちょぼぉ?」


「うん、良いよ?何しようか。」



『ほんまに、ええんやで?貴重な休憩時間なんやから。』



「良いんだよ、僕は夢乃ちゃん遊んで癒されることが1番の休憩なんやから。」




『そう?ほんまにええんやな?』



「もちろん!」



『ありがとう。』

昔の話しも、ちゃんと話せて謝ることでわだかまりが減ったのか…彩さんは普通に話してくれるようになった。




それも、すごく嬉しい。


「まてまて〜」



「きゃはははは!!!」



追いかけっこしたら滑り台に何回も一緒に上って滑ってを繰り返して、目一杯遊んだ。











そして、またお別れの時間…





『じゃあ夢乃?お兄ちゃんにバイバイしような?』




「いやぁ、にぃたん…いっしょぉ。」



『夢乃…わがまま言わんの帰るよ。ママ帰っちゃうからね。』



「やぁや、まぁま…!」



『じゃあ帰ろう?』


「おにぃたん!!」



「そんなに言ってくれたら、僕も離れたくないな…あははっ。」



僕の足にしがみついて離れようとしない、夢乃ちゃんを愛おしく思った。


『夢乃、お兄ちゃんはお仕事やねん。もう終わりや。帰ろう?』



「やぁやああ〜!うわぁああん…!!」



『夢乃…』




夢乃ちゃんは盛大に泣き始めた。



もうなんか出会ってまだ3回目なのに、こんなに懐いてくれて可愛くてたまらないな…




「可愛いなぁ、よし…じゃあおんぶして送ってあげるよ。」




「おんぶう?」



「うん、おいで?」




『でも、ゆーり仕事は?』



「大丈夫大丈夫!ここからそんなに遠くないでしょ?」


『うん、5分くらいかな。でも悪いよ。』




「大丈夫やって、夢乃ちゃんも泣き止んだし。送っていくよ。」




『ほんまに、ごめんなぁ…』



彩さんは申し訳なさそうに謝ってたけど、またこうやって再会できたこと…こうやって一緒に居られてることが嬉しくて嬉しくて。








『夢乃、寝ちゃったな。』



「たくさん遊んだもんね、無邪気で本当に可愛いな。」



『本当にありがとうね、ゆーり。』



「ううん、こちらこそだよ。」



『え?』




「また、彩さんと会えて夢乃ちゃんともたくさん遊べてこんなにも懐いてくれて…嬉しい。」



『ふふっ、こんな親切な人は他におらんもんな。』




「親切な人かぁ。」



彩さんからしたら僕はもうそういう目でしか見てもらえないんかな。













がちゃっ。



「あ、帰ってきた帰ってきた。」



『ただいま〜』



「こんにちは!」





家に着いて、ドアを開けようとすると菜々さんがちょうど出てきた。



「あら、ゆーりくんやん!ちょうど帰って来んなぁって様子見に行こうと思っててん。」




『夢乃がもうあり得へんくらい駄々こねて、ゆーりに遊んでもらっておんぶして送ってもらってん』




「そうやったん、そんな夢乃はゆーりくんの背中で夢の中やな。」




『そうやで、おんぶしてもらってすぐや。』



「たくさん遊んだんで疲れたんですよ。」



『じゃあゆーりは休憩終わるから…』



「あ、私が夢乃もらうよ。」



彩さんが夢乃ちゃんを受け取ってくれようとしたけど、菜々さんが代わりにしてくれると言った。




「彩、一回腰やってんねん。また痛めたらあかんからな。」



『夢乃ほんまに重たくなってきて、抱っこした時にイヤイヤで暴れる時あるから…』



「そうやったんや、ほんまに無理しないでね。」


『ありがとう。でも、今は大丈夫やねんけどな?』



「なら、良かった。じゃあ僕は会社に戻るね〜」




「彩、送ってあげて!」



『えっ?』



「大丈夫ですよ!10分くらいで着くんで!」


「せめて公園までもさ、あんたが道案内してきたんやろ?」



『う、うん…』




「ほら、夢乃は私に任せて行っておいで!」


がちゃっ。


菜々さんは玄関にほぼ入ってる彩さんの背中を押してドアを閉めた。




『ちょっ、…ほんまに、強引なんやから。』




「大丈夫やのにね、あははっ。じゃあ公園まで送ってもらおうかな。」




『うん、夢乃がグズったの助けてくれたし。送っていくよ。』




僕はなんだか嬉しくて、少しにやけてしまいそうなのを我慢して彩さんと歩き出した。
7/9ページ
スキ