はちみつれもん
彩さんと別れてから、僕の毎日はまたモノクロに戻ったようだった。
何をしても何も感じない、なんのために生きてるんやろうって…
あの後は、彩さんとは違う大学に行った。
就職しようかと思ったけど、したい仕事もないし大学に行ったらサークルとかで気が紛れるかなって…彩さんも僕と会わなくなったくらいやから。
そう思って、行ったけど…何も楽しくなかった。
それどころか、サークルに入ると女の子も沢山いて彩さんを思い出さない日なんてなかった。
なんで僕は彩さんに別れを告げたんだろう。
連絡なんてする勇気もなくて、年月が経ってしまった…
長い大学生活も終えて、就職すると忙しさに少し思い出さない時間もあって。
時間が経つと少しだけ気が紛れてくるものなんだって思ったけど、自分がここまで未練の塊になるなんで思ってもなかったな。
それほど彩さんが特別で僕には運命の人だったんだと、痛感する…
人混みの中に彩さんを何回も探した。
今何してるかどこに居るかも分からないけど、気づいたら探してて…
でも、やっぱり会えるわけがなかった。
別れて、8年が経つし…きっと僕のことなんて忘れて幸せになってる。
嬉しいのやら、寂しいのやらわけわからない感情に左右されながら毎日生きてた。
そんなある日の昼休みにたまには息抜きでって、近くの公園のベンチで缶コーヒーを飲んでた。
親子連れの幸せそうな姿を見たら、そろそろ結婚したくなったりして…とか思ってた。
平日やし、昼やしそんなに人は居なかった。
「ふう…まだ半日あるのか。」
1日が長くて、…なんで?高校生のとき幸せやったから?毎日が短すぎたんだよな。
もっと一緒にいたいのにって、何度思ったか。
ポンッ…
「ぁ、とぉてぇ…」
「ん?」
小さな可愛い声に足元を見るとボールがあった。
「ボール…」
自然に手に取ってしばらく見てた。
「とぉーだぃ!!」
「あ、ごめんごめん…はいどうぞ。」
「ぁーとぉ。」
「ふふっ、可愛い…」
小さい子と関わることなんて今までなかったけど、めちゃくちゃ可愛いって思った。
「あちょぼぉ?」
「えっ、遊ぶの?」
「ぅん!!」
「あ、えっと…あの…お母さんとお父さんは?」
「あちょぼぉ?」
これだけ小さいと、人の質問には応えないみたいだ。
YESしか聞かない気がする。
「う、うん…良いよ?」
「ぁぃ。」
「僕が投げるのね?」
ボールを僕に渡すと少し離れたからキャッチボールかな?
「しょだよぉ。」
「はいっ、いくよ〜」
「きゃははあ〜!!」
ボールを投げるだけで、大笑いでめちゃくちゃ喜んでくれた。
なんて儚い愛おしさなんやろう…
『ちょっと、夢乃!!ここにおったん!?』
「まぁま。」
その時、その子のお母さんらしき人が来た。
「えっ…」
髪は肩より少し長めで、少し茶色やった。
でも、見たことある…あの頃よりまた大人っぽくなって綺麗だった。
「彩さん…?」
僕の声に一瞬固まったけど、ゆっくりこっちを見た。
『なんで、ゆーり…』
すごく驚いていた、僕やって同じくらい驚いた。
「ちょうど仕事の休憩時間やってさ…久しぶりだね。」
『そ、そうなんや…夢乃、帰るよ。』
そう言って、すぐにその子の手を持って帰ろうとした。
やっぱり嫌われてるんだ…
逃げられても避けられても仕方ないよね。
「やぁや!!」
『夢乃…!』
「あちょぶの、あちょぶの…」
でも、遊びたかって全く帰ろうとしなかった。
「今ね、キャッチボールで遊んでたんだ。成り立ってはないけど。」
『そうなんや…お兄ちゃん忙しいから夢乃と遊んでる暇ないんよ。帰るよ。』
「いやぁあ〜、、うわぁあん〜、、」
『もぅ、夢乃…』
「いいよ、僕もあと少しで休憩時間終わるし少ししか遊べないけど…遊ぼうか?」
「ぁぃ!!」
『なんやねん…もぅ。』
彩さんは呆れながらも遊ばせてあげることにしたみたいやった。
「きゃははあ〜!!」
僕と遊ぶのをすごく喜んでくれて、とでも嬉しかった。
久しぶりに楽しかったな…
彩さんの子どもなんやろう、名前は夢乃ちゃんで本当に彩さんそっくりのちび彩さんって感じ。
『ありがとう、ごめんな?貴重な休憩時間を…』
「全然、久しぶりに楽しいかったよ。ありがとう。」
『そう、じゃあ…』
夢乃ちゃんは遊びに満足すると、帰ろうと彩さんが抱っこした瞬間に寝てしまった。
本能ままで生きてるって感じで愛おしいな。
「気をつけてね。」
最後まで彩さんは僕にそっけなかった。
やっぱり怒ってるんや、僕が別れようって言ったこと。仕方ないよね。
でも久しぶりに会えて本当に嬉しかった。
また会えるかな…
ーーーーー
『ただいま。』
「おかえり〜、長く遊んだな?」
『うん、夢乃は寝ちゃった。』
「ほんまやな、目一杯遊ぶからな。」
『うん…』
「ん?」
せっかく、忘れられそうやったのに夢莉に遭遇してしまった。
なんでこうなるんやろ…もう夢乃だって、いるのに再会してもダメやん。
夢乃が、1番なんやから。
私は神様に嫌われてるんや。
夢乃をソファーに寝かせて、手を洗って椅子に座った。
「はい、コーヒー」
『ありがとう。』
「どうしたん?元気ないやん。」
『うん…』
「なんかあった?」
『ゆーりに会ってん…いつもの公園で。』
「えっ!そうなん?、ゆーりくんも子供連れ?」
『ううん、仕事の休憩時間やったみたい。』
「え、え、話したん?声掛けられた?」
『夢乃が私とボール遊びしてて追いかけたまま帰ってこんから、慌てて行ったらゆーりと遊んでたんや。』
「えぇ!そんなことある?」
『ほんまに、誰とでも遊ぶんやから…飽きれるわ。』
「イケメンのお兄ちゃんやって、本能的に分かったんやろうな?」
『そういうことちゃうやろ!』
「ごめんって、このお兄ちゃんは優しくて遊んでくれるって分かったんやな?男の人に行くことないやん夢乃って。」
『確かに…遊んでって言って私と遊んでるのほったらかして遊んでんねん。あほや。』
「ふふっ、可愛いな。で、ゆーりくんとはどんな話ししたん?」
『特にそんな話してない。』
「言わんかったん?別れた時のこと…事情話さんかったん?」
『話すわけないやん、何年前の話しやねん…向こうやってもうなんとも思ってないし。忘れてるやろ…』
「そういうもんやろうか?私は忘れてないと思うけどな…」
『ええねん、忘れてて…夢乃が私にはおるんやし。』
「そうかなぁ。」
山田は嬉しそうにしたけど、私たちはもうそんな関係やない。
もう2度と会わないようにしないと…
私は私の生活があって、夢莉には夢莉の生活がある。
もうあの頃には戻れないから。