はちみつれもん

僕たちの出会いは突然だった。



今までお互いの存在すら知らなかったのに、なにか神様の間違えで…運命が変わったのかもしれない。











高校1年の夏…




特に中学生の時からの生活も変わりなく、相変わらず友達もいない僕は休憩時間は寝るしかなかった。





「あれ?落ちましたよ。」




廊下をすれ違った女の子がヒラッと何か落とした。





『え、あ。…すみません!』



彼女はたくさんの積み上げれたノートとその上にプリントがあった。




すぐに載せてあげようとしたけど、






「半分持ちますよ。」



明らかに重そうで、誰も手伝ってくれなかったの?って思うほど。



『え、いや…大丈夫ですよ。悪いし。』




「いえ!持ちます!また落としても危ないから。」




『っ、ありがとうございます!ふふ…』




「え?」



『ううん、こんなに優しい人っているんやって嬉しくなってん。』



「あ、あぁ…いや、普通ですよ。」



顔が自分でも分かるくらい熱くなった。



『じゃあ、半分お願いします。職員室まで。』



「はい!」




名札を見ると、3年生やった。


僕よりふたつ上か、上級生と関わるの初めてかも…





『太田くんっていうんやね?下の名前は?』 


職員室に持って行き、教室までの帰りの廊下でそう聞かれた。



「あ、太田夢莉です!」



『ゆーりくんね、私は山本彩!彩でいいよ!』



「僕の方こそ夢莉でいいです!彩さん…」



『そう?じゃあそうするね!ゆーり。てか彩で、ええのに。』



「はい!いや、ダメですよ、先輩やのに。」



彩さんに名前を呼ばれると顔が爆発しそうになる。



なんかいつもと違うな…





『ふーん、じゃあ彩さんでもいっか?』



少しつまんなそうにする彼女に、なんだか可愛いって思ってしまう…



「彩さんで、お願いします。」



『分かった!あれ?その本って…』



「あ、これですか?」



『それ!私が好きな小説や!』



「えっ、そうなんですか!?」



『うん、何回も何回も読んでるのにさ…その雰囲気とか表現力とか言葉の言い回し?っていうかな。大好きや、何回も学校の図書館で借りてんねん。』



「図書館ですか?そんなに好きなら買ったら良いやないですか。」




『んー、まあまあ高いやん?だから学校の図書館で借りられるうちはたくさん借りて読もうって思ってん。』




「それなら、あげましょうか?」



『え?なんでよ、ゆーりは好きやないん?その本。』



「二冊持ってるんですよ。」



『え?ふふっ、なんで二冊も?』




彩さんはそう言って無邪気に笑った。



もう気にしなくなったけど、苦い思い出が実はあるんだ…





「友達にプレゼントしようと思ったんです。」



『えっ。』



「大好きやから、この小説が…それを分かち合いたくて?あははっ、今から思ったら確かに気持ち悪いかなって思うんですけど。誕生日にあげようと渡したら男やのに友達のプレゼントに小説なんて気持ち悪いっ!いらないって。」



『なにそれっ…!』



「あははっ、ショックでそれ以降はもう…友達っていう関係性が嫌になって。1人でいるのが好きになったんですよ。」



『酷すぎる、、、』



「え、ちょっと彩さん?」



『っ、、、なんでそんなこと言うんやろうな…』




彼女は泣き始めた。



僕はめちゃくちゃ焦った…人生の中でまだ女の子を泣かしたことは一度もなかったから。




「なんで彩さんが泣くんですか、中学生の時の話やからもう昔の話ですよ。」

『そんなん、ゆーりが傷つくに決まってるやん…』




「彩さん…ありがとうございます。」




『私、その小説もらって良い?』



「もちろんです!僕やって、大好きな小説は絶対に大切にしてくれる人にあげたかったから。」



『ふふっ、ありがとう…なんか私らって初めて会った気がしないね。』




「そうですね、なんか…この話した人も彩さんが初めてなんですよ。」




『そうなんや?なんか嬉しい。これからよろしくね、ゆーり。たくさんこの小説について語ろうや?』



「もちろんです!」




ずっと胸の中に仕舞い込んでた、この話しを初めて誰かにすると…ずっと重たく感じてた心も軽くなった気がする。




それに彼女が笑ったら泣いたり、出会ってまだ1時間も経ってないのに…無邪気で心優しい姿に胸がぎゅっと、笑顔を見るとさらに胸が締め付けられるのはなんでだろう?








それから僕たちは仲良くなって、学校の行き帰りもやし…休み時間だって2人でいた。





「せっかくこんなに仲良くやったのに、彩さんは卒業なんですよね。」




『まぁ、そうやね…2歳差ってなんか複雑や。』




「寂しいな…」



『休みの日にだって会えるやん?大学生になったら時間もあるし。』



「うん…今度、映画でも見に行きませんか?」



『おっ!良いね、いこいこう〜』




僕が勇気出して誘うとニコニコ笑いながらおっけいをくれた。


思いやりが強くて、本当に優しくて、年上なのに無邪気なところも笑顔も可愛いって心の底から思ってる自分がいた。






1/9ページ
スキ