はちみつれもん



『ごめんな?夢乃がほんまに。』




彩さんとせっかく2人きりになれたのに、歩き出して最初の言葉は『ごめん』やった。



それになぜか切なさを感じる。


僕たちの間に溝ができたのは、最悪な状態で別れてからの再会までに時間がかかり過ぎたんだ。

って、1番は僕が別れを告げたこと。

こんなに想ってるのに、愛おしく思ってるのに…




もっと早く探し出さなかったんやろ。

なんで、理由をちゃんと聞かなかったんやろ。

どうして、彼女の様子に気づかなかったんやろ。


「僕が夢乃ちゃんと遊びたかったんやから、謝らなくて良いんだよ。」



『でも…』




「それに彩さんともちゃんと話しができたし。」



『ゆーり…』




「僕の方こそ、本当にずっと謝りたかった。ごめんね…彩さんのこともっと、信じて話を聞いてればって何回思ったか。」



『やから、それは…私が言わんかったのがあかんねんって。』



「ううん、言わなかったとか…そういうのやなくて一時の感情に惑わされてあの時って。」



『そりゃ怒るよ。反対の立場でも怒るもん、ゆーりは悪くない。』



「いや。悪いよ…変化に気づけたと思うのに…彩さんのこと今でも変わらずさ、あの…」




なんでここで緊張しちゃうんや、ちゃんと伝えないといけないのに。





『どうしたん?』



「今でも愛してるから、夢乃ちゃんやって愛おしくてたまらないんだよ。」


『そんな、あかんに決まってるやろ?もう何年もたってんねん。』



「うん、そうなんやけど、それで何も言わなかったら僕はまた後悔するんだ。」



『ゆーりの気持ちは…嬉しいけど、でも夢乃が私にはいるから…ごめん。』



「そっか…」



『会うのもこれで終わりにしたいねん、けじめとして。』



もう本当に無理なんやって思った。



彩さん自身の中で僕のことを許せないんや…




「うん、そうだね。今さらやもんね?ごめん。」




『ううん、謝らんでよ。ありがとう、ゆーりが変わってなくて嬉しかった。』



「彩さん…」



『じゃあね。』



「うん…」




そう言って僕の手を優しく握って、彼女は手を離した。






もう受け入れてもらえないんやって思うと、諦めが悪いって言われるけど…胸が苦しく痛くて仕方なかった。






ーーーー






夢莉にちゃんとけじめをつけたと思ってた。





でも…





『なんで、もぅ、、、涙止まらんねん…』




涙が気づいたら出てて、見えなくなるまで見守ってくれてた夢莉が恋しくて…たまらなかった。




誰がどうのこうのって、私が1番好きやったから…夢莉に未練があるからこうやったんや。




だからあかんねんって、もうこれ以上会ったら感情が制御できなくなる。











がちゃん。




「あ、おかえり?」



『ただいま…』



夢乃はまだ寝てるみたいやった。




「どうした?泣いたん?」



『ううん…』



結構泣いちゃったから、泣き後残ってるに決まってるのに強がりでこんなこと言っちゃう。




素直に苦しい辛いって言えたらどれだけ楽なんやろ…





「夢莉くんとどうやったん?」



『ん、もう会わないって言った。』




「えっー?!なんでよ!!」



『山田はどう思ってるんか知らんけど、私らはもうとっくの昔に終わってんねん。それに私にはさ…』




「夢乃がおるから?なんやねん。」




『や、やから…夢乃を幸せにせなあかんねん。育てなあかんし。』




「それが何と夢莉くんと会わんに関係すんねん?」



『えっ?』




「夢乃は夢乃の幸せがあるねん。あんたが夢莉くんと会わないのが幸せなん?」



『いや、だからそういうことやなくて…その…』




「そりゃ、母親やから夢乃の幸せを願うのもしっかりと育てなあかんって思うのは当たり前やで?でも、やからって彩の幸せは?それってなんか自分を犠牲にしてるっていうか夢乃せいにしてるやんか?」


『そんなことない!!』



「だいたい、夢乃は夢莉くんが大好きなんやで?」



『でも…』




「彩やって、好きなんやろ?まだ愛してるんやろ?なんでそんなに自分の気持ちに嘘つくねん!好きなんなら好きって言ったらええやんか。」



『山田…』




「夢乃は夢乃やし、夢乃の幸せは彩の幸せと同じでさ…彩の幸せも夢乃の幸せかもしれんやろ?」




『でも、まだ一歳やし…』



「夢乃がそれはもう嫌だって言った時に考えたらええんちゃう?子供がおるからって彩が幸せになろうとするのは悪いことやないと思うねん。」



『うん…』



「まぁ、ちょっとごめん言い過ぎたな…でもなんか焦ったくて言わずにおれんかったわ。ま、気にせんで。」




『気にせんのは無理や…』



「ごめんごめん。でも、彩と夢乃の幸せは私の幸せでもあるねん…やからね?ちょっと言い過ぎたけど。」




『ううん、ありがとう山田…』




「ふふっ、ご飯しよっか。」



『そうやね、夢乃も起こしてくるわ。』



「うん。」





山田が言ってることはすごく、なんていう心に沁みた…

なんて返せば良いかもわからないけど、背中を押してくれてて好きなのには変わらない。










それからなんだかんだ、会うことはなくて3ヶ月が過ぎようとした…




私たちも仕事と子育ての両立にめまぐるしく忙しい日々を探してた。










「彩、ほんまにごめんなんやけどさ…」




夜、夢乃の寝かしつけをしてて添い寝をしてたら山田がドアを開けだ。




『ん?どうしたん?』



「明日から急遽出張になってさ、夢乃の送り迎えどっちもできひんねん。」



『あー、そうなんや?全然大丈夫やで。気にせんで。』




「ほんま大丈夫?彩が寝る時間があるか心配やねん。」



『大丈夫やって、確かに迎えはほぼいっつも山田にお願いしてるけど…』




私は子育てしてるけど、シングルやから正社員で普通に働いてるから朝が早くて夜遅いことも全然あって山田に助けてもらってることが本当に多い。




『なんとかなるよ!ありがとう。』


「ほんまに?断ることもできるんやけどさ…」



山田は今年部署移動してて、転勤が少し増えた。




でも、だいたい朝が早くて夜は私より早く帰れるから迎えを頼んでる。



『だめやって、大丈夫やから!』



「そう?じゃあ分かった。」




『いつもありがとう、山田。』



「ううん、家族なんやから当たり前やで。」




そう言ってくれる山田の言葉に涙が出そうになる。


なんだか、年々涙腺がゆるくなってる気がする。
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