大好きなひと。


「俺と家族になってほしい。」






『えっ…』








それは突然やった。



ずっと付き合ってた彼とは、結婚まで行くなんて考えられへんで…








でも、嫌いなわけでもなかった。








大好きで大好きて…たまらんかった。


でも、結婚なんて考えるような人には見えんかったから。



一緒にいまはいられるだけでいっか。て…








「なんで、そんなびっくりするねん。」




『いや、なんて言うか…結婚のことなんて頭にないと思ってた。』



「なんやそれ、したくないか?俺と…」




初めて見た、ちょっと自信なさげな感じにキュンってなった。



初めて可愛いと思った。






『ふふっ、そんなわけないやん…ずっと思ってたで。』





「そっか。」




でも、返事はそっけない。これが百花やんな。




そんなところまで大好きやねん。










そして、私たちは籍を入れた。



結婚式はお金が貯まったからで良いかなって。




とにかく結婚生活を楽しみたかってん。









『はい、ご飯できたよ。』



「いただきます。」



『なぁ、ありがとうって言ってや。』



「あ、忘れてた。ありがとう。」



『忘れんでくれる?ふふっ。』







ーーーー





ふと、考えるのは…なんで彩は俺と結婚してくれたんやろうって。




ぶっきらぼうやし、気はつかんし…俺はええところなんてないのに。



彩はそれを見て笑いながら受け止めてくれる。


"ももからしいなぁ。"




そう言って、笑いながら受け止めてくれる。



その笑顔も大好きやし、彩の全てが愛おしくて。



ずっとそばにいて欲しいって思う。



なんなら、仕事なんかせずにずっと隣にいたい。




そんなこと恥ずかしくて言えへんけどな…。







この幸せが夢のようにいつか覚めるんやないかって少し怖がってる自分がいる。







『ももか?』



「ん、どしたん。」



『ふふっ、呼んだだけ。』



「なんやねん。」



『コーヒー飲む?』




「飲まん。」



『飲まんの?じゃあ私のだけいれてこよ』




違う、ソファーでくつろいで俺にもたれてるのをやめて欲しくなくて言ったのに。



自分の行くんなら意味ないやん。




「あんまり、コーヒーは飲んだらあかん。」



『えぇ、なんでよ。』



「ええから、テレビみよ。」



『これ面白くないやん。』



「………」




『まあ、いっか。』




そう言って、立つのをやめてまた俺にもたれてきた。




良かった…。





ーーーー





私たちはお互いに仕事が好きで、2人で過ごす時間の次にたぶん百花も仕事が好き。









『なんか最近身体がだるいねんなぁ。』




ふと、オフィスで本音をもらした。



「疲れてるん?」



同僚で高校からの友達でもある山田が反応した。




『分からん、なんかなぁ。幸せすぎたんかも。』




「もしかして妊娠とか?」



『えっ、そんなわけ…ないない!』



結婚して半年たったくらい。



子どもの話しは、、なんとなーく。




「あんたらほんまに仲ええから、なぁ。」



『……なぁ、それってどうやって調べるん?』



「やっぱり心当たりある?」




『いや、まさかやけど…調べてみようかなって。』




「まぁ、休憩時間にでも薬局行ってみる?」



『う、うん。』





山田に着いてきてもらい、妊娠検査薬を買った。






でも、かなり試すのに勇気がいる。



もし出来てても嬉しいことには変わらない…けど。














そのけどは、、




やっぱり仕事を辞めたくなかった。




百花と家族になることは本当に望んでたけど、2人での生活を楽しむことと仕事を両立して…



十分すぎるくらい満足してたから。















「どうやった?」




でも、思い切ってその日に試してみた。









『…陽性やった。』




「えっ!うそやろ!」




まさかの結果に、正直失神しそうになった。



「彩?、大丈夫?」



『う、うん…』



「とりあえず、帰ったら百花に話すんやで?」



『…でも、話したら産まないとあかんやろ。』



「えっ…?」




『もう少し考えてから、話す…』



「あんたもしかして。」



『百花はなんて言うか想像つくねん、でも、ちゃんと私の考えも整理してから話し合いたいから…』




「まあ、そりゃそうやんな…なんて言ったって産むのは彩になるんやもん。」




『うん…』




それでも考えようにも考えられなくて…




自分が子供を産んで育てるって、想像できない。





それから上の空やった。




決心もつかないけど、なんて話して良いかもわからない。













モヤモヤしたまま…



いつも通りで、特に体の不調もそこまでないし。














あっという間に1週間がすぎた。













(これ荷物を〇〇部署に運んでください。)




「分かりました。」




「はいっ。」




だんだんと考えるのもやめて、仕事が忙しくなったもんだから自分が妊娠してるっていうことも忘れかけてた。







「ちょっと彩、あまり重たいもの持ったらあかんやん。」




『大丈夫やって、このくらいいっつも持ってるやん。』





「そうやけどさぁ。」





知ってるのは山田だけで、気にかけてはくれてたけど。


仕事場に届いた荷物を運んだり、書類を送ったり忙しく過ごしてた。














そんな日々を過ごしてもやっぱりいつかは決心をつけないといけない日が来る。





日曜日も今週は仕事があって、午後の休憩からオフィスに帰ってきた時やった。





『ぅゔっ、、なんかお腹痛い…?』




下腹あたりが今まで感じたことがないくらい急に痛くなった。






でも、気にするから痛いんやってお腹をさすりながら立ち上がった。




『ぅゔっ!!…』




思わずしゃがみ込みそうなくらいさらに痛くなって、近くの机にさばりつこうと思っても立ってられなくなった…






「彩っ!?どうしたん!!」




それに山田が気づいて近くに来てくれた。



『お…なか、いたい、、』



「えぇ!!だ、誰か救急車!!」




そのまま私は意識も遠のいた…




百花にも病院にすら行ってない、罰が当たったんや。













ーーー




「彩っ!!」



俺は彩が病院に運ばれたって、連絡を受けて全てを放り投げてすぐに向かった。













『ももか…』



「大丈夫か?」



『うん…私は大丈夫や。』




病室に通してもらうと、彩は意識が戻ってた。



安心して泣きそうになったけど我慢。




「良かった…ほんまに、心配したんやで。」




「彩?そろそろ話してもええやない?」



そうすると、付き添ってくれてた山田が言った。



なんのことやろ…





『あ、あのさ…ももか。』




「ん?」




『私な、妊娠してんねん…実は。』





「えっ…!!」



『ごめん、ずっと言ってなくて。』




「まって、なんで言わんかったんや?」



『仕事やめたくなかってん、、産んで育てる自信もなかってん…』




彩は泣きながら言い始めた。



「なんで、相談せんかったんや…はぁ、それならそれで2人で話し合って一番良い方法見つけたらええやんか。」





「不安やってんな。」




「あほやな…それで、こんな痛くてしんどい思いして、あほやで。」




『ごめん…産みたくないとか言ったら百花がなんて言うか想像するの怖かってん。』




「産みたくないんか…?」




『仕事続けたくて…でも両立できる自信もないから。』




「そっか…でもな、俺は彩が何よりも一番大切やねん。彩が無事ならなんでもええ。」



『ももか…』



「彩が望む方法でええんやで。」



『でも、…』



「俺が仕事やめてもええしな。」




『それはあかんやろ…でも、でも…』




「ん?ゆっくりでええよ。」




『赤ちゃんも、、大切やねん、、分からんねん…』






ぎゅっ、、





「なら、産んで欲しい。俺たちの子どもやもん…気持ちを分かることなんてできひんけど、彩と一緒にこの先も幸せになりたいからな。」






『ももか、、、』




泣き出した彩をしばらく抱きしめて、俺は痛感した。




この先もずっとずっと守りたい、でも俺の力やどうにもできひんこともあるんやって。



ただ彩と赤ちゃんが無事でありますように。



そう願うことしかできなかった。















彩は危うく流産寸前やった。




安定期入ってないのに、普通に仕事して無理してたんやろう…



これからは俺がちゃんと守れるように、彩のことを守りぬく。
1/2ページ
スキ