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ミツナルワンライまとめ

『足元に気を付けろ』『寒くないか?これを着たまえ』『車道側は危ないからこちらに』

 ……ずっと思っていた事を、今日は言おうと思う。
「あのさ、お前ってぼくの事なんだと思ってるんだ?」
「何、とは……?恋人だと思っているが?」
「う、いや、そうだけどそうじゃなくて!お前、ぼくの事女の子扱いしてないか?」
 紳士たる御剣は、エスコートが熟れている。それとなく手を取ってきたり、自分の上着を着せてきたりと至れり尽くせりだ。
「付き合ってるとはいえ、別にぼくは女の子扱いして欲しいわけじゃないぞ」
 不貞腐れながら告げると、御剣は眉間に皺を寄せ、困ったようにため息をついた。まるで聞き分けのない子供にするような態度に益々腹が立ってくる。
 気を使ってくれて嬉しい気持ちもある。だがそれ以上に、御剣にエスコートされると他の女の人にも同じ事をするんだろうなと想像してしまって、モヤモヤした気持ちで胸が膨らんで苦しくなってしまう。他の人と同じ扱いをされるくらいなら、エスコートなんてされなくていい。雑でもいいからぼくだけを特別にして欲しい……などという呆れた独占欲を抱えている。
 こんな事を言ったら流石に嫌われるかもしれないと今まで押さえ込んでいたが、ついに言ってしまった。不安な気持ちを隠すために仏頂面を作り、御剣から目を逸らした。
「そう思わせてしまった私が悪いな、すまない」
(その返しもなんかヒスッたカノジョにする正解の返答っぽい……!)
「だが私はキミを女性扱いした覚えは全く無い」
「え?いやいや、あんな丁寧に扱っておいてよく言えたな!付き合う前はもっとこう……」
「そうだ。我々は付き合っている。交際相手を想い、大切にしたいと思うのは至極当然だろう。キミは違うのか?」
「……ち、違わないけどさ」
 御剣は法廷さながら堂々とした態度でどんどん追い詰めてくる。しかも全てが正論で、冷や汗をかいて狼狽えてしまう。そんなぼくの様子を見て御剣はフッと優しく微笑んだ。
「それに、私は女性相手でもここまで甲斐甲斐しくはしない」
「え?」
「こうして手を取るのも、肩を抱いて引き寄せるのも、キミだけだ。特別なのは成歩堂だけだ」
「う……」
 惚れた欲目かもしれないが、少女漫画に出てくるイケメンのようにキラキラした笑顔を向けられて、しかも最高の口説き文句を言われてしまっては、胸のモヤモヤは吹っ飛んでしまう。
 クソ!カッコイイな!とときめきながら、せめてもの抵抗で渾身の力を込め、手を握り返してやった。



 別に私は成歩堂を女性扱いなどしていない。狩魔の教えでエスコートは仕込まれたが、実際に行う機会はそうそう無いのだ。

「キミは案外ぼーっとしているからな。いつか車に轢かれやしないかとヒヤヒヤしている」
「…………否定できないのが悔しい」

 膨れる成歩堂は大変可愛らしく、軽口を叩きながらも見惚れてしまう。
 恭しく手を取るのも、自分の上着を着せるのも、肩を抱くのも、全ては周りへの牽制の為だ。見ず知らずの人間に声をかけられて邪魔されたくない。こうして近い距離で触れていれば、二人は特別な関係なのだと知らしめられる。
 きつく握られた手を握り返して、成歩堂に気付かれないよう周囲を睨む。道の向こうにいる男は前も成歩堂のそばにいたな。私を見て怯えているようだ。更に視線を鋭くさせると男は悔しげに走り去って行った。
 成歩堂は私の恋人だ。誰にも渡したりなどしない。
「いてててて!」
「む、すまない」
 どうやら強く握りすぎていたらしい。パッと手を離すと成歩堂がじとっと私を睨むので、赤くなってしまった彼の手を再び取って甲に口付けた。
「だ、だから!そういうトコだって!」
 震えながら真っ赤になって叫ぶ成歩堂が、実は満更でもないのも知っている。私は何食わぬ顔をして彼の手をひいて、また牽制をするのだった。

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