ミツナル短編集

『拝啓 御剣怜侍様
お久しぶりです。こうして貴方に手紙を送るのは、小学生の頃授業で手紙を書く練習をした時以来ですね。お元気でしたか?
新聞の記事、読みました。見出しには《天才検事・御剣怜侍》とあり、ぼくは目玉が飛び出るかと思いました。検事になっていたんですね。あの頃はお父さんのような弁護士になると言っていたのに、と驚きましたが、勉強をしているうちに検事の方に興味が湧いた、ということでしょうか?それならば納得です。
ですが、新聞の記事にはこうも書いてありました。《御剣怜侍の黒いウワサ》と。証拠の捏造や記録の改ざんなどを行い、被告人を必ず有罪にしてしまうと。これは一体どういう事でしょうか。
ぼくは嘘だと思っています。だって、あの頃の貴方はそんな卑怯な事をする人ではなかった。これは何かの間違いですよね?
一度会って話がしたいです。返事、待ってます。 敬具』





『御剣怜侍様
あれから2週間経ちましたが、全く返事も連絡もないので心配になりもう一度手紙を送ることにしました。お元気ですか?
どうして何も連絡をしてくれないのでしょう。悲しくて悲しくて、最近はずっと落ち込んでいます。
会いたいです。会って、小学生の時のようにまた話がしたいです。あのウワサは間違いだって、君の口から聞きたいです。返事をずっと待ってます。』





『御剣くんへ
更に2週間経ったけど、全然連絡をくれませんね。どうしてなんですか?ぼくのこと忘れちゃった?
ぼくはキミを忘れた事なんてありません。大切な友達だったから。突然引っ越してしまった日は、本当に辛くて、でも何か事情があったのだろうと飲み込んで、今まで生きてきました。キミはどこかで弁護士になって、困ってる人を助けているのだろうと信じていました。
それなのにあんな新聞が出て、ぼくは訳が分かりませんでした。あの時ぼくをカッコよく助けてくれた御剣くんは、一体どうしてしまったんだ?と、キミのことで頭がいっぱいです。
返事、待ってるからな。』





『御剣へ
なあ、またあれから2週間経ったけど、ぼくのところに何の手紙も来ないってことは、ちゃんとぼくの手紙は届いてるしお前は返事を送ってないって事だよな?なんで?1回くらい返事をしてくれたっていいんじゃないか?どういうこと?あのウワサは本当だったってこと?そんな訳ないよな?
お前の載ってる記事や新聞は全部読んでいます。どれもこれも面白おかしくお前の行動や性格を勝手に決めつけた内容でした。ナットクできません。あんな内容、ぼくは全く信じてません。
会いたいよ、御剣』





『もういい!お前がその気なら、ぼくにだって考えがあるんだからな!今に見てろよ、御剣のバカヤロー!!』





 一枚一枚読み返し、荒くなっていく文体から段々やけを起こしているのが伝わってきて、苦笑する。"考え"というのが、まさか私を追って弁護士になる事だとは、初めてこの手紙を読んだ時には思いもしなかった。
 ドサリと荷物が床に落ちる音が聞こえ、振り返った。
「お、おい…お前、その手紙って…」
「ああ、成歩堂、おかえり」

 床に座って手紙を読み返していた私は立ち上がり、誰より愛しい恋人にいつものように口付けを送ると、たちまち成歩堂は蕩けた顔でこちらを見つめてくる。
「た、ただいま……じゃなくて!その!手紙!」
「これか?フッ、ご明察の通り、キミから送られてきた手紙なのだよ」
「うう…なんでそんなのとってあるんだよ、恥ずかしい」
 成歩堂は私の手を握りながら、顔を赤らめ私の肩に顔を押し当てた。その仕草にクラっと来たが、ここは堪えて負けじと彼の手を両手で握りしめる。
「当たり前だ。キミから貰ったものは全て大切に保管してある。小学生の時に貰った消しゴムも、当たりが出たからとくれたアイスの棒も、手紙を書く練習でキミと交換した手紙も、そして…この熱烈なラブレターも、な」
「ラブッ…!ち、違うよ!これは抗議の手紙だろ!」
「いや、どう考えてもこれは愛を告げる手紙だろう」
 繰り返される「会いたい」「待ってる」の文字に、当時の私は胸を熱くさせたものだ。
「あの時の私は、犯罪者を憎む余り真実などどうでもいいと本気で思っていた。キミの手紙を読むと、その考えが揺らぎ、辛かった。返事を送ることなど、どうしても出来なかったのだ。」
「…うん、分かってるよ」
 成歩堂は優しく微笑み、私の頬に手を添えた。
「今こうして、お前のそばに居られるんだ。返事はもう、十分貰ったよ」
そう言うと成歩堂は私の頬に一瞬唇で触れ、すぐに離れてしまった。もっとくっついていたかったと渋い顔をすると、「すごいヒビ」と笑われた。
「…あとで沢山くっつくんだから、今はこれで我慢しろよ」
「ム…了解した。今夜は寝かさないが異議は無いな?」
「うわ、おっさんくさい」
「フッ、自慢では無いが、私はお兄さんと呼ばれることの方が…」
「あーハイハイ」

 手を繋ぎリビングへと向かう2人の左薬指には、永遠を約束するリングが嵌められている。想いはもう、片道では無い。
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