ミツナル短編集

検事局長に就任してからというもの仕事量は倍増しており、ミケンのシワが更に深くなったような気がする。メガネを上げ、大きなため息をつき紅茶を入れようとゆっくり立ち上がった。コンコン、と二回ノックが鳴り、入れと低く答える。その声は自分にも分かるほど疲れ果てており、再度ため息が出てしまう。

「よう、御剣。久しぶりだな…って、この前も会ったか」
ドアが開くと同時に、霞む視界に鮮烈な青が飛び込んでくる。澄み渡った空の様なスーツに身を包んだ成歩堂がニヤリと笑った。
「成歩堂…」
「近くまで来たからさ、寄ってみたんだ。なんかもう何も言わなくてもお前の部屋に通されるようになっちゃったよ、ぼく」
照れくさそうに頬を搔く成歩堂に胸がいっぱいになり、思わずその手を握って引き寄せる。
「お、おい…」
「スーツ、よく似合っている。所長の貫禄が出てきたのではないか?」
「それこの前も聞いたって。ていうかお前だってそうだろ。局長のカンロク、よーく出てるよ」

先日弁護士バッジを取り戻した成歩堂に祝福と激励の意を込めて…それと少しの下心も含めて、彼のスーツを見立ててやった。オーダーメイドの為彼の身体にピッタリ合っており、うむ、と満足気に頷いた。当初、値段を聞いた成歩堂は驚愕してそこまでしなくていいのに!と冷や汗をかいていたが、私の満たされた顔を見て口をとがらせながら小さく感謝の言葉を述べていた。

「いやぁ、さすが高いだけあるよなこのスーツ。しっかりしてるし動きやすいし。ヒラヒラをつけられそうになった時は焦ったけど」
「似合うと思うのだが…」
「いやいや!お前や狩魔冥じゃあるまいし…」

青いスーツ、ギザギザ頭、輝く弁護士バッジ、ふてぶてしい笑顔…

─ああ、帰ってきたのだ。伝説が、成歩堂龍一が…

そう考えるといつも涙ぐんでしまう。言葉に詰まった私に成歩堂は苦笑して、頬に手を添え見つめる。
「ただいま、御剣」
「…おかえり」

このやりとりもこの前やったけどなとケラケラ笑う彼を黙らせる為、そしてこれ以上泣き顔を見られたくなくて、メガネを胸ポケットにしまい唇を寄せた。
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