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ミツナル短編集

「あのう、すみません」
御剣と二人で歩いていると、子供を連れた女性が声をかけてきた。
「はい……どうしました?」
「お尋ねしたいんですが、駅はどの方向でしょうか?ちょっと迷ってしまって」
「ああ、それならこの道を右に曲がって、そのまま真っ直ぐ行けば着きますよ」
「ああ!ありがとうございます!」
頭を下げる女性とバイバイと手を振る子供に手を振り返し、再び歩き出した。
隣の御剣がずっと黙っているので変だなと思いじいっと見つめると、神妙な顔で何やら考えているようだった。
「あのさ、また眉間にヒビ入ってるけど、何考えてんだ?」
「……私は人から道を聞かれたことが無い」
「え、そうなのか。まあ別によくある事ではないしなぁ」
「いや、二回ほどあるにはあるが、いつも相手は怯えたような顔をしているのだ……一体なぜ……」
そう言ってウムム、と思案する御剣の顔は非常に険しく、黒いオーラまで見えてきた。
「……お前が道を聞かれない理由が分かったよ」
「!な、なんだと!?」
「そうやっていつも怖い顔してるからじゃないか?いくらお前がイケメンでも、そんな目付きが悪かったら声かけにくいって」
「なん……だと……」
衝撃を受けている御剣がおかしくて、ケラケラ笑って眉間をグリグリと押してやった。やめたまえ!と顔を赤くしてぼくの手を掴む御剣だったが、なんだか満更でもないような顔をしていた。
周りからは怖いと言われがちな顔だって、ぼくからしたら可愛いだけだ。
「そういや、ぼくはよく話しかけられるなぁ。今だってあの人、ぼくに向かって話しかけてたし」
「ボーッと呑気な顔で歩いているから、声をかけやすいのだろうな」
「……親しみやすいと言ってくれないかな」

~局ダルバージョン~

「あ、あの……すみません」
夜も更け、仕事からの帰り道。スーツを着た男性に話しかけられた。
「なんでしょう?」
「ここに行きたいんですけど、場所分かりますか?」
そう言って男性携帯の画面を見せてきた。どれどれと覗き込むとラブホテルの写真が写っていて、ああまたかと思わず顔を顰める。
「……うーん、ちょっと分からないですねぇ。すみません」
「そ、そうですか。じゃああの、他のホテルでもいいのでどこか案内してくれません?お金も払うので……」
参ったな、思ったよりしつこいぞと焦り出す。とうとう腕を掴まれてゾッとしたのも束の間、背後から腕が伸びてきて、男性の腕を捻じ上げた。
「い、いててて!」
「申し訳ないが、お引き取り願おう。そして今後一切、この男に近づかない事をおすすめする」
ゲームに出てくる大魔王より恐ろしい顔をした御剣が男性に凄む。男性は一気に青くなって、小さく悲鳴をあげて逃げ去っていった。
「助けてくれてありがとう、でも偶然……じゃないよな?」
「ああ。みぬきくんが『パパを迎えに行ってあげて』と言うのでな。まさかこのような現場に遭遇するとは……初めてではないのか、こういった事は」
「うーん。割とあるかな。この格好するようになったら、ああいう人にばっかり話しかけられるんだよな」
だらしの無い格好をしているから女性に声をかけられないのは分かるが、男性からこうも誘われるのはなんでだろう?と心の底から不思議に思う。御剣は苦虫を噛み潰したような顔をして、ぼくの手を握った。
「……今後は不届き者に声をかけられないよう、もっと警戒しながら歩きたまえ」
「はは。昔のお前みたいに怖い顔してみようか」
御剣の怒りは治まらないようで、ますます顔を険しくしてズンズン歩き出した。引っ張られる形でぼくも一緒に歩く。
別に怖かったとかじゃないし、御剣がいなくてもなんとかなったと思う。でも来てくれたのが嬉しくて、誰にも声をかけられたくなくて、御剣の腕に自分の腕を絡ませた。
「珍しいな。君からくっついてくるなんて」
「いいだろ別に。早く帰ろう。みぬきが待ってるだろうし」
静かな夜道を二人で歩いていく。御剣は相変わらず怖い顔をしていたが、ぼくには頼もしいだけで、ちっとも怖くなかった。
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