ミツナル短編集
「御剣、今日の夜空いてるか?」
検事局で偶然出くわした成歩堂は、真剣な顔で私にそう告げた。その瞳に一瞬ドキッとしたが、すぐに冷静さを取り戻し首を縦に振る。
「ああ。時間ならある」
急ぎの案件も無く、特に予定は入っていない。成歩堂はそうか、と顔を輝かせ微笑みかけてきた。また心臓が跳ねるが、眉間に皺を寄せる事で無理やり抑えつける。
「なんか近くの公園がライトアップするらしくてさ、お前知ってたか?」
もちろん知っている。目の前で嬉しそうに笑う男を誘おうか誘わまいかと悩みに悩んで、結局諦めたイベントだからだ。平静を装い、そうらしいな、と返した。
「じゃあ、お前の仕事が終わるくらいにまた来るよ。ちゃんと待ってろよ?」
「……ああ」
ひらりと手を振って去っていく成歩堂の背中が見えなくなるまで見つめ、大きく息を吐いた。
先日、私は成歩堂に想いを告げた。有名なデートスポットを調べ、自分の車でドライブし、最高のムードの中で告白できたと思ったが、結果は「一旦保留で!」というものであった。成歩堂は目をあちこちに泳がせ冷や汗をダラダラ流し、激しく狼狽えていた。
思えば私の顔は真っ赤だったし、相当欲にまみれていたのだろう。なんとも思っていない相手からの告白など困惑するに決まっているのに、気持ちが先走ってしまった。成歩堂の反応にショックを受けたが、分かったと声を絞り出し目を逸らした。帰り道の車内では二人とも無言を貫き、視線が合うことは無く、気まずい雰囲気の中帰路に着いたのだった。
あれから二週間が経つ。"一旦"とはどのくらいの時間なのだろうかと思案し、その間もデートに誘おうと調べつつ気味悪がられるのではと不安に駆られ、やはり告白なんてするんじゃなかったと後悔する日々を送っていた最中、成歩堂からの誘いだった。
「聞いていたわよレイジ、成歩堂龍一と公園に行くんですって?」
暗い顔をした私とは正反対に、楽しげな声色でメイがヒールを鳴らして現れた。
「ああ……」
「フン、知っているわ。例の公園のライトアップはとてもキレイだって。検事局内でもウワサになっていたしね」
自信に満ちた表情で語るメイを見ていると、自分はなんて女々しいのだろうかと心底情けなくなってくる。検事として、そろそろ切り替えなければならないと背筋を伸ばした。
「キミも一緒に行くか?真宵くんたちも行くのだろうし、人数は多い方が……」
「はあ?」
メイは途端に顔を険しくさせ、ムチをしならせた。
「何を言っているのレイジ、アナタは先日成歩堂龍一に告白した!今日だって"二人で"行くのでしょう?」
「"二人で"とは言われていない。というかなぜ告白の事を知っているんだ!」
「綾里真宵がメールで教えてきたのよ。『みつるぎ検事がなるほどくんをデートに誘ったらしいですよ!とうとう告白するかも~!』とね!私は遅すぎるくらいだと思っていたけれど」
なんという事だ……私の想いは周囲にバレバレだったのか。ガックリと項垂れるとメイが不思議そうに尋ねてきた。
「アナタたち、交際しているんじゃないの?」
「……返事は一旦保留だと言われたのだ。それから二週間、なんの連絡も無い。これはもう……」
黙って聞いていたメイは目を見開いて驚いていたが、すぐにいつもの勝ち誇った顔で笑う。
「じゃあ、今日返事をされるのでしょうね。良かったじゃない」
「……私は、振られるんだろうな」
「違う!なぜそうなる!」
メイはとうとうムチを地面に叩きつけ、私を指さし異議を唱える。
「今から振る相手を、ウワサになるほどキレイなデートスポットへと誘うかしら?"デート"よ?良い返事が貰えるに決まっている!」
「だが告白した時、成歩堂はかなり動揺していた。きっと私を気味悪がっている……」
「成歩堂龍一は突然告白されて驚いただけ、レイジを嫌がっているんじゃない。一旦保留と言って二週間過ぎているのは、しっかり考えて自分の気持ちを飲み込むのに時間がかかっているの。ちょっと考えれば分かることよ、アナタらしくないわ!」
「し、しかし……」
「くどい!いいから行ってきなさい!」
そしてその夜、キラキラと幻想的に輝く公園の影で二人きり、そっと手を握られ、「返事が遅くなってごめん、ぼくも御剣の事が好きだよ」と、桃色に染まった頬を肩に寄せられた。
メイの言う通りこれはデートだったのかとぼんやり考えながら、最愛の恋人を抱きしめるのだった。
検事局で偶然出くわした成歩堂は、真剣な顔で私にそう告げた。その瞳に一瞬ドキッとしたが、すぐに冷静さを取り戻し首を縦に振る。
「ああ。時間ならある」
急ぎの案件も無く、特に予定は入っていない。成歩堂はそうか、と顔を輝かせ微笑みかけてきた。また心臓が跳ねるが、眉間に皺を寄せる事で無理やり抑えつける。
「なんか近くの公園がライトアップするらしくてさ、お前知ってたか?」
もちろん知っている。目の前で嬉しそうに笑う男を誘おうか誘わまいかと悩みに悩んで、結局諦めたイベントだからだ。平静を装い、そうらしいな、と返した。
「じゃあ、お前の仕事が終わるくらいにまた来るよ。ちゃんと待ってろよ?」
「……ああ」
ひらりと手を振って去っていく成歩堂の背中が見えなくなるまで見つめ、大きく息を吐いた。
先日、私は成歩堂に想いを告げた。有名なデートスポットを調べ、自分の車でドライブし、最高のムードの中で告白できたと思ったが、結果は「一旦保留で!」というものであった。成歩堂は目をあちこちに泳がせ冷や汗をダラダラ流し、激しく狼狽えていた。
思えば私の顔は真っ赤だったし、相当欲にまみれていたのだろう。なんとも思っていない相手からの告白など困惑するに決まっているのに、気持ちが先走ってしまった。成歩堂の反応にショックを受けたが、分かったと声を絞り出し目を逸らした。帰り道の車内では二人とも無言を貫き、視線が合うことは無く、気まずい雰囲気の中帰路に着いたのだった。
あれから二週間が経つ。"一旦"とはどのくらいの時間なのだろうかと思案し、その間もデートに誘おうと調べつつ気味悪がられるのではと不安に駆られ、やはり告白なんてするんじゃなかったと後悔する日々を送っていた最中、成歩堂からの誘いだった。
「聞いていたわよレイジ、成歩堂龍一と公園に行くんですって?」
暗い顔をした私とは正反対に、楽しげな声色でメイがヒールを鳴らして現れた。
「ああ……」
「フン、知っているわ。例の公園のライトアップはとてもキレイだって。検事局内でもウワサになっていたしね」
自信に満ちた表情で語るメイを見ていると、自分はなんて女々しいのだろうかと心底情けなくなってくる。検事として、そろそろ切り替えなければならないと背筋を伸ばした。
「キミも一緒に行くか?真宵くんたちも行くのだろうし、人数は多い方が……」
「はあ?」
メイは途端に顔を険しくさせ、ムチをしならせた。
「何を言っているのレイジ、アナタは先日成歩堂龍一に告白した!今日だって"二人で"行くのでしょう?」
「"二人で"とは言われていない。というかなぜ告白の事を知っているんだ!」
「綾里真宵がメールで教えてきたのよ。『みつるぎ検事がなるほどくんをデートに誘ったらしいですよ!とうとう告白するかも~!』とね!私は遅すぎるくらいだと思っていたけれど」
なんという事だ……私の想いは周囲にバレバレだったのか。ガックリと項垂れるとメイが不思議そうに尋ねてきた。
「アナタたち、交際しているんじゃないの?」
「……返事は一旦保留だと言われたのだ。それから二週間、なんの連絡も無い。これはもう……」
黙って聞いていたメイは目を見開いて驚いていたが、すぐにいつもの勝ち誇った顔で笑う。
「じゃあ、今日返事をされるのでしょうね。良かったじゃない」
「……私は、振られるんだろうな」
「違う!なぜそうなる!」
メイはとうとうムチを地面に叩きつけ、私を指さし異議を唱える。
「今から振る相手を、ウワサになるほどキレイなデートスポットへと誘うかしら?"デート"よ?良い返事が貰えるに決まっている!」
「だが告白した時、成歩堂はかなり動揺していた。きっと私を気味悪がっている……」
「成歩堂龍一は突然告白されて驚いただけ、レイジを嫌がっているんじゃない。一旦保留と言って二週間過ぎているのは、しっかり考えて自分の気持ちを飲み込むのに時間がかかっているの。ちょっと考えれば分かることよ、アナタらしくないわ!」
「し、しかし……」
「くどい!いいから行ってきなさい!」
そしてその夜、キラキラと幻想的に輝く公園の影で二人きり、そっと手を握られ、「返事が遅くなってごめん、ぼくも御剣の事が好きだよ」と、桃色に染まった頬を肩に寄せられた。
メイの言う通りこれはデートだったのかとぼんやり考えながら、最愛の恋人を抱きしめるのだった。