ミツナル短編集
「あっ!ゴム、買い忘れたな……」
夜、御剣宅にて。ベッド上で触れるだけのキスを幾度か繰り返し、優しく押し倒した御剣に成歩堂が待ったをかける。これから行うは所謂初夜、というヤツだ。この日のために成歩堂はあらゆる準備をし、いつでも来い!と万全の体制で御剣宅に乗り込み、さあ致しましょうという時に肝心なものを忘れていることに気が付いた。避妊具、コンドームである。男同士だから妊娠の可能性は皆無だが、最低限のエチケットとして着用はするべきだろう。慌てる成歩堂を御剣はしかめっ面で見つめていた。
「どうしよう、今から買いに……」
「問題無い。準備してある」
「え!あっ……へ、へぇ……そりゃあ、良かった……」
薄暗い部屋の中、御剣は成歩堂の上から起き上がって枕元にある棚をゴソゴソと探る。成歩堂も上半身をゆっくりと起こし、ぼうっとその様子を眺めていた。
既に準備してあるという事は、使った事があるのだろうか。誰かと、コンドームを。
心臓を鷲掴みされたような痛みが走る。これから幸せな時間を過ごすというのに、成歩堂の心は黒く深い海へと沈むようだった。御剣は交際経験は無いと言っていたが、性行為の経験が無いとは言っていなかった。御剣が性に奔放とは思えないが、人の過去とは分からないものだ。モヤモヤして苦しくなるが、その思いを打ち消すように首を軽く振った。
自分が御剣の初めての相手では無いからといって、嫉妬するのは身勝手だろう。今、御剣は自分だけを見てくれている。それだけで充分ではないかと無理やり納得させ、不安になっているのを悟られないよう唇を結んで御剣が戻ってくるのを待った。
「これだ」
御剣は依然として苦い顔のまま、コンドームの箱を持ってベッドに座る。箱は開封済で、半分ほど使用しているようだった。
成歩堂は必死に作っていたポーカーフェイスが崩れ、くしゃりと顔を歪ませる。どうしても辛かった。御剣が誰かと性行為をしたのも、先程からずっと不機嫌そうなのも。やはり自分と関係を持つのは嫌だったのだろうかと思うと悲しみで押しつぶされそうだ。とうとう涙がこぼれ落ちた成歩堂を見て、御剣は目を大きく開けて狼狽えた。
「な、な、なぜ泣いているのだ!や、やはり嫌か?今日は辞めておくか?」
箱を投げ捨てしっかりと成歩堂を抱きしめる。成歩堂は御剣の腕の中でいやいやと首を横に振った。
「ち、違う……嫌な訳無い。お前が誰かとソレを使ったって考えたら勝手に涙が……ごめん、めんどくさくて」
御剣の胸を押しのけて腕から逃れる。慌てて涙を拭う成歩堂の手を御剣はそっと掴んで握りこんだ。
「面倒などとは思っていない。キミは何か勘違いをしているようだが、私は避妊具を誰かと使用した事は無いぞ」
「え、でも、ソレもう開いてるし……」
「ゴホン。それは、その……認めるのは癪だが、私が不器用なのは知っているだろう?キミとこうなった際手間取っていては格好がつかないと思って練習したのだ。マスターするまで半分も使ってしまったが……」
「そ……うなの?」
成歩堂は目を瞬かせ、ポカンと口を開けて御剣を見る。御剣は顔を赤らめて小さく唸りながら頷いた。
「き、キミが不安に思っていたのはそれだけか?解消されただろうか」
「あ、えっと、じゃあさっきからずっと渋い顔してたのはなんでだ?ぼくに嫌かって聞いてきたけど、嫌なのはお前の方なんじゃ……」
「そんな訳あるか!どれほど私がこの時を待ち望んでいたか……!あらゆる事態に備えて脳内でシミュレーションを重ね、キミを思いながら何度も……!」
「い、言わなくていい!」
「顔に関しては、すまない。緊張が収まらず……気取られないよう気を張っていたのだが、キミを不安にさせてしまった」
御剣は成歩堂の頬に右手を添え、上を向かせた。視線がぶつかり、お互いの鼓動が共鳴する。
「改めて、いいだろうか?このまま致しても」
「……へへ。うん。ぼくも、この日をずっと待ってたからな」
お前も苦しそうだし、と存在感を露わにする御剣の下半身を見つめながら、添えられた右手に自分の手を重ねた。御剣は大きな音を立てて唾を飲み込み、成歩堂の唇を奪う。深く重ね合わせ再びベッドに押し倒し、待ちわびた夜を堪能する二人であった。
夜、御剣宅にて。ベッド上で触れるだけのキスを幾度か繰り返し、優しく押し倒した御剣に成歩堂が待ったをかける。これから行うは所謂初夜、というヤツだ。この日のために成歩堂はあらゆる準備をし、いつでも来い!と万全の体制で御剣宅に乗り込み、さあ致しましょうという時に肝心なものを忘れていることに気が付いた。避妊具、コンドームである。男同士だから妊娠の可能性は皆無だが、最低限のエチケットとして着用はするべきだろう。慌てる成歩堂を御剣はしかめっ面で見つめていた。
「どうしよう、今から買いに……」
「問題無い。準備してある」
「え!あっ……へ、へぇ……そりゃあ、良かった……」
薄暗い部屋の中、御剣は成歩堂の上から起き上がって枕元にある棚をゴソゴソと探る。成歩堂も上半身をゆっくりと起こし、ぼうっとその様子を眺めていた。
既に準備してあるという事は、使った事があるのだろうか。誰かと、コンドームを。
心臓を鷲掴みされたような痛みが走る。これから幸せな時間を過ごすというのに、成歩堂の心は黒く深い海へと沈むようだった。御剣は交際経験は無いと言っていたが、性行為の経験が無いとは言っていなかった。御剣が性に奔放とは思えないが、人の過去とは分からないものだ。モヤモヤして苦しくなるが、その思いを打ち消すように首を軽く振った。
自分が御剣の初めての相手では無いからといって、嫉妬するのは身勝手だろう。今、御剣は自分だけを見てくれている。それだけで充分ではないかと無理やり納得させ、不安になっているのを悟られないよう唇を結んで御剣が戻ってくるのを待った。
「これだ」
御剣は依然として苦い顔のまま、コンドームの箱を持ってベッドに座る。箱は開封済で、半分ほど使用しているようだった。
成歩堂は必死に作っていたポーカーフェイスが崩れ、くしゃりと顔を歪ませる。どうしても辛かった。御剣が誰かと性行為をしたのも、先程からずっと不機嫌そうなのも。やはり自分と関係を持つのは嫌だったのだろうかと思うと悲しみで押しつぶされそうだ。とうとう涙がこぼれ落ちた成歩堂を見て、御剣は目を大きく開けて狼狽えた。
「な、な、なぜ泣いているのだ!や、やはり嫌か?今日は辞めておくか?」
箱を投げ捨てしっかりと成歩堂を抱きしめる。成歩堂は御剣の腕の中でいやいやと首を横に振った。
「ち、違う……嫌な訳無い。お前が誰かとソレを使ったって考えたら勝手に涙が……ごめん、めんどくさくて」
御剣の胸を押しのけて腕から逃れる。慌てて涙を拭う成歩堂の手を御剣はそっと掴んで握りこんだ。
「面倒などとは思っていない。キミは何か勘違いをしているようだが、私は避妊具を誰かと使用した事は無いぞ」
「え、でも、ソレもう開いてるし……」
「ゴホン。それは、その……認めるのは癪だが、私が不器用なのは知っているだろう?キミとこうなった際手間取っていては格好がつかないと思って練習したのだ。マスターするまで半分も使ってしまったが……」
「そ……うなの?」
成歩堂は目を瞬かせ、ポカンと口を開けて御剣を見る。御剣は顔を赤らめて小さく唸りながら頷いた。
「き、キミが不安に思っていたのはそれだけか?解消されただろうか」
「あ、えっと、じゃあさっきからずっと渋い顔してたのはなんでだ?ぼくに嫌かって聞いてきたけど、嫌なのはお前の方なんじゃ……」
「そんな訳あるか!どれほど私がこの時を待ち望んでいたか……!あらゆる事態に備えて脳内でシミュレーションを重ね、キミを思いながら何度も……!」
「い、言わなくていい!」
「顔に関しては、すまない。緊張が収まらず……気取られないよう気を張っていたのだが、キミを不安にさせてしまった」
御剣は成歩堂の頬に右手を添え、上を向かせた。視線がぶつかり、お互いの鼓動が共鳴する。
「改めて、いいだろうか?このまま致しても」
「……へへ。うん。ぼくも、この日をずっと待ってたからな」
お前も苦しそうだし、と存在感を露わにする御剣の下半身を見つめながら、添えられた右手に自分の手を重ねた。御剣は大きな音を立てて唾を飲み込み、成歩堂の唇を奪う。深く重ね合わせ再びベッドに押し倒し、待ちわびた夜を堪能する二人であった。