あなたに贈る花とダンス
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武装探偵社に入ってから暫く。私は一枚のチラシを手にしていた。近くの喫茶処で私のお気に入りの餡蜜が更に美味しくなったそう。
「これは食べに行きたい……」
「陸、少し頼まれてくれるか」
「はい」
「ここに調査に行ってくれるか」
「一人で、ですか」
「もうここに来てかなり経つ。それにただ聞き込みをしてくるだけだ。それなら一人でも大丈夫だろう」
「そうですね、はい。行ってきます」
さっきのチラシと調査案件の詳細が書かれた書類をファイルに入れ、鞄に仕舞う。
探偵社を出る直前、独歩さんに肩を叩かれる。
「な、なんです?」
「云い忘れて、というより渡し忘れたものがある」
「書類はこれで全部だと思うのですが……」
「違う。これだ」
一枚の写真を渡される。
そこには黒いコートを着た細身の男が写っていた。
「この人が……何なんです?」
私が首を傾げながらそう尋ねると独歩さんは今迄以上に真剣な声でこう言った。
「絶対に遭うな」
「へ……?」
予想を大きく外れたその言葉にとても間抜けな声が出る。
写真の男の名前は〝芥川龍之介〟港を縄張りにする兇悪なポート・マフィアなのだそう。
ただでさえ黒い存在のマフィアに所属する芥川という男は何でも殺戮に特化した異能力者らしい。
私の能力では、精々逃げるための時間稼ぎにしかならない。出会ってしまったら、私はこの男になんと命令すればいいのだろう。どう命令すれば私は死なずに済むのだろうか。
「はあ、恐ろしい」
調査が終われば餡蜜を楽しく食べる予定だったのに。芥川龍之介の話を聞いてからそんな気持ちはサラサラと散ってしまった。
書類の項目を見ながら歩く。ここらはあまり人通りの少ない場所だからこうしていても大体大丈夫だ。
どんっ。
なんて油断していたらこうなるのが人間なんだよなあ。
「すみません、お怪我は……」
ぶつかった男が軽く咳き込みながら顔を上げる。
――刹那、私の心臓がドクンと大きく鳴った。
目の前の黒衣の人間は、ほんの数分前に独歩さんに「遭うな」と言われた人間だった。
「あ、あく……たがわ……?」
「ゴホッ、僕 を知っているのか」
馬鹿だ。私は大馬鹿者だ。
何故芥川の名前を出した? 何故知らない振りが出来なかった? せめて前者の方でも出来ていたら、もしかしたら目の前の男は何も疑問に思わず去って行ったかもしれないのに!
「…………」
足に力が入らなくなる。
芥川からの視線が痛い。殺すか殺さまいかを今脳内で考えているのだろうか。今のうちに逃げた方がいいのだろうか。でも芥川の異能力がどこまで届くのかが判らない。例え逃げても遠くから殺されては意味がない。
ああどうしよう。どうしたらいい。
恐怖で頭がどうにかなりそうな私に芥川は手を出した。
「やっ、やめ」
何かされると思い、目を瞑ったが、痛みは来なかった。
芥川の方を見ると依然として私に手を出して、この場合は手を差し伸べていた。と云った方が適切だろうか。
「何……?」
「腰が抜けたのだろう」
不思議そうな声音で云い、更に手を私の方に近づける。
何を企んでいるんだ。そう聞こうとして止める。もしかしたら本当に座り込んだ私に手を差し伸べているだけかもしれない。
芥川の手を掴む。思ったより勢いよく引っ張られ、芥川に寄り掛かってしまう。
「ッ、ご、ごめんなさい」
「大丈夫だ」
独歩さんに云われていた芥川龍之介という像がガラガラと音を立てて崩れていく。
私が女性だから優しくしてくれている? 相手はポート・マフィアだぞ。そんな生温い理由があるわけない。
未だ抜けない警戒に芥川はどう思っているのだろう。
「名前は」
「……は?」
「貴女の名前が聞きたい」
「…………は?」
本当に待ってくれ。キャラ崩れもいい加減にしてくれ芥川。
何も答えないでいるのも如何かと思った私は答える。
「恩田陸、です」
名前を聞いた後、芥川は無表情のまま私に背を向けた。「また」なんて言葉を残して。
また、って真逆、また会うつもりなの⁉ 何だって私なんかに⁉
「なに……本当になんなの?」
頭が痛い。
芥川に直接聞いてやりたい。何故「また」なんて言葉を残したのかを。もう一度私に会うつもりなのかと聞いてやりたい。
「これは食べに行きたい……」
「陸、少し頼まれてくれるか」
「はい」
「ここに調査に行ってくれるか」
「一人で、ですか」
「もうここに来てかなり経つ。それにただ聞き込みをしてくるだけだ。それなら一人でも大丈夫だろう」
「そうですね、はい。行ってきます」
さっきのチラシと調査案件の詳細が書かれた書類をファイルに入れ、鞄に仕舞う。
探偵社を出る直前、独歩さんに肩を叩かれる。
「な、なんです?」
「云い忘れて、というより渡し忘れたものがある」
「書類はこれで全部だと思うのですが……」
「違う。これだ」
一枚の写真を渡される。
そこには黒いコートを着た細身の男が写っていた。
「この人が……何なんです?」
私が首を傾げながらそう尋ねると独歩さんは今迄以上に真剣な声でこう言った。
「絶対に遭うな」
「へ……?」
予想を大きく外れたその言葉にとても間抜けな声が出る。
写真の男の名前は〝芥川龍之介〟港を縄張りにする兇悪なポート・マフィアなのだそう。
ただでさえ黒い存在のマフィアに所属する芥川という男は何でも殺戮に特化した異能力者らしい。
私の能力では、精々逃げるための時間稼ぎにしかならない。出会ってしまったら、私はこの男になんと命令すればいいのだろう。どう命令すれば私は死なずに済むのだろうか。
「はあ、恐ろしい」
調査が終われば餡蜜を楽しく食べる予定だったのに。芥川龍之介の話を聞いてからそんな気持ちはサラサラと散ってしまった。
書類の項目を見ながら歩く。ここらはあまり人通りの少ない場所だからこうしていても大体大丈夫だ。
どんっ。
なんて油断していたらこうなるのが人間なんだよなあ。
「すみません、お怪我は……」
ぶつかった男が軽く咳き込みながら顔を上げる。
――刹那、私の心臓がドクンと大きく鳴った。
目の前の黒衣の人間は、ほんの数分前に独歩さんに「遭うな」と言われた人間だった。
「あ、あく……たがわ……?」
「ゴホッ、
馬鹿だ。私は大馬鹿者だ。
何故芥川の名前を出した? 何故知らない振りが出来なかった? せめて前者の方でも出来ていたら、もしかしたら目の前の男は何も疑問に思わず去って行ったかもしれないのに!
「…………」
足に力が入らなくなる。
芥川からの視線が痛い。殺すか殺さまいかを今脳内で考えているのだろうか。今のうちに逃げた方がいいのだろうか。でも芥川の異能力がどこまで届くのかが判らない。例え逃げても遠くから殺されては意味がない。
ああどうしよう。どうしたらいい。
恐怖で頭がどうにかなりそうな私に芥川は手を出した。
「やっ、やめ」
何かされると思い、目を瞑ったが、痛みは来なかった。
芥川の方を見ると依然として私に手を出して、この場合は手を差し伸べていた。と云った方が適切だろうか。
「何……?」
「腰が抜けたのだろう」
不思議そうな声音で云い、更に手を私の方に近づける。
何を企んでいるんだ。そう聞こうとして止める。もしかしたら本当に座り込んだ私に手を差し伸べているだけかもしれない。
芥川の手を掴む。思ったより勢いよく引っ張られ、芥川に寄り掛かってしまう。
「ッ、ご、ごめんなさい」
「大丈夫だ」
独歩さんに云われていた芥川龍之介という像がガラガラと音を立てて崩れていく。
私が女性だから優しくしてくれている? 相手はポート・マフィアだぞ。そんな生温い理由があるわけない。
未だ抜けない警戒に芥川はどう思っているのだろう。
「名前は」
「……は?」
「貴女の名前が聞きたい」
「…………は?」
本当に待ってくれ。キャラ崩れもいい加減にしてくれ芥川。
何も答えないでいるのも如何かと思った私は答える。
「恩田陸、です」
名前を聞いた後、芥川は無表情のまま私に背を向けた。「また」なんて言葉を残して。
また、って真逆、また会うつもりなの⁉ 何だって私なんかに⁉
「なに……本当になんなの?」
頭が痛い。
芥川に直接聞いてやりたい。何故「また」なんて言葉を残したのかを。もう一度私に会うつもりなのかと聞いてやりたい。