あなたに贈る花とダンス
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今日は記念すべき初出社である。
まぁ、その前にこれから住むことになる社員寮に荷物を運んだ、殆ど服だけど……。
粗方部屋を片付けてから事務所へと向かった。
「おはよう御座います」
出社すると事務所には何人かいた。
独歩さんに私の能力上顔と名前等が書かれた全員の名簿を貰って社員の人は大体覚えた。
簡単な事務処理を習う。報告書の書き方だとか、色々。
「それじゃあ俺は少し出る。十分程で戻ってくる」
「分かりました。行ってらっしゃい、独歩さん」
カタカタとキーボードに指を滑らせ約五分、ガチャリとドアが開き、人の出入りがある度に視線が上へと移動する。
「ただいま~って誰も……ん? 君!」
「はっ、はい!」
指を指して名前を呼ばれたため、反射的に立ち上がり姿勢を正してしまう。
「新人だよね? 名前は?」
「恩田陸です。えっと、江戸川乱歩、さん?」
「僕の名前を判っているんだね、感心感心! まあ僕程の名探偵となれば他人に名前が知れていても何等不思議ではないけどね!」
ふふんと胸を張る乱歩さんにここの人は全員善い人なのだろうなと、改めて思った。
「事務処理?」
「そうですね、もう終わりましたけど」
「ふうん」
つまんなそうな声を出したあとに、自分の席に戻った、訳ではなく、もう一度私の方に向き直ってくんくんと匂いを嗅いだ。
「甘い匂いがする。陸! 何かお菓子を隠し持っているだろう! 出し給え!」
「お菓子って程じゃないんですけど……ポケットに鼈甲飴が」
きらきらの琥珀色の結晶のような形をした鼈甲飴を乱歩さんに見せる。
「おお、綺麗だね」
「食べますか?」
乱歩さんは私から鼈甲飴を受け取り、そのままぱくりと一つ口に放り込んだ。
「ん~……甘い。じゃあ僕からもさっき買った今川焼きをあげよう!」
紙袋の中は今川焼きだったのか、道理で焼き菓子の甘い匂いがあったわけだ。
……というかそんな近くに甘い匂いを漂わせているのによく私が持っているべっこう飴に気づいたな。流石は、名探偵? 関係ないかな。
「ありがとうございます、乱歩さん」
「うんうん、美味しい?」
「おいひいれふ」
「……もう一個あげる」
「いいんですか?」
「特別だからね。あとは僕と社長で食べるんだ!」
「あはは、本当にありがとうございます」
棚から小皿を取り出して貰ったもう一つの今川焼きを置く。
乱歩さんがたたっと小走りでどこかに向かったのを見るに、社長の所に向かったのだろう。
ガチャ。
「お帰りなさい、独歩さん。どこか疲れているようですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
「あ、そうだ。乱歩さんから今川焼を貰ったんです。二つ貰ったのでもう一つを独歩さんにあげます」
「いいのか?」
「一個で十分です。疲れた頭には糖分が大事ですし、要らないのなら私が食べます」
「なら貰おう」
ぱくりと今川焼を頬張る独歩さんは可愛らしく見えた。……うん。ちょっと小動物っぽいかも。
お茶を淹れて独歩さんに出す。
美味しそうに目を細める独歩さんを思わず写真に収めたくなったがぐっと堪えた。
「おはよう! 国木田君!」
「なにがおはようだ大馬鹿者、もう昼を回っているぞ」
「とても綺麗な女性がいたからね、たとえ危険を冒してでも話しか
けなければ男が廃るというものだよ」
「勝手に廃ってしまえ」
「ま、まぁまぁ、独歩さん。怒りすぎは体に良くないですよ」
「……はあ。もういい。お前にいちいち構っていると頭が可笑しくなる」
そう言って独歩さんはパソコンに向かってしまった。
今かなり遅めの出社をしたのは私よりも少し前にここ、武装探偵社に入社した太宰治という男である。
名簿を見た時から不思議な雰囲気を漂わせていたため、独歩さんにどんな人なのかと尋ねたら脳留守唐変木だとかまあ、色々……マイナスな言葉を貰った。仕事に対して誠実じゃない、独歩さんの予定を乱す。というのがマイナスポイントなんだろうな。
それになんでもこの人の前職が何かわからず、探偵社七不思議にすらなってしまったそう。私も色々考えてみるのだけどどれも納得がいかなくて頭を悩ませていた。
「うーん」
「どうかしたのかい?」
「太宰さんの前職、七不思議になっているんですよね? 独歩さんから聞きました。だから気になってしまって」
「ふふ。因みに一度も君から答えを聞いていないけど、何だと思うのかな?」
「んー……作家さん?」
「外れ」
「はあ、全然わからないです」
「時間は沢山あるのだし色々考えてくれ給え」
「え? えー……っと」
「時間の無駄だ。これを終わらせろ」
ぺしんと書類で頭を叩かれる。
書類を見て、私は目の前のパソコンに文字を打ち込んでいった。
「そういえば陸ちゃん」
「ちゃん……?」
「おや、嫌だった?」
「いえ、あんまりそう呼ばれることがないものですから……。勝手に男だと勘違いされることも多々ありますし」
「それは失礼なことだ。こんなにも綺麗なのに」
「……世辞は結構です」
「お世辞なんかじゃないさ、本心から云っているよ」
どうだか。
飄々とした太宰さんは私程度の人では尻尾を掴むことが出来ない。こうやって顔を合わせるのはは初めてなのだが、掴もうとした手が空を切るのがよくわかる。
「あぁそれで、陸ちゃん。君は如何して国木田君を〝独歩さん〟と呼ぶのに、私を〝治さん〟とは呼んでくれないのだい?」
「如何してと云われましても、〝太宰さん〟の方がしっくり来るから、ですかね。これと云って深い意味は在りません」
「なぁんだ、そうなの。ならこの機に私を下の名前で呼んではみないかい?」
「えぇ……、嫌です。なんだか恥ずかしい」
「つれないな。そのうちそう呼んでくれることを期待しているよ」
「……善処しますね」
太宰さんはニコニコと笑って私の方を見ていた。
まぁ、その前にこれから住むことになる社員寮に荷物を運んだ、殆ど服だけど……。
粗方部屋を片付けてから事務所へと向かった。
「おはよう御座います」
出社すると事務所には何人かいた。
独歩さんに私の能力上顔と名前等が書かれた全員の名簿を貰って社員の人は大体覚えた。
簡単な事務処理を習う。報告書の書き方だとか、色々。
「それじゃあ俺は少し出る。十分程で戻ってくる」
「分かりました。行ってらっしゃい、独歩さん」
カタカタとキーボードに指を滑らせ約五分、ガチャリとドアが開き、人の出入りがある度に視線が上へと移動する。
「ただいま~って誰も……ん? 君!」
「はっ、はい!」
指を指して名前を呼ばれたため、反射的に立ち上がり姿勢を正してしまう。
「新人だよね? 名前は?」
「恩田陸です。えっと、江戸川乱歩、さん?」
「僕の名前を判っているんだね、感心感心! まあ僕程の名探偵となれば他人に名前が知れていても何等不思議ではないけどね!」
ふふんと胸を張る乱歩さんにここの人は全員善い人なのだろうなと、改めて思った。
「事務処理?」
「そうですね、もう終わりましたけど」
「ふうん」
つまんなそうな声を出したあとに、自分の席に戻った、訳ではなく、もう一度私の方に向き直ってくんくんと匂いを嗅いだ。
「甘い匂いがする。陸! 何かお菓子を隠し持っているだろう! 出し給え!」
「お菓子って程じゃないんですけど……ポケットに鼈甲飴が」
きらきらの琥珀色の結晶のような形をした鼈甲飴を乱歩さんに見せる。
「おお、綺麗だね」
「食べますか?」
乱歩さんは私から鼈甲飴を受け取り、そのままぱくりと一つ口に放り込んだ。
「ん~……甘い。じゃあ僕からもさっき買った今川焼きをあげよう!」
紙袋の中は今川焼きだったのか、道理で焼き菓子の甘い匂いがあったわけだ。
……というかそんな近くに甘い匂いを漂わせているのによく私が持っているべっこう飴に気づいたな。流石は、名探偵? 関係ないかな。
「ありがとうございます、乱歩さん」
「うんうん、美味しい?」
「おいひいれふ」
「……もう一個あげる」
「いいんですか?」
「特別だからね。あとは僕と社長で食べるんだ!」
「あはは、本当にありがとうございます」
棚から小皿を取り出して貰ったもう一つの今川焼きを置く。
乱歩さんがたたっと小走りでどこかに向かったのを見るに、社長の所に向かったのだろう。
ガチャ。
「お帰りなさい、独歩さん。どこか疲れているようですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
「あ、そうだ。乱歩さんから今川焼を貰ったんです。二つ貰ったのでもう一つを独歩さんにあげます」
「いいのか?」
「一個で十分です。疲れた頭には糖分が大事ですし、要らないのなら私が食べます」
「なら貰おう」
ぱくりと今川焼を頬張る独歩さんは可愛らしく見えた。……うん。ちょっと小動物っぽいかも。
お茶を淹れて独歩さんに出す。
美味しそうに目を細める独歩さんを思わず写真に収めたくなったがぐっと堪えた。
「おはよう! 国木田君!」
「なにがおはようだ大馬鹿者、もう昼を回っているぞ」
「とても綺麗な女性がいたからね、たとえ危険を冒してでも話しか
けなければ男が廃るというものだよ」
「勝手に廃ってしまえ」
「ま、まぁまぁ、独歩さん。怒りすぎは体に良くないですよ」
「……はあ。もういい。お前にいちいち構っていると頭が可笑しくなる」
そう言って独歩さんはパソコンに向かってしまった。
今かなり遅めの出社をしたのは私よりも少し前にここ、武装探偵社に入社した太宰治という男である。
名簿を見た時から不思議な雰囲気を漂わせていたため、独歩さんにどんな人なのかと尋ねたら脳留守唐変木だとかまあ、色々……マイナスな言葉を貰った。仕事に対して誠実じゃない、独歩さんの予定を乱す。というのがマイナスポイントなんだろうな。
それになんでもこの人の前職が何かわからず、探偵社七不思議にすらなってしまったそう。私も色々考えてみるのだけどどれも納得がいかなくて頭を悩ませていた。
「うーん」
「どうかしたのかい?」
「太宰さんの前職、七不思議になっているんですよね? 独歩さんから聞きました。だから気になってしまって」
「ふふ。因みに一度も君から答えを聞いていないけど、何だと思うのかな?」
「んー……作家さん?」
「外れ」
「はあ、全然わからないです」
「時間は沢山あるのだし色々考えてくれ給え」
「え? えー……っと」
「時間の無駄だ。これを終わらせろ」
ぺしんと書類で頭を叩かれる。
書類を見て、私は目の前のパソコンに文字を打ち込んでいった。
「そういえば陸ちゃん」
「ちゃん……?」
「おや、嫌だった?」
「いえ、あんまりそう呼ばれることがないものですから……。勝手に男だと勘違いされることも多々ありますし」
「それは失礼なことだ。こんなにも綺麗なのに」
「……世辞は結構です」
「お世辞なんかじゃないさ、本心から云っているよ」
どうだか。
飄々とした太宰さんは私程度の人では尻尾を掴むことが出来ない。こうやって顔を合わせるのはは初めてなのだが、掴もうとした手が空を切るのがよくわかる。
「あぁそれで、陸ちゃん。君は如何して国木田君を〝独歩さん〟と呼ぶのに、私を〝治さん〟とは呼んでくれないのだい?」
「如何してと云われましても、〝太宰さん〟の方がしっくり来るから、ですかね。これと云って深い意味は在りません」
「なぁんだ、そうなの。ならこの機に私を下の名前で呼んではみないかい?」
「えぇ……、嫌です。なんだか恥ずかしい」
「つれないな。そのうちそう呼んでくれることを期待しているよ」
「……善処しますね」
太宰さんはニコニコと笑って私の方を見ていた。