序章
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ナマエを保護した夫婦は和菓子屋を営んでいた。
タダで住まわせてもらうのは迷惑だと言ったナマエに対して夫婦はそこに住み込みで働く、という形でナマエを迎えることにしたのだった。
そして、現代の服装のままでいると悪目立ちしてしまうため服を夫婦に買ってもらった。
その際、男物の服を買ってもらったのだが、これには二つ理由が存在する。
ひとつはそっちの方が動きやすいと思ったから。
徐々に洋服も普及し始めてきたこの時代、無理をして着づらい女性物の和服やスカートを着るよりも着慣れたズボンを穿いた方がいいと思ったのだ。
そしてもうひとつ、女性差別だ。
ただでさえ右左が分からないナマエが女性でいてはさらに問題が増えるというもの、だからこそ少しでも男だと思われるよう身なりを変えた、ということだ。
夫婦も快く受け入れ、ナマエ服を買い与えた。
その恰好のおかげか、ナマエの振る舞いにたくさんの人がたまたま騙されたのか、ナマエの男装は成功していた。
「いらっしゃいませ!」
「ナマエくんが来てから繁盛してるね」
「あはは、そんなことないですよ。私はここに置かせてもらっている身ですので」
「この謙虚なところもいいな、うちの娘なんて嫁にどうだい?」
「私にはもったいないです。もっといい人がいるはずですよ」
ナマエは和菓子を包みながら常連と話していた。
「ああそうだ、ナマエくん。最近この辺に店に難癖つける奴らがいるらしいんだ」
「難癖、ですか……」
「飯が美味いとこでも口に合わなかったからタダにしろだの無理なら安くしろだのって文句ばっかりよ」
「それはそれは、うちに来て欲しくないですね」
「そうだなぁ、俺もここの和菓子は好きだから被害には遭ってほしくねぇなあ」
「遠野さんは優しいですね。お待たせしました。お代ぴったりですね、ありがとうございました」
「おう、また来るな」
ひらひらと手を振って常連の遠野を見送る。
丁度店が暇になった時、夫婦がやってきてナマエに買い出しを頼んだ。
さっきの話があった手前、店を離れたくなかったが買い出しのメモを見てすぐに終わりそうでよかったとほっとする。
自分が店を出ている間にあの夫婦に何かあっては困る。旦那の方も男とはいえ膝が悪いため、噂の悪漢に出会ってしまっては立ち向かえず終わってしまうだろう。
少し恐ろしくなったナマエは足早に買い出しを済ませ、夫婦の家へと戻る。
「ンだよ、ふざけてんのかァ!?」
早々に買い出しを終えたナマエの耳に飛び込んできたのは男の怒鳴り声であった。
「ふざけているつもりなど毛頭ない、帰ってくれ」
「帰れだと?俺ら何もしてねえだろうが!!それともなんだ?お前らはお客様に物も出せねえってのか!?あァ!?」
「お前らに売る和菓子はうちにはないと言っているんだ。お願いだから帰ってくれ。通行人も迷惑している」
旦那は腕組みしながらゴロツキにそう頼む。
蛍は慌てて持っていた買い物袋を顔見知りに預けた。
「すみませんこれ、少しの間預かってもらっていいですか」
「構わないけど、大丈夫かい?」
「ええ、多分……」
不思議と気持ちは落ち着いており、ナマエは冷や汗の一つも垂らさずにつかつかとゴロツキに近づいていった。
ゴロツキも近づいてくる人影に気づいたが自分よりも遥かに華奢なナマエに負けるわけないと高を括ったのだろう、ニタリと嫌な笑みを浮かべて話しかける
「おーおー、あんたは最近この店で働いてるナマエクンだっけ?聞いてくれよ、店主が俺たちに和菓子を売らねえって言うんだぜ?酷い話だと思わないか?」
「さあ?あんたらの酷い話はよく聞いてるからね、それよりはずっとずっとマシじゃないかな?」
「はァ?」
「ナマエちゃん……」
夫婦が心配そうにナマエを見つめた。
だがナマエは大丈夫ですよ、という様に視線を返した。
「調子乗んな!!ひょろひょろのくせしてよォ!!」
ぶんっとゴロツキがナマエを殴ろうとするがナマエはそれを避ける。
幼い頃から過保護な両親が教えてきた諸々の護身術やらが役に立ったのだ。
そして物騒な兄の言葉を思い出す。
「いいかナマエ、喧嘩の時はとりあえず相手の顔を狙え。届かないなら腹を殴れ、鳩尾に思いっきりドン、だ」
喧嘩ばかりで両親を困らせていた兄の言葉に今だけは救われる。
すっと顎を引き、拳に力を込める。
「あ?」
ナマエは殴りかかってきたゴロツキの顎を思い切り殴った。突然の衝撃に脳みそが追いつかず混乱するゴロツキをただ見つめるだけのナマエに他の二人が怯えた眼差しを向ける。
「残念な話、体だけデカくても意味がないんだよね」
「てめぇ、不意打ちは」
「卑怯だって?上等、卑怯なあんたらに卑怯な手使って何が悪い。金がないなら店に入るな、こんな簡単なこと子供でも分かるよ」
本来はこんなにするするとナマエ優位に喧嘩は進まなかっただろう。
たとえ最初を決めても次に反撃が来る。ナマエも覚悟はしていたが、今回はとても運がよかったのだ。
「早くどっか遠くへ行け」
自分よりずっと小さく細いはずのナマエがこの瞬間恐ろしくてしょうがなかったゴロツキは大きく舌打ちをしてその場を去って行った。
喧嘩を見ていただけのもう一人も手を出さずに先に行ってしまった奴の後を追いかけた。
「だっ、大丈夫でしたか!?」
くるりと夫婦の方に走り、真っ青な顔で傷がないか確認するナマエにくすりと笑った。
「ど、どうかしました?やっぱりどこかに怪我を…?」
「いいえ、さっきまで格好よく悪漢達に立ち向かっていたのにいなくなった瞬間にいつものナマエちゃんに戻るのがなんだかおかしくて……」
「ああ、すみません。騒がしくしちゃって……」
「とんでもない、私も主人も助かりましたわ。ありがとうね、ナマエちゃん」
ナマエは照れたように笑い、前髪を整えるように触った。照れた時などに思わずやってしまうナマエの癖である。
荷物を預けていた知人から荷物を返してもらい、すみませんでしたと軽く頭を下げた。
「いいのよ。それよりも格好よかったわねえ」
「いや、無我夢中だっただけですよ」
そんな遠慮がちに笑うナマエを遠くから見ている人物がいた。
「ほう?あれが……」
そんな不穏を匂わせる声はナマエには聞こえていなかった。
タダで住まわせてもらうのは迷惑だと言ったナマエに対して夫婦はそこに住み込みで働く、という形でナマエを迎えることにしたのだった。
そして、現代の服装のままでいると悪目立ちしてしまうため服を夫婦に買ってもらった。
その際、男物の服を買ってもらったのだが、これには二つ理由が存在する。
ひとつはそっちの方が動きやすいと思ったから。
徐々に洋服も普及し始めてきたこの時代、無理をして着づらい女性物の和服やスカートを着るよりも着慣れたズボンを穿いた方がいいと思ったのだ。
そしてもうひとつ、女性差別だ。
ただでさえ右左が分からないナマエが女性でいてはさらに問題が増えるというもの、だからこそ少しでも男だと思われるよう身なりを変えた、ということだ。
夫婦も快く受け入れ、ナマエ服を買い与えた。
その恰好のおかげか、ナマエの振る舞いにたくさんの人がたまたま騙されたのか、ナマエの男装は成功していた。
「いらっしゃいませ!」
「ナマエくんが来てから繁盛してるね」
「あはは、そんなことないですよ。私はここに置かせてもらっている身ですので」
「この謙虚なところもいいな、うちの娘なんて嫁にどうだい?」
「私にはもったいないです。もっといい人がいるはずですよ」
ナマエは和菓子を包みながら常連と話していた。
「ああそうだ、ナマエくん。最近この辺に店に難癖つける奴らがいるらしいんだ」
「難癖、ですか……」
「飯が美味いとこでも口に合わなかったからタダにしろだの無理なら安くしろだのって文句ばっかりよ」
「それはそれは、うちに来て欲しくないですね」
「そうだなぁ、俺もここの和菓子は好きだから被害には遭ってほしくねぇなあ」
「遠野さんは優しいですね。お待たせしました。お代ぴったりですね、ありがとうございました」
「おう、また来るな」
ひらひらと手を振って常連の遠野を見送る。
丁度店が暇になった時、夫婦がやってきてナマエに買い出しを頼んだ。
さっきの話があった手前、店を離れたくなかったが買い出しのメモを見てすぐに終わりそうでよかったとほっとする。
自分が店を出ている間にあの夫婦に何かあっては困る。旦那の方も男とはいえ膝が悪いため、噂の悪漢に出会ってしまっては立ち向かえず終わってしまうだろう。
少し恐ろしくなったナマエは足早に買い出しを済ませ、夫婦の家へと戻る。
「ンだよ、ふざけてんのかァ!?」
早々に買い出しを終えたナマエの耳に飛び込んできたのは男の怒鳴り声であった。
「ふざけているつもりなど毛頭ない、帰ってくれ」
「帰れだと?俺ら何もしてねえだろうが!!それともなんだ?お前らはお客様に物も出せねえってのか!?あァ!?」
「お前らに売る和菓子はうちにはないと言っているんだ。お願いだから帰ってくれ。通行人も迷惑している」
旦那は腕組みしながらゴロツキにそう頼む。
蛍は慌てて持っていた買い物袋を顔見知りに預けた。
「すみませんこれ、少しの間預かってもらっていいですか」
「構わないけど、大丈夫かい?」
「ええ、多分……」
不思議と気持ちは落ち着いており、ナマエは冷や汗の一つも垂らさずにつかつかとゴロツキに近づいていった。
ゴロツキも近づいてくる人影に気づいたが自分よりも遥かに華奢なナマエに負けるわけないと高を括ったのだろう、ニタリと嫌な笑みを浮かべて話しかける
「おーおー、あんたは最近この店で働いてるナマエクンだっけ?聞いてくれよ、店主が俺たちに和菓子を売らねえって言うんだぜ?酷い話だと思わないか?」
「さあ?あんたらの酷い話はよく聞いてるからね、それよりはずっとずっとマシじゃないかな?」
「はァ?」
「ナマエちゃん……」
夫婦が心配そうにナマエを見つめた。
だがナマエは大丈夫ですよ、という様に視線を返した。
「調子乗んな!!ひょろひょろのくせしてよォ!!」
ぶんっとゴロツキがナマエを殴ろうとするがナマエはそれを避ける。
幼い頃から過保護な両親が教えてきた諸々の護身術やらが役に立ったのだ。
そして物騒な兄の言葉を思い出す。
「いいかナマエ、喧嘩の時はとりあえず相手の顔を狙え。届かないなら腹を殴れ、鳩尾に思いっきりドン、だ」
喧嘩ばかりで両親を困らせていた兄の言葉に今だけは救われる。
すっと顎を引き、拳に力を込める。
「あ?」
ナマエは殴りかかってきたゴロツキの顎を思い切り殴った。突然の衝撃に脳みそが追いつかず混乱するゴロツキをただ見つめるだけのナマエに他の二人が怯えた眼差しを向ける。
「残念な話、体だけデカくても意味がないんだよね」
「てめぇ、不意打ちは」
「卑怯だって?上等、卑怯なあんたらに卑怯な手使って何が悪い。金がないなら店に入るな、こんな簡単なこと子供でも分かるよ」
本来はこんなにするするとナマエ優位に喧嘩は進まなかっただろう。
たとえ最初を決めても次に反撃が来る。ナマエも覚悟はしていたが、今回はとても運がよかったのだ。
「早くどっか遠くへ行け」
自分よりずっと小さく細いはずのナマエがこの瞬間恐ろしくてしょうがなかったゴロツキは大きく舌打ちをしてその場を去って行った。
喧嘩を見ていただけのもう一人も手を出さずに先に行ってしまった奴の後を追いかけた。
「だっ、大丈夫でしたか!?」
くるりと夫婦の方に走り、真っ青な顔で傷がないか確認するナマエにくすりと笑った。
「ど、どうかしました?やっぱりどこかに怪我を…?」
「いいえ、さっきまで格好よく悪漢達に立ち向かっていたのにいなくなった瞬間にいつものナマエちゃんに戻るのがなんだかおかしくて……」
「ああ、すみません。騒がしくしちゃって……」
「とんでもない、私も主人も助かりましたわ。ありがとうね、ナマエちゃん」
ナマエは照れたように笑い、前髪を整えるように触った。照れた時などに思わずやってしまうナマエの癖である。
荷物を預けていた知人から荷物を返してもらい、すみませんでしたと軽く頭を下げた。
「いいのよ。それよりも格好よかったわねえ」
「いや、無我夢中だっただけですよ」
そんな遠慮がちに笑うナマエを遠くから見ている人物がいた。
「ほう?あれが……」
そんな不穏を匂わせる声はナマエには聞こえていなかった。