三章
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イトウの目玉を頬張っている杉元を見てキロランケは煙草の煙を燻らせながら口を開く。
「杉元……不死身の杉元か?」
「……なぜそれを?」
「俺は第七師団だ」
杉元が腰の剣にそっと手を伸ばす。
「鶴見中尉の手下か?」
「鶴見中尉?俺がいた小隊の中尉は別の人間だ。それに俺は除隊して村で生活してるから誰とも関わりはない」
「確かに、鶴見中尉の手下は100名ほどと言っていた。第七師団と言っても鶴見中尉の隊とは限らんか」
ピリついた空気が元に戻りナマエと白石は安堵の息を漏らした。
「名前と顔の傷でピンときた。不死身の杉元、こんなところで戦争の英雄に出会うとはな」
「英雄?死に損なっただけさ」
「アシㇼパはどうしてこの男たちと一緒にいるんだ?」
「うーん……相棒だ。そしてこっちの小鳥遊は役に立つが、そっちの白石は役立たずだ」
「酷い言いようだ」
「そうか、アシㇼパがそう言うなら信用できるんだろう。今よりもっと小さいころから恐ろしく賢い子供だったからな」
そしてキロランケはアシㇼパに伝えたいことがあるからここで待っていたと言った。
少し前、年老いた老人がキロランケの村に来て「小蝶辺明日子」という女性を知らないかと尋ねたらしい。
小蝶辺明日子とはアシㇼパの和名らしい。その和名を知っているのはアシㇼパの死んだ母と父だけのはずなのに、見ず知らずの老人が自分の和名を知っていることにアシㇼパは酷く驚いた。
「アシㇼパさんの和名……?」
「網走監獄で起きたこと、俺はすでに知っていた。のっぺらぼうは自分の外の仲間に囚人が接触できるヒントを与えていた。『小樽にいる小蝶辺明日子』」
「のっぺらぼうはアシㇼパちゃんに金塊を託そうとしていたんですか?」
「ああ、のっぺらぼうはアシㇼパの父親だ」
アシㇼパは目の前が真っ暗になったような錯覚を覚えた。
「アチャが……アイヌを殺して金塊を奪うなんて、そんなの嘘だ……」
「何であんたはアシㇼパさんの和名を知っている」
「俺はアシㇼパの父と一緒に日本へ来た」
「金塊が見つかればのっぺらぼうが死刑になってアシㇼパさんの父親の仇が獲れると思っていたが、見つかってしまえばアシㇼパさんの父親が死刑になるということなのか」
「関係ねえよ。俺たちが他より先に見つけてしまえばいいことだろ?」
「一気に換金しなければバレないとは思うけど……」
「信じない。自分の目で確かめるまでは、私はのっぺらぼうに会いに行く」
アシㇼパの意思は固かった。
「網走は地の果てだぜ」
「でも本当にのっぺらぼうがアシㇼパさんの父親なら、直接本人から金塊の在処を聞ける」
「囚人を探す手間が省けるね」
「面会なんてできない。厳重な監獄だぞ、忍び込むのは不可能だ。そうやって本人に会うんだ?」
キロランケがそう言ったとき、三人は白石の方を見た。
「脱獄王」
「脱獄王?なんだ?それは」
「白石は網走監獄を脱獄してきた入れ墨の囚人だ」
「!?、こいつがあの?」
白石は服を脱いでキロランケに入れ墨を見せた。
「なるほど……剥がせというわけか……」
すぐに分かったキロランケに白石はびくりと体を跳ねさせた。
「やはりすぐにわかるのか」
「こんな真似ができるのはあの人しか…他にもあるのか?」
「無い。あんたアシㇼパさんの父親と日本へ来たって言っていたな。アンタしか知らないのっぺらぼうの情報があるんだろ?」
「川を少し下ると村がある。今日は俺の家に泊まっていけ」
チㇷ゚という丸木舟に乗り一行はキロランケの村に向かうことにした。
「ロシアの極東、アムール川流域にはたくさんの少数民族がアイヌとさほど変わらない生活をしている。俺たちは若いころそこから海を渡ってやってきた。お互い小樽で家族を持つと自然と疎遠になった」
「のっぺらぼうがアイヌの軍資金を独り占めしたかったとは思えない。こんな仕掛けまでして莫大な金塊を娘に託そうとする執念…」
「目的があるとしか思えないよね」
「わからない。会わない間に彼に何が起きたのか、俺がアシㇼパと彼の葬式であったのもアシㇼパが赤ん坊の時以来だ」
入れ墨を見てピンとくるものはないのかと白石がアシㇼパに問うが、アシㇼパは静かに首を横に振るだけだった。
「もしそうだとしても全部集めないと解けないはずだ」
「囚人を探すより、何よりもまずのっぺらぼうに会って確かめたい」
「もし本当にアシㇼパちゃんのお父さんなら全部話してくれるはずだから?」
アシㇼパはコクリと頷いた。
だがのっぺらぼうの居場所がはっきりしているとはいえ、網走監獄はそんな甘いところではない。
のっぺらぼうは足の腱を着られて満足に歩けなくされているうえに看守から常に監視されている。
そして止めに第七師団が付け狙っているはずだと白石は言う。
「本人に会うなんてまず不可能だろうぜ。俺の協力なしではなっ!」
「脱獄王……!」
キロランケの家につくとキロランケはこういった。
「俺の家族だ。俺の子供たちはこの土地で生まれ、アイヌとして生きていく。アイヌの金塊を奪ったこと、俺は同じ国から来た人間として責任を感じる。お前たちが相応の取り分を望むのは構わないが、残りは返すべきだ。最後まで見届けたい」
その話を聞いてナマエは思わず顔を歪める。
帰る方法を見つけるという一人漠然とした、もはや目的がないと言っても過言ではない自分がこの旅に混ざってていいのかと思ったのだ。
元々平和なところでのほほんと暮らしていたナマエにこの旅はやはり重過ぎる。
「杉元……不死身の杉元か?」
「……なぜそれを?」
「俺は第七師団だ」
杉元が腰の剣にそっと手を伸ばす。
「鶴見中尉の手下か?」
「鶴見中尉?俺がいた小隊の中尉は別の人間だ。それに俺は除隊して村で生活してるから誰とも関わりはない」
「確かに、鶴見中尉の手下は100名ほどと言っていた。第七師団と言っても鶴見中尉の隊とは限らんか」
ピリついた空気が元に戻りナマエと白石は安堵の息を漏らした。
「名前と顔の傷でピンときた。不死身の杉元、こんなところで戦争の英雄に出会うとはな」
「英雄?死に損なっただけさ」
「アシㇼパはどうしてこの男たちと一緒にいるんだ?」
「うーん……相棒だ。そしてこっちの小鳥遊は役に立つが、そっちの白石は役立たずだ」
「酷い言いようだ」
「そうか、アシㇼパがそう言うなら信用できるんだろう。今よりもっと小さいころから恐ろしく賢い子供だったからな」
そしてキロランケはアシㇼパに伝えたいことがあるからここで待っていたと言った。
少し前、年老いた老人がキロランケの村に来て「小蝶辺明日子」という女性を知らないかと尋ねたらしい。
小蝶辺明日子とはアシㇼパの和名らしい。その和名を知っているのはアシㇼパの死んだ母と父だけのはずなのに、見ず知らずの老人が自分の和名を知っていることにアシㇼパは酷く驚いた。
「アシㇼパさんの和名……?」
「網走監獄で起きたこと、俺はすでに知っていた。のっぺらぼうは自分の外の仲間に囚人が接触できるヒントを与えていた。『小樽にいる小蝶辺明日子』」
「のっぺらぼうはアシㇼパちゃんに金塊を託そうとしていたんですか?」
「ああ、のっぺらぼうはアシㇼパの父親だ」
アシㇼパは目の前が真っ暗になったような錯覚を覚えた。
「アチャが……アイヌを殺して金塊を奪うなんて、そんなの嘘だ……」
「何であんたはアシㇼパさんの和名を知っている」
「俺はアシㇼパの父と一緒に日本へ来た」
「金塊が見つかればのっぺらぼうが死刑になってアシㇼパさんの父親の仇が獲れると思っていたが、見つかってしまえばアシㇼパさんの父親が死刑になるということなのか」
「関係ねえよ。俺たちが他より先に見つけてしまえばいいことだろ?」
「一気に換金しなければバレないとは思うけど……」
「信じない。自分の目で確かめるまでは、私はのっぺらぼうに会いに行く」
アシㇼパの意思は固かった。
「網走は地の果てだぜ」
「でも本当にのっぺらぼうがアシㇼパさんの父親なら、直接本人から金塊の在処を聞ける」
「囚人を探す手間が省けるね」
「面会なんてできない。厳重な監獄だぞ、忍び込むのは不可能だ。そうやって本人に会うんだ?」
キロランケがそう言ったとき、三人は白石の方を見た。
「脱獄王」
「脱獄王?なんだ?それは」
「白石は網走監獄を脱獄してきた入れ墨の囚人だ」
「!?、こいつがあの?」
白石は服を脱いでキロランケに入れ墨を見せた。
「なるほど……剥がせというわけか……」
すぐに分かったキロランケに白石はびくりと体を跳ねさせた。
「やはりすぐにわかるのか」
「こんな真似ができるのはあの人しか…他にもあるのか?」
「無い。あんたアシㇼパさんの父親と日本へ来たって言っていたな。アンタしか知らないのっぺらぼうの情報があるんだろ?」
「川を少し下ると村がある。今日は俺の家に泊まっていけ」
チㇷ゚という丸木舟に乗り一行はキロランケの村に向かうことにした。
「ロシアの極東、アムール川流域にはたくさんの少数民族がアイヌとさほど変わらない生活をしている。俺たちは若いころそこから海を渡ってやってきた。お互い小樽で家族を持つと自然と疎遠になった」
「のっぺらぼうがアイヌの軍資金を独り占めしたかったとは思えない。こんな仕掛けまでして莫大な金塊を娘に託そうとする執念…」
「目的があるとしか思えないよね」
「わからない。会わない間に彼に何が起きたのか、俺がアシㇼパと彼の葬式であったのもアシㇼパが赤ん坊の時以来だ」
入れ墨を見てピンとくるものはないのかと白石がアシㇼパに問うが、アシㇼパは静かに首を横に振るだけだった。
「もしそうだとしても全部集めないと解けないはずだ」
「囚人を探すより、何よりもまずのっぺらぼうに会って確かめたい」
「もし本当にアシㇼパちゃんのお父さんなら全部話してくれるはずだから?」
アシㇼパはコクリと頷いた。
だがのっぺらぼうの居場所がはっきりしているとはいえ、網走監獄はそんな甘いところではない。
のっぺらぼうは足の腱を着られて満足に歩けなくされているうえに看守から常に監視されている。
そして止めに第七師団が付け狙っているはずだと白石は言う。
「本人に会うなんてまず不可能だろうぜ。俺の協力なしではなっ!」
「脱獄王……!」
キロランケの家につくとキロランケはこういった。
「俺の家族だ。俺の子供たちはこの土地で生まれ、アイヌとして生きていく。アイヌの金塊を奪ったこと、俺は同じ国から来た人間として責任を感じる。お前たちが相応の取り分を望むのは構わないが、残りは返すべきだ。最後まで見届けたい」
その話を聞いてナマエは思わず顔を歪める。
帰る方法を見つけるという一人漠然とした、もはや目的がないと言っても過言ではない自分がこの旅に混ざってていいのかと思ったのだ。
元々平和なところでのほほんと暮らしていたナマエにこの旅はやはり重過ぎる。