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三章

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不思議な老人と出会ったニシン番屋を離れ、森の中を歩く。


「俺たちが現状持っている入れ墨は何人分だっけ?」

「あー、酒で人生狂ったオッサン、第七師団に頭を撃ち抜かれたオッサン、最後の狼を追っていた猟師のオッサン、ニシン場にいた連続殺人鬼のオッサン、そして脱獄しては捕まるドジなオッサン」

「俺は脱獄王だっ!」

「鶴見中尉が持ってるのは白石が見た一枚だけなのかな?」

「さあどうかな、ナマエちゃんはなんか知らない?」

「ごめんなさい、わからないです。ほとんどの時間部屋にいたし、鶴見中尉と話すときも金塊のことよりも普通の雑談の方が多かったから」

「金塊なしに気に入られてたのか?」

「……今背筋がゾッとした」


ぶるっと震えるジェスチャーをした。


「土方が囚人を集めて仲間にしているかもしれないんだよな?土方を見つけられたら一気に入れ墨が高まる可能性が高いな」

「どんな人なんだろうね」


歴史上の人物ということで無意識に期待しているナマエと、ただ純粋に土方歳三という男の存在が気になる杉元。
この前会ったぞと心の中で白石は突っ込んだ。


「とても70を超えてるとは思えねえ若々しさがあったな。“人魚の肉”でも食ったんじゃないかって囚人たちから言われていた」

「にんぎょ?」

「上半身が人間で下半身が魚の化け物さ。人魚の肉を食べると永遠の命と若さが手に入ると言われているんだ」


八尾比丘尼の伝説がある。
人魚の肉を食べた娘が不老不死になる話、だが永く生きると愛する者の最期を見送るばかり。
娘は何百年も生き、尼となって最後には世を儚み岩窟に消えた。


「死すべき時に死ねないつらさか……」

「でも、知ってる?人魚の肉に即効性はなくて、食べてすぐに不老不死になるんじゃないんだとか。体の急激な変化に耐えきれずに死ぬの。不老不死になれるのは一握りの人だけだって」

「それは、おっそろしい話だな」

「見ろ杉元、これがオヒョウの木だ」


アシㇼパの知識を聞きながら三人はアシㇼパの手伝いをする。
やはり女性とはいえアシㇼパより体が大きく、力もあるナマエは普通に役に立つ。


「よし!もう十分だ。これで大体一人分の着物になる」

「オヒョウの皮を剥ぐだけでも重労働だな。ねえ見て杉元、福寿草の花が咲いてるよ?」

「ヤダ、かわいい」


そう言ってる二人が可愛く見えるよ、とは口が裂けても言えないナマエだった。


「春が来たんだな。チライ・アパッポ、私たちはイトウの花と呼んでいる」

「イトウって淡水魚の?」

「イトウは春になると現れる。この花が咲くのはイトウが川を上ってくる合図なんだ」

「イトウも結構うまいらしいな。マグロに似てるって話を聞いたぜ」

「魚……!」

ナマエちゃん本当お魚好きね~何とか獲れないかな」

「河鹿を獲った罠のラウォマㇷ゚でもイトウは獲れるぞ。作るか?」

「お願いしますっ!」

「でもどんなに大きなラウォマㇷ゚でも“イワン・オンネチェㇷ゚・カムイ”は捕まえられないんだろうなあ。あな恐ろしや……」

「なんだい?それは」


デジャブを感じるナマエ
イトウは大きくなると7尺(役2メートル)を越えるものもいて、何でも食べる悪食で川に落ちた子供を飲み込んだ話もあるとかないとか。
昔、漁師の追っていたヒグマが然別湖を泳いで逃げた。
しばらくするとヒグマが水面から消えたので見に行くと、巨大なイトウがいてその口からヒグマの前足が覗いていた。
そのイトウの大きさたるや、25間(約45メートル)はあったという。
イワン・オンネチェㇷ゚・カムイはイトウの主だ。


「誰かいるぞ」

「あの男が獲ってるのがイトウじゃないか?」

「交渉したら分けてもらえるかな」

「あっ、キロランケニㇱパ!」

「アシㇼパか?」

「アシㇼパさんの村の人?」

「いや、違う村の人だけど、あの人は父の昔の友人だ」

「じゃあ話が早いな、なあアンタ、そのイトウ一匹分けてくれよ」


キロランケはタモ網を貸すから自分で獲れと言った。
白石は魚が好きなナマエが獲れという視線を送ってきたがナマエは明後日の方を向いていた。


「んも~面倒くさい」

「がんばれよ」


木の足場を歩くとバキッと一部が折れ、白石が川に落ちる。
呆れながら杉元が助けに行く。


「こっちに掴まれ役立たず」

「ここすげえ深い!助けて、冷たい!」


杉元が手を伸ばした時白石はどぷん、と川の中に沈んでしまった。するとそこには白石を咥えた大きな大きなイトウがいた。


「イワン・オンネチェㇷ゚・カムイだっ!」

「白石が食われた~!」

「白石さぁん!?」


キロランケが川に飛び込むと大きなイトウは飛び跳ね陸に上がる。
駆け寄ると白石は下半身を飲まれていた。


「人魚だ」

「こんな気色悪い人魚がいてたまるか」


火を起こして服を乾かす。


「白石さんったらドジなんだから」

「ひどぉい……」


キロランケに煙草を差し出された白石はケホケホと咳き込んだ。
ナマエも見よう見まねで同じように吸うが、やはりうまくできずに咳き込んだ。


「けほっ」


咳き込んでいるうちにイトウをどうするか決めていた、皮ごと食べることにしたようだ。
刺身を頬張ったナマエはいつものように幸せそうに顔を綻ばせる。


「おいひい……鮭より上品な味、ヒンナヒンナぁ」


切り身を皮ごと焚火で塩焼きにする。


「でっけー切り身だな」

「豪快な塩焼きだね」

「食べてみようぜあむあむ」

「はふはふ」


そのまま齧り付くのもよかったが口が汚れると思い、ナマエは小刀で一口サイズに切って食べた。


「めちゃくちゃ分厚い皮だけど焼くと柔らかくなるな」

「幻の巨大魚、ヒンナだぜ」

ナマエちゃん心底幸せそうな顔してるな」

「目玉は茹蛸の味がして美味いぞ。みんな魚が取れたら一番にほじくってしゃぶる。しゃぶっていいぞ杉元」

「小鳥遊、食べ……るほど口に空きがないね」

「んぐっ、ひゅみまひぇ」


口いっぱいにイトウを頬張っているのにさらに目玉を食えとはいえない杉元はイトウの目玉をしゃぶった。


「おっきい……」
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