一章
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「浩平さん……」
浩平は洋平が死んだショックで怒り狂っていた。
蛍にはそれを止める術を知らなくてただただ見ているだけだった。
「小鳥遊!お前は知ってたか?洋平が死ぬことがわかってたか?!」
「そんなの、わからないですよ…」
肩に食い込む爪が痛くて顔を歪め、それを見た浩平は小さな声で謝った。
もちろんナマエだって悲しい。ずっとよくしてくれた人が突然死んだのだ。近くにいたあの人だって、腸が出ていて……。
「ぅぷっ…」
また込み上げてきた吐き気をどうにかして抑えていると兵士が心配そうに近づいてくる。
大丈夫かと言われ、鸚鵡返しに大丈夫ですと返すナマエはどうも痛々しかった。
――パチパチ
「……なんだか焦げ臭くないか?」
「ッ、まさか」
数人の兵士が部屋から飛び出る。
すぐに窓の外から「兵舎が燃えている」と叫び声が聞こえてきた。
避難するべくその場の全員が兵舎の外に出る。
火の回りが早く、全員が外に出たころにはもう日が全体を包んでしまっていた。
「中尉殿っ、何者かが火を……離れてください。弾薬に引火します」
「杉元……いや、杉元一味に入れ墨を集めさせた方が効率がいいな。奴らの方が一枚上手だ」
「鶴見中尉殿、申し訳ありません。火の回りが早くて……中尉殿の部屋の刺青人皮を持ち出せませんでした」
「それは無事だ」
鶴見が服を脱ぐと、シャツの上に刺青人皮を着ていた。変態的行為だが安全と言えば安全である。
ナマエは自分の手をぎゅっと握って一歩後退る。
今なら逃げられる。そう思っているはずなのに一歩後退ってからそれ以上足が動くことはなかった。
逃げられるはずなのに、逃げなきゃいけないとずっと思っていたはずなのに。
いいや、怖気づいてどうする。今は絶好のチャンスじゃないか!
全員が燃える兵舎に意識が向いている。
ゆっくりとその場から後退り、そして走り出した。
幸か不幸か、気づいたのは鶴見だけだったが、鶴見は兵士にナマエを追わせることをせずにただニコリと笑った。
「今はいい、好奇心の強い小鳥がずっと籠の中にいてはつまらないだろう」
逃げたナマエはやっと逃げられたという解放感と逃げてしまったという罪悪感のようなものが心の内で巡っていた。
「ゲホッ、走りすぎたかな……」
ほとんど休みなく走っていたナマエの体力はもう限界だった。
カクカクと膝が笑っている。
「おい、大丈夫か?」
「みず、ありませんか」
苦しそうに呼吸をするナマエを見つけたのは出稼ぎに出ていたアイヌの男だった。
男は持っていた水をナマエに渡す。
「ほら飲め、一気に飲むなよ、ゆっくり飲むんだ」
「はひ……」
言われた通りナマエはゆっくり水を飲む。
男はいくつかの質問をした。ナマエは呼吸を整えながら質問に一つ一つ答えていった。
「そんなことが、大変だったなあ。もしよかったら俺のコタン(村)に来るといい。飯も食わせてやる」
「あ、ありがとうございまひゅ……」
「なんならおぶってやろうか……辛そうだし」
男はナマエをおぶって自身のコタンへと向かった。
ナマエはというと、会ったばかりの男の背中で気絶するように眠ってしまった。
今の今までずっと緊張の絶えないような空間にいたのだ。無理もないのかもしれない。
浩平は洋平が死んだショックで怒り狂っていた。
蛍にはそれを止める術を知らなくてただただ見ているだけだった。
「小鳥遊!お前は知ってたか?洋平が死ぬことがわかってたか?!」
「そんなの、わからないですよ…」
肩に食い込む爪が痛くて顔を歪め、それを見た浩平は小さな声で謝った。
もちろんナマエだって悲しい。ずっとよくしてくれた人が突然死んだのだ。近くにいたあの人だって、腸が出ていて……。
「ぅぷっ…」
また込み上げてきた吐き気をどうにかして抑えていると兵士が心配そうに近づいてくる。
大丈夫かと言われ、鸚鵡返しに大丈夫ですと返すナマエはどうも痛々しかった。
――パチパチ
「……なんだか焦げ臭くないか?」
「ッ、まさか」
数人の兵士が部屋から飛び出る。
すぐに窓の外から「兵舎が燃えている」と叫び声が聞こえてきた。
避難するべくその場の全員が兵舎の外に出る。
火の回りが早く、全員が外に出たころにはもう日が全体を包んでしまっていた。
「中尉殿っ、何者かが火を……離れてください。弾薬に引火します」
「杉元……いや、杉元一味に入れ墨を集めさせた方が効率がいいな。奴らの方が一枚上手だ」
「鶴見中尉殿、申し訳ありません。火の回りが早くて……中尉殿の部屋の刺青人皮を持ち出せませんでした」
「それは無事だ」
鶴見が服を脱ぐと、シャツの上に刺青人皮を着ていた。変態的行為だが安全と言えば安全である。
ナマエは自分の手をぎゅっと握って一歩後退る。
今なら逃げられる。そう思っているはずなのに一歩後退ってからそれ以上足が動くことはなかった。
逃げられるはずなのに、逃げなきゃいけないとずっと思っていたはずなのに。
いいや、怖気づいてどうする。今は絶好のチャンスじゃないか!
全員が燃える兵舎に意識が向いている。
ゆっくりとその場から後退り、そして走り出した。
幸か不幸か、気づいたのは鶴見だけだったが、鶴見は兵士にナマエを追わせることをせずにただニコリと笑った。
「今はいい、好奇心の強い小鳥がずっと籠の中にいてはつまらないだろう」
逃げたナマエはやっと逃げられたという解放感と逃げてしまったという罪悪感のようなものが心の内で巡っていた。
「ゲホッ、走りすぎたかな……」
ほとんど休みなく走っていたナマエの体力はもう限界だった。
カクカクと膝が笑っている。
「おい、大丈夫か?」
「みず、ありませんか」
苦しそうに呼吸をするナマエを見つけたのは出稼ぎに出ていたアイヌの男だった。
男は持っていた水をナマエに渡す。
「ほら飲め、一気に飲むなよ、ゆっくり飲むんだ」
「はひ……」
言われた通りナマエはゆっくり水を飲む。
男はいくつかの質問をした。ナマエは呼吸を整えながら質問に一つ一つ答えていった。
「そんなことが、大変だったなあ。もしよかったら俺のコタン(村)に来るといい。飯も食わせてやる」
「あ、ありがとうございまひゅ……」
「なんならおぶってやろうか……辛そうだし」
男はナマエをおぶって自身のコタンへと向かった。
ナマエはというと、会ったばかりの男の背中で気絶するように眠ってしまった。
今の今までずっと緊張の絶えないような空間にいたのだ。無理もないのかもしれない。