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眠りの森

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21. 星空に包まれて





「本当にありがとうございました。」



少女を迎えに来た両親は、玄関先で何度も頭を下げて礼を言った。



どうやら、家族でピクニックをしていたら急に魔物が現れ、森の中へ逃げ込んだ際に子どもと離れ離れになってしまったらしい。


子どもは道に迷い、両親は死に物狂いで子どもを探し、両者ともに大変だったようだが、こうして無事に再会できたようでよかった。



ルナは少女の目線に合うよう膝を抱えてかがみこみ、「またいつでも遊びにおいで」と言って彼女と別れの抱擁を交わした。





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部屋の中へ戻ると、先ほど目まぐるしく起こった出来事などまるで何もなかったかのようにしんとしている。


僕はわざわざここへやってきた本当の目的を思い出す。



「…ルナ、僕は―」



話始めようとした瞬間、ルナは自身の人差し指を嘴の先に添え、その先の言葉を制した。



「その言葉の先は、私が指定します。」



ルナの人差し指は嘴に添えられたままで、僕が話すことを頑なに許さない。
キッと厳しい顔をして、僕をまっすぐに捉えている。



ルナは僕に怒りを通り越して呆れ果てたことだろう。
先ほども、僕を見つけ腰を抜かしたルナに立ち上がるよう差し伸べた手を取っては貰えなかった。


いくら彼女が底抜けに優しかったとしても、築き上げた信頼関係をなんの断りもなく壊すような真似をした僕を許してはくれないだろう。



ルナが指定する僕の言葉の先はなんだろう。
『僕はもう二度と君の前には現れない。』


もし彼女がそれを望むのなら、僕はそれに従うほかない。
自分のしてしまったことを悔やみ、ルナを傷つけてしまったことの罪を背負い続けることを強いられて当然だ。
最後にこうして、ルナと会えて話が出来ただけでも幸せだったと思うことにしよう。





「…もう、どこへも行かない。って、約束してください。」





ルナは依然として、厳しい表情で僕を見つめ続けている。


僕がその言葉をそっくりそのまま言わない限り、このままずっと許さないといった固い意思が伝わってくる。



ああ、もう、ダメだ。



「僕は、もう、どこにも行かない。…どこにも行けないよ。」



その言葉が嘘ではないことを証明するために、ルナの身体を両翼で包み込む様に抱きしめる。

事実、僕はもうどこにも行けないと思う。

いくら離れようとしても、どんなに離れたとしても、心と身体はルナの優しさと温もりを求め、ルナの元へ返ってこようとする。



「リーバル様。」



ルナは僕の身体を強く抱きしめ返す。
上目遣いで僕を見上げる。瞳に吸い込まれそうだった。



「今日は、帰らないでください。」



その言葉の真意を聞き返すほど、僕も野暮ではなかった。






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皿を洗い、片づけをし、寝支度を整えている間も、僕らは言葉少なだった。



「リーバル様はそちらのベッドで寝てくださいね。」



一人で寝るには大きいベッドを指さし、ルナ自身はハンモックに腰かけていた。



ルナはそこで寝るのか?」



「はい。いつもここです。」



「じゃあこのベッドは何のためにあるんだよ。」



「保護した子どもに寝てもらうベッドです。子どもと一緒に寝るからちょっと大きいんです。そのサイズならリーバル様でも寝やすいと思いますよ。」



それじゃあおやすみなさい、と部屋の灯りは消され、部屋がフッと暗闇に包まれる。


…ろくに話もしていないまま寝ろって?


僕はルナに向かって話しかけようとしたとき、天井に備え付けられていた大きな窓に気が付いた。

窓からは、夜空に瞬く無数の星が一面に広がっているのが見える。




「これも、君の趣向かい?」



ハンモックに寝そべったまま、ルナも窓から星空を見上げる。



「そうです。わざわざ大きい窓を屋根に備え付けたんです。なんだか安心しませんか?宇宙に包み込まれてるみたいで。」



仰向けに眠ると降り注ぐような星空を見上げることが出来、まるで銀河の中で眠っているような感覚に陥る。



「私、家族を失ってからしばらく眠れなかったんです。怖くて不安で寂しくて、泣きつかれてようやく眠れる日々でした。


同じ境遇に立たされた子どもたちがここへ来る度、安心して眠りに就いてほしいと思って、この施設の名前を『眠りの森』にしたんです。


誰かが傍にいて、眠りに就くまで見届けてくれるあの安心感を与えてあげたいなって。」



「ふぅん…。ルナはどうなんだよ。ちゃんと安心して眠れてるのか?」



ルナは返事をしない。ハンモックに横たわったまま、こちらを(暗くてよく見えないが、おそらく)見ている。



「…僕が君のことを不安にして、眠れなくしてたんだ。悪かったよ。」



「そんな…謝ってほしいわけじゃ…」



謝ってほしいわけではないのなら―
僕はハッと思いつく。



「おいでよ。」



僕は横たわり、人ひとり分スペースを開け、ルナを待った。


ルナは上体を起こし、枕とブランケットを抱えて僕の方のベッドへと駆け寄る。


こうしたかったなら、始めから一緒に寝ればよかったのに、とは言わないでおく。
ルナを怒らせたいわけでも、悲しませたいわけでもなかった。


ただ、僕だって、こうしたかったんだ。ずっと前から。



二人はベッドに横たわって、しばらくお互いの顔をじっと見つめ合っていた。


暗闇にも慣れて、ルナの顔も見える。こんなに近くで彼女の顔を見たのは初めてだ。



「寝るんだろ?」



僕はブランケットをルナに掛けなおして、頭を抱え込むようにして撫でてやる。


ルナは目を細め、気持ちが良さそうにそっと瞼を閉じた。



「大好きです。」



「…僕も呆れるほどルナが好きだよ。」




僕の腕の中で、ルナは次第に寝息を立て始める。


もう何も躊躇したりはしない。

僕がルナを幸せにしたい、それだけだ。

これからも安心してルナが眠れるように。





---to be continued---
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