眠りの森
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2. 微笑む旅人
リトの村へ帰り、それとなく村を一周してみた。
しかし、見かける者は見知った村人ばかりで、噂の狩人に該当しそうな人物は見当たらない。
『とにかく、とんでもなく強ェヤツなんだ。屈強な大女に決まってる!見りゃ一発でわかるだろうよ。』
ダルケルの言葉を思い出す。
女と知った時は驚いたが、本当の話であればダルケルの言う通り、よほど逞しい身体の持ち主であろう。
何頭もの強い魔物を薙ぎ倒してきたという話だ。
殺伐としたオーラを放っているに違いない。
村の子どもの歌声が聞こえてくる。
ここは本当にのどかな村だ。
そのような殺気立っている人物が居たとしたらすぐわかるだろう。
「ここは、本当にのどかな村だね。」
僕の心中と共鳴した、その声の方へ振り向く。
歌うリト族の子どもたちの傍らで、足を投げ座っている女がいた。
大きなショルダーバッグを肩に提げている。旅人だろうか。
子どもらの様子を眺めながら、にこにこと楽しそうだ。
「あっ!リーバル様だ!」
子どもの一人が僕に気付き、歌を中断する。
続いて他の子どもたちも集まり、僕の側へ一斉に駆け寄って来た。
「リーバル様!リーバル様だー!」
あっという間に子どもたちに囲まれてしまう。
やれやれ、村の人気者も楽じゃないよね。
「すごい人気。」
さっきの女は相変わらず座ったまま、僕の様子を見る。
目元を眩しそうに細めて、この光景を微笑ましく思っているようだ。
「リーバル様は、えーけつ、なんだよー!」
子どもの一人が言った。
「えーけつ…英傑?」
女は目を丸くする。
「そう!すっごく強いんだよ!弓の使い手でリーバル様の右に出るものはいないって、お父ちゃん言ってたもん!」
別の子どもも、応戦するように説明する。
「おぉー。じゃあ、この村の平和は、リーバル様のおかげで安泰だね。」
「あんたい?」
「心配ないってこと。」
わーい、あんたい、あんたい!と騒ぎ、子どもたちは嬉しそうに僕の周りを跳ねる。
その様子を見て、また、彼女も愉快そうに微笑んだ。
「…呑気そうでいいね。」
嫌みや皮肉を言ったつもりはなかった。
ただ、のどかに微笑む彼女を見て、思っただけのことを言ったまでだった。
「ええ。最近仕事の疲れが溜まっていましたが、可愛い聖歌隊に癒されました。リトの村へ来て良かったです。」
僕の言葉は悪い受け止められ方をしなかったようで、彼女は笑顔で答えた。
彼女の多幸感溢れる穏やかな雰囲気は、リトの村に非常に馴染んでいる。
旅人なのに、ずっとここで暮らしてきたかのように感じた。
「そうかい。ま、僕の自慢の故郷だからね。好きなだけいたらいいよ。」
「お言葉に甘えて…と言いたいところですが、そろそろ行かなくては。」
彼女がゆっくりと立ち上がる。
もう行っちゃうの?と子どもたちは不満げに彼女を見上げた。
旅人が次の場所へ移ろうのは自然なことだ。
だが、何か引っかかりが残る。
…ああ、そうだ。例の噂についてだ。
「そういえば君に聞いてみたいことがあるんだけど。」
各地方を旅しているであろう彼女なら、何か情報を持っているかもしれない。
「やたら強いと噂の狩人の話、って聞いたことないかい?」
「狩人、ですか?」
「ああ。でも、そいつは魔物専属の狩人だ。ライネルなんかもほぼ無傷で倒すんだと。」
「…そんな人が?」
「どうやらいるらしいよ。最近ではゲルド地方でキングラジークを討伐したとか聞いたね。」
彼女から微笑みは消え、怪訝そうな表情を浮かべる。
「えーと…ごめんなさい、初めて聞く話です。」
「そうかい。それは残念。」
「では、私はこれで。」
そそくさと僕らの前を立ち去ろうとする彼女の腕を掴んだ。
「そんなに急ぐことないだろ?また会うかもしれない。君の名前、教えてよ。」
彼女の背丈は僕と並べば小さく、腕も捻ればすぐに折れてしまいそうなくらい細い。
彼女は戸惑いを表さず、ただ僕をじっと静かに見上げた。
この、目。
僕の心の中を見てやろうと、探るような目つきだった。
それはまるでー
「名乗るほどの者では…と言いたいところですが、素直に答えないと離してくれないみたいですね。」
僕が手を離すと、彼女は両手を上げた。
降参、という素振りだが、妙に落ち着き払っている。
「ルナです。またお会いした時にでも、名前で呼んでください、"リーバル様"。」
含みを持たせるようにそう言い残すと、彼女は背を向けて去っていった。
その後ろ姿を、今度は追いかけることもなくただ見つめる。
ー獲物を捕らえる時のような 目つき。
…また僕の嫌な予感は当たりそうだ。
---to be continued---
リトの村へ帰り、それとなく村を一周してみた。
しかし、見かける者は見知った村人ばかりで、噂の狩人に該当しそうな人物は見当たらない。
『とにかく、とんでもなく強ェヤツなんだ。屈強な大女に決まってる!見りゃ一発でわかるだろうよ。』
ダルケルの言葉を思い出す。
女と知った時は驚いたが、本当の話であればダルケルの言う通り、よほど逞しい身体の持ち主であろう。
何頭もの強い魔物を薙ぎ倒してきたという話だ。
殺伐としたオーラを放っているに違いない。
村の子どもの歌声が聞こえてくる。
ここは本当にのどかな村だ。
そのような殺気立っている人物が居たとしたらすぐわかるだろう。
「ここは、本当にのどかな村だね。」
僕の心中と共鳴した、その声の方へ振り向く。
歌うリト族の子どもたちの傍らで、足を投げ座っている女がいた。
大きなショルダーバッグを肩に提げている。旅人だろうか。
子どもらの様子を眺めながら、にこにこと楽しそうだ。
「あっ!リーバル様だ!」
子どもの一人が僕に気付き、歌を中断する。
続いて他の子どもたちも集まり、僕の側へ一斉に駆け寄って来た。
「リーバル様!リーバル様だー!」
あっという間に子どもたちに囲まれてしまう。
やれやれ、村の人気者も楽じゃないよね。
「すごい人気。」
さっきの女は相変わらず座ったまま、僕の様子を見る。
目元を眩しそうに細めて、この光景を微笑ましく思っているようだ。
「リーバル様は、えーけつ、なんだよー!」
子どもの一人が言った。
「えーけつ…英傑?」
女は目を丸くする。
「そう!すっごく強いんだよ!弓の使い手でリーバル様の右に出るものはいないって、お父ちゃん言ってたもん!」
別の子どもも、応戦するように説明する。
「おぉー。じゃあ、この村の平和は、リーバル様のおかげで安泰だね。」
「あんたい?」
「心配ないってこと。」
わーい、あんたい、あんたい!と騒ぎ、子どもたちは嬉しそうに僕の周りを跳ねる。
その様子を見て、また、彼女も愉快そうに微笑んだ。
「…呑気そうでいいね。」
嫌みや皮肉を言ったつもりはなかった。
ただ、のどかに微笑む彼女を見て、思っただけのことを言ったまでだった。
「ええ。最近仕事の疲れが溜まっていましたが、可愛い聖歌隊に癒されました。リトの村へ来て良かったです。」
僕の言葉は悪い受け止められ方をしなかったようで、彼女は笑顔で答えた。
彼女の多幸感溢れる穏やかな雰囲気は、リトの村に非常に馴染んでいる。
旅人なのに、ずっとここで暮らしてきたかのように感じた。
「そうかい。ま、僕の自慢の故郷だからね。好きなだけいたらいいよ。」
「お言葉に甘えて…と言いたいところですが、そろそろ行かなくては。」
彼女がゆっくりと立ち上がる。
もう行っちゃうの?と子どもたちは不満げに彼女を見上げた。
旅人が次の場所へ移ろうのは自然なことだ。
だが、何か引っかかりが残る。
…ああ、そうだ。例の噂についてだ。
「そういえば君に聞いてみたいことがあるんだけど。」
各地方を旅しているであろう彼女なら、何か情報を持っているかもしれない。
「やたら強いと噂の狩人の話、って聞いたことないかい?」
「狩人、ですか?」
「ああ。でも、そいつは魔物専属の狩人だ。ライネルなんかもほぼ無傷で倒すんだと。」
「…そんな人が?」
「どうやらいるらしいよ。最近ではゲルド地方でキングラジークを討伐したとか聞いたね。」
彼女から微笑みは消え、怪訝そうな表情を浮かべる。
「えーと…ごめんなさい、初めて聞く話です。」
「そうかい。それは残念。」
「では、私はこれで。」
そそくさと僕らの前を立ち去ろうとする彼女の腕を掴んだ。
「そんなに急ぐことないだろ?また会うかもしれない。君の名前、教えてよ。」
彼女の背丈は僕と並べば小さく、腕も捻ればすぐに折れてしまいそうなくらい細い。
彼女は戸惑いを表さず、ただ僕をじっと静かに見上げた。
この、目。
僕の心の中を見てやろうと、探るような目つきだった。
それはまるでー
「名乗るほどの者では…と言いたいところですが、素直に答えないと離してくれないみたいですね。」
僕が手を離すと、彼女は両手を上げた。
降参、という素振りだが、妙に落ち着き払っている。
「ルナです。またお会いした時にでも、名前で呼んでください、"リーバル様"。」
含みを持たせるようにそう言い残すと、彼女は背を向けて去っていった。
その後ろ姿を、今度は追いかけることもなくただ見つめる。
ー
…また僕の嫌な予感は当たりそうだ。
---to be continued---