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眠りの森

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19. 間違えるはずが無いくらい、はっきりと





トロフィーや花冠が今日の成績を讃える。


優勝の証であるそれらを受け取り、辺りを見渡したが、見知った顔ぶればかりで、僕が捉えたはずのルナの姿はなかった。


弓術大会で群衆の中に紛れていた、リトではない人影。
競技に集中している最中、一瞬だけ視界に映ったあれは、間違いなくルナだった。


僕と話をしようと、わざわざ村を訪れたのだろうか。
それなら、なぜ帰ってしまったのだろう。


村人たちの称賛の言葉にも空返事で、心ここにあらずの状態のまま授賞式は幕を閉じた。


まだ近くにルナがいるかもしれない。


考えるより、身体が先に動いていた。
空へと羽ばたき、ルナを探しに行く。





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村周辺から馬宿まで旋回してみたが、ルナを見つけることは出来なかった。


普通の人間の歩くスピードを考えても、あの短時間で村から遠く離れた場所まで行くことはほとんどあり得ないだろう。
周辺を余すことなく探したつもりでいたが、すれ違ってしまったのだろうか。


それとも、ルナを見たと思ったのは僕の勘違いに過ぎなかったのかもしれない。


…今の僕なら、彼女の幻影を見るようなことがあってもおかしくないかもな。


自ら手放し、彼女の幸せを一番に望んだはずだ。
ルナと過ごした時間を繰り返し思い返す度、自分の選択は間違っていなかったと確信する。


しかし、それと同時に大きな喪失感や後悔に苛まれるのも、また事実だった。


ルナの笑顔も彼女の作る手料理も、もう二度と僕の腕の中には帰ってこないのだと思う度、胸が締め付けられる。


リト一番とも言われた男がこんな女々しい気持ちに振り回されてるなんて。



「…ルナ。」



名前を呟いてみる。
『はいっ!』と大きく返事をする、彼女の声が聞きたい。


風の吹く音がやけに大きく響いた。





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ハイラル城での定期集会終了後、僕らは何とはなしに訓練に勤しむ兵士たちへ視線を向けた。



「ハイラル兵たち、随分と威勢がいいじゃないか。」



そんなウルボザの言葉に対し、姫が答える。



「ええ。優秀な指導員を配属しましたから。」



「「指導員?」」



ウルボザに加え、ミファーとダルケルも声を揃えた。



ルナ。皆さんに以前お話しした、魔物狩りの彼女です。」



僕とリンクを除く一同は驚愕する。



「単なる噂だと思ってたぜ。本当にいたんだな、強ェ大女!」



「いやいや。見た目はいたって普通のヴァーイだって聞いてるよ。」



「会ってみたいな。姫様、今日ルナさんは来ていないの?」



彼らが賑やかしくしている最中、僕は居心地悪く腕を組んで黙っていた。


姫はルナのすべて―眠りの森のことや、その支援金を指導員の給与と称して渡していること―まで説明はしないだろう。


そうわかっていても、ルナの話をされると落ち着かない。



「今日はお休みです。来週にまた来てくださいますから、その際に皆さんに紹介します。」



姫はちらりと僕に視線をやる。
僕がルナに対し嘘をついたままで、その後何の接触もないことを気にしているようだった。


姫に言われるままルナと対面しても、きっと気まずい空気が間に流れるだけで何の解決にもならない。
このままでいいのか?と姫は視線で問いかけているのだ。


僕はふいと目を反らした。





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ルナさん、次の出勤いつかなあ。」



「あーあ。女の指導員が来たからって張り切りだしやがって。単純なヤツらだよな、本当。」



「そういうお前だって。今まで寝癖なんて直してきたためしがないのに、ルナさんが来てから急に身だしなみを整えるようになったじゃねぇか。」



「うるせぇや。」



談笑しながら歩くハイリア兵二人とすれ違う。
僕に気付いた二人は慌てて姿勢を正し、挨拶した。



こういうことも、予想の範囲内だった。
目の当たりにするまでもなく、ルナの噂は風に吹かれてやってくる。


ルナの強さに憧れ、優しさに触れたなら、大抵の男は彼女を恋慕うだろう。全く考えのつかないことではない。


一瞬脳裏に、多くの兵隊からプロポーズを受けるルナの姿が浮かんだ。
花束に囲まれ、眉を八の字に下げ、「どうしましょう、リーバル様。」と困ったように笑うルナを。



…どうかしてるよ。ほんと、重症だな。



記憶をなくす薬でも飲まない限り、治らないかもしれない。
いつまでもバカみたいなことを考えているようでは、戦士としての示しがつかない。
自身の力で、恋を忘れるしかないのだ。



―恋?



「リーバルさん。今から村へ帰るの?」



前方から歩いてきたミファーが僕に声をかける。
ハッと顔をあげ、僕は曖昧に答える。



「ああ…うん、まあね。」



「今日、リーバルさん元気ないように見えたけど…大丈夫?メド―の調子も良いみたいなのに。」



勘違いだったらごめんね、と続けるミファー。
治癒の力を持つゾーラの姫は、習慣的に怪我人を助けてきているせいか、無意識のうちに周りの体調や具合まで伺っているのだろう。
彼女の健気な優しさに、つい普段よりも気が緩んでしまう。



「別に平気さ。ただ…そうだな…。」



ただ?ミファーは小首をかしげた。



「ミファーは姫や僕ら仲間のことが好きだろ?」



「えっ?う、うん。みんな、大切な仲間だから。」



「それと、あの剣士への気持ちはどう違うんだい?」



ミファーは目を丸くする。


普段こんなことを言うことのない僕が、突拍子もなく彼女の心に土足で踏み入るような質問をしたことに、心底驚いている様だった。


無理もないことだ。考えもなしに変なことを口走ってしまったことを後悔した。



「…ごめん。君を困らせるつもりはなかったんだよ。忘れて。」



そう謝って、彼女の横を通りすぎ去ろうとした。



「待って!」



ミファーが僕の背に呼びかける。
彼女の言葉に足を止めた。



「上手く説明できないけど…私、この人が好きなんだって気持ちだけは、はっきりとわかるの。」



ミファーは狼狽しながらも、少しずつ言葉を紡いだ。
慎重に、間違えないように、一つ一つ僕に伝えてくれようとしている。



「"こうだから"って、ちゃんとした理由があるわけじゃないけど、間違えるはずが無いくらい、はっきりと自覚するの。これが恋だって。」



それだけじゃ、ダメかな…とミファーは不安そうに俯いた。



「いや、十分さ。ありがとう、ミファー。」



礼を伝えると、ミファーは控えめに微笑んだ。



"間違えるはずが無いくらい、はっきりと自覚する"



ミファーの言葉は胸に真っすぐ届いた。
彼女の真摯な気持ちと回答は、僕の気持ちを導き出すには十分だった。



僕のルナへの気持ちは、紛れもなく恋だ。



ルナとは何もかもが違う。
性別だけでなく、性格や立場や種族だって、何もかも悲しいくらいに正反対だ。


そんな彼女を愛することが、どれだけ無謀なことかはわかっていた。



それならばと、ルナの幸せを一番に考えた。


僕の手中に収めなくとも、ルナが幸せでいてくれたらそれで十分だと思っていたが、本当は違った。



僕がルナを幸せにしたい。




既にルナは僕に腹を立てているかもしれないし、幻滅しているかもしれない。


だからと言って、じっとしてはいられなかった。
自分の気持ちに蓋をするのはもうやめだ。



僕は城からサトリ山へと向かう。



日は傾き始めている。
まだ空はぼんやりと明るいが、薄っすらと三日月が浮かんでいた。





---to be continued---
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