眠りの森
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18. woman
初めて立ち入るハイラル城は厳かで、とても迎え入れられている気分にはなれなかった。
外から眺めるだけの景色の一環であったハイラル城と、その内部構造とが頭の中で嚙み合わさっていく感覚が不思議で、自分が日常から連れ去られここに来たのだという実感が増す。
「今日から訓練の指導に入ることになった。ルナだ。」
整列するハイリア兵の前で、リンクは私を端的に紹介した。
ざわつき、肘をつつき合い、ひそひそと耳打ちをし始める兵士たちをゼルダ姫は大きく両手を叩いて鎮めた。
「ルナの腕前は確かです。非常勤体制ではありますが、彼女からしっかりと武術を学び、体得するように。」
兵士の疑うような目つきが私に刺さる。
無理もないだろう。国の一刻を争う一大事に、突如指導員として紹介されたのがこんな小娘では。
やっぱりこんなこと引き受けなければよかった…。後悔と不安に胸が押しつぶされそうになる。
「突然何を言い出すかと思えば…」「あんな小娘が俺たちの指導員?」「ゼルダ様は何をお考えなんだ…」「自分の能力が低いからって、俺たちまで見下されてるんじゃないのか。」
兵士たちのささめきに、ちくりと胸が痛む。
私がしっかりしていなければ、兵士たちの不満はゼルダ姫への不信感へとつながってしまう。
一度自分で返事をしたのなら、最後までやり遂げなければ格好がつかない。
私は大きく深呼吸し、キッと厳しい表情 で前を向く。
「いつも通りの訓練をしてください。指導に入ります。」
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
日は傾き、空はオレンジ色に染まっている。
解散の声と共に、今日の訓練が終了した。
「アンタ凄いなあ!俺ァ長いこと兵隊やってるが、こんな教え方が上手いヤツにはそうそう出会ったことがねぇや。」
「おいおい、アンタなんて失礼極まりないぞ。ルナ先生とお呼びしなくちゃ。」
「指導の技術からその腕前は容易に想像がつくよ。いやあ、自分の未熟さを改めて思い知らされたな。」
「ルナ先生、次の出勤はいつです?」
私の周りを囲むようにして、兵士たちが集う。
数時間前の不安は何処へやら。彼らが認めてくれたことにホッと安堵する間もなく、私は質問攻めに遭う。
なんとか上手く指導を終えることが出来た達成感に、私の心は高揚している。
新たな私の仕事。
眠りの森の支援金を給与として渡すという口裏合わせがあるにしろ、任された責務はしっかりとこなしていこう。そう誓った。
「ルナ。」
リンクに声を掛けられ、私は彼の元へ駆け寄る。去り際に兵士たちに手を振ると、彼らもまた大きく手を振り返してくれた。
給与の受け渡しがあるとのことで、私はリンクについて歩いた。
入り組んだ迷路のような室内。王室の長い廊下。全てが新鮮できょろきょろとあたりを見渡す。大きい窓から西日がたっぷりと差し込まれ、私とリンクの二つの影を落とす。
リンクはその間中ずっと黙って前を見て歩き続けている。一言も私に話しかけない。
カツカツと二人の足音だけが響き渡る。
…無口な人だ。私はお喋りだから、きっとリンクは私のような人と気が合わないだろうな。
部屋の前で立ち止まり、ノックをするとゼルダ姫が現れた。
リンクの背越しに部屋を覗き見る。研究室のような部屋だった。
「ルナ。お疲れ様です。」
今日の訓練は兵士たちからも高い評価のようでしたね、と優しい笑みとともに労りの言葉をかけられる。
ゼルダ姫の笑みに釣られ、私もまた優しい微笑みを浮かべる。彼女に褒められるのは、特別なことだ。誇らしい気持ちになる。
本日分の給与ですと言って手渡されたルピーは、ちょっと信じられないほどの額であった。
ライネルの肝を換金したとして…何個分だろう。すぐには計算できないほど、たくさんだ。
「これは何かの間違いですか?半日しか働いてませんよ、私。」
「いいえ、間違ってなどいません。給与という名の、貴方の活動への支援金ですから。受け取ってください。」
そういう話ではあったが、まさかこれほどまでとは思わず驚いた。
この金銭的規模感 が、王家に足を踏み入れるということなのか。
圧倒されながらも、ありがとうございますと礼を言い、素早く鞄にルピーをしまいこんだ。
「次に出勤できる日を教えてください。無理のない範疇で構いませんが、ルナが出勤してくださると兵士たちも喜びます。」
ゼルダ姫の言葉に、頬が自然と緩む。
誰かに必要とされている。誰かに喜んでもらえている。
そのことが嬉しくて、心も頬も色付いていく。
それでは来週にまたお伺いします、と言い残し、私たちは別れた。
リンクが門まで送ってくれたが、やはり無言のままだった。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
次の日、私はリトの村へと向かった。
自分の意志でハイラル王国へ協力することを決めたとはいえ、
やはりリーバル様と会って話をしないことには、合点がいかない。
真実を知ることに恐れがないと言えば噓だった。
彼から与えられた優しさと思い遣りが、全て私の思い違いだったとしたら―それ以上に辛いことはない。
しかし、彼に限ってそんなことはまずありえないだろう。
きっとリーバル様なりの思惑があっての行動に違いない。
彼となら、話し合えば分かり合えるはずだ。
リトの村へ着くと、村の入口や地上付近に誰の気配もなく、不思議に思いながら階段を上がっていくと、広間は村人で多く賑わっていた。
何か催しがあるのだろうか。私は背伸びをして村人の注目する視線の先を捉えようとしたが、よく見えなかった。
そんな私を見かねて、リトの女性たちがくすりと笑う。
「あら。貴方も弓術大会をご覧にいらしたの?」
「こんな翼を持たない…フフッ、失礼。種族を超えたファンがいるなんて、さすがリーバル様だわ。」
「弓術大会?リーバル様も出場するんですか?」
私の質問に、二人のリトの女性は目を丸くし、顔を見合わせながらくすくすと笑う。
「貴方、空も飛べないのに、わざわざ歩いてこんな所までやってきてご苦労だわね。…見放されても、彼のこと愛しているのね。」
「可哀そうだけれど仕方ないわね。リーバル様だって、ずっと貴方の手伝いにかまけているほど、お暇じゃないのよ。」
始まるぞ、という誰かの大声で村人の視線が一斉に前方へ集中する。
リトの女性たちも鼻先で笑うと、私など最初からいなかったかのように前へと向き直りお喋りを始めた。
…どういうことだろう。
状況に理解が及ばず、眉根を寄せ困惑していると急に大きな風が巻き起こった。
強風の勢いで髪の毛が煽られる。
暴れるシャツを手で押さえ、上空を見上げるとそこには―
「リーバル様ーっ!」
空高く、舞い踊るようにオオワシの弓を操り、次々と的へ矢を命中させる彼がいた。
黄色い歓声の中、疾風の如くパフォーマンスを決めていく彼は、まごうことなきリト族一の英傑だ。
真剣な彼の眼差しに、私の胸は苦しくなる。
煌めく汗がより一層彼を輝かせている。その眩しさと太陽の光が重なって、よろめく。
手を伸ばしても絶対に届かない。
私に、リトと同じ大きな翼でもない限り。
涙が出てしまう前に、今すぐここから離れよう。
ほとんど泣き出しそうになりながら、私はそっと群衆から離れ、再び村の階段を駆け下りる。
彼女たちは私のことを知っていた。
リーバル様が私のことを気にかけていることまで。
私のような、翼も持たない 小娘に、リーバル様が気をかけてくださっているということが、彼女たちにとっては不愉快極まりなかったのだろう。
無理もない。あんなにかっこいいんだもん。
誰だって、彼の視線の先に矛先を向けるだろう。
『…見放されても、彼のこと愛しているのね。』
ありふれた意地悪な言葉だったとしても、私を傷つけるには十分すぎるほどだった。
見放されても?
馬鹿にしないでほしい。
遠のいていく歓声を頭から振り払おうと思えば思うほど、足早になっていく。
見放されても
嘘をつかれても
今後一切彼が会ってくれなかったとしても
愛しているに決まってる。
涙をぬぐい、リトの村を背に逃げ帰る。
自分の気持ちを、リーバル様への気持ちを、こんな形で知りたくはなかった。
---to be continued---
初めて立ち入るハイラル城は厳かで、とても迎え入れられている気分にはなれなかった。
外から眺めるだけの景色の一環であったハイラル城と、その内部構造とが頭の中で嚙み合わさっていく感覚が不思議で、自分が日常から連れ去られここに来たのだという実感が増す。
「今日から訓練の指導に入ることになった。ルナだ。」
整列するハイリア兵の前で、リンクは私を端的に紹介した。
ざわつき、肘をつつき合い、ひそひそと耳打ちをし始める兵士たちをゼルダ姫は大きく両手を叩いて鎮めた。
「ルナの腕前は確かです。非常勤体制ではありますが、彼女からしっかりと武術を学び、体得するように。」
兵士の疑うような目つきが私に刺さる。
無理もないだろう。国の一刻を争う一大事に、突如指導員として紹介されたのがこんな小娘では。
やっぱりこんなこと引き受けなければよかった…。後悔と不安に胸が押しつぶされそうになる。
「突然何を言い出すかと思えば…」「あんな小娘が俺たちの指導員?」「ゼルダ様は何をお考えなんだ…」「自分の能力が低いからって、俺たちまで見下されてるんじゃないのか。」
兵士たちのささめきに、ちくりと胸が痛む。
私がしっかりしていなければ、兵士たちの不満はゼルダ姫への不信感へとつながってしまう。
一度自分で返事をしたのなら、最後までやり遂げなければ格好がつかない。
私は大きく深呼吸し、キッと厳しい
「いつも通りの訓練をしてください。指導に入ります。」
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
日は傾き、空はオレンジ色に染まっている。
解散の声と共に、今日の訓練が終了した。
「アンタ凄いなあ!俺ァ長いこと兵隊やってるが、こんな教え方が上手いヤツにはそうそう出会ったことがねぇや。」
「おいおい、アンタなんて失礼極まりないぞ。ルナ先生とお呼びしなくちゃ。」
「指導の技術からその腕前は容易に想像がつくよ。いやあ、自分の未熟さを改めて思い知らされたな。」
「ルナ先生、次の出勤はいつです?」
私の周りを囲むようにして、兵士たちが集う。
数時間前の不安は何処へやら。彼らが認めてくれたことにホッと安堵する間もなく、私は質問攻めに遭う。
なんとか上手く指導を終えることが出来た達成感に、私の心は高揚している。
新たな私の仕事。
眠りの森の支援金を給与として渡すという口裏合わせがあるにしろ、任された責務はしっかりとこなしていこう。そう誓った。
「ルナ。」
リンクに声を掛けられ、私は彼の元へ駆け寄る。去り際に兵士たちに手を振ると、彼らもまた大きく手を振り返してくれた。
給与の受け渡しがあるとのことで、私はリンクについて歩いた。
入り組んだ迷路のような室内。王室の長い廊下。全てが新鮮できょろきょろとあたりを見渡す。大きい窓から西日がたっぷりと差し込まれ、私とリンクの二つの影を落とす。
リンクはその間中ずっと黙って前を見て歩き続けている。一言も私に話しかけない。
カツカツと二人の足音だけが響き渡る。
…無口な人だ。私はお喋りだから、きっとリンクは私のような人と気が合わないだろうな。
部屋の前で立ち止まり、ノックをするとゼルダ姫が現れた。
リンクの背越しに部屋を覗き見る。研究室のような部屋だった。
「ルナ。お疲れ様です。」
今日の訓練は兵士たちからも高い評価のようでしたね、と優しい笑みとともに労りの言葉をかけられる。
ゼルダ姫の笑みに釣られ、私もまた優しい微笑みを浮かべる。彼女に褒められるのは、特別なことだ。誇らしい気持ちになる。
本日分の給与ですと言って手渡されたルピーは、ちょっと信じられないほどの額であった。
ライネルの肝を換金したとして…何個分だろう。すぐには計算できないほど、たくさんだ。
「これは何かの間違いですか?半日しか働いてませんよ、私。」
「いいえ、間違ってなどいません。給与という名の、貴方の活動への支援金ですから。受け取ってください。」
そういう話ではあったが、まさかこれほどまでとは思わず驚いた。
この金銭的
圧倒されながらも、ありがとうございますと礼を言い、素早く鞄にルピーをしまいこんだ。
「次に出勤できる日を教えてください。無理のない範疇で構いませんが、ルナが出勤してくださると兵士たちも喜びます。」
ゼルダ姫の言葉に、頬が自然と緩む。
誰かに必要とされている。誰かに喜んでもらえている。
そのことが嬉しくて、心も頬も色付いていく。
それでは来週にまたお伺いします、と言い残し、私たちは別れた。
リンクが門まで送ってくれたが、やはり無言のままだった。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
次の日、私はリトの村へと向かった。
自分の意志でハイラル王国へ協力することを決めたとはいえ、
やはりリーバル様と会って話をしないことには、合点がいかない。
真実を知ることに恐れがないと言えば噓だった。
彼から与えられた優しさと思い遣りが、全て私の思い違いだったとしたら―それ以上に辛いことはない。
しかし、彼に限ってそんなことはまずありえないだろう。
きっとリーバル様なりの思惑があっての行動に違いない。
彼となら、話し合えば分かり合えるはずだ。
リトの村へ着くと、村の入口や地上付近に誰の気配もなく、不思議に思いながら階段を上がっていくと、広間は村人で多く賑わっていた。
何か催しがあるのだろうか。私は背伸びをして村人の注目する視線の先を捉えようとしたが、よく見えなかった。
そんな私を見かねて、リトの女性たちがくすりと笑う。
「あら。貴方も弓術大会をご覧にいらしたの?」
「こんな翼を持たない…フフッ、失礼。種族を超えたファンがいるなんて、さすがリーバル様だわ。」
「弓術大会?リーバル様も出場するんですか?」
私の質問に、二人のリトの女性は目を丸くし、顔を見合わせながらくすくすと笑う。
「貴方、空も飛べないのに、わざわざ歩いてこんな所までやってきてご苦労だわね。…見放されても、彼のこと愛しているのね。」
「可哀そうだけれど仕方ないわね。リーバル様だって、ずっと貴方の手伝いにかまけているほど、お暇じゃないのよ。」
始まるぞ、という誰かの大声で村人の視線が一斉に前方へ集中する。
リトの女性たちも鼻先で笑うと、私など最初からいなかったかのように前へと向き直りお喋りを始めた。
…どういうことだろう。
状況に理解が及ばず、眉根を寄せ困惑していると急に大きな風が巻き起こった。
強風の勢いで髪の毛が煽られる。
暴れるシャツを手で押さえ、上空を見上げるとそこには―
「リーバル様ーっ!」
空高く、舞い踊るようにオオワシの弓を操り、次々と的へ矢を命中させる彼がいた。
黄色い歓声の中、疾風の如くパフォーマンスを決めていく彼は、まごうことなきリト族一の英傑だ。
真剣な彼の眼差しに、私の胸は苦しくなる。
煌めく汗がより一層彼を輝かせている。その眩しさと太陽の光が重なって、よろめく。
手を伸ばしても絶対に届かない。
私に、リトと同じ大きな翼でもない限り。
涙が出てしまう前に、今すぐここから離れよう。
ほとんど泣き出しそうになりながら、私はそっと群衆から離れ、再び村の階段を駆け下りる。
彼女たちは私のことを知っていた。
リーバル様が私のことを気にかけていることまで。
私のような、
無理もない。あんなにかっこいいんだもん。
誰だって、彼の視線の先に矛先を向けるだろう。
『…見放されても、彼のこと愛しているのね。』
ありふれた意地悪な言葉だったとしても、私を傷つけるには十分すぎるほどだった。
見放されても?
馬鹿にしないでほしい。
遠のいていく歓声を頭から振り払おうと思えば思うほど、足早になっていく。
見放されても
嘘をつかれても
今後一切彼が会ってくれなかったとしても
愛しているに決まってる。
涙をぬぐい、リトの村を背に逃げ帰る。
自分の気持ちを、リーバル様への気持ちを、こんな形で知りたくはなかった。
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